8.おばあちゃん


おばあちゃんの容体が急変したと家に連絡が入ったのは、サッカー部の練習が休みの日。まだ昼前の11時台。病院からお父さんの携帯電話が鳴った。


「急いで病院に行く支度して!!」


とお母さんに言われて、まだ眠気も冷めきってないまま支度をする。まだ頭がぼーっとするのをなんとか正そうとする。


お父さんの車で、お母さん、弟の裕太と僕で飛び乗るように乗り込み病院まで急いだ。


駐車場について、先に入り口でみんな降ろしてもらう。僕はエレベーターを使わずに階段を駆け上がった。病棟に行ったがそこにおばあちゃんの姿はない。周りのベッドを探すが見当たらない。遅れて部屋まできた、お母さんが看護師さんに聞いた。


おばあちゃんは個室の部屋に移っていた。案内してもらい部屋に入るが、いつも出迎えてくれたおばあちゃんの笑顔は無かった。



口と鼻の中に透明の管が入ったおばあちゃんが、ベッドに横になっていた。かろうじて目は開いていて、起きてはいるようだ。


ベッドに近寄り、みんなで話しかける。


「おばあちゃん!来たよ!」


明るい声で話しかけた。


「具合はどう?」


「大丈夫?」


おばあちゃんの反応はない。視線はあっているのだが、何かを返す気力がないようだった。それでもみんなで話しかけた。


「今日は一段と暑くてね、、、、


「二人ともすごく焼けたでしょ??、、、、


その場だけは、1秒たりとも悲しい雰囲気にならないように、みんながいつも以上におばあちゃんを励ますように話しかけた。後からきたお父さんも同じだ。


近くでは看護師さんが管に繋がった機械を調整している。



すると、鼻を啜る音が聞こえた。見ると、裕太が泣いている。我慢の限界だったのだろう。おばあちゃんの手元に近づいてベッドに顔を伏せながら。



言葉にもならないような声を出し始めた。


「おばあちゃ〜ん、う、う、いやだ、、うう。」


こんな姿のおばあちゃんを見るのがあまりにもショックで耐えられなかったのだろう。もちろん、みんなも同じ気持ちだ。


すると、お父さんが裕太に。


「何言ってんだ!またすぐに元気になるんだから!」


「そうよ!そんなに泣かないの!」


お母さんが言う。しかし、2人の目にも涙が滲んでいた。


そうだよ。もう死んでしまうような口ぶりの裕太に腹が立った反面、僕の頭の中の半分はそっちの方を想像した。


すると、止めどないものが込み上げてくる。


このシチュエーションが、良くない方向に想像を巡らせる。


みんなでおばあちゃんの手を握ったり、声をかけてあげたり、励ましたり。

僕が一番泣きたい。一番、おばあちゃんの為に泣いてあげれる自信がある。


裕太につられて、みんなにつられて何度も泣きそうになった。でも必死で我慢した。ベッドに下に膝をついておばあちゃんに呼びかける。みんなの見えないところで、自分の太ももを何度もつねった。泣かないように。



すると、看護師さんが、


「先生に診てもらうので、一旦外にお願いします。」とみんな外に出された。


まだ機械に写っていた線は波打っていた。大丈夫だと自分の中で言い聞かせた。



しばらくして、個室からお医者さんと看護師さんが出てきて両親と話している。その後聞くと、おばあちゃんの容体は安定しているそうだ。ほんとに良かった。一旦、家に帰っても良いそうだ。



何かを返しては来なかったが、おばあちゃんにちゃんと


「またくるからね!」としっかりした声で別れた。そして、家に帰った。なんだか体がどっと疲れた。



その日はアルバイトもなく何もない日だったが、病院から帰ったあと、居間に座ったまま、おばあちゃんと一緒に過ごしていた日常の光景がずっと頭に浮かんでいた。


楽しい思い出しか出てこない。嫌な思い出がほとんどない。おばあちゃんとは。


時間は過ぎ、いつものように夕飯を食べ、風呂に入ってすぐに眠りについた。


そして、深夜。早朝の5時にお母さんから起こされた。特に何も言わず、言葉数少なく


「病院に行こう。」


と言われ病院に行った。ぼーっとしていて考えが働く前に病院について、おばあちゃんのいる個室に入った。




おばあちゃんは息をひきとっていた。



つづく


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