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7月8日~7月12日 ドル円の見通し
目次
◆先週のドル円の振り返り
◆先週のドル円まとめ
◆アメリカ大統領選挙と為替
◆今週のドル円見通し
◆先週のドル円の推移
1日(月曜日)
東京市場
欧州通貨高・円安の動き。
フランス下院選挙第1回投票の結果、極右勢力が過半数を取る可能性が低下し、リスク警戒感が後退。
ユーロドル、ユーロ円ともに堅調で、ドル円は161円台を回復。
ロンドン市場
ユーロ高水準での推移、欧州株先物の上昇、フランスCAC指数も上昇。
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ドル円は欧州通貨に主導権を取られ、161円を挟む水準での揉み合いが続く。
NY市場
米国時間に発表されたISM製造業景気指数が市場予想を下回り(予想49.2を下回る48.5)、瞬間的に反落する場面があったが、米連邦最高裁判所がトランプ氏の免責特権を一部支持したニュースにより、米金利が上昇しドル高期待が高まったことによりドル円は再度上昇。
ドル安よりも円安が強いと認識。
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2日(火曜日)
東京市場
円売りが優勢。ドル円は前日の流れを受けて161円台後半で推移し、高値161.74を更新し37年半ぶりの高値をつける。
日本銀行が発表した第1四半期の需給ギャップが下方修正され、円売り材料視されたうえ、米金利も上昇。日経平均株価が4万円台を回復し、リスク選好の円売りが拡大しドル円は上昇。
ロンドン市場
ユーロが軟調。仏国民議会第2回投票を控え、不透明感が再燃。
ドル円は161.74近辺まで買われた後、高止まりしている。
NY市場
FRB議長がハト派姿勢を示し、ドル円は一時161円台前半に下落したが、再び買い戻される。
3日(水曜日)
東京市場
円安が進行。ドル円は161.86近辺まで高値を更新。
株高の動きに見られるリスク選好の流れが円売りを誘発。
ロンドン市場
円安・ドル安の動き。クロス円での円売りが円安を加速させ、ドル円はロンドン朝方に161.94近辺まで買われ、その後小反落も161.95近辺に高値を更新。
NY市場
ドル売りが先行。米経済指標が弱く、利下げ期待が高まる。
ISM非製造業景気指数が予想外に50を下回り(予想52.5を大きく下回る48.8)、ドル円は一時160円台に下落するも、円安が意識され、押し目買いで反発し161.70付近まで上昇。サービス業指数内訳をみると「新規受注」が54.1から47.3と7ポイント近くも低下しており、先行きの景気の弱さが意識される結果となったことを確認できる。
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4日(木曜日)
東京市場
ドル円が軟調。一時161.14付近まで軟化。
前日の米経済指標の弱さが影響し、9月の利下げ観測が高まるが、米市場が独立記念日により休場のため動きは鈍い。
ロンドン市場
ドル安と円高の動きが優勢。
欧州株は堅調で、政治リスクが一巡。
ドル円は161円台割れ、ユーロ円やポンド円も軟化。
NY市場
米独立記念日のため休場。
5日(金曜日)
東京市場
ドル円は調整に押される展開。午前に161円台を割り込み、昼過ぎには160.54近辺まで軟化。
市場が米雇用統計の軟化を織り込んでおり、発表を控えて巻き戻しが優勢。
ロンドン市場
ドル売りが継続。米10年債利回りが低下。
ポンドが強く、ドル円は160円台後半で一服。
NY市場
米雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は予想を上回るが、前回値の下方修正と失業率悪化により相場は不安定。(非農業部門雇用者数は市場予想19万人に対し結果は20.6万人、平均時給は前年比で+3.9%、前月比で+0.3%と予想と一致する値、失業率が4.1%となった)
ドル円は160円35銭を付けた後、161円30銭台まで上昇も、米金利低下の影響を受け、その後160円台に落ち着く。
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◆先週のドル円まとめ
米国経済の緩やかな減速が目立ってきた。ここでのトレーダーとしての目線は、市場には「アメリカはまだまだ強い」と考える人と「そろそろ利下げしないと経済やばい」と考える人たちが入り混じっているということだ。
現段階のデータでは判断はつかないため、どちらのシナリオも考慮して待ちに徹し、市場の反応にいち早く気づき短期での取引をすることが必要な時間帯になってきた。
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雇用統計の結果から、全体として労働市場は緩やかに減速しているとの評価が市場では広がっており、正規雇用が減り、パートタイマーが増加している傾向も継続している。米国の2年金利は低下し、2年金利の4.6%台は3月の頃のレベル。市場は年内の2回の利下げを市場は完全に織り込む結果となった。
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ドル安になったものの、円売り、円安は継続したいっ週間となった。
◆アメリカ大統領選挙と為替
市場はトランプ勝利を織り込みか
先週米国では以前のバイデン大統領 対 トランプ氏のテレビ討論会があり、それ以降バイデン大統領の衰えを心配する市場や民主党内の一部から「バイデン大統領退任説」が広まっている。このままだとトランプの勝利は確実になるだろう。
