📗【文書版】✴️「一万タラントの価値ある一人の魂」新約聖書　マタイの福音書第18章21～35節　2023年9月17日

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
✴️「どんな犠牲を払っても、あなたと生きて行きたい」
新約聖書　マタイの福音書第18章21～35節　2023年9月17日

21　そのとき、ペテロがみもとに来て言った。「主よ。兄弟が私に対して罪を犯した場合、何回赦すべきでしょうか。七回まででしょうか。」
22イエスは言われた。「わたしは七回までとは言いません。七回を七十倍するまでです。
23ですから、天の御国は、王である一人の人にたとえることができます。その人は自分の家来たちと清算をしたいと思った。
24清算が始まると、まず一万タラントの負債のある者が、王のところに連れて来られた。
25彼は返済することができなかったので、その主君は彼に、自分自身も妻子も、持っている物もすべて売って返済するように命じた。
26それで、家来はひれ伏して主君を拝し、『もう少し待ってください。そうすればすべてお返しします』と言った。
27家来の主君はかわいそうに思って彼を赦し、負債を免除してやった。
28ところが、その家来が出て行くと、自分に百デナリの借りがある仲間の一人に出会った。彼はその人を捕まえて首を絞め、『借金を返せ』と言った。
29彼の仲間はひれ伏して、『もう少し待ってください。そうすればお返しします』と嘆願した。
30しかし彼は承知せず、その人を引いて行って、負債を返すまで牢に放り込んだ。
31彼の仲間たちは事の成り行きを見て非常に心を痛め、行って一部始終を主君に話した。
32そこで主君は彼を呼びつけて言った。『悪い家来だ。おまえが私に懇願したから、私はおまえの負債をすべて免除してやったのだ。
33私がおまえをあわれんでやったように、おまえも自分の仲間をあわれんでやるべきではなかったのか。』
34こうして、主君は怒って、負債をすべて返すまで彼を獄吏たちに引き渡した。
35あなたがたもそれぞれ自分の兄弟を心から赦さないなら、わたしの天の父もあなたがたに、このようになさるのです。」

主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
ジャニーズの話題が今も持ちきりだと思いますが、キリスト新聞に元ジャニーズJr. 二本樹顕理(にほんぎ　あきまさ)さんのインタビュー記事が掲載されていました。二本樹さんはクリスチャンなんですね。こういう見出しの記事です。

「実名告発で示された道　元ジャニーズJr. 二本樹顕理さんインタビュー　父との確執　性被害、依存症、うつからの立ち直り」　

2023年6月11日の記事です。父との確執というのは省きますけれども、けっこうな分量がありますので、また中略しながら読んでみます。
(中略)

　１年半の在籍期間中、複数回にわたる性被害にあったことを告白した元ジャニーズJr.の二本樹顕理(にほんぎあきまさ)さん。渡米後に日本人クリスチャンやゴスペルとの出会いから洗礼を受けたことも打ち明け、現在は同様の性被害をなくすため事務所に対し、誠実な対応を訴え続けている。実名、顔出しでの証言に踏み切った理由などについて話を聞いた。
(中略)
　宿泊先のホテルで初めて社長の喜多川擴（ジャニー喜多川）氏による性被害にあったのは、それから間もなくのこと。当時１３歳だった。まだ自身の経験を明確に「性被害」と認識するには及ばなかったが、自分の意志とは無関係に、彼のコントロール下に置かれたことは自覚できた。
(中略)
　結局、１年半ほどで退所した。人間不信に陥り、１０代前半で喫煙を始め、１０代後半になるころには依存症、うつ病に悩まされた。次第に学業も疎かになり、寂しさや孤独を紛らわすように、週末はクラブ通いを続けた。大学では奨学金まで剥奪された。沸き上がる希死念慮との葛藤も、一度や二度ではない。文字通り、どん底だった。
(中略)
　留学した渡米先での出会いが転機となった。同じ学校に通うクリスチャンの先輩に誘われた聖書研究会に所属し、聖書を読み進める中で、もし神が存在せず、目的をもって人間を創造したのでなければ、人生の目的などないと思えた。同じころ、メル・ギブソン監督の映画『パッション』を見て、イエス・キリストが人間の罪のために十字架にかかり復活したという福音書の物語が、ビジュアルを通して直に体感できた。キリストのように他者に仕え、他者の必要に応えていくことが与えられた使命だということも理解し、そんな生き方がしたいと思った。６カ月の準備期間を経て、２１歳で受洗した。
(中略)
　ほどなくして二本樹さんの心境に変化が訪れた。「そこからだんだんと人生が変えられていきました。素晴らしい教会やクリスチャンの方々との出会いに導かれ、神の栄光を表現する音楽をやりたいと思うようになり、次第にゴスペル音楽を演奏するようになりました」
　世界的に活躍する海外のゴスペルアーティストと共演する機会にも恵まれた。
(中略)
　退所から二十数年。これまで限られた友人以外に、性被害の事実を打ち明けることはなかった。こんな巨大な闇が放置されていいはずがないと思いつつも、音楽家としてのキャリアやプライベートを犠牲にしてまで矢面に立つつもりなどなかった。文春からの取材も、当初は匿名を条件に引き受けた。
(中略)
　あらゆる性被害が社会からなくなってほしい。そのためにも、すでに実名で訴え始めた元メンバーを応援しなければと覚悟を決めた。
(中略)
　告発後、多くの反響が寄せられたが、思いの外ほとんどは肯定的で、中には性被害にあったことを告白するものもあった。「身近なクリスチャンの方も応援してくださる方が多いです。力をもった指導者が権威を振りかざして弱い立場の人を虐げてしまうという問題は、学校も教会も無縁ではありません。カトリック司祭による性虐待が問題になっていますが、プロテスタントでも一部には牧師や教会の批判を許さないという風潮があるので、あらゆる組織でセルフチェックが不可欠だと思います」
(中略)
6月にキリスト新聞社さんが急遽撮影したインタビュー動画は3日で8万回再生、100件以上のコメントがついたそうですが、そのコメントも「声を上げるのが『恥』という文化は(中略)……加害者を野放しにして、被害者をより増やすことにつながると思います」「過去を清算しないままこの問題の解決はありえないと思います。(略)など、多くが二本樹さんを応援するものばかりだった、ということです。

　なぜこの話を最初にしたかと申しますと、今日、神のことばとしてご一緒に聞きましたイエス様のみことばは、ゆるしがテーマになっていると言うことができるからです。非常に印象深いみことばです。「人が私に対して罪を犯した場合何回赦すべきでしょうか？七回まででしょうか？」と聞いた弟子のペテロに対して、イエス様が「七回までとはわたしは言いません。七回を七十倍するまでです」と驚くべきことをおっしゃった。七の七十倍まで赦しなさい。一度聞いたら忘れることのできないみことばです
　元ジャニーズJrのメンバーの中には、クリスチャンの方が何人かいらっしゃいます。では、そういう被害に遭って―これは「魂の殺人」と呼ばれるほど被害者にとって深い心の傷をもたらすものなのですが、―そのように心に後遺症と呼べるような傷を持っている元ジュニアのメンバーたちに、仮に、教会が、あるいは牧師や宣教師などの説教者が、あるいは同じクリスチャン仲間が、もし、「あなたはジャニー喜多川さんを今も憎んでいるかもしれないけれど、聖書には七の七十倍赦しなさい、と書いてある、だから今あなたにとって大事なことは赦すことですよ。憎しみを手放すことですよ」と説くのだとしたら、これは言うまでもないことですが、彼に対して（セカンドレイプするのと同じで）、二次加害をすることになります。

　たとえば他にも、統一教会にマインドコントロールをされて何千万円もの高額献金被害に遭って、家も土地も財産も失ってしまったばかりでなく、家庭もめちゃくちゃになってしまった。心にも深い後遺症を負ってしまった。命からがら脱退した。そういう人は、マインドコントロールの後遺症のようなものがあって、統一教会の組織や、文鮮明氏や、韓鶴子(はんはくちゃ)氏を、悪く言ったり、怒(いか)ったり批判したりすることはサタンが入るというようなことを言われていたので、脱会後もなかなか声をあげるのに踏み込みにくい、そういう方に対して、「七の七十倍ゆるしなさい」ではなくて、むしろ、ある意味で、怒(いか)りがあってもいいんですよ。あなたのその感情は自然なもので、何かの被害を受けている、というサインなんだから、その感覚を、大事になさってください。そんなふうに言って差し上げることの方が、むしろ、ある意味で、慰めや励ましになり、むしろ生きる力と、人間性を回復することにつながるかもしれないですよね。

　ですから、このみことばは、私たちはどんなふうに聞けばいいんでしょうか？実はとても、誤った適応がなされやすい、濫用されやすい、それだけに要注意なみことばだとも言えると思うんです。
　このみことばについて書いてくださっているある神学者の先生の文章も引用させてください。ちょっと一部の教会の現状を一般化しすぎに見えるきらいはあるかも知れませんけれども、こういう文章ですね。

日本の教会では「赦さなければならない」ということがしばしば語られ、半ば強制と化している。その結果、他人の悪行によって被害を受けた者はその悪人を責めるのではなく、赦すべきであるとされ、逆に、赦さない者はキリスト者としてふさわしくないという言辞で裁かれることになる。 悪を行った者が「赦される権利」を享受しうる反面、その悪行によって被害を受けた者には「赦す義務」が課せられ、それを受忍しえない者には制裁が課せられるというのは、あまりにも理不尽である。悪を行った者が、厚顔にも、被害者に対して「赦し」を要求し、逆に「赦していない」と称して、加害者が被害者を断罪する珍現象すら起こっている。

　ちょっとディフォルメ(特徴を拡大)して言っている部分もあるかも知れませんけれども、これは非常に大事な視点からきた指摘だと思いますね。「ゆるさなければならないという律法主義」がはびこっている、とでも言い換えることができるでしょうか。そうするとどちらかというと、この「ゆるしなさい」という言葉で、人を追いつめる方向に行きやすいんですよね。ですから私たちは、新しくこのみことばを聞きなおす必要があると思います。

少し振り返ってみことばの方を見ていきたいと思いますけれども、先ほど申しましたように、弟子のペテロの「兄弟が私に対して罪を犯した場合、何度まで赦すべきでしょうか？七回までですか？」という質問からこの話が始まります。兄弟と言っても肉親の兄弟ではないでしょう。兄弟姉妹ということで、同じ信仰の仲間ということでしょう。弟子仲間に、ペテロが馬が合わずに、日ごろから腹を立てていた人いたのかもしれません。(もっとも、ペテロも考えるよりも先に口や体が動くタイプですので、ペテロに対して腹を立てていた他の弟子たちもいた可能性も高いんですけれど)
　ペテロはここで、けっこう大サービスして言っています。七回ゆるすって、だいぶ難しいですよね。私たちだってそうでしょう。同じ人が約束を、何回も連続ですっぽかしたら、皆さんだったら何回目で、もうこの人とは約束せん、ってなるでしょうか？この人は約束を守るという気がないな、って思うでしょう。日本でも仏の顔も三度まで、ということわざがありますよね。本当は仏教ではそうではないそうなんですけれど、日本の「ことわざ」ではそうなんです。温厚な人でも、何度も無礼なことをされたら、まぁ三度目ぐらいには怒り出すぞ、というような意味ですよね。じつは当時のユダヤでも面白いことに共通していまして、当時ユダヤ教のラビ文書というものがありまして、それに「神は3度まではゆるしてくださるがそれ以上のゆるしはない」と書いてあるんだそうです。(何が根拠になっているんでしょうかね？旧約聖書のヨブ記の第33章29節に、神が2度も3度も、罪人を立ち直らせてくださることが書いてあるからそれが根拠になっているんだと言われています。)実際にユダヤ教の当時の教師・ラビたちは、こんなふうに民衆に教えたそうですね。神は3度までゆるしてくださるのだから、あなたがたも3度までゆるすべきである。これが、当時のユダヤ版の「仏の顔も3度まで」じゃないですけど、立派な人の基準というか、信仰に真剣に生きる人は、それぐらいゆるすべきである、と教えられていたんですね。
　ペテロは、そういうラビたちの教えを一般常識として知っていましたから、でもうちのイエス先生は一味違う、もっと高い基準をおっしゃるに違いないと思いまして大サービス、ちょっと3回を2倍にしましょう。そしておまけに１プラスして、7回ぐらいでどうだ！しかも7と言うのはユダヤ人にとって神を表すこともある数。7回とこう言えば、うちのイエス様も、「よく言ったペテロよ、立派な答えだ。それでこそわたしの弟子だ」とおほめくださるに違いない、そう思ったんですよね。
　ところがイエス様の答えは違う、「7を70倍するまで」とおっしゃった。これはもちろん、計算しまして、文字通り490回ゆるしないという意味で、491回目には、怒りを爆発させてよろしい、という意味ではありません。7は完全数なので、それこそ無限に、無制限に、際限なく、ゆるしなさい、という意味だと、多くの聖書学者がそう申します。
　そこからそのことを、理論ではなくて、頭ではなくて心で・ハートで理解してもらうために、イエス様がたとえ話をお語りくださるんです。天のみ国は王である一人の人にたとえることができる。
　この王が、家来たちと清算をした。
　ここで、莫大な借金をしている家来が登場いたします。この家来は、1万タラントの負債を負っていました。これはもうざっくりと言いますと、約6000億円です。個人ではとうていできないような借金ようなですね。
　当然彼は返すことができません。自分も妻も子も、奴隷として売りなさいと言うわけですね。これは当時の異邦の国々の慣習にそった言い方ですね。でも、奴隷として売っても、せいぜい一人500デナリ、子供が2人いても、4人で2000デナリですから、さらに持ち物全部売っても、ざっくり計算して2千数百万円、6000億円の前には無に等しいです。
　そこで、家来はひれ伏して、「もう少し待って下さい。そうすればすべてお返しします」と苦し紛れの嘆願をしました。待ったって返せるあては全然無いですけどね。
　そうするとなんとこの王さまは、その家来をかわいそうに思って、借金を全部帳消しにしてやったのです。とんでもない王様ですね。
　ところがそうやって莫大な借金を免除してもらったのに、彼がしたことは何かというと、同僚であるもう一人の王の家来を見つけ出したんです。出会ったって訳されてますけど、これわざわざ探し出して見つけてるんですね。原文見れば。「そういえばあいつには100デナリ貸してた。」100デナリというのはざっくりと分かりやすく言えば100万円です。
　「やい、見つけたぞ、こんちくしょうめ。お前俺から100万円借りてただろう。今日こそ耳を揃えて返してもらうぞ」と首を絞めました。
　「いててててて。げふんげふん。勘弁してくれ。もうちょっとだけ、もうちょっとだけ待ってくれ。そうしたらちゃんと返すから」って同僚は言ったんですが、家来は、「だめだだめだ。」と言って、同僚を引きずって行って、牢屋に入れてしまいました。
　それを見て悲しく思った同僚たちは、ことの顛末を王さまに報告しました。

32そこで主君は彼を呼びつけて言った。『悪い家来だ。おまえが私に懇願したから、私はおまえの負債をすべて免除してやったのだ。
33私がおまえをあわれんでやったように、おまえも自分の仲間をあわれんでやるべきではなかったのか。』
34こうして、主君は怒って、負債をすべて返すまで彼を獄吏たちに引き渡した。

　というわけで、このたとえ話が終わります。そして、イエス様は、最後に、

35あなたがたもそれぞれ自分の兄弟を心から赦さないなら、わたしの天の父もあなたがたに、このようになさるのです。」

　と、付け加えられます。もうお分かりになっていると思いますけれども、このたとえ話の中で負債、借金、と言われているものは、罪を表します。王は(天のみ国というのは神のご支配を意味するので)神と考えていいです。そして100万円借りていた同僚というのは、罪を犯した兄弟、そして6000億円の借金をしていたのは、ペテロであり、聞き手である私たち、ということになります。

　こういう話の構成になっていますので、私たちがパッと読んだり聞いたりしますと、私たちは6000億円という神に対して莫大な罪をもっているのに、神はそれを赦してくださった。ところが、それに比べて、あなたに対してひどいことをした人の罪はせいぜい100万円ぐらいであるのだから、もしゆるさないなら、神はそれを悲しんで、あなたを牢屋に入れてしまうであろう。だから私たちは、人を七の七十倍、それこそ無制限に赦して生きなければならない。こういうクリスチャンライフの基準として、これができたらマル、できなかったらバツ、というものさしとして、このたとえ話をも、聞いてしまう傾向があるのではないかと思うんですね。つまり私たちは、イエス様のたとえ話でさえも、道徳の規準として、受け取ってしまいがちな、バイアスがかかっている、ということなんですね。もともと人間というのはみんなパリサイ的ですから、これやったらオッケー、これやったらダメ、という基準を、ものさしを、あらゆるものを見たり聞いたりするときに、得ようとするからなんですね。これは種蒔く人のたとえ話でも、私は四つの土地のうちの良い土地なんだろうか？ダメな土地なんだろうか？あの人は良い土地なんだろうか？ダメな土地なんだろうか？っていうふうに、寛大な、気前のよい種蒔く人に注目せずに、そんなふうに聞いてしまう読んでしまうことからもよく分かりますね。

　ですから私も以前にですね、それこそ10年か12、3年前に、この箇所をこういうふうに説教したかも知れません。もしその当時それを聞いていらっしゃったら申し訳ありません。だいたいこういう内容の説教だったと思います。

　ゆるすことは手放すことですよ。いつまでも怒りをもっていては、心身の健康にも良くありません。それは自分の心を牢に縛り付けたままにしておくことです。あなたを傷つけた人々をまず赦すことを宣言してください。自分をも相手をも解放してください。感情はまだついて行かないかもしれません。しかしゆるしとは感情ではなくて意志です。赦すことを決断して、ゆるします、と宣言すれば、感情は後からついて来ますから、やがて心の底から赦せるようになります。隣人があなたに対してひどいことをしたとしても、それはせいぜい100万円くらいです。あなたが神に対してしていた罪は、分かりにくい気付きにくいけれど、6000億円の大きさなんです。それをあなたは赦していただいたんです。だから赦そうではありませんか。今日決心して「ゆるします」と口に出して宣言してください。

　いかがでしょうか。確かに一理あると思います。しかしですね、もし仮に、説教の聴き手に、それこそ元ジャニーズJrや、カルト宗教の被害者のような、心に深い傷を負われた方々が仮に来ていたとしたら、それは非常に乱暴な説教かもしれなくて、人を逆に追い詰める説教かもしれないですね。というのは、一つは説教者への問いとして、あなたはそこまでの被害を人生でこうむったことがないのに、それを人に言えますか？ということと、もう一つは、「ゆるさなければならない」プレッシャーを聴き手に与えることで、あるいは聞き手の心の健康を損なうかもしれないんですね。

　というのは、心の癒しでとても大事なことは、ちゃんと嘆くっていうことなんです。心が痛かったこと、悲しかったこと、こういったネガティブなことを、きちんとことばにして表現できるようになるということは、心の回復のためにとっても大切なことなんですね。
　今ですね、特に子供の心理学で「感情の社会化」というのがよく言われるようになりました。「感情の社会化」お聞きになったことがあるでしょうか？よく手が出る子供っていますよね。バンって叩いちゃう。これ実はコミュニケーションなんだっていうんですね。子供は嫌なことを、言葉で表現します。「嫌。これされた時にこんな気持ちになった。だからやめて」なんていうふうに。でも、言葉で伝えられない時に叩くという方法で伝える、ということです。これはネガティブな感情を、無かったことにされた子に起こるそうなんですね。男の子に多いかも知れないんですけれど、よく子供が転んだ時に、親がですね「ほら痛くない痛くない。男の子は泣かない、泣かないよ。」私も子供の頃言われたことがあるかもしれないんですけれど、そうやって自分の辛い気持ちが無かったことにすることに慣れると、自分の気持ちも、相手の気持ちも、無視するようになることがあります。そこで暴力になることがあるんですけれども、これは大人も同じで、物理的に手は出なくても、他者に対する色んなハラスメントという形で出たり、あるