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平和の祭典で起きた衝撃の実話。世界で初めてテロを生中継した圧倒的緊迫感の90分『セプテンバー5』

【個人的な満足度】

2025年日本公開映画で面白かった順位:12/18
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★

【作品情報】

   原題:September 5
  製作年:2024年
  製作国:ドイツ・アメリカ合作
   配給:東和ピクチャーズ
 上映時間:95分
 ジャンル:サスペンス
元ネタなど:事件「ミュンヘンオリンピック事件」(1972)
公式サイト:https://september5movie.jp/

【あらすじ】

※公式サイトより引用。
1972年9月5日、ミュンヘンオリンピックでのパレスチナ武装組織「黒い九月」による、イスラエル選手団9名を人質にするテロが発生。全世界が固唾を飲んで見守った歴史的なTV中継を担ったのは、なんとニュース番組とは無縁のスポーツ番組の放送クルーたちだった。

過激化するテロリストの要求、機能しない現地警察、錯綜する情報、極限状況で中継チームは選択を迫られる中、刻一刻と人質交渉期限は迫っていくのだった――。

【感想】

1972年のミュンヘンオリンピックで実際に起きたテロ事件を報道側の視点から描いた映画。平和の祭典であるオリンピックでまさかこんな事件があったとは知りもしませんでした。。。

<局内でも意見が割れる放送の是非>

この映画の面白いところは、テンポよく進むことで片時も目が離せないほど緊迫した空気を味わえると同時に、報道のあり方についての葛藤と対立が観られるところにあります。そもそも今回の事件の背景は、長く続くイスラエルとパレスチナの紛争です。パレスチナのテロ組織のひとつである「黒い九月」が選手村に侵入し、イスラエル人の選手やコーチを人質に取り、イスラエルに拘束されているパレスチナ人の解放を呼びかけました。

本作の主体はオリンピックの中継に来ていたABCのクルーたち(それも報道局ではなくスポーツ局)。情報が錯綜する中、レポーターやカメラマンを事件現場に派遣し、全世界へ生中継を行います。犯人グループは、定刻までに要求が通らなければ人質を1時間にひとりずつ殺していくと宣言しました。そんな状況の中、電話や無線で常に連絡を取り合い、様々なツテを使って情報を吸い上げるABCの面々。刻一刻とタイムリミットが迫る中、彼らは事件の様子をリアルタイムで流し続けます。報道機関として現地の様子を伝える責務があるのは確かですが、果たして最悪の事態が起きかねないこの状況を本当に放送してもいいのかと局内でも意見が割れているところに人間らしさを感じましたね。同じ目的で働いていても、倫理観は人それぞれ違うんだなと。

<早く伝えるか、正しく伝えるかのせめぎ合い>

放送を巡る方針はラストでも痛感することになります。最終的に、犯人グループは国外逃亡しようと人質たちとヘリに乗って空軍基地に向かうのですが、そこで激しい銃撃戦が行われました。その結果、人質は無事に解放されたのか否か、誰もはっきりとした情報がつかめない状況が続きました。でも、ドイツの公共放送局であるZDFが「人質は全員解放された」と報じるんですよ。それを受けて今回の生中継の指揮を執ったジェフリー(ジョン・マガロ)も他局に先駆けてそれを伝えようとするんですが、先輩のマーヴィン(ベン・チャップリン)は「確実な情報源が二つ必要だ」とそれを止めます。ジェフリーからしたら一番に伝えることに意味があり、しかも公共放送局が言っているのだから問題ないだろうと判断していますが、マーヴィンは慎重に事を進めたいんですよね。この“早く報道するか”と“正しく報道するか”の対立というのは、時代が変わっても現在にもある問題だろうなと思います。むしろ、SNSが普及した今の方がより顕著かもしれません。

<そんなわけで>

サスペンスとして面白かったことに加えて報道のあり方についても考えさせられるとても秀逸な映画だったのでオススメです。ちなみに、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ミュンヘン』(2005)もこの事件を扱っており、そこでは最初の10分で今回の事件の発端から終結までを描き、その後日談までを映画化しています(大学生のときに観たけどほとんど忘れてましたw)。なので、本作と『ミュンヘン』の2つを観て、この「ミュンヘンオリンピック事件」に関する物語は完結するのかなと思います。

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