見たくても見られなかったもの
子供の頃、家の近くにレンタルビデオ屋さんがあった。
たまに両親がそこで映画を借りていて、僕もそこに便乗してアニメやヒーローものを借りていた。
レンタルビデオ屋さんには当時の僕では立ち入れない一角があった。
黒い垂れ幕が掛かったその一角。すごく気になるものの、邪なオーラが漂うその一角には近寄ることすらできなかった。
見たくても見られないその一角の正体を知るのはそれからだいぶ後のことである。
同じ頃、プロレス少年だった僕の情報源はもっぱらサムライTVだった。
週プロやゴングは親が買ってくれなかったので、サムライTVを齧り付くように観ていた。
ある日、大会結果が試合映像ともに伝えられていた。しかしその試合映像はなぜか途中で映像が乱れて観れなくなってしまう。
聴こえてくるのは何かが破裂している音。そしてツンツンした赤髪の怖い見た目の選手が、のたうちまわってる様子。
見たくても見られないもの、そのラインを越えたい。その先が見たいと思うのは、カリギュラ効果というらしい。
僕はその"見たくても見られないプロレス団体" 暗黒プロレス組織666という団体に夢中になった。
2020年の新型コロナウイルス以降、プロレスの映像配信はプロレス界のスタンダードになった。これまで映像配信を行っていなかったような団体もそれぞれのフォーマットで映像を発信するようになった。
また、SNSの発達により大会の状況がリアルタイムで伝えられるようになった。それは団体公式や観戦しているファンの発信で。
今の時代、大抵のものはネットで見られる。見れてしまう。
最新のテレビ番組、芸能人の私生活、海外のインディープロレス、子供の頃見られなかったあのレンタルビデオ屋の垂れ幕の向こう側までも簡単に見られてしまう。
なんでもかんでも情報を得られるというのは便利な反面、情緒が無ぇなと思ったりする。
666には毎回、SNS発信禁止の試合がある。なぜ発信禁止なのかはここにも書けない。
今の時代、現場に足を運ばないと見られないものが、ここにはある。
見なくていいものも、この場所にはある。
666。大好きです。