📗【文書版】⭐️ 礼拝メッセージ『ベルゼブル論争と赦されない罪』 2025年1月12日 新約聖書　マタイの福音書第12章22～32節

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
📗礼拝メッセージ『ベルゼブル論争と赦されない罪』 2025年1月12日
 
新約聖書　マタイの福音書第12章22～32節
 
22　そのとき、悪霊につかれて目が見えず、口もきけない人が連れて来られた。イエスが癒やされたので、その人はものを言い、目も見えるようになった。
23群衆はみな驚いて言った。「もしかすると、この人がダビデの子なのではないだろうか。」
24これを聞いたパリサイ人たちは言った。「この人が悪霊どもを追い出しているのは、ただ悪霊どものかしらベルゼブルによることだ。」
25イエスは彼らの思いを知って言われた。「どんな国でも分裂して争えば荒れすたれ、どんな町でも家でも分裂して争えば立ち行きません。
26もし、サタンがサタンを追い出しているのなら、仲間割れしたことになります。それなら、どのようにしてその国は立ち行くのですか。
27また、もしわたしが、ベルゼブルによって悪霊どもを追い出しているとしたら、あなたがたの子らが追い出しているのは、だれによってなのですか。そういうわけで、あなたがたの子らが、あなたがたをさばく者となります。
28しかし、わたしが神の御霊によって悪霊どもを追い出しているのなら、もう神の国はあなたがたのところに来ているのです。
29まず強い者を縛り上げるのでなければ、強い者の家に入って家財を奪い取ることが、どうしてできるでしょうか。縛り上げれば、その家を略奪できます。
30わたしに味方しない者はわたしに敵対し、わたしとともに集めない者は散らしているのです。
31　ですから、わたしはあなたがたに言います。人はどんな罪も冒瀆も赦していただけますが、御霊に対する冒瀆は赦されません。
32また、人の子に逆らうことばを口にする者でも赦されます。しかし、聖霊に逆らうことを言う者は、この世でも次に来る世でも赦されません。
 
主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 
先日私は、あるクリスチャン向けと思われる講演会のチラシをSNSで見つけました。そこにはだいたいこういったことが書いてありました。「世界中で反ユダヤ主義が吹き荒れる中、クリスチャンは何をすべきでしょうか」まぁそういう講演内容の案内文だったんですね。
　私はそれを見て、―まぁ講演を聞いてみないと断定はできませんけれども―即座に「怪しい」と思ったんですね。
というのも、よく今“反ユダヤ主義”が世界中もしくは欧米で燃えさかっているなどと言われることがありますけれども、本来の意味での反ユダヤ主義は世界で燃えさかってはいません。では彼らの言う“反ユダヤ主義”が燃えさかっているというのは、それは何を指しているかというと、イスラエルによる、ガザでの虐殺、民族浄化、ジェノサイドを止めろ、シオニズム反対、即時停戦をしろという、そういったデモなどが世界中で広まっていることに対してなんですね。これはもう実は酷い、言葉のすり替えなんですね。
反ユダヤ主義とは、本来そもそも約2000年近くのヨーロッパ・キリスト教社会の罪だったわけです。長らく、ユダヤ人に対する差別、迫害がなされました。その結果、ポグロムや、究極はホロコーストという、ユダヤ人大量虐殺が起こりました。
その「反ユダヤ主義」の歴史への反省を踏まえるならば、当然、帰結として、【世界のどのような集団に対してであっても、人種主義・レイシズムによって差別やアパルトヘイトなどがなされてはならないし、虐殺、民族浄化、ジェノサイドが起こってはならない】という方向に行かなければならないのに、むしろ逆の方向に“反ユダヤ主義”だ、という非難として、言葉が簒奪されて、利用されている、ということなんです。もうイスラエルの政策でも批判するなら全部「反ユダヤ主義」のレッテルを貼られてしまう。ユダヤ人差別なんか一切していないにもかかわらず、ということなんですね。(まぁ2023年の12月アメリカが「イスラエルを批判するのは反ユダヤ主義」だとする法案を圧倒的多数で可決しましたけれども、これ自体が無茶苦茶な理屈なんですよね。)
だからまぁその講演をする人や主催者が、反ユダヤ主義とは何かを、よく分からなくてゴッチャにして混同しているのか、あるいはわざと混同させてクリスチャンを誘導しようとしているのか、よく分かりませんけれども、私たちはそういう情報リテラシーを高めて、言葉の意味がすり替えられて使われていないかということでも見分ける力をつけて行きたいと思うわけです。
 
