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日清食品:ブランド力強化と“インスタント食品×グローバル展開”戦略


学べるマーケティングモデル

ブランド力強化型グローバル展開モデル

ブランド力強化型グローバル展開モデルとは、自社の主力商品を核にブランドイメージを高めつつ、海外市場にも展開して世界的な顧客基盤を拡大する戦略です。単に現地販売を行うだけでなく、現地文化や食習慣に合わせた商品改良、CMやSNSなどを活用したブランディング施策を組み合わせることで、「グローバルに愛されるローカルブランド」を目指します。日清食品の場合、「インスタントラーメン」という日本発の独創的な食品文化を世界に広めつつ、製品の品質・安全性・おいしさを発信し、海外拠点ごとに独自の商品ラインナップを築き上げています。

このモデルのキーは、“本社一括のブランドコンセプト”を維持しつつ、“現地化”を徹底する柔軟性。日清食品はカップヌードルをはじめとするベストセラー商品で培ったイノベーション精神(おいしさ+便利さ+品質)を軸に、各国市場の嗜好に合わせて味付けやパッケージをアレンジ。同時にCMや店舗イベントで“日本のカップ麺文化”を打ち出すことで、新興国から先進国まで多彩な顧客層を獲得。“日本で生まれたグローバルブランド”としての地位を確立しているといえます。


日清食品とは?

日清食品は、「インスタントラーメン」や「カップヌードル」などのヒット商品で広く知られる食品メーカーです。創業者・安藤百福(あんどう ももふく)氏が1958年に画期的なインスタントラーメン「チキンラーメン」を開発し、その後1971年に世界初のカップ麺「カップヌードル」を発売。以来、“食のインスタント革命”を牽引し、国内外の消費者から厚い支持を得ています。

同社の事業内容は、インスタントラーメンなど即席麺を中心とした加工食品の製造・販売。特に「チキンラーメン」「カップヌードル」「どん兵衛」などのブランドは日本の家庭になじみ深く、近年では「カレーメシ」「ラ王」「U.F.O.」などバラエティ豊かな商品ラインナップを展開。海外でも米国やアジア諸国をはじめヨーロッパまで、現地工場で生産した製品を販売し、“世界の味覚”に合わせた商品開発でグローバル展開を進めています。

同社の掲げるビジョンは「食文化の創造を通じて、世界中の人々に豊かな食体験を提供する」というもの。創業当初から“誰でも手軽においしく食べられる”インスタント食品を発明するイノベーション精神を大切にし、食品衛生や環境対応にも注力。1960年代から米国での市場開拓を開始し、1980年代以降はアジア・欧州へ進出。現在では海外売上比率が年々増加し、“世界をカップ麺でつなぐ”企業として国内外で高いブランド力を誇っています。


日清食品が直面した課題

日清食品はインスタントラーメンという革新的商品を生み出し、国内外で高いシェアを獲得してきましたが、社会環境や消費者ニーズの変化に伴い、いくつもの課題に直面しています。以下、3~4つの具体的な課題をエピソードを交えながら掘り下げます。

1.日本市場における需要成熟と人口減少

インスタントラーメンは日本国内で長年にわたり安定した需要がある一方、人口の減少や健康志向の高まりなどにより市場の伸びが鈍化。特に若年人口の減少は“麺類消費”全体を押し下げる要因となり、日清食品に限らず即席麺市場が飽和状態に近づきつつある。さらに食品業界全体で“減塩”や“低カロリー”“グルテンフリー”など健康訴求型の商品が人気を集め始め、「インスタントラーメン=身体に良くない」「塩分が高いのでは?」というイメージが広がり、消費者の離反リスクが生じている。
こうした背景から、国内市場では商品の差別化(新フレーバーや具材工夫)だけでなく、健康志向や機能性表示といった切り口が求められる。新商品開発に挑戦するたびにコスト増や味のバランスなど難易度が上がり、かつ価格競争や低価格帯PB(プライベートブランド)製品の台頭も激しくなり、“収益性を維持しながらブランド力を保つ”課題が大きい。

2.海外展開でのローカライズと競合激化

日清食品は早い時期から海外市場に進出し、米国では「Nissin Cup Noodles」として一定の知名度を築いた。アジア各国や欧州でも現地工場を稼働し、ローカル向けの味付けや具材を開発してきたが、近年では韓国や中国の即席麺メーカー、あるいは現地の大手食品企業も激しい競合を仕掛けている。例えば韓国の辛ラーメン、中国のローカルブランドなどは“安価&独特の味”で市場を押さえており、日清食品が“日本ブランド”を押し出しても価格や口味で差別化が難しいことがある。
また、ローカル化の度合いが進むと“カップヌードルらしさ”がどこまで担保されるのかというジレンマも生じる。真の意味で国際的に受け入れられる味を作るには、現地開発チームと協力しながらも本社の品質基準を保たねばならず、調整コストが大きくなる。海外現地生産における原材料調達や食品安全規制の違いも課題で、トラブルが起こればブランドイメージに大きなダメージを与えかねない。

3.消費者の健康志向・環境意識への対応

食品添加物や塩分過多などを懸念する消費者が増え、“インスタントは身体に良くない”という風評をどう打ち消すかが重要。日清食品は“おいしさ”と“栄養バランス”を両立する研究を進め、減塩・ノンフライ麺・高たんぱく麺などを開発しているが、既存の定番商品との比較で味や食感が変わるリスクがあり、一筋縄ではいかない。
さらにESGやSDGsが注目される中、カップ麺のプラスチック容器や包装材の廃棄問題、製造工程でのCO₂排出などが課題として浮上。海外や日本国内でも“プラスチックごみ削減”への要請が強まっており、カップの材質変更やリサイクルシステム構築などコストのかかる改善を迫られている。一方、従来の発泡素材を簡単に代替すると、コスト高や保温・耐久性の低下など商品価値を損なう可能性もあり、トレードオフが大きい。

4.イノベーション継承とブランドの若返り

“カップヌードル”などのヒット商品を持つ日清食品は、長年“攻めのイノベーション”を企業文化としてきたが、創業者・安藤百福氏のカリスマ的発想をどう継承し、次世代の商品群を生み出すかが課題となっている。単なる新フレーバー追加ではなく、“インスタント食品の枠を超えた革新的コンセプト”が求められるが、市場が成熟し、消費者嗜好が細分化する現在では大ヒットを生むのが容易ではない。
また、若年層へのアプローチにおいてはSNSや動画サイトでのコミュニケーションが鍵となるが、他社のユニークなマーケティングやスタートアップ的な食品企業が話題をさらう事例も増えている。日清食品の“老舗大手”イメージが逆に若年層に距離感を与え、“昔からあるカップ麺”としての印象に留まる可能性があるため、ブランドの若返りと新しいライフスタイル提案が欠かせない状況にある。


日清食品の課題解決策

日清食品は「ブランド力強化型グローバル展開モデル」を基盤に、インスタント麺市場での地位を維持・拡大しながら、新たな健康志向や環境対応にも適応するため、多面的な解決策を展開しています。以下、主な取り組みを詳述します。

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