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ショート・ターミズム(短期志向)へのイライラの本質

 ショート・ターミズム(短期志向)とは、企業や投資家が短期的な利益を追求し、長期的な成長を軽視した行動を指します。多くの上場企業が投資家の短期志向にいらだちを感じていると経産省の委員会で報告されました。(*1)
 が、「短期志向」には、2種類あります。「短期的な取引」と「短期的な視点」です。これらを同一視せず、ヘッジファンドやアクティビストを含む様々な投資家を理解し、うまく付き合うことが大事です。

短期的な取引

 短期的な取引の代表はヘッジファンドやデイトレーダーです。この人たちは、1カ月程度、時には1日で買ったり売ったりします。中長期保有が多いといわれるロングオンリー投資家(*2)でも国内機関投資家で半年~1年半程度、海外機関投資家でも1年~3年程度の保有期間が一般的(*3)です。これに対し、経営は中長期で戦略を練り実行するので、株主も少なくとも1年程度は保有してほしいと考える企業が多いです。

短期的な視点

 しかし、もっと重要なのは視点の長さです。ロングオンリー投資家といえども、四半期決算に関する質問でミーティングが終わってしまうことがあります。どちらかといえば、経営者の多くは投資家の関心が短期であることにフラストレーションを感じるのではないでしょうか。そう、イライラの本質は、短期的な取引ではなく短期的な視点のはずです。逆にヘッジファンドでも、中長期的な視点に基づいた彼ら独自の価値評価を行っているケースはよくあります。彼らは彼らの基準で評価した価値と、現在の株価(他の誰かの評価)と比べて高いか安いかで取引をしているのです。

長期的な視点で短期的な取引はむしろプラス

 そんな長期的な視点で売買を繰り返す投資家は、むしろ流動性を与えるので上場企業にとってはプラスです。一般的に一日あたりの売買高が数億円~
~10億円程度にならないと、ロングオンリー機関投資家(特に海外)が買いづらいと言われています。ヘッジファンドは呼び水になるのです。
 また常に高い成果が求められるヘッジファンドには優秀な人が集まり、投資対象をグローバルに幅広い業界に求めていることから様々な知見を持っています。そうした知見に基づき、経営者と有用なディスカッションを行うことすらあります。対話の質という点では、グローバルな大手の機関投資家にひけをとらないこともあるのです。

アクティビストも長期的な視点がある

 視点という観点では、アクティビストと呼ばれる投資家も中長期の視点があります。いえ、一部のケースを除けば、むしろ徹底的に中長期の株主価値を突き詰めるバリュー投資家だと思います。かつてアクティビストからの提案は増配や自社株買いが目立ちましたが、今ではその内容は事業ポートフォリオの見直しや、気候変動対策など様々な分野に広がっています。総会での株主提案となる前に水面下の対話を繰り返し、その中の一部の企業で中長期的な企業価値の向上につなげる提案を行っているようです。そして他のロングオンリー投資家の賛同を得ることも増え、昨年はついにオアシスのサン電子に対する株主提案が、賛成多数で可決されました(*4)。

 「視点」という観点では、通常の機関投資家の短期的な関心よりもイライラしないかもしれません。昔のことではありますが、私もアクティビストと呼ばれる投資家何社かと相対したことがあります。よく調べていますし、適正な企業価値についてお互いの意見を交わすこともありました。特に敵対的な行動には出られませんでした。
 大手の機関投資家も、積極的に企業に対話(エンゲージメント)を働きかけていますが、その差は縮まっているとさえ感じます。

株主の質=経営の質

 さらに、オリンパスのように、アクティビスト株主に取締役を派遣するよう企業側から申し入れるケースも出てきました。オリンパスの社長によると、その成果として「成長につながる」「取締役会によるコーポレートガバナンスのあるべき姿を、深く考えるようになった」などと評しています(*5)。

 先日、一橋大学院の社会人向け授業で、こんな言葉がありました。「株主の質は経営の質。
 もう少し正確にいうと「株主との対話の質は、経営の質」なんだと思います。株主と中長期的な「視点」で、企業価値向上について深く対話し、それを経営にフィードバックし、実行することで経営品質が高まると私も考えています。

 IRミーティングを四半期業績に関する一問一答で終わらせず、10分だけでも未来について話し合う機会を投資家と持ち、経営に活かせる企業が、これからも発展する企業になることでしょう。

『アクティビストだけじゃない〈モノ言う株主〉』 ウエビナーのご案内(アーカイブ)

 6月23日には、『アクティビストだけじゃない〈モノ言う株主〉』~株式市場との建設的な対話~をテーマに、フロンティア・マネジメントの対談ウェビナーに出演しました。
 対談相手の同社マネージング・ディレクターの山手剛人さんは、名アナリストで、『宅配がなくなる日 同時性解消の社会論』の共著者でもあります。2017年に書かれたこの本を今読むとわかりますが、様々な業界に押し寄せる少し先のトレンドをアナリストは予測しています。このような未来志向のディスカッションを投資家やアナリストともっとできるといいよね~という話をしておりますので、どうぞご覧になってください!

 アーカイブ
(フロンティア・マネジメントYoutubeアカウントにて限定配信中)

END

*1:  2012年に経済産業省の企業報告ラボが東証と共同で行った上場企業向けのアンケートの自由回答314件のうち、圧倒的多数が「投資家の時間軸が企業経営の時間軸と比べて短すぎる」という内容(類似含む)でした。

*2: ロングオンリー投資家の「ロング」は長期という意味のLongではなく、空売り(ショート)はせず、現物株の買い(ロング)とその売りで基本的に運用することを言います。空売りを組み合わせるヘッジファンド(あるいはその運用スタイル)のことをロング・ショートともいいます。

*3: 出典 『投資される経営 売買(うりかい)される経営』みさき投資株式会社 中神康議著 

*4: 日経BP記事「株主側が今年初勝利、サン電子で取締役4人解任」2020年4月8日 (全文を読むには登録が必要です)

*5: ロイター記事「アングル:日本企業がアクティビスト逆活用、投資家視点で変われるか」2021年4月21日



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市川 祐子『2030年会社員の未来』『楽天IR戦記』著者
IR(インベスター・リレーションズ)の経験などに基づいたテーマで記事を書いています。幅広い層のビジネスパーソンにも読んでもらえたら嬉しく思います!