9.応援
大会3日前、ベンチ入りは果たすことができた。あとは大会で結果を残すだけ。自分の将来にどんなプラスがあるのかは、まだ分からないが、今この瞬間に対して手を抜かない。
練習もいい感じに指揮が高まっている。この高校に入学した頃のサッカー部とは見違えるようになった。
入学した当初は、練習をサボったり真面目に取り組まない人が複数人いた。その先輩たちは卒業して行ったが。
いわゆる『弱小チーム』だった。だが今は違う。強いチームとは言えないが弱小ではなくなった。それが目に見えての変化なのが嬉しい。このままいい結果になればいい。もちろん受け身ではない。
フミはワクワクしているようだ。高校からサッカーを始めたやつがベンチ入り、背番号をもらったのだ。それは誰でも嬉しい。がそれは、フミがあくる日もあくる日も練習に練習を重ね、誰かが手を抜きそうな場面でも一生懸命走り抜いた結果だ。
フミを見てるとポジティブになれる。この3年間の練習で何度、助けられてきたことか。
練習が終わって、スーパーのアルバイトに向かった。
勤務中も何か別の事を考えてしまっている。ありもしない先のこと。ファンタジーだ。ありもしない妄想を考えたり、おばあちゃんの事を思い出して、鼻からため息をついたり、その交互を繰り返す。
正直、まだ実感がない。練習が終わって家に帰ったらおばあちゃんがいないことに、「いや嘘つけ!」と心の中でツッコミを入れる。おばあちゃんがいつも座っていたソファーには近づかないし、そっちのほうすら見ないようにしている。そのまま、できるだけ普通を装って生活をする。
見て何かを思うと張り詰めたものが切れてしまうような気がしたからだ。
あからさまに落ち込んでいる弟の方もあまり見ない。
仕事中、店長が近づいてきて、
「おう!元気か!今日も頑張ろうな!」
と今までにないほどのテンションで声をかけてすぐに去って行った。
周りから見ると自分の姿が暗く映っていたのか。
切り替えて今日、割り当てられた業務を早めに済ませて、あとの余った時間はフロアで商品の陳列を丁寧にした。
後ろから、
「県大会、応援に行くから!」
という声が聞こえた。一言目が挨拶なしにいきなり本題だった。もう声で分かったが、大島由実だ。
「いやいや、急すぎるだろ!」
「へへっ!」
「応援するからね!」
「いいよ、別に来なくて。」と冗談混じりに返すと。
「ええ〜〜!」
と明るい笑顔で返してきた。
「まぁ、、、頑張ります、、」
「ガンバレ!!」
照れくさい会話を終わり、一緒に来ていた、大島のお母さんと大島は帰って行った。
「研一君!こんにちわ〜!またね〜!」
と、大島のお母さんはもっと明るい声で帰って行った。もう少しで
「明るぅ!」
と声に出そうだったが、抑えた。
帰って行った後、自分では無意識だったが、大きなため息をついていたようだ。
パートのおばちゃんから、
「コラ!ため息出てる!」と軽く叱られた。
「すみません!」と謝り、時間がきてタイムカードを切った。
今の気持ちは、よくわからなくて、何にも言い表せない。目の前の大会に視点を合わせるしか、いまはできない
つづく
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