残酷な場所
今週も大学の提携病院内で実習が行われる。
今日からは、産科病棟で実習させていただく。
産科は新しい命が生まれる場所。
今日も3人の尊い命が誕生した。
ドラマ・コウノドリのなかで鴻鳥先生が言った言葉。
小さな赤さんをみて、心の底からそう思った。
では、なぜタイトルが“残酷な場所”なのか。
産科だけ見ればもちろん、命が誕生するわけなので、おめでたい場所である。
しかし病院は、それと同時に、
”死“に直面する場所でもあるんだ、と、
今日強く感じた。
何ヶ月も、同じ病院で実習してきて、
今日はじめて、“死”をリアルに感じた。
きっかけは特にない。
ただ、生まれて数時間の赤さんが、がんばってミルクを口にしていた。
ただそれだけ。
今日のこの場面と、
NICUの見学で感じたことがある。
人間は誰だって、いつだって、必死に生きている。大人だって、毎日生きるために、ご飯を食べるし、トイレするし、命を守るために交通ルールを守っている。
赤さんは、わたしたちが何気なくしている行動の1つひとつが
“生きるため“
だと、証明してくれているのではないかと思う。
そう思うと、ご飯を食べて寝るだけのなにもしない日があっても、生きるためだと愛おしく思える気がする。
(個人の感想です。)
もうひとつ、心揺さぶられる出来事があった。
産科病棟の1枚の扉に貼られたホワイトボード。
そこには分娩や帝王切開の予定や、その他連絡事項が書いてあるのだが、
1番上、何も書かれていないボードが目に留まった。
形式は、すぐ下の分娩・帝王切開の予定を記入するものと大きく変わりはない。
だが、1つだけ違った。
その表の題名は“AUS予定”。
“オーストラリア”に行く予定、ではないんです。
AUSとは、人工妊娠中絶を意味します。
知らない人のために少し補足すると、人工妊娠中絶とは、意図的に妊娠をやめさせることである。
赤さんがお母さんのお腹の中でなければ生きていけない期間中に、お母さんのお腹から出すことを意味する。
もっと直球な言い方をすると、
“赤さんの命を奪う”ことになる。
理由はなんであれ、残酷だ。
わたしがその赤さんだとすると、たまったもんじゃない。
まだ見ぬ綺麗な景色をわたしにも見させろ!と中絶に関わった大人全員を恨むだろう。
これだけでは、漫画でもこのような話を読んだことがあるので心がズーーンとなるだけなのだけど、
よくみると、
今日帝王切開をして双子の命の誕生に携わった医師と、AUSを行う医師が同じだった。
その医師はどのような心情なのだろう。
少なくとも一度は人を救いたいと思ったことがあるであろう医師が、命を奪う行為に関わる。
想像しただけでも、胸が張り裂けそうな思いになる。
たとえ仕事であったとしても。
”命の誕生“と、“命の輝きが消える”瞬間が同じ屋根の下で起こっている。
なんて残酷な場所だ。