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IR系アドベントカレンダー11日目!私の考えるIR概論です!ひとことでいうと、IRは面白い仕事で、キャリアにも役立ちます!

1. 企業経営とは船の航海のようなもの

 さて、いつも私がセミナーで話していることから。
 世界初の株式会社は大航海時代のオランダ東インド会社です。新世界へ、新たな資源を求めて、リスクを取って挑戦する冒険家たちが、資金を募る仕組みが株式会社のはじまりです。
 陸で待つ船主=株主だったのです。船がいったん大海原に出航すれば、船主には船がどこを走っていて何をしているのかわかりません。
 日々状況の変わる事業環境。株主(=陸で待つ船主)の立場になれば、株主への定期的な報告やディスカッションがほしいですよね。それがIRです。
 陸で待つ船主に、船長の見ている景色を見せる。究極のIRとはそういうことだと私は思っています。

2. 株主(陸で待つ船主)は何を期待するのか

 銀行などの債権者と異なり、株主には投資が返ってくる保証は何もありません。そこには「期待」しかないのです。
 企業価値とは、基本的にはその企業が「未来」に生むと「期待」される純現金収支(フリーキャッシュフロー)の割引後の価値です。収益性だけでなく成長性やリスクも大事です。
 株主(陸の船主)は、その「期待」を権利として株式市場(陸)で売買しています。
「今」ではなく「未来」が大事なのです。
独立系投信会社のコモンズ投信では投資では「見えない未来を信じる力」が大事だと言っています。

将来フリーキャッシュフロー

3.未来の課題の大きさが市場の大きさで、期待の大きさ

「解決する課題の大きさが、潜在市場の大きさ」
そう語るのは国内一の資産運用額のアセットマネジメントOneの敏腕ファンドマネージャーの岩谷さん。
 独立系大手の投信顧問会社のレオス・キャピタルワークスの経営理念は「資本市場を通じて社会に貢献します」というものです。そのCIOの藤野さんは、何をやっているか(What)よりもどうやっているか(How)が大事。もっと大事なのはなぜやっているのか(Why)が大事といいます。言い換えれば理念パーパスです。
 もちろん最終的にはキャッシュフローに落とさないといけないのですが、長期投資家にとってはWhyが非常に重要です。

4.株主価値創造プロセスを語れるIRが大事

 では、企業理念から企業価値にどう展開するのか。
 この図は、私が楽天IR時代、2012年に経済産業省の企業報告ラボ企画委員会(伊藤レポートの前身)で発表した資料の一部です。

経済産業省企業報告ラボ企画委員会 企業と投資家の対話と意識ギャップについて 【参考事例集】 2012.7-2013.6

 投資家側の「企業理念が株主価値にどう繋がるかわからない」という疑問に、企業は株主価値創造のプロセスを説明する義務があると考えています。
 株主価値創造プロセスをSTEP1は企業理念や強みSTEP2は具体的な戦略STEP3は決算数値と位置付けると、STEP1から3までを一貫して魅力的に語れるのは経営者しかいないとこの時、述べました。
 10年前に考えたことだったのですが、今思うと、経営者ではなくても、優秀なIR担当者だったらこの株主価値創造プロセスを説明できるのではないかと思います。
 一連のプロセスを説得力を持って投資家との対話で話せれば、投資家の頭の中にある、企業価値予想のスプレッドシートを動かすことができるはずです。上記2に出てきたフリーキャッシュフローの棒グラフが縦に伸びたり縮んだりするのです。

5.IRは知的な総合格闘技で、キャリアにも効く

 この株主価値創造プロセスが理解されるために、IR担当者は、様々な知識・能力が必要とされます。
・ファイナンスの知識
・資本市場の知識
・事業の知識
・経営戦略
・表現力(文章・プレゼン)
・コミュニケーション力
・コンプライアンス
・ESGの知識

 あの手この手で社内を巻き込み、株式市場に伝える。結構、知的な総合格闘技だと思いませんか?とても面白い仕事であることを伝えたくて本(楽天IR戦記)を書いたのです。

 このように様々な知識や能力が必要とされるIRの経験者がCFOやCEOになるケースも出てきました。記事によると、ソニーグループの吉田憲一郎社長も、IRの経験者です。吉田社長はソニー復活の立役者です。

 私自身、IRの経験のすべてが今の社外取締役などの仕事に生きていると思います。今回のIR系アドベントカレンダーの参加者の皆さんを筆頭に、現役のIR担当者のキャリアの発展に期待しています!

ーENDー

※ 12/12追記 3 .にあるWhyの本文説明に図中のWhyにあった理念やパーパスを追補しました。また4で余談として付した以下の括弧書きを以下に移します。
※ 2012年の経産省の企業報告ラボの参考事例集は、日産やオムロンなど当時の先進的な企業のIRの組織が掲載されているのでご興味があればご一読ください。


IR(インベスター・リレーションズ)の経験などに基づいたテーマで記事を書いています。幅広い層のビジネスパーソンにも読んでもらえたら嬉しく思います!