📗【文書版】✴️礼拝メッセージ『私たちの負い目をお赦しください。』 新約聖書　マタイの福音書第6章12節　2024年6月9日

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
📗礼拝メッセージ『私たちの負い目をお赦しください。』
 
新約聖書　マタイの福音書第6章12節　2024年6月9日
　私たちの負い目をお赦しください。
　私たちも、私たちに負い目のある人たちを赦します。
 
主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 
　皆さんは、「新しい七つの大罪」というのをご存じでしょうか？昔はカトリック教会には、伝統的にこの七つが特に重い罪だと考えられてきました。
 
傲慢
憤怒
嫉妬
怠惰
強欲
暴食
色欲
 
ですね。これが昔からの理解です。
 
ところが、2008年3月、ローマ教皇庁は、今までの7つの大罪は、やや個人主義的な側面があったため、これまでとは違う種類の大罪もあるということを信者たちに伝え、理解させるために以下のように新しい七つの大罪を発表した。ということですね。
* 遺伝子改造
* 人体実験
* 環境汚染
* 社会的不公正
* 人を貧乏にさせる事
* 鼻持ちならない程金持ちになる事
* 麻薬中毒
　だそうですが、まぁもちろん、聖書にはすでに十戒があるではないか？人間が後付けで、この罪が特に重いなんて、神でもないのに、決めることができるんだろうか？と批判できるかもしれませんが、しかし興味深いですね。ちゃんと、社会的な罪というのにも目を向けさせてくれるものだと思うんですね。
　この最初の、遺伝子改造、というのは、食品となる植物の遺伝子改造は悪でも危険でもないと考える人もありますし、危険だと考える人もあります。意見が分かれるところだと思いますけれども、後はだいたいほとんどの人が納得するところだと思います。社会的、また構造的暴力の罪、っていうものにもちゃんと触れているんですね。
　そして下から二番目の、鼻持ちならない程金持ちになる事、というよりは、搾取して金持ちになること、と言った方がいいのかも知れません(それも十戒の「盗んではならない」に入ることですね)。
　それから最後のは、もしかしたら翻訳が悪いかもしれませんけれども「麻薬中毒」で止めているのはちょっとよろしくないのかもしれません。これですと、麻薬を使用した人が悪であり罪というイメージになってしまいますので、むしろ、薬物依存症を追い込むような社会の構造的暴力であるとか、そちらに触れた方がよくて、そして、薬物依存症患者をですね、悪いヤツだ、と決めつけるのではなくて、むしろ治療やケアの対象として見る方がいいんですね。
　そしてハームリダクションと言って、当事者に共感し、徐々に薬物の量を減らすという、そういった治療法をした方が、明らかに、薬物から脱出できる率が高いんですね。
　だからこういう書き方はしない方がいいんですけれども、まぁ16年も前の文書なので、今はカトリックの方もちょっと見解が変わっているかもしれません。
 
　ということで、他にもあれが入っていない、これが入っていない、等と色々批判はできるかもしれませんけれども、この新しい七つの大罪というのは、罪というものを、個人主義的にのみならず、もっと広く構造的な部分まで気づかせてくれる、この罪の広さを、今日は、少し念頭に置いていただくといいかと思います。
 
さて今日は、主の祈りの6回目の説教になります。主の祈りの第五の祈願と呼ばれるもので、私たちが礼拝の中で祈っている文語訳版ですと、
 
われらに　罪をおかすものを、われらがゆるすごとく、
われらの　罪をも　ゆるしたまえ。
 
　という祈りです。新改訳2017の翻訳ですと、
 
　私たちの負い目をお赦しください。
　私たちも、私たちに負い目のある人たちを赦します。
 
　となっています。ここで、すでにお気づきかと思いますけれども、罪ではなくて、負い目という文言になっています。
　負い目、日本語の辞書を見ますと、
 
1.  恩義があったり、また自分の側に罪悪感などがあったりして、相手に頭が上がらなくなるような心の負担
2.  負債、借金
 
　となっていました。この負い目というのは実は物凄くぴったりな翻訳なんですね。ギリシャ語で、借金を意味することばなんです。
　実はルカの福音書の方でも、イエス様が主の祈りをお教えくださる場面があるんですが、そこでは、ギリシャ語の的外れの罪ということばで記されています。どちらが間違っているわけではなくて、当時のユダヤ人は罪のことを、神に対してまた人に対しての借金にたとえました。だから何にも間違いではないんです。マタイは、その神に対する借金、また人に対する借金、負い目、というニュアンスを出して伝えたかったことがあるわけですね。読者よ、あなたは神や人に負い目があるでしょう、と。
 
