止まった時間
私にはずっと好きな人がいる。
中高一貫校にいたので、私は彼を6年以上見ていた。卒業して会えなくなっても私は毎日彼を想って生きている。
初めて会った瞬間から私は彼を好きになった。鳥は生まれた直後に見た生物を親と刷り込まれるらしい。それくらい強烈に、恋に目覚めたばかりの、まだ真っ白で何もなかった私の心に彼は深く刻まれた。
中学校に入ったばかりの頃の彼は小学生みたいに小さかった。足が早くて、明るくて、何より顔が可愛かった。
暫くして急に彼は背が伸びて、顔も体も男を感じさせるようなった。私は彼を見てはドキドキした。胸が苦しくなって、呼吸が早くなった。彼を見ると恥ずかしくて仕方がなかった。
6年間ずっとそんな感じだった。
卒業して半年くらい過ぎた。会えない日が続いても、私の心は彼に支配されている。寝ても覚めても、誰といても何をしていても彼のことを考えている。
そんな自分を私は嫌ではない。むしろもっと彼に心を支配されたいとすら思う。他の事が何も考えられないくらい心を彼で満たしていたい。
できることなら彼にわがままを言われたい。無理難題を押し付けられて彼のせいで困りたい。私は彼に尽くして、それでもろくに感謝もされなくて、でもふとした時に優しくしてくれる、そんな妄想を毎日毎日、朝から晩までしている。
彼の好きな人は私ではない。
彼の心の中に私はいない。
彼の心の中にいるのは私が大嫌いな女だ。
その女は恥ずかしげもなく、彼にかっこいいと言う。
上目遣いで甘えた振る舞いをする。
スカートも短くしてるし、彼の手を、体を触ったりする。
彼を好きだという事を隠さない。
計算高くて下品な女だ。
どうしてなのだろう。
どうして私は彼に見てもらえないのだろう。
どうして私は彼に求められないのだろう。
どうして私の想いは彼に伝わらないのだろう。
どうして私は彼から愛してもらえないのだろう。
私にはずっと好きな人がいる。
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