惚れたが悪いか

書店でこの本が目に留まり、タイトルだけで即買いした。
おはつが主役の「曽根崎心中」、
ひのえ午うまれの「八百屋お七」とくれば、
買わないわけにはいかない。

私は22歳くらいの頃、周りから「おはつ」と呼ばれていた。なんか時代劇の町娘のようで恥ずかしかったけれど、物心ついたときからずっと「はっちゃん」以外のニックネームを持たなかった私は、その新しい呼び名を少し躊躇しながら受け入れた。

当時、トレンディドラマという言葉が出始め、若者の生き方やファッション、音楽に、ビンビン影響を与えるような俳優たちがこぞって9時台のドラマに出ていたような気がする。
そして若者も、残業時にはビデオ録画を、外食時は早めに帰宅をと、トレンディドラマを生活の一部に組み込んでいた。

「ハートに火をつけて」というドラマの中で当時のトレンドリーダー、サンタフェファッションの浅野ゆう子が柳葉敏郎に「おはる」と呼ばれていた。
ダンガリーシャツに太い革のベルトを締め、シルバーアクセサリーをつけるという、流行りそのまんまの格好をした私をからかって同僚が「おはつ」「おはっちゃん」と呼んだのが始まりだ。

それから後に知り合った人は、そのまま私を「おはつ」と呼んだ。
友人の彼も新しく行きつけになったショットバーのマスターもそして夫も。

私が、もう「おはつ」と呼ばれなくなってずいぶん経つ。
他市へ嫁ぎ、当時の仲間と会うこともあまりないし、夫ももちろん呼ばない。

どこかで誰かに「おはつ」と呼び止められたら、一瞬にして15歳くらい若返りそうな気がする。


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「惚れたが悪いか」 島村洋子  小学館文庫

八百屋お七、高橋お伝、四谷怪談お岩、唐人お吉、曽根崎心中おはつ、女殺油地獄お吉、そして阿部定・・・
この小説は全て異聞。今まで聞いていた話とは全く違う。
すれ違いや小さな過ちが女の人生を大きく大きく変えてゆく。

あまりに有名なこれらの話を敢えて選び、異聞として全く別の物語に書き換えてしまった作家の力量と勇気と好奇心に震えた。事実と結果だけでは、その全てが解るはずがないと私は思い知らされたのだ。

男を愛するが故に大それた事をしでかしてしまった女たち・・・だけど、あまりにも切なくて、哀しくて、可愛い。

女の本質は、過去も今も変わらない。多分、未来の女も一緒。

惚れたが、悪いか。その一言に尽きるのである。


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