それからそれに関連しまして、私が非っー常に憂慮していますことは、一部の親イスラエルのキリスト伝道者が、とんでもないことを言っているんです。だいたいこういう内容です。世界中で“反ユダヤ主義”が広まっていますが、これは霊的戦いなんです、というんですね。つまり要するに、簡単に言えば、イスラエルと共に立つことは神の側に立つことであり、パレスチナと連帯することは、悪霊、またはサタン側に立つことだと仄めかしているわけですね。（これはご自分の考える特殊な終末論だけが正しいと思っていないと出てこない言葉だと思うんですけれども）
もちろん、あるキリスト伝道者がですね、ご自分の政治的意見を何かの時に発言することまではあってもいいんですけれども、ある特定の意見を持つ側を、悪霊の影響を受けているかのように言うことは、もう本当に酷いことだと思いますね。ですからまぁそういう類のことを言うメッセージは皆さんには避けていただいて、ということで注意喚起の意味で語らせていただきましたけれども、実はイエス様も、悪霊呼ばわりされたんですよね。それが今日の箇所になります。
 
今日、神のことばとして共に聞きましたのは、ベルゼブル論争、と呼ばれることの多い、有名な箇所です。そして、説教題として、フェイスブックで告知していたものと少し変えまして「ベルゼブル論争と、赦されない罪」と題をつけました。で、この「赦されない罪」ということばをお聞きになって、あるいは、今日の聖書朗読の終わりの方のみことばをお聞きになって、どきりとなさったり、不安になった方もいらっしゃるかもしれません。「私もイエス様がおっしゃっているその赦されない罪、というものを、気付かずに犯したことがあるのではなはないか？」と言った具合ですね。しかし、いっさい心配する必要はありません。その理由は、後で解き明かされて、明らかになりますので、安心してください。
 
それで、ベルゼブル論争がマタイの福音書全体の中でどういう意味合いを持つものなのか、そしてどういう文脈の中でこのベルゼブル論争と呼ばれている話がここに置かれているのか、ということを理解しませんと、本質が分かりませんので、繰り返しになりますけれども、先週までのおさらいをしてみたいと思います。
 
【図を映す】

　はい、ちょっとしつこいかもしれませんけれども、とりあえず簡略版で第5章からの流れを記しています。貫かれているテーマは「神の国の到来」と書きましたけれども、何も第5章から始まっているわけではなくて、マタイの福音書全部を貫くテーマと言っていいわけですね。もっともマタイは、ユダヤ人向けに書いたわけですから、「神」を「天」と言い換えて「天の御国」と言っているわけですね。それは神の国と同じ意味です。
　(左から三分の二くらい)このあたりは繰り返しになりますので省きますけれども、第11章20節からイエス様は、「ああ！コラジン、ああ！ベツサイダ、ああ！カペナウム！」と深ーい嘆きと悲しみをもって、本当には悔い改めなかったガリラヤ周辺の町々を責められるわけですね。
　そして、第11章25節以下で、すべて疲れた者、重荷を負っている者への魂の安息を宣言されました。
 
【図を映す】

　それで、第12章になって、話が切れているわけではありません。イエス様が魂の安息、とおっしゃったのはどういうことか、ということを、実際に起こったできごとを通してマタイは展開して語るわけですね。
　それはイエス様の弟子たちが、安息日にお腹が空いたので、通りすがりに畑の麦の穂を摘んだことがことの発端になります。第12章の1節から14節を合せて、安息日論争、と言われることもあります。でも実際は、神の国の到来、というテーマの中で展開される、壮――大な話でした。
　宮よりも大いなるもの、それはまさに今！到来している神の国のことでした。神の国、それは創世記で神が世界をお創りになった。その世界というのは、ご自身の神殿としてお創りになった。そして人をその祭司としてお創りになったわけです。そして七日目に神は創造のわざを休まれました。その七日に一度の休みが安息日の起源です。
　その宮よりも大いなる神の国が到来しているのだ。弟子たちはその神の国のために働く祭司なんだ、ということですね。そして安息日に、会堂で手の萎えた人を癒す奇跡も、あなたがたも安息日に羊が穴に落ちたら引き上げてやるではないか。安息日をがんじがらめで少しも安息できない日にパリサイ人たちは変えてしまったではないか。弱り果てて倒れている羊たちを、わたしは(滅びの)穴から引き揚げるために来たのだ。わたしは真の安息日をもたらすために来た安息日の主だ、というのは、神の国の到来の中に包括されている話なんです。
　そして、15節から21節は、ご自身のことを民衆に黙っているように話されたイエス様、それは、イザヤ書第42章が預言した、しもべであるメシアなんだ、ということですね。大通りで叫ばず声を響かせないお方。そしてここで、イザヤ書が預言したメシアのお姿というのは、「傷んだ葦を折ることなく、くすぶる灯芯を消すこともない」そういう優しい、多くの人が「これはもういらない」と捨ててしまうような、植物の葦の折れたもの、また灯の芯の燃えつきたようなもの、それを捨てないお方であるというのはどういうことか、それは取税人や罪びとと呼ばれる、アムハーレツと呼ばれる、当時の古代ユダヤ社会から、特にパリサイ人律法学者たちから捨てられるような人々をも、決して捨てることのない、そんな優しいメシアとして来られたのだ、ということですね。そこに、ヘブル語でミシュパットという、神の国の統治理念を持って来られたわけですね。
　それは、正義、とか、さばき、とか訳されます。でも、さばきと言っても、大岡さばきに少し似ていて、公正なさばきというものは、弱者とされている人びと、社会の周縁に置かれている人びとに対しては救いですね。ですから日本語のさばきには、どうしても怖いイメージがありますし、正義、と言ったらともすれば厳しいイメージがありますので、ミシュパットの訳としてはどうかな？というところがあるんですけれども、そういう怖い、あるいは厳しいものではなくて、真実の愛とあわれみをもって、神さまが治めてくださる、「傷んだ葦を折ることなく、くすぶる灯芯を消すこともない」そういう神の国・神のご支配が来た！マタイは先週までの箇所でそう語って行くわけです。
 
　その神の国の到来として、イエス様による、悪霊追い出しの奇跡が起こっています。
　
　内容としては、こういうことです。悪霊につかれて目が見えず、口もきけない人が連れて来られ、イエス様がその悪霊を追い出して、癒されました。
 
　当時のユダヤ教の教師たちの中でも、悪霊を追い出す魔除け祈祷師がいたそうです。彼らの場合、まず悪霊の名前を聞くんですね。そして名前を知ることによってその悪霊を支配してから追い出す、ということをしていたらしいのです。本当に出て行ったか知りませんけれども、でもここでは、口がきけないということで、名前を聞き出しようがないので、こういう人の癒しは、メシアでないとできないと、当時民衆にも広く信じられていたわけですね。
 
　だからこそ群衆がその人が癒されたのを見て、天地がひっくり返るくらいびっくり仰天して、「もしかすると、この人がダビデの子―つまりメシアなのではないだろうか。」と言ったわけですね。
　これを聞いたパリサイ人たちは、―これ一回お聞きになって、無理がある、苦しい説明だなぁ、という印象をお受けになったと思いますけれども―「このイエスという人が悪霊どもを追い出しているのは、悪霊どもの親分であるベルゼブルの力によるものだ！」と言うわけですね。
　それに対するイエス様のお答えとして、25節から27節をもう一度お読みしますと、
 
25イエスは彼らの思いを知って言われた。「どんな国でも分裂して争えば荒れすたれ、どんな町でも家でも分裂して争えば立ち行きません。
26もし、サタンがサタンを追い出しているのなら、仲間割れしたことになります。それなら、どのようにしてその国は立ち行くのですか。
27また、もしわたしが、ベルゼブルによって悪霊どもを追い出しているとしたら、あなたがたの子らが追い出しているのは、だれによってなのですか。そういうわけで、あなたがたの子らが、あなたがたをさばく者となります。

　ということですね。どんな国も、どんな町も、もっと小さい単位で、どんな家でも分裂すれば立ち行かない、というのは、よく分かる話でしょう。そして、サタンがサタンを追い出しているなら、とイエス様はおっしゃいます。ここでイエス様は、ベルゼブルとサタンを同じにして語っていらっしゃいます。これは何もおかしいことではなく当時のユダヤの常識でして、ベルゼブルは悪霊の親玉として、悪魔サタンと同一視されていたんですね。
　でこれ、ベルゼブルは、意味は諸説あるんですけれども、一つは蠅の王という説があるんですね。ある牧師先生が、「イエスはハエの王様だと陰口をたたかれたのではないか。」と書いておられて、「ハエと言えば、汚物や生き物の死体などに群がります。イエスが病人や倒れている人を助けに行かれるのをハエのようだと揶揄して、貶めようとしたのではないかと・・・そう考えると、弱い者に寄り添う姿勢をあざ笑う、かなり酷い悪口であろうと思います。」と言うのです。こういう含みがある可能性もあるわけですね。
 
　ちょっと脇道にそれたかもしれませんけれども、悪霊の親玉の力で悪霊どもを追い出しているなら、悪魔の国は内部分裂していることになる、そんなおかしな話ないでしょ、とおっしゃるわけですね。そして27節、
 
27また、もしわたしが、ベルゼブルによって悪霊どもを追い出しているとしたら、あなたがたの子らが追い出しているのは、だれによってなのですか。
 
　－これちょっと分かりにくいですね。イエス様はこうおっしゃっているんです。「よろしい、あなたがたの論の内部分裂の矛盾には一旦目をつぶりましょう。では仮に、わたしがベルゼブルの力で悪霊どもを追い出しているとしましょう。」
　―ここで、あなたがたの子ら、というのはどういうことかというと、新共同訳では、やや意訳されて、あなたたちの「仲間」となっています。子ら、というのは、弟子たち、くらいの意味でして、使徒パウロも、自分が教えた愛する弟子テモテを、わが子、と呼びました。この場合はまぁパリサイ人たちの仲間でして、先ほど申しましたユダヤ教の悪霊追い出しの魔除け祈祷師たちのことです。わたしがベルゼブルの力で追い出しているなら、あなたたちの仲間である魔除け祈祷師たちは、はてさて何の力によって追い出しているのかな？わたしが悪霊の力によって追い出しているなら、彼らも悪霊の力によって追い出していることにならないでしょうかな？―そして、
 
そういうわけで、あなたがたの子らが、あなたがたをさばく者となります。
　
　というのは、あなたがたの仲間である魔除け祈祷師たちが悪魔の手先であるからして、あなたがたに敵対してあなたがたを裁くでしょう。とそのパリサイ人たちの論の強引さを指摘されるわけですね。まぁもともと自分たちの権力をなんとか守ろうとして、小学生の言いがかりレベルのいちゃもんをイエス様に付けてきているわけですから言わずもがなでもあるんですけれども。
　
そういうふうに論争の内容を説明させていただきましたし、確かにこれは論争物語のカテゴリーに入れられるわけですけれども、論争が一番大事なのではなくて、イエス様がその続きの28節でおっしゃっていること、
 
28しかし、わたしが神の御霊によって悪霊どもを追い出しているのなら、もう神の国はあなたがたのところに来ているのです。
 
　これが、今日の中心聖句であって、一番大事なことです。神の国の到来、いつもは天の御国と言い換えるマタイが、ここでは天と言わずに、神の国と言っています。なぜかははっきりとは分かりませんけれども、もう天という言い方では間に合わなくなっているのかもしれません。
　いずれにせよ、この悪霊追い出しは、神の国の到来のしるしである、それもよく分かる話です。神の国は神のご支配ですから、悪霊に支配されて苦しんでいる人びとを解放して行くことが、神の国の到来に不可欠なことなんですね。マタイの第4章でイエス様は荒野で悪魔の誘惑に勝利されました。同じ第4章の17節で、
 
この時からイエスは宣教を開始し、「悔い改めなさい。天の御国が近づいたから」と言われた。
 
　とあります。それにマタイ第10章の1節でも、
 
イエスは十二弟子を呼んで、汚れた霊どもを制する権威をお授けになった。霊どもを追い出し、あらゆる病気、あらゆるわずらいを癒すためであった。
 
　というふうに、神の国の大使として弟子たちをガリラヤの町々に遣わした時に、悪霊を制する権威を移譲することがとても大事なポイントになっているわけですから、悪霊追い出しと神の国の到来は、セットというか、密接に結びついていることなんですね。そして、それはまさに御霊・聖霊のみわざなんだ、ということです。
 
　ここで31節32節に飛ぼうと思いますけれども、ここが一番気になっていたという方もいらっしゃるかもしれません。
 
31　ですから、わたしはあなたがたに言います。人はどんな罪も冒瀆も赦していただけますが、御霊に対する冒瀆は赦されません。
32また、人の子に逆らうことばを口にする者でも赦されます。しかし、聖霊に逆らうことを言う者は、この世でも次に来る世でも赦されません。
 
　まぁ、ここだけ抜き出して読んだり聞いたりしますとですね、説教の冒頭で申しました通り、怖くなるかもしれません。ごくまれにだと思いますけれども、こういった箇所で脅す、カルト的な教会もあるかもしれません。
　
　これは新約聖書最大の謎の一つと呼ばれることもあり、たとえば教会の歴史の中で、赦されない罪は何かということが色々に論じられてきました。それは―これはカトリックの方なんじゃないかなと思うわけですけれども―七つの大罪、傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰、こういった教理や、「意図的に犯した罪」などという、「赦されない罪」の定義が論じられてきました。これらはしかし違うでしょう。みんな全部どこかで犯しているからです。
　そこで一番よくなされる説明であり、一番よく聖書全体と無理なく調和しているのは、おそらくこの説明でしょう。イエス・キリストが私の罪からの救い主であり、わたしの罪を十字架で負ってくださった。復活なさって永遠のいのちを与えてくださった、このことを知らせてくださって、信じさせてくださるのは聖霊のみわざである、だから、「だれでも聖霊によらなければ、イエスを主とは言えないのです」(1コリント12:3)とある通りに、主イエスが差し出されていて、聖霊が知らせてくださる、ゆるしというものを、かたくなに一生の間意図的に拒み続けるのは、自らゆるしを捨てることであるから、それは結果的に赦されない罪になる、とこういった説明です。これは聖書全体のことば（、またプロテスタントの教理)とも何一つひっかかることなく調和しているでしょう。私も過去に説教の中でそういう説明をしたことがあります。間違ってないでしょう。
 
　しかしもう1つですね、今日の説教で、わりと大きな分量を取って、マタイの意図したテーマや、文脈や背景を説明しましたのは、そうするともう一つの別のことが見えてくるからなんです。
　文脈とテーマを考えますと非常に単純、シンプルです。イエス様がおっしゃったことの直接の当時の聞き手、現場にいた人たちが受け取った意味で考えたらいいんです。
　28節でイエス様がおっしゃっているように、神の霊、つまり聖霊によって、悪霊どもを追い出している。それによって神の国の到来が起こっているわけですね。そのみわざを、こともあろうに、パリサイ人たちが、悪霊のしわざだ、などと言ったわけなので、聖霊のみわざに対する冒涜なわけですね。今まさに聖霊によって神の国が到来しているのにもかかわらず、その神の国をもたらしている聖霊を拒むなら、今まさに来ていて後に完成する神の国に入れません、という極めてシンプルな話なんですよね。
　
　ところでそういうふうに、イエス様の聖霊によるみわざを、否定する者は、未来永劫天の御国には入れないのでしょうか？これはたとえば使徒パウロを考えてみるといいんです。
　よく考えたら使徒パウロという人は、かつてはパリサイ人のエリート、クリスチャンの熱心な迫害者であり、「イエスはベルゼブルの力をもって魔術を行なった」という、パリサイ人たちの公式見解に完全に同意していたわけです。彼は御霊に対する冒涜を犯し、聖霊に逆らうことを言っていました。
　ところが、彼が赦されず、天の御国に入れなかった、などと言う神学者は誰一人としていないでしょう。彼は赦されて天の御国に入ったのです。これはどういうことでしょうか？では今日の31節32節のことばが嘘なんでしょうか？いいえ、イエス様のことばに嘘は一切ありません。
　これはこう考えたらいいのです。以前の1章手前の第11章20節以下、イエス様を人気者のように追い回していたけれども本当には悔い改めないガリラヤの町々をお責めになりました。「ああカペナウムよ、おまえはよみにまでくだるのだ」とおっしゃいました。いわばその言い換えが、今日の31節32節のパリサイ人たちへの厳しいことばなんです。ガリラヤの町々の、真実には悔い改めない心に悲しみながら「ううっ！あああっ！」とイエス様は嘆き呻かれれました。けれども、その嘆き呻きは十字架にまでつながるものであった、と以前の説教で申しました。その主の十字架というものは、本来は悔い改めなかったゆえに、神に見捨てられるべきだったガリラヤの町々、コラジン、ベツサイダ、カペナウムの町全体が、【町ごと釘づけにされるべき十字架であったのです！】
実はこの町々を打ち滅ぼす厳しい神のさばきのことばの中に、すでに十字架の恵みが見えている！主イエスは十字架の上で、「わが神わが神、どうして私をお見捨てになったのですか」と、そう呻かれました。そしてガリラヤの町々の人々に対して、「そうだ、お前はよみにまで行かなくてよい。わたしが代わりに、よみにまでくだるから」と十字架の上で言ってくださった。
　
　そう考えますと、今日の第12章29節のことばが、輝いて迫ってきます。
 
29まず強い者を縛り上げるのでなければ、強い者の家に入って家財を奪い取ることが、どうしてできるでしょうか。縛り上げれば、その家を略奪できます。
 
　イエス様はここで何をおっしゃっているのでしょうか？強盗のたとえです。イエス様はユーモアをもって、非常にユニークなたとえをなさっています。「強い者」とはサタンのことです。そしてイエス様ご自身を強盗にたとえておられます。わたしはもう悪魔の家に入ってその主人であるサタンを縛り上げた。わたしはすでにサタンに勝利した。そう、旧約聖書のメシアに関する預言には、勝利のメシア像も描かれています。傷ついた葦を折ることなく、くすぶる灯芯を消すことのない、優しいしもべとしてのメシア、そういうメシア像と、勝利のメシア像は両立しないのでしょうか？確かにイエス様はご自身が愛してやまないところの「人間」に対しては力をもって戦われることはありませんでした。しかし、死と、罪と、悪魔に対しては、戦い、勝利をされるのです。されたのです。
　そして、家財とは、大切な大切なもの、宝の民である私たち(皆さん)一人一人です。あなたは神様の宝物だ。あなたを決して悪魔に渡さない。そうやって主イエスは、敵のアジトに侵入し、堂々と私たちを連れ帰ってくださるのだ。そういう救い主のお姿が、ここに鮮やかに描かれているのです。
 
　そうすると、ここで主イエスが、パリサイ人の魂をあわれんでおられるお姿も見えるわけです。28節では、
 
28しかし、わたしが神の御霊によって悪霊どもを追い出しているのなら、もう神の国はあなたがたのところに来ているのです。
 
　とおっしゃいました。岩波訳という翻訳では、
 
「神の王国はお前たちの上にまさに到来したのである」
 
　とパリサイ人に対しておっしゃっています。まさにパリサイ人の上にも、神の国は、天の御国は到来した！けれども、彼らに、聖霊に逆らう者はその国に入れないと言いつつも、だからこそ、彼らも入る道を開くために、わたしはこの先、十字架にかかりに行くのだ、そういう意識がおありだったのだと思います。
 
　だとすれば、私たちの内にもまた、パリサイ人の罪があります。自分の立場が危うくなると、無理やりな理屈をつけてでも、誰かを悪者にしてかわそうとしたり、神さまの方を悪者にしてしまうことさえあるかもしれない。幸いにしてそんなことは無いと思えている者も、表面化していないだけで内側には持っていることをも、厳粛に受け止めたいと思うと同時に、その罪がすっかり赦されてしまったことを知るのです。もう「私のあの罪は十字架で赦されたけれども、でもあの罪は赦されていないかも」と心の中で問う必要はただの一つたりとも無くなったのです。
　
　そして私たちは、神の国の完成のために働く祭司としてキリスト者は神に召されていると申しました。それは言ってみれば、被造物ケアの使命です。創世記で神の神殿として創られたこの世界が、完全な神の国として、黙示録の新天新地で完成します。そこに至るまで、私たちは一人一人が祭司として預言者として働くのです。それは、それぞれが遣わされた場所で、たとえばビジネスの場で、医療の場で、教育の場で、福祉の場で、家庭の場で、社会活動の場で、他にも様々な場があるでしょう。(あるいは病室という場で、病人として人々に愛を振りまくということもあるかもしれません)そのそれぞれの場で小さなキリストとして、神の国の大使として、人々を愛し、隣人に仕え、人々の人権を守り、地球環境をケアし、この世界の闇に打ち勝つキリストの光の反射したものを、たとえ小さな明かりであっても、日々灯して行くのです。
 
お祈りいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様の偉大な、壮大なご計画に目もくらむばかりです。あなた様は主イエスをお遣わしになり、神の国の到来をもたらしてくださいました。それは、まさに聖霊のみわざであり、悪霊への勝利のみわざであり、主イエスご自身が悪霊の家の主人を縛り上げ、そこから私たち一人一人を取り返してくださいました。「あなたはいのちがけで取り返したわたしの宝だ。」と、そう言ってくださいました。私たちはまた、新天新地で完成する神の国の祭司として、預言者として働きます。この闇と混沌が広がる世界において、しかしなお、目立たないかもしれないけれども、主イエス・キリストの光がなお有ることを見つめながら、あきらめることなく、うむことなく、神様のためにうるわしいことを一つ一つしながら、あなたから与えられた光を、灯し続けて行くことができますように。いや、すでに、おひとりひとりにそうしてくださっていますことを信じ感謝して、主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。