6.前へ、前へ理念
目覚めは悪くない。今日は、他校との練習試合。目覚めは悪くないし、こういう日に限って神経質になり、お母さんにイライラしているが今日は割と落ち着いている。
みんなよりは早めに朝食を済ませ、今日の集合場所はその相手チームの学校である。余裕を持って早めに家を出た。自転車での道のりは大体、40分くらいだ。朝からカンカン照りにこの距離の移動はちと体力に響く。が、朝一から「やってやるぞ」的なアドレナリンが出ているのか足取りは軽かった。
汗はかく。
コンビニでアクエリを飲む。
着く。
一番に到着して、やる気マンマンだなと思われるかもというのもお構いなしで一番に到着した。
次第にみんなが揃いグランドの隅でユニフォームに着替える。
あっとにウォーミングアップを済ませて、この日のスタメンが発表される。ゴールキーパーから名前が呼ばれ、最後のフォワードの発表で自分の名前が呼ばれた時には、自分の中でへんなテンションを抑えるのに必死だった。
ここで喜んではいけない。
チームプレーも大事だが、兎に角得点をする。
始まりのホイッスルがセミの声をかき消すかのように鳴り響く。
セミの声は全くかき消されない。
自分がボールを持った時にはとにかく前線に進む。ドリブルが上手くいかなくてもとにかく前に進む。
味方の誰かがボールを持ったときでもそうだ。とにかく前に走りこむ。
前線のプレーヤーにボールが渡ったら、後は任せるという考えはもってのほかだ。この考えがうちのサッカー部の共通認識であって欲しいものだ。と僕は心の中で偉そうな口を叩く。
試合が動いたのは前半、25分。
試合を動かしたのは、何を隠そう、僕だ。
その前へ!前へ!理念が功を奏したのだ。相手ゴール前で揉み合ってこぼれた玉が僕の足元に収まり、そのまま右足を振り抜いた。得点したのだ。
ありきたりな表現ではあるが、あっというまの出来事で体が反応した。ゴールした後、軽く仲間と手をタッチする。大喜びパフォーマンスは柄ではない。
見方によれば、ラッキーでしよ?たまたま良いところにボールがきただけでしょ?という妄想、自分が作り出した心の野次に対して、こう答える。
僕は前に走ったんだ!
そのあとは、混戦になった。両チーム得点のないまま前半を終える。
チームが円陣を組み前半の反省点や後半からの改善点などを話しあう。その中で、顧問の監督に得点したことを褒められた。「うっす!」とスマートに対応してベンチで少し休む。
フミが近寄ってきた。
「やったね!!!ナイス!!!」
僕の喜びを代わりに表現してくれているようだった。
そして後半が始まる前に先生から何人かメンバーを交代するぞと言われ、僕ともう一人のフォワードが交代でフミの名前が呼ばれた時には、
「うおっしゃ!!!」
とそのまま、滑らかに喜びを表現した。
つづく
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