死神と私
タナトスの誘惑は本当にあると思う。
一度その魅力に気づいたら、恐らく一生恋焦がれる。
死にたいってはじめて思ったあの日から、その甘い誘惑と共存して生きていくの。私もきっとそう。
今だってもう幸せなのに、幸せなはずなのに、心のどこかで死を願う。
心が壊れていくと、本当に何もしたく無くなる。好きだったはずのものに縋っても、目に映るのは色褪せた思い出だけ。
食欲も睡眠欲も自分のものじゃなくなって、身体がただの器になる。
今思い返すと、あの時の自分は死に近かったんだろうな。
身体と魂が引き剥がれて分離し始めたあの時は。
わけもわからず泣いてる自分を冷めた目で見つめる自分がいることに気づいた。
一度引き剥がされたものを完全に元通りにすることはできない。
感情も本能も全てあくまで器のものであり、自分のものじゃなくなっていった。
生への執着が薄れた今では、その器は重たくて邪魔だった。
そんな風に、自分の欲求や感情から切り離されていた時に唯一自分のものだった感情、それが「死にたい」だった。
唯一感じられた心の底からの欲求は、すごく心地よかったのを覚えてる。
何をしても現実味がなくて、分厚いゴム越しに感じる世界。自分の感情でさえ。
私は孤独だった。
その孤独に唯一寄り添ってくれたのがタナトスだけだったの。
そりゃあ恋しちゃうよね。
そうやって唯一自分のものとして感じられる願望に、段々依存していったの。縋って縋って、もう私にはこれしかない!って。そう思ったら、色褪せた日々が少しだけ楽しく感じた。
どうやって死のうか、いつ死のうか。
そうやって考えるのが唯一の娯楽であり、私の居場所だった。
死ぬことだけが、唯一希望を見いだせるところだった。
孤独な私に寄り添ってくれたタナトスに手を引かれるままについていったら、きっと素敵な場所へ行ける気がした。
自分が醜い自分の器からやっと解放されることが、心の底から嬉しかった。
私はあのとき、運良く踏みとどまれたけど、何かが掛け違えてたら、もう死んでいたかもしれない。
タナトスの誘惑は、まだ続いている。
ことある事に、また私のそばに寄ってくる。
それでも、まだこの身体で生きてるのも悪くないなって思えるようになったから、今は無視して知らんぷりしてる。
それでも、基本軸は傾いたまま。
「生きたい、死にたくない」だなんてもう思えない。
もうずっと、死んでもいい、でもまぁ生きてるのも悪くないからまだいいか、で生きてるよ。
いつか、死にたくないって心の底から思える日が来るのかなぁ。
来たとしても当分先にはなりそうだけど。
心の底から湧き上がる感情を、もっともっと味わいたい。
寂しいんだ。まだ引き剥がされて、くっついてないから。
感情を、胸が痛くなるような、そんな感情を、もう一度。
周りにどんなに気にかけてくれる人がいようと、孤独は拭いされない。
人間って自分勝手な生き物だから、死なないでの一言じゃ思い止まれない。
私の幸せを奪わないでって思うだけ。
そんなこんなで、今日もまた、頭に浮かぶんだ。
「死にたいなぁ」って。
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