　そういうわけで、後半に、　私たちも、私たちに負い目のある人たちを赦します。という文言がありますものですから、どうも人間関係とですね、こう限定して理解しがちなんです。そして、まぁ人間関係の秘訣、相手をゆるすこと、和解、であるとか、そういうテーマの礼拝説教がこの箇所からなされることはよくあります。
 
　私はそういう説教を、色んな先生から沢山聞いてきました。それはそれで感動するものがありますし、コーリーテンブームさんのような話、ナチスに逮捕されて、性的暴力も受けた。戦争が終わってその体験を講演会で語った時に、こともあろうに自分を暴行した元ナチス党員が、「感動した」と言って握手を求めてきた。そこでキリストのゆるしをもって相手をゆるした。そこで感動的な和解が起こった。そういった話がたくさんあり、私もよくそれらの話を感動して聞いたものです。
 
それはそれで良いと思いますけれども、これが模範として語られる時ですね、あなたもこうしましょう、と語られる時、もちろん全部じゃないんですけれども、このゆるしの教えが、ともすれば、構造的暴力の装置になってしまうことがあると思うんです。
 
で、私はいくつか、最近の礼拝メッセージで申し上げましたけれども、たとえばジャニーズの問題、元社長の方から、ジャニーズＪｒの方は、被害に遭った。魂の殺人とも言われることもあるくらい心に傷を受けると言われています。そういう元ジャニーズＪｒの方がもし仮に教会に来た時に、「いや、聖書には7の70倍赦しなさい、と書いてあるから、あなたも加害者のことを赦しなさい」と言うんでしょうか？という話なんですね。
 
　また、ある職場で同僚から、酷い暴力を受けた女性がいる。そこでご両親がクリスチャンで、その娘に「敵を愛しなさい」と書いてあるだろう、だから「赦しなさい」と言って、法的措置を取らないように指導した、牧師も同様のことを言った、って言うんですね。
 
　これらのことは、つまり、被害者をさらに追い詰めるという、聖書のみことばを用いた二次加害になるのであって、言ってみれば、「ゆるしの教え」が、被害者を「黙らせる装置」として働いてしまっている、ということなんです。
　もっと言えば「感情の社会化」を妨げる装置になっている、と言ってもいいんですが、今の心理学は、大変人間の心というものをよく理解したものに発展しています。「感情の社会化」被害を受けた時に、こうこうこういうふうに辛かった、苦しかった、ということを、安全に話せるグループなどで言語化して、それを周りの人がそのまま受け入れる、そうすることによって、癒されて行くプロセスを通るんですね。そこでの癒しが起こると、心の傷からの依存症などにもなりにくくなるわけです。
　ところがですね、よくある礼拝メッセージなんですけれども、「今日、皆さんの心の中に、ゆるせない人はいるでしょうか？顔が思い浮かぶでしょうか？皆さんの中にある、赦せない思いというのは、あなたの心を、むしばみ続けるのです。今、その思いを手放そうではありませんか？憎しみの連鎖をここで断ち切ろうではありませんか。イエス様は、あなたの罪をもう覚えていない、忘れたとおっしゃっています。あなたも、隣人に傷つけられたことを、忘れようではありませんか。」
　そうすると、なんだかメッセージが感動的に終わったりもするんですけれども、果たして手放しなさいとか忘れなさいとかってどこから来たんでしょう？聖書にはそれは直接は書いていないと思いますね。そして、そのメッセージは、実質は傷ついた体験に蓋をするだけなので、本当のところは癒されないし、メッセージによって逆に鬱などが悪化する、ということが起こったりするんですね。
　でもそれは現代の心理学などをひも解く必要もなくて、ルターが500年前に言っていることなんです。「律法と福音」とルターは言いました。礼拝説教・聖書メッセージにおいて、この2つの区別が大事なんだ、と。
　律法とは、神の律法ですね。これによって人は罪が分かり、心責められ、自分が罪びとであることが分かる。
　そして福音は、「あなたはゆるされた」と告げるんです。宣言されるんです。つまり、あなたを傷つけた人をゆるせないのはダメだから、忘れましょう、手放しましょう、は、福音でもなんでもないんですね。律法主義のメッセージになるわけですので、霊的養いになるのではなく逆に、心のエネルギーをどんどん奪われて行くことになるわけです。つまり、適切ではない御言葉の適用による、教会によるあるいは説教による構造的暴力の罪、ということもあるわけです。
　そしてもう一つは、「手放しなさい」「傷つけられたことを忘れなさい」と言うことによって、加害者の罪が透明化されて、おとがめなしになってしまうことによって、ハラスメントなどの暴力が起こる下地が温存されてしまう、ということも起こるわけです。主の祈りについて「世界を包む祈り」という題で説教集が出版されているヘルムート・ティーリケというドイツ人牧師は、ゆるすということと、忘れるということは違うと、はっきり言っているんです。
 
　それでここまでのことを念頭に置きながら、そのティーリケ牧師のことばに耳を傾けていただきたいんです。ドイツが敗戦に向かう中で、ドイツの主要都市が空爆を受けている中で、ナチスドイツのしたことが誤りであった、でもそれはヒトラーの罪だけではなくて、私たちの罪でもあった、ということを厳粛に瓦礫の中で語り続けた、いのちのこもったことばですね。
 
わたしたちはみな、自分たちの生を大変な抵当に入れているのです」。これが「負債」なのである。 その故に、われわれは「わたしたちの負債をおゆるしください」というこの祈りを、ただ単にわれわれの個人的な、自分一人のこととして祈ることをしない。われわれは、この言葉によって、全世界をひどく圧迫し、今日の歴史的な時の上に悪夢のように重くのしかかっている罪の山と積まれた重荷全体を、父の御前に携え出ずるのである。今日の歴史的な時は、今全世界を捕え、震えあがらせているこの苦悩の背後に、この苦痛の背後に、恐るべき罪の宿業があることを、うすうす感じさせ、或いは明瞭に教えているからである。
　そのように、われわれはこの祈願を携えて主の御前に歩み出で、まったく個人的な罪の告白をする、と同時に、全世界の罪、民族の罪、政府の罪、すべての人々の罪を、彼らに代わって、 告白するのである。そして、イエス・キリストがゴルゴタで全人類の重荷をたった一つの力強い御業で一つに集め、それを己が肩に担われたように、―――たった一つの力強い集約的な言葉で、彼らに代わって、告白するのである。
　
　お分かりかと思いますけれども、ここで、最初の新しい七つの大罪というのとも少し繋がってくるんですけれども、個人的な「ゆるしなさい」などの話をとうに遥かに超えて、やはり説教集の題名にもなっている通り、「全世界を包む祈り」なんです。この、罪のゆるしを願う祈りは。
　
　先週の、主の祈りの、第四の祈願は何だったでしょうか？「われらの日用の糧を今日も与えたまえ」「私たちの日ごとの糧を、今日も与えてください」という祈りでしたね。
　日ごとの糧とは何だったでしょうか？一つは、ルターが小教理問答という本の中で言ったように、食べて行けること、金銭や衣食住が入りますけれどもそれだけではなくて、よい政府、よい気候、平和、健康、教育、名誉、またよい友達、信頼できる隣人などです。と言っているように、生きて行くのに必要なすべてのものですね。これが、「私たち」に与えられるように。
　私たち、というのは、私の世帯、いや私の教会、だけにとどまらず、全世界の人々、にまで射程が広がる、全世界の人々に、必要のすべてが与えられるように。これも世界を包む祈りであり、ＳＤＧｓと重なる部分もあるし、グローバルノースの構造的暴力や、地球を傷つける罪などのために、グローバルサウスの人々が苦しむ、ということも先週ご一緒に学びました。
　加えて、全世界に、霊的な糧である神のことばが届けられるように、キリストの福音が、キリストの愛とゆるしと連帯が、届けられるように、ということでもある、そんなスケールの大きなものが、この「日ごとの糧を与えたまえ」という祈りである、ということも先週ご一緒に学びました。
 
　その続きとして、この第五の祈願「罪のゆるしの祈願」があるわけですが、この第四と第五は、深く結びついている祈りだと言われます。というのは、訳されていませんけれど、原文には、日ごとの糧を、の後に「そして」ということばがあるんですよね。ですから、「日ごとの糧と、そして罪のゆるしをお与え下さい」という祈りになる。そう理解しまして、ドイツの田舎の方に行きました牧師が、その田舎に古くから伝わっている伝統的な食前の祈りを聞いたって言うんですね。こういう祈りです。
 
【主よ、私どもになくてはならないものが2つあります。それを、あなたの哀れみによって与えてください。日ごとのパンと罪のゆるしを！】
 
　こういう祈りですね。皆さんは食前にこういう祈りを、祈ったりするでしょうか？あんまりする方多くないと思うんですよね。食事ごとに罪について触れるなんて、、、という思いがあるのかも知れませんけれども、毎日食事が無いと生きられないのと同じように、私たちは毎日魂の糧である、ゆるしというものを神からいただかないと、本当は生き生きと生きてはいけない存在なのだ、ということを表している、というのが一つの理解なんですけれども、私はその、もう一つ別の切り口から見て、食べること、と、罪、というのが、関係していると思うんですよね。
 
　もちろん神との関係の破れが根源的な罪の根なんですけれど、別の言い方をすれば、人は食べて行かないと死んでしまう存在である、そしてその事への根源的な恐れがある。このことが、色んな罪の根っこになっている、という言い方もできるんじゃないかと思います。
 
　色んな職場でのいじめがある。職場でのいじめは、学校でのそれより陰湿で酷いかもしれませんけれど、職場で先輩がですね、後輩に、仕事をわざと教えないとか、そのほか様々な方法で、いじめてないよ、という体をとったいじめをしつつ、自分から退職するように追い込むとか、そういうのをする人がたまに居ますけれど、何でするかというと、おそらくは、自分の立場を後輩に奪われるのが怖い、自分が職場でお払い箱になって辞めなければならなくなったら、食べていけなくなるので、相手の足を引っ張ることに自分のリソースを使うわけですね。
 
　妬みはどうでしょうか？なぜ人は妬むのか？色々理由はありますけれども、ある人の社会的立場が、あるいは得ている金銭の額が、あるいは得ている人からの評価が、あるいはその人が持っている才能や能力が、あるいはその人が持っている健康が、自分にもあれば、自分も食べて行きやすくなる、生きて行きやすくなるのに、だから妬む、ということは、一つはあるでしょう。
　
　国と国との戦争はどうでしょうか？古代から、領土を争っての戦争がありましたよね。なぜ他国の領土が欲しいんでしょうか？様々な用途はあるでしょうが、その中の理由の一つに、国民を食べさせていくために、農作物を育てるための土地がほしい、というのがあるでしょう。もっとも、自国民のことさえ考えていない為政者であれば、国民が飢えても関係なく、自分だけは豪華な食事を食べるでしょう。
 
　そんな風に、食べることと、色んな罪は関係があると言えるわけですけれども、水俣病患者認定運動の最前線で闘い、後に「チッソは私であった」という本を書いた緒方正人さんは、自分が漁師であって、魚を毎日捕って食べるということは、それだけで自分は罪深いものだ、と言う。その暴力性が、今のところ魚にだけ向かっていて、人に対してやらないということで止まっているだけなんだ、という非常に感性の鋭いことを言っていて、さらには、チッソが悪い、と言って戦ったけれども、やがて、「緒方よ、お前はどうなんだ」と自らに問いかけた時に、自分の家にもチッソが作った製品がある。それを使って生きている自分は共犯じゃないか、と、そんなふうに「文明の罪」というふうにとらえ直した。緒方さんは、仏教の思想が強い方でありながらも、人間が生きている限り「原罪」というものをかかえて生きている、って言うんですね。
 
　これまでのキリスト教神学では、神のお創りになった自然界を壊すことや動植物を粗末に扱うことについての罪意識は非常に薄かったんですね。特に、動物を機械・マシーンのようにとらえるデカルトの哲学に、昔の神学はかなり引っ張られたところがありまして、それから「地を従えよ、生き物を支配せよ」という創世記のヘブル語を、暴力的に支配することのように捉えて来たために、非常にエコロジーに対して、キリスト教会は出遅れた、あるいはもっと言えば、その神学のために、キリスト教会が環境破壊を促進した、加担した、という罪があるんですね。その反省をふまえて、今の神学は、被造物ケア、というふうに以降していっています。
 
　そうは言っても、反省して神学を改めたから、人間の罪が覆えるわけではなくて、私たちが、豪華な食事を、食品ロスなど全く気にも留めることなく、食べては捨て、食べては捨て、を繰り返すなら、やはり間接的に、風が吹けば桶屋が儲かるじゃないんですけれども、どこかで繋がった構造的暴力によって、間接的にグローバルサウスの人々を傷つけ、自然を壊す、ということが起こるわけですね。
　だからこそ、食前の祈りとして、「私たちにはどうしても必要なものが２つあります。日ごとの糧と、罪のゆるしの、この2つを毎日お与えください、」と主なる神に祈ることは、とても核心を突いている祈りだと思うんですね。イエス様がこの2つの祈りを、つながっているものとしてお教えくださったのだから当然とも言えますけれども。
 
　そして、つながっているということを考えますと、ティーリケ牧師の意識もよく分かるわけですね。ドイツの瓦礫の町に立ちながら、この戦争は誰のせいだ、この事態は誰のせいだ、ヒトラーのせいだとか、ナチス党のせいだとか、そう言うのは簡単だけれども、そうじゃないんだ。私たち全員のせいなんだ。ヒトラーを、ナチスを、ちゃんと監視しなかった。暴走を止めなかった。流されてしまった、反対意見を言わなかった。いや、私たち全員の中に、内なる優生思想がちょっとずつあって、自分が食べていけるためには、あの人たち(たとえば障害者やユダヤ人)が切り捨てられても仕方が無いね、と内心少し思っていて、ヒトラーに賛成していたんではないか。―現代風に言うならそういう言い方になるでしょうか―
　だからこそ、沈黙しない、ということがとても大切になるわけですけれども、ガザのことに関しても―今のドイツはパレスチナ問題については大筋ではティーリケ牧師のような精神を必ずしも受け継いでいるとは言い難いんですけれども―私は心を痛めて、礼拝チャンネルとは別の個人チャンネルで、パレスチナ関係の動画をいくつか流しているくらいなんですけれども、それでもほんのわずかな効果はあるでしょう。もうすでに去年の12月に、イスラエルの高官は、ガザに入植するって言っています。ガザに入植するつもりだということは、イスラエルのしていることはそれだけですでに自衛でも自国防衛戦争でも無いということです。こんなことは国際社会全体で止めなければなりませんが、私たちもまた、何かイスラエル関連企業の商品を気付かずに買うことによって、そのお金が銃弾や爆弾になるかも知れません。いくつかの有名どころは避けることができますから、やらないよりはやった方がいいです。しかしイスラエルのことだけではありません。私たちも何らかのことで、何らかの消費行動によって、日々どこかの国の何かの悪と罪に気付かずに加担しているのかも知れません。それらを全て避けることは無理だというのが、人間の悲しさなのかもしれません。
 
　だからこそ、日ごとの糧と罪のゆるしを祈ることが私たちにとって無くてはならない切実なことになります。でも私たちは、罪のゆるしを祈る中で、後半の祈りを、祈りにくい、というのは、なお残るかもしれません。
　特に、深―く深―く傷つけられた経験を持つ人にとっては、「私たちも、私たちに負い目のある人たちを赦します（翻訳によっては、赦しました）」という祈りは、口が止まってしまう、それ以上祈れない、ということが起こるかもしれません。実際に、かつての戦争の時、争い合っているドイツの側でも、その敵となったイギリスやフランスにおいても、教会の中でキリスト者が主の祈りを祈る時、とっても辛い思いをしたって言うんです。一方では憎っくきドイツ人を赦すわけにはいかない。一方では憎っくきフランス人を赦すわけにはいかない。そういう中で、この主の祈りを祈る時に、教会の中に沈黙が走った、って言うんですね。われらがゆるすごとく、とは祈れない。私たちもまた、傷つけられた経験から、この第五の祈りは祈れない、と言って沈黙するしかないのでしょうか？主の祈りのことばの前に、私たちは立ちすくむしかないのでしょうか？
 
　いいえ！決してそうではありません。思い出してみましょう！この祈りは、主イエスの祈りだということを！主イエスが、この祈りを、じつは生涯の最後に祈ってくださった場所がある、それはどこでしょうか？あのゴルゴタの十字架の上です。
　あのゴルゴタの十字架の上で、「父よ、彼らをおゆるしください。彼らは何をしているのか自分で分からないのです」とお祈りくださった。ここに愛があります。ここに赦しがあります。この祈りを、主イエスが、この祈りをできない私たちの身代わりとなってしてくださったのです。あの十字架によって、私たちの、ゆるせないことさえも赦されてしまった。だからこそ私たちはもはや！あの人をゆるせたかどうか、まだ憎んでいないかどうかさえも、点検して問う必要はなくなったのです。
　そしてこの福音の光は、創世記で人間が罪に堕ちる前の、限りない「善さ」をもって生まれてきた時の、「神のかたち」としての自分自身に気付かせてくれて、その善さを、神様に引き出されることに、ひたすら集中して生きることができるのです。
　テゼの修道士のブラザーロジェの言葉をまとめた、テゼ、365日の祈り、という本があります。そこから少し引用してみたいと思います。
 
【キリスト・イエス、あなたが十字架上でお捧げになった祈りを、わたしもあなたと共にささげます。「父よ、彼らをおゆるしください。自分が何をしているのか知らないのです」。この祈りは、さらに次の祈りへとわたしを招きます。「父よ、わたしをゆるしてください。わたしもまた、知らずに人を傷つけることがあるのです」】
 
少し中略して続けて読みます。
 
【地上のあらゆるところで、人類家族を引き裂く不和のただ中にあって、無数の人々、若者、そして子どもたちさえもが、和解のパン種となっています。彼らは、心を信頼で満たし、必要なすべてをもっているのです。暴力と憎しみの波を押し返し、疑惑と幻滅に沈む人々に勇気を呼び起こし、限りない善さを秘めた人間の希望を支える、これらのために必要なすべてを彼らは持っています。わたしたちは、彼らの一人になっているでしょうか。彼らの一人となってゆくのでしょうか。】
 
　こういうことばです。不思議な魅力のあることばですね。これはゆるせるようになるための戦いの祈りです、とか、ゆるせるように努力しなければなりません、といったような、まるで何とかブートキャンプのような力みがありません。それこそ負い目がありません。本当に軽やかに、神様に「神のかたち」としての人間の「善さ」を引き出してもらうように、しかもとても自然な形で集中していると思います。
 
　私たちもまた、この主の祈りを日々祈ることによって、和解のパン種として、暴力と憎しみの波を押し返し、疑惑と幻滅に沈む人々に勇気を呼び起こし、限りない善さを秘めた人々の希望を支えるために、ここから出かけてまいりましょう。
 
アバ、父よ、愛する天のお父様
御名が聖なるものとされますように。
あなたのご支配が来ますように。私たちの心のうちに、そしてこの世界に。
あなたのご意志が天で行なわれるように、この地上でも行なわれますように。
私たち、世界中の人々に、日ごとの糧を、生きるのに必要なもののすべてをお与えください。私たちの負い目をおゆるしください。あなたの福音のゆるしの光の中に置いてくださって、私たちを和解のパン種として、世に遣わしてください。
主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。
 
#主の祈り #我らの罪をも赦したまえ