読書記録
お世話になった先生の本
以前Amazonレビューに書かせていただいた感想文です。
哲学の専門書の多くは「閉じられた言語」によって語られているゆえに、
かつては、哲学は深淵で難解なものとして敬遠されがちであったが、
近年、学び直しブームなどの影響か、「哲学入門書」を書店で目にする機会が増えた。
この本は、哲学の「入り口」としてオススメである。
これまで、学術用語まみれの本に頓挫した人、疎外されてきた人、
「難解さ」とアカデミックを混同した自慰書に心身萎え萎えの人たちには
一読をお勧めする。
蔭山節〈分かりやすさ、小気味よさ、読後の爽快感〉は、この本でも健在であり、
思想誕生の背景や、思想の概要について、馴染みのある言語で物語られているので、
この分野に造詣深くない者にもテクストは開かれている。
また、断片的な知識はあっても、イマイチそれらが繋がってこない既習者にとってもオススメである。
各思想ごとの大事な箇所の輪郭が浮かび上がり、
思想史の流れもすっきり理解できる内容になっている。
【内容】
古代ギリシア〜20世紀前半までの29人の西洋哲学者が登場する。
そこには、かつて教科書で学んだような代表的思想の紹介だけでなく、
各人の「愛すべき」側面が描かれている。
その詳細については29人バラエティに富んでいるので、手にとってからのお楽しみであるが、
読み進めていくうちに、知の巨人たちそれぞれが、
「身近でちょっと変で魅力ある愛おしい人物」として我々の前に立ち現れて来る。
そして、不思議と近所の立ち飲み屋なんかで、彼らともっと対話がしてみたくなる。
「身近な分かり易い言葉」という点では、他の入門書にも似た類のものは存在するかも知れないが、
この本の比類なき点を挙げるなら、「哲学」と「マンガ」(時々、政治ネタ)との「シンクロ」であろう。
これらのシンクロがこの哲学書の肝であり、本書において面白さの発動装置にもなっている。
シンクロは見事なものもあれば、中には無理やり感が否めないネタもあるが、
突っ込みながら読むと面白さが倍増する。
一例を挙げれば、アリストテレス的中庸と磯野家のアナロジー、
アタラクシアを勘違いした、『課長島耕作』の松本常務など。
日本の政治家も意外な箇所で顔を覗かせる。
フロイトの精神分析に突如現れ、戯画化される安倍首相や石破氏。
某隣国の太った坊もどこかで登場する。
そして、プラトンの紹介ページには「善のイデア」から最も遠いであろう男、森喜朗元首相が登場し、
国会の中心でイデアを叫ぶ。
その時、我々は懐旧の情さえも呼び起こされるだろう。
このようにマンガ、政治ネタがちりばめられ、ついでにそれらも楽しめる作品になっている。
しかも、これらが哲学的内容とうまく調和されているので、ポイントになる概念も印象に残る。
マンガへのエロースは著者である蔭山氏の真骨頂である。
蓋し、この本は哲学入門書であると同時に、馴染み深いマンガを哲学的視点で再発見でき、
更には政治風刺もあり、読めば読むほど、多彩な色を見せる「ねるねるねるね」のような本である。
「美味い」どうかは好みもあるが、私はとても美味しくいただき、
ページを繰るうちに、哲学的世界のアンガージュマンになることができた。
難解さに打ちのめされながらも、それと格闘し、
「蔗を嚼む境」を手に入れた瞬間のマゾヒスティックな恍惚感は、
哲学を学ぶ者にとっての醍醐味あるのかもしれない。
だがその前に、まずはこの入門書で、哲学を等身大に感じるのはオススメである。
M的喜びは、その後の大人のお楽しみとして取っておけば良いだろう。
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