そのため、バイデン大統領の選挙から降りる可能性もささやかれており、その場合、現状で最も可能性のある後任候補はやはり副大統領のカマラ・ハリス氏となりそうだ。
しかし、高齢問題の渦中にある当のバイデン大統領本人は現時点で継続して立候補する意向(「正式に出馬」を決める民主党大会が8月19日に開催)を決めており、本人が「退任する」と認めるまでは民主党から正式に出馬するとされている。
現段階でトランプ氏勝利を見越し、市場はトランプ氏勝利を織り込む形で動いている。
では、トランプ氏が大統領になった場合に市場ではどのような反応が見られると予想するか。
①トランプ氏の公約には財政拡張政策が多いことから、先週は米金利が急上昇。
②ゴールドマン・サックスなどから、トランプ氏の掲げる政策が全て実行されれば、FRBは追加で5回の利上げが必要になるとの「インフレ再燃」を警戒するレポートが出された。
③トランプ氏の政策はインフレを再燃させ、長期金利上昇やドル安、株安のトリプル安を招くリスクがあると警鐘をならす書簡が発表された。
つまり、トランプ氏が大統領に就任する事でのインフレ再燃と金利上昇が予想されているのだ。なぜだろうか。
2016年のトランプ大統領就任時を振り返る
以下のチャートを見てみると、2016年も年央までは経済減速を織り込んで金利が低下していたが、そこから選挙に向けて金利が上がり、トランプ氏の当選後に急騰していることが分かる。
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今の状況とかなり似ていると感じる。より詳しく分析するために金利を期待インフレ率と実質金利に分ける(期待インフレ率と実質金利の和が金利)と、まず期待インフレ率は次のように推移している。
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期待インフレ率と実質金利の和が金利になるので、その両方が上昇したことによって金利が上がっているのが以下のチャートより分かる。
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つまり、今年2回の利下げをした後にトランプ氏の減税があると、アメリカ経済にインフレ的な結果をもたらし、2016年の相場ではトランプ氏の当選後にアメリカの金利が上がったときと同じ結果を招きかねないと市場では分析されているのである。
しかし、大統領選は11月であり、トランプ氏は、まだ副大統領さえ発表していないほか、どういう人物がブレーンになるのか、財務長官が誰になるのかは、全く分からない状況であるので、上記予想は少し早過ぎるのではないかと思う。
「トランプ減税」が実行され、減税政策や法人税率の更なる引き下げは、財政を大幅に悪化させるリスクがあることは間違いないが、トランプ減税の一部が失効するのは25年末であり、まだ1年以上も先なのである。
よって、大統領選挙が話題になると一時的な影響はマーケットにあると思われるが、現在はインフレ率と金利が重視される市場なのは間違いない。
◆今週のドル円見通し
経済指標とイベント
7月8日(月)
日本: 5月経常収支発表
日本: 日銀支店長会議および地域経済報告
7月9日(火)
日本: 日銀債券市場参加者会合(9日-10日)
米国: パウエルFRB議長の議会証言
国際: NATO首脳会議(11日まで)
7月10日(水)
米国: パウエルFRB議長の議会証言
7月11日(木)
日本: 5月機械受注高発表
米国: 6月消費者物価指数(CPI)、新規失業保険申請件数発表
7月12日(金)
日本: 5月鉱工業生産指数確報値発表
米国: 6月生産者物価指数(PPI)、7月ミシガン大学消費者信頼感指数速報値発表
注目のポイント
パウエルFRB議長の議会証言(7月9日、10日)
パウエル議長の発言内容に注目が集まる。特に、インフレ動向や利下げについて踏み込んだ発言があるかどうかがポイントとなる。ハト派的な発言が出れば、ドル売りにつながる可能性があり、ドルストレートでのドル売りをしていきたい。
米国の経済指標(7月11日、12日)
インフレ指標では、7月11日に発表される6月消費者物価指数(CPI)と、7月12日に発表される生産者物価指数(PPI)が重要。これらの指標が市場予想を下回れば、FRBの利下げ期待が高まり、ドルの上値が抑えられる可能性があり、ドル売りにつながる可能性が高い。予想を大きく超えてきた場合は、FRBのタカ派的な姿勢は維持され、インフレ懸念による金利上昇からドル買いが発生する可能性がある。
労働市場指標では、7月11日に発表される新規失業保険申請件数が注目。
日本の経済指標
7月8日の5月経常収支、7月11日の5月機械受注高、7月12日の5月鉱工業生産指数確報値に注目。これらの指標が予想外の結果となれば、円の動きに影響を与える可能性がある。日本の経済は低下を続けており、回復が見込まれない場合は円売りトレンドは継続される可能性が高い。
ドル安、円安が継続したとしても来週のドル円は高値圏でのもみ合いが続くと予想される。
米経済指標の結果により、ドル円は上下に振れる可能性があるが、円売りの流れが続くため、下値は堅いと見られる。
最近の米指標の軟化でパウエルはハト化に傾いてきたため、このまま米経済指標が軟化を続けるとドル円のボラティリティは低くなる可能性が高い。
ドル円の魅力は低下しており、現在魅力的な取引通貨は米金利低下によるゴールドのロング、クロス円、ドルストレートでの円売り、ドル売りの優位性が高くなると思われる。
※本記事は投資助言に関するものではございません。投資判断は自己責任の上お願いいたします。