
愛する我が子に罪を償わせることが果たして親にできるのか。恵まれた家庭が子供の起こした事件で崩壊していくスリルが凄まじい『満ち足りた家族』
【個人的な満足度】
2025年日本公開映画で面白かった順位:4/15
ストーリー:★★★★★★★★★★
キャラクター:★★★★★★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★
【作品情報】
原題:보통의 가족(A Normal Family)
製作年:2024年
製作国:韓国
配給:日活、KDDI
上映時間:109分
ジャンル:サスペンス、ヒューマンドラマ
元ネタなど:小説『The Dinner』(2009)
公式サイト:https://michitaritakazoku.jp/
【あらすじ】
※公式サイトより引用。
兄ジェワン(ソル・ギョング)は、道徳よりも物質的な利益を優先して生きてきた弁護士だ。仕事のためなら、殺人犯の弁護でさえも厭わない。年下の2人目の妻ジス(クローディア・キム)や10代の娘らと共に豪華マンションに住み、家事は家政婦がこなす誰もがうらやむ暮らしだ。
一方、小児科医として働くジェギュ(チャン・ドンゴン)は、どんな時にも道徳的で良心的であることを信念に生きてきた。年長の妻ヨンギョン(キム・ヒエ)と10代の息子と共に住む彼は、老いて認知症気味になった母の介護にも献身的に当たり、品行方正な日々を送る。
まったく相容れない信念に基づいて生きてきた兄弟。しかし2人は、それぞれの妻を伴って月に1回、高級レストランの個室に集い、ディナーを共にする。レストランではお得意様であるジェワン夫妻が常に優先され、兄弟家族同士の会話はどこかぎこちない。
ディナーが行われた夜、時を同じくある事件が起こり、満ち足りた日々を送る家族が想像だにしなかった衝撃の結末を招き寄せる―。
【感想】
本作は2009年に発行された『The Dinner』という小説が元ネタで、今回で4度目の映画化らしいですね。原作小説も過去の映画も観てはいませんが、この映画はとてつもなく面白かったです。もしあなたが子供を持つ親ならば、自分だったらどうするか激しい葛藤に苛まれるんじゃないかと思います。この映画は3つの要素が絡み合うことでとても面白い作品に仕上がっています。
<①子供の犯した罪によって恵まれた家庭が崩壊していく>
兄のジェワン(ソル・ギョング)は弁護士で弟のジェギュ(チャン・ドンゴン)は医者という絵に描いたようなエリート兄弟。ただ、性格は正反対で、ジェワンは殺人犯でも金次第で弁護を引き受ける利益優先のタイプ。冒頭で金持ちのドラ息子が人を轢き殺したのをうまい具合に過失致死にして示談で解決しようとする人物です。なるほど、法律そのものは変わらないから、その変わらない法律にうまく合うように事実の見方を変えるとは頭いいなと思いつつ、何ともずる賢いやり方。広いマンションに住み、家政婦を雇い、娘にはお小遣いではなくカードを渡すぐらい裕福な生活をしています。
一方、弟のジェギュは品行方正な医者で、患者にも真摯に向き合い、認知症の母の介護も引き受ける優しい人物です。医者ではあるものの、兄のような豪勢な暮らしぶりではなく、どちらかと言えば庶民的な印象を受けました。
そんな2人の子供たち(つまりいとこ同士)は、ある日ホームレスに暴行を加えて意識不明の重体にさせる事件を起こしてしまいます。防犯カメラが捉えたその映像は、解像度の関係で世間がすぐに顔がわかるほどではなかったものの、親なら気づくレベル。ジェワンは未来ある子供たちのために事実を隠蔽しようとし、ジェギュは責任を取らせるために自首させようとしていました。ただ、ジェワンの妻ジス(クローディア・キム)は後妻であるためあまり口出しできず、ジェギュの妻ヨンギョン(キム・ヒエ)は我が子愛おしさに夫の行動を必死で止めようとしており、誰もがうらやむ恵まれた家庭は一気に失意のどん底へ突き落されることになります。
<②当の子供たちに罪の意識がまったくない怖さ>
ジェワンの娘ヘヨン(ホン・イェジ)は気の強い性格ではあるものの、どこにでもいそうな子ではありました。が、人間性は悪魔そのものです。ホームレスを暴行して意識不明にさせた後も表情ひとつ変えることなく日常生活を続ける残酷さ。罪に問われる可能性があっても微動だにしないのは、自分が未成年であることと、何かあっても弁護士の父親が何とかしてくれるという自信からでしょうか。あんなことをしておきながら、自分の大学の合格には大喜びし、ご褒美に父親に車をねだるなど、自己中心的な性格が見てとれます。
逆に、ジェギュの息子シホ(キム・ジョンチョル)はおとなしく、学校でいじめられていました。そんな彼は、親から問い詰められても犯行を否定し続けていたんですが、最終的には涙を流しながらそのことを悔い、生まれ変わることを父親と約束するのですが、、、ラストでまさかの展開です。
<③全編にわたって葛藤する親目線での対応>
「あなたが親ならどうするか」。結局、この映画はここに尽きますね。当初、ジェワンは愛すべき子供たちの未来を考えて、事件のことを隠蔽しようとしており、反対にジェギュはそれでは子供たちのためにならないとして自首させることを主張していたことはさっきも書いた通りです。お互いの意見は平行線のままでしたが、結局、ジェギュも自分の子供のかわいさゆえか、結局警察へは行かなかったんですよね。そうこうしているうちに意識不明だったホームレスが亡くなったことで犯人の顔を見た人がいなくなり、この件も終わりを迎えることに。
ところが、物語はここで終わりません。最後に怒涛の展開が待っているのです。ジェワンは人を轢き殺した加害者でさえうまいことやって示談に持ち込もうとするずる賢い弁護士でした。でも、実の娘には、、、いや実の娘だからこそずっと葛藤し続けていたんでしょう。この子のためになるのは隠蔽することなのかと。何よりも、亡くなった最初の妻(娘の生みの母)ならどうすべきかと考え、思いも寄らない行動に出ます。そして訪れる最悪の事態。ジェワンもジェギュも葛藤に葛藤を繰り返した上でのあのオチですからね。。。もう何と言っていいのやら。。。果たして、この後彼らはどういう人生を歩んでいったのでしょうか。解釈の余地を残す終わり方にして正解だなと思いました。
<犯行の動機が不明>
上記3つの要素がこの映画の面白さの理由なんですが、ひとつわからなかったのはヘヨンとシホがホームレスを暴行した動機です。そこだけ明確に語られていないんですよ。ヘヨンに関しては生みの母が亡くなり、新しいお母さんがやってきたことに加え、父親が甘やかしすぎたことが関係しているのかなと思います。「パパがいれば全部何とかなる」っていう全能感があったのかもしれません。シホに関しては、学校でいじめられている腹いせと、こちらは父親があまり主体的に面倒を見ていなかったような印象があるので、親の注意を引きたかったのかなと。いずれも憶測でしかないのですが、もう少し犯行の動機が直接的にわかる描写があってもよかったかもしれません。
<そんなわけで>
子を持つ親ならぜひ観ていただきたい映画です。子供の犯した罪に、親としてどう対応していくかはいろいろ考えさせられました。自分が親だったら、もちろん子供に罪を償わせますけど、やっぱりいろいろ葛藤はあるでしょうから、ものすごく精神的に辛いだろうなと思いますね。。。