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税法の解釈(入門編)【やんわり租税法 No.7】

こんにちは、マークです。今日も勉強していきましょう。
前回は税法の解釈(門前編)として、文理解釈について勉強しました。
簡単にまとめると次のような感じでした。
課税は財産権(憲29)の侵害であることから、恣意的課税を排除するために課税には法律の根拠が必要というルールがある(憲84)。
だから、法律の解釈にあたっては法律の規定に「書いてある通り」に解釈するという「文理解釈」により解釈することが租税法律主義の考え方に沿っているということです。
もしこのルールがないと、課税権者による「緩やかな解釈」が可能となってしまいます。前回の犬税を例にとれば、ペットとして飼われている柴犬やダックスフントだけでなく、リカオンやオオカミ、ロボット犬のアイボなどに課税されてしまうかもしれません。
そこで、上記のような厳格な文理解釈を用いることにより、課税のルールが予め具体的に把握できることになり、課税権者と納税者の理解を一致させることができるのです(法的安定性と予測可能性)。
そこで犬税の規定の中に、「この法律において、犬とはイヌ科イヌ属の亜種としてのイエイヌをいう」という文言をいれることによってロボット犬はおろか、オオカミやリカオンの飼い主に課税されることはなくなるのです。
このように財産権という強い権利を侵害する課税は、文理解釈のようなカッチリとしたルールで縛っておくことが求められるのです。

ただし、現実の社会ではなかなかこうはうまくいきません。微妙なケースが出てきてしまうのです。
せっかくなので犬税にこだわりましょう。例えば、野生の中でイエイヌと他の動物の交配によって新しい動物が生まれたとします。この動物をペット化したとき、この犬を飼う飼い主には犬税が課税されるでしょうか。
見た目が犬っぽかったら課税でしょうか。それとも遺伝子検査によって犬との近似性が証明され、学名がつけられたら課税でしょうか。
この件について深入りするのは面白そうですが大変そうなので、こういった「微妙なケースもある」という程度に留めておきましょう。

このようなとき、税法では「目的論的解釈」という手法を用います。
つまり、文理解釈で規定の解釈ができないような難しいケースにおいては、その法律の趣旨目的に沿って解釈をする、という手法です。「趣旨解釈」といったりもします。
さて、犬税の趣旨目的 はどんなものとなるでしょうか。
一つ資料を見てみます。これは平成26年に大阪府の泉佐野市で導入が検討された際の市長に出された報告書です。
結果、導入は見送られていますが、審議は第3回に渡って議論されています。
以下、規定の内容です。

1.目的
放置フンに対する啓発及び処理に要するコストを賄う。
2.課税客体及び納税義務者
課税客体:狂犬病予防法に基づく登録犬
納税義務者:狂犬病予防法に基づく登録者
3.課税免除及び減免
身体障害者補助犬法に基づくもの又は国及び地方公共団体・公立大学法人の登録犬
4.税率
1頭につき 2,000 円/年
5.賦課期日及び納期
賦課期日:4月1日
納期:6 月1日から6月30日まで
6.徴収方法
普通徴収の方法によって徴収する。

大阪府泉佐野市平成26年「犬税構想(案)」より

かなり具体的に規定がされていますね。
仮にこの泉佐野市の犬税に当てはめてみると、当市が平成18年4月に「泉佐野市環境美化推進条例」を置いたのを背景として、そのうち改善が必要となった犬のフンの対策として立案されたようです。
この場合の趣旨目的は
「市域の良好な生活環境の保全や関西国際空港の玄関都市としての来訪者へのホスピタリティの向上を図るための環境美化施策の一環」として「放置フンに対する啓発及び処理に要するコストを賄う」ことといえるでしょう。
では、先ほどの新種の「犬」はどうなるでしょうか。
この資料によると、課税客体(税金がかかる対象や行為)は「狂犬病予防法に基づく登録犬」となっています。
そうなると今度は狂犬病予防法を照らさなくてはなりません。

第二条 この法律は、次に掲げる動物の狂犬病に限りこれを適用する。ただし、第二号に掲げる動物の狂犬病については、この法律の規定中第七条から第九条まで、第十一条、第十二条及び第十四条の規定並びにこれらの規定に係る第四章及び第五章の規定に限りこれを適用する。 犬 猫その他の動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、鶏及びあひる(次項において「牛等」という。)を除く。)であつて、狂犬病を人に感染させるおそれが高いものとして政令で定めるもの
 犬及び牛等以外の動物について狂犬病が発生して公衆衛生に重大な影響があると認められるときは、政令で、動物の種類、期間及び地域を指定してこの法律の一部(前項第二号に掲げる動物の狂犬病については、同項ただし書に規定する規定を除く。次項において同じ。)を準用することができる。この場合において、その期間は、一年を超えることができない。

狂犬病予防法(昭和二十五年法律第二百四十七号)

規定はこのようになっています。見てみると、狂犬病予防法の適用対象は犬に留まらず、様々な動物に適用されるようです。ただし、泉佐野市の犬税構想では「登録犬」と範囲を限定していることから、やはり「犬」についての解釈は必要になるのではないでしょうか。
もちろん、実際に争いが起きた場合は第二条1項二号や、2項に焦点が当たるかもしれませんが、ここでは趣旨目的に注目します。
この犬税構想の目的は「放置フンに対する啓発及び処理に要するコストを賄う」ことにあるわけですから、新種の犬もフンをするということでは当然対象になるものと思われます。実務上はペット化された時点でペットショップやブリーダーからの購入になり、同時に狂犬病予防法に基づく登録もされることでしょう。
つまり、犬税構想の趣旨目的から解釈すれば、新種の犬は法的には犬とみなされ犬税が課されるものと考えられます。ロボット犬は対象外となりそうです。笑

実際に起きた争いでも細かい点から判断をしていくことになり、その争いのきっかけ(今回の場合「犬」の定義)は単純なものであっても、その判断はとても複雑なものとなることがほとんどです。

前回や今回の冒頭でも申しました通り、税法は文理解釈による解釈が原則ですから、目的論的解釈は文理解釈による一元的な解釈ができなかったときの補完のための解釈と考えてもよいかと思います。
さて、文理解釈の補完としての目的論的解釈ですが、その正当性は法の趣旨にどれだけ沿っているかということに他なりません。
つまり、法の趣旨から離れてしまえばしまうほど、法創造につながり、恣意的な課税となってしまう恐れがあるのです。
そこで目的論的解釈と文理解釈の関係として、「富士山理論」という考え方をご紹介したいと思います。

法は富士山のような形をしている。頂上が法の言葉の中心的意味であり、裾野に近づくにつれて、言葉の中心意味から離れていく。そして、その距離に比例して実質的正当化が要求される。例えば「車馬通行止」という立札が法であるとすると、馬は明らかに頂上にあたる。したがって、「立札をみろ、馬は通るなと書いてあるではないか」という形式的正当化だけで、馬の通行を禁止することができる。それに対し、ロバは八合目ぐらいにあたるであろう

長尾龍一(2014)『法哲学入門』、講談社学術文庫、171頁

つまり、文理解釈により明確に解釈できる言葉が富士山の山頂で、そこから離れれば離れるほど趣旨という「ヒント」を用いた目的論的解釈の出番がやってくるということです。そして、富士山の裾野から飛び出してしまったとき、それは類推解釈を用いた法創造として租税法律主義に反した解釈となる可能性が高いといえるのです(ただし、判例(サンヨウメリヤス株式会社事件)では文理解釈を原則としながらも類推解釈による解釈の余地も認めている)。
富士山理論はとても視覚的でユニークな考え方であり、目的論的解釈の性格をよく表しているようと思います。

では、今回はここまでとさせていただきます。また次回!

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