5.C .C .レモン
夏の猛暑の中、大会に向けての追い込み。どうしても先生から背番号を渡されたい。名前を呼ばれたい。
サッカー部に限らず、屋外で練習する部活動での『給水』水分補給は、水ボトルの争奪戦だ。先輩から先にボトルを取れるという年功序列の暗黙のルールがここでも適用されている。
がそれよりももっと適用されるのが実力社会だ。後輩でも実力を誇示している後輩は、そんなのお構いなしにボトルをとり、ボトルの半分の水を体内に入れる。
何も言えない。
しかし、そこに戦士が現れた。中越だ。高校からサッカー部デビューした中越はそんな暗黙のルールをもろともしない。そして周りの目も気にしてない。目の前の事に一生懸命。水分補給に一生懸命なのだ。なんともたくましい。
その戦士が、我先に自分の分のボトルともう一本ボトルを奪取する、そのもう一本をどうするかというと、僕に渡しにきてくれるのだ。なんと。
バイト先に口をきいてあげたことに、相当恩義を感じているのだろうか。なんとも誠実でたくましい。目が真っ直ぐだ。僕も見習うべきだ。
大会の前に、他校との練習試合があって、そこで最終的にメンバーが決まるだろう。正念場だ。そこまで追い込めるだけ追い込むし、アピールできるだけアピールする。無論、フミからもやる気満々オーラがビンビンと感じる。
練習、おばあちゃんのお見舞い、アルバイトの日々が続く。
おばあちゃんのお見舞いには、時間が空いた時には必ず向かう。いつも、笑顔で迎えてくれるほどおばあちゃんは元気そうだ。
よく病院に行くことから、病院の看護師さんからは、良いお孫さん、おばあちゃん思いの心優しい少年がお見舞いにまたやってきたぞ!という空気がその場に流れる。言葉でも聞くほどだ。
はっきり言って、僕とおばあちゃんとの間では当たり前な空気より遥かに凌駕するほどの愛情がある。周りから見れば、下手をすれば気持ち悪い部類に入ってしまうかもしれない。それでも構わないくらい、おばあちゃんを大切に思っているのだ。
おばあちゃんはいつも笑顔で、出迎えてくれる。決まってそうだ。実はどこか体がしんどいのかもしれない。体のどこかが痛むのかもしれない。それでも必ず笑顔で
「よくきたね〜!」
と迎えてくれる。心配している気持ちが晴れるくらい。僕も誰かを迎えるときは笑顔で迎えよう。そんなことを思ってしまうくらい、見習いたくなるくらい、僕は嬉しい気持ちになる。
バイト代で買った。みかんや羊羹を持って行く。あと、C .C .レモンだ。僕のおばあちゃんはC .C .レモンが大好きなのだ。おばあちゃんの中では珍しい方だろう。飲ませすぎは良くないので、
「ほどほどにね。」
と言うのだが、あっと言う間に飲み干してしまう。珍しい。
「喉がスッとして気持ち良いね〜!」
と言う。決まり文句かのように。飲ませすぎは良くないのだが見ていて楽しいのだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、そろそろ帰ると言うと、なんとも寂しそうな表情を浮かべる。一生の別れかのような、そんな表情だ。今じゃお見舞いに行った時のお決まりになっている。なんとか言いくるめて帰路に着く。
早く退院して欲しい。これが今の僕の夢のランキングの2位にランクインしている。
明日は、レギュラーメンバーを最終的に決定するであろう、他校との練習試合がある。何より緊張している自分がいる。
ただたくさん得点をする。ゴールをたくさん奪う。
頭の中に決めているのは、ただそれだけ。
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