先行者優位🥇

　「１位」と「２位」には大きな違いがあります。特にビジネスの世界では。

　100メートル競争をイメージしてみてください。トップを走る人と、それを追いかける２番目を走る人の心境を。１位の人は「ゴールに向けて一目散に走る」ですね。後ろの人が気になるかもしれませんが、そんなことを心配していたら負けます。ゴールまで視界を遮るものは何もありません。それに対して２位の人の目標は「ゴールに向けて一目散に走る」のではなく、まず「ゴールまでの間に１位の人を抜こう」ではないでしょうか。「ゴールに向けて一目散に走る途中、たまたま１位を抜く」ではきっと抜けませんよね。「まずは１位を抜く」が最重要課題です。つまり、１位の人と２位の人では「目標」が異なるのです。

　これをビジネスの世界に置き換えてみましょう。ビジネスの世界では、100メートル競争のように同じラインに立って「よーいどん！」と言って何かを同時に作り始めるということはありません。「１位」の会社が新しいものを作り出し、「２位」の会社は１位の会社が作ったものを見て、同じようなものを作るというが一般的な流れでしょう。

　例えば、今は誰もが当たり前に使っているスマートフォンですが、これを一番最初に発表したのはAppleでした。黒電話、ガラケーに続き登場したスマートフォンですが、Appleがこれを発表した時は世界中が驚きました。

　新商品が発表されると慌てるのは競合他社です。つまりすでにその分野で活躍していた企業です。今まで世の中にないもので、とても便利で、更に顧客を魅了するものが登場したのです。これは強敵です。既存の商品の未来は安泰ではなくなります。１位の会社に続き、新商品の開発を行っていかなければなりません。

　例えば、スマートフォンが世の中に登場したら、競合他社（ガラケー製造会社）は「いずれ顧客はガラケーからスマートフォンに買い換えるので、ガラケー市場は衰退する。だから我が社もスマートフォンの開発をしないといけない」となります。ここで「30年後もガラケーは衰退しないから我が社は作り続けるのだ！」と言い張っていてはいけません。どのような商品でも熱狂的なファンは多少います。だから「絶対にガラケーがいい」という人もいるでしょう。しかし、大きなシェアを狙いたいと言う企業が、少数派の意見を尊重しすぎると、戦略を見誤ることがあります。

　では、ここでそれぞれの会社の「目線」を考えてみましょう。トップを走る会社の目線と、追随する２番目の会社の目線です。

🥇１位を走る会社の目線🥇
　自分たちが開拓した新たな市場に、さらなる商品・サービスを打ちだそうと考えます。「このプロジェクトをやろう」と言った段階から、「商品発表会」までにすでにかなりの研究・分析・開発等に時間を要しています。数年という場合もあるでしょう。その間にじっくり戦略が考えらています。そして、商品発表後も自らが描いた５年、10年といった長期戦略に基づき、次バージョンの製品開発に着手しているのではないでしょうか。

🥈２位を走る会社の目線🥈（３位以降も２位と同じ）
　１位の会社が開拓した市場に入り、１位の会社の背中を追いかける形になります。つまり、第一の目標は「自社の強みを出しながら１位の会社と同じような商品を作る」です。１位の会社が商品を改良したら「１位の会社がこういう機能を追加したのだから、我が社の商品にも入れなければ」となります。あくまでも１位の会社の後ろをついて歩く形です。
　１位の会社は商品を発表するまでに十分商品に対して検討する時間がありましたが、２位の会社にはそういう時間はありません。１位の会社の商品発売日から大きく遅れずに新商品を出さなければ市場から見放されてしまいます。「とにかく早く自社商品を開発して発売しないと！」なのです。将来のビジョンより、「いつ販売するか」の方が重要です。だからじっくり開発を行う余裕もありません。

　１位の会社と２位の会社ではこのように目標が異なります。

　２位の会社がこの市場に参入したきっかけは「１位の会社が新たな市場を開拓したから」です。そのため２位の会社が将来のビジョンを描くのは１位の会社ほど得意ではないでしょう。イメージしてみてください。iPhoneが市場に登場した時、私たちは「スティーブ・ジョブズの考える10年後先の未来」がわかりましたか？　理解できませんでしたよね？　スティーブ・ジョブズに限らず、その市場をつく出した人の頭の中を超えるのは、２位以降の会社にはかなり難しいものではないでしょうか。

　このように、１位の会社は市場を作り、２位の会社は追いかけるのです。だから「１位と２位」というのは、「たった１つ」の違いしかありませんが、実はまったく立場が異なるのです。