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【ネタバレあり】日本のせいで"本名"で記録を残せなかったマラソン選手たちが、祖国の誇りと尊厳をかけてその無念を晴らす感涙必至のマラソン映画『ボストン1947』

【個人的な満足度】

2024年日本公開映画で面白かった順位:14/101
  ストーリー:★★★★★★★★★★
 キャラクター:★★★★★★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★★★★★★

【作品情報】

   原題:1947 보스톤(Road to Boston)
  製作年:2023年
  製作国:韓国
   配給:ショウゲート
 上映時間:108分
 ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:マラソン選手「ソン・ギジョン」(1912-2002)
      マラソン選手「ナム・スンニョン」(1912-2001)
      マラソン選手「ソ・ユンボク」(1923-2017)
公式サイト:https://1947boston.jp/

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
1936年、ベルリンオリンピックのマラソン競技において、日本は世界新記録を樹立、金メダルと銅メダルを獲得し、国民は歓喜に沸いた。しかし、その2個のメダルには秘められた想いがあった。日本代表としてメダルを獲得したソン・ギジョン(ハ・ジョンウ)とナム・スンニョン(ペ・ソンウ)が、日本名の孫基禎と南昇竜として表彰式に立ったのだ。第2次世界大戦の終結と共に、彼らの祖国は日本から解放されたが、メダルの記録は日本のままだった。

1947年、ボストンマラソン。その二人がチームを組み、才能あふれる若きマラソン選手を歴史あるボストンマラソンに出場させる。<祖国の記録>を取り戻すために—。

【感想】

※以下、ネタバレ。
これは映画史上最も泣けるマラソン映画ではないでしょうか。この映画もまた韓国の歴史を知る上でとても有意義な作品だったんですが、ただ歴史的意味があるだけでなく、映画としても感動のヒューマンドラマでものすごく面白かったので超絶オススメですね。ほとんど史実なのでネタバレというのとはちょっと違う気もしますが、感想はネタバレを含んでいるのでまだ知りたくない方はここでページをそっ閉じしてください。

<本名で記録を残せなかった選手たち>

まず知っておきたいのは、日本統治時代の朝鮮には不遇のメダリストがいたということです。それが、ソン・ギジョンとナム・スンニョン。彼らは1936年のベルリンオリンピックにおいて、男子マラソンで金メダルと銅メダルをそれぞれ獲得する快挙を成し遂げました。が、当時の朝鮮は日本の統治下にあったため、2人は本名ではなく日本名で出場させられ、現在に至るまでその記録は"日本のもの"として登録されているんです。しかもソン・ギジョンに至っては、1935年の第8回明治神宮体育大会で世界記録を出しているんです。なので、オリンピックの男子マラソンにおいて世界記録保持者として出場した上で金メダルを獲ったことになるんですが、現在においてそれを実現しているのは、彼と2020年東京オリンピックのエリウド・キプチョゲだけらしいんですよね。そんな世界的な偉業を成し遂げたのにも関わらず、名前も国籍も本来の自分のものではないなんて、こんな屈辱あるかって話ですよ。

<世界的立場の低かった朝鮮の辛さ>

それから10年経った後、ソン・ギジョンとナム・スンニョンはタッグを組み、才能あふれる若きマラソン選手のユ・ソンボク(イム・シワン)をボストンマラソンに出場させようとします。が、これがまた苦難の連続なんですよね。。。ボストンマラソンへの出場には、過去、国際大会に出場した実績が必要なんですけど、ソン・ギジョンとナム・スンニョンの実績は日本のまま。朝鮮は独立しましたが、記録は独立できなかったんですよ。さらに、朝鮮は独立国家としてアメリカに認められておらず、むしろ難民国とされていました。そのおかげでアメリカへ入国するには保証金として2000ドル(900万ウォン)必要だと。当時の朝鮮は家が30万ウォンで買えたらしいので、いかに破格な金額だったかがわかるでしょう。でも、ここであきらめたら何も変わらないので、様々なツテをたどり、民衆への協力も仰ぎ、何とかボストンへ行けることにはなります。ただ、当時は朝鮮→日本→グアム→ハワイ→サンフランシスコ→ニューヨーク→ボストンという乗り継ぎをしないと行けなかったようで、移動だけでも相当な手間だったんじゃないかと。

<なぜ自分たちがここに来たのかという意志と覚悟の強さに圧倒される>

現地に着いたら着いたでまた問題が起こります。今回はアメリカが保証人になっている関係で、ユニフォームにはアメリカの星条旗が入っていたんですよ。これじゃボストンに来た意味がありません。みんな朝鮮人としての誇りと尊厳を取り戻しに来たので、ここは何があっても太極旗を掲げたいんですから。そもそもボストン自体が独立の象徴のような街なので、それを踏まえて自分たちがここに来た意味をアメリカ人たちに説き伏せるシーンはとても胸が熱くなりました。その甲斐あって、ユニフォームにも太極旗を入れることができました。個人的には、きちんとソン・ギジョンたちの事情を汲み取り、寛大な判断を下したアメリカ側にも感謝したいです。とはいえ、当時のアメリカにおける朝鮮の認識はひどいもので、「地図にあるのか?」「学校はあるのか?」「新聞はあるのか?」とまるで未開拓地かのような扱いをされていたのは、同じアジア人として胸糞悪い部分もありました。

<何としてでも勝ちたいという強い想いが勝利をもたらす>

終盤のマラソンシーンはこれがもうメチャクチャ感動するんですよ!!「アジアのチビは国へ帰んな!」と茶々を入れてくるランナーがいる中で、黙々と走り続けるユ・ソンボク。途中アクシデントに見舞われながらも、徐々に順位を上げていき、ラストは激しいデッドヒートの末に見事優勝を果たします。しかも、ソン・ギジョンが持っていた世界新記録を11年ぶりに更新したんですよ!今までずっと自分たちのアイデンティティが奪われてきた中で、ようやく名前も国籍も本来の"朝鮮人として"実績が残った事実に涙が止まりませんでしたね。。。これをきっかけに朝鮮は正式にオリンピック参加国としても認められたんですから、後世に与えた影響は大きすぎます。

<そんなわけで>

祖国の誇りと尊厳をかけてあきらめずに戦い抜いたマラソン選手たちに深く感動した映画でした。大会への参加に大きな障害があり、競技自体もマラソンという長く続く種目なので、これこそ本当にあきらめないことの大切さを教えてくれます。なお、メインの3人は実在の人物で、すでに亡くなってはいるんですが、みんな90代まで生きたのがすごいです。マラソン選手は長命なんですかね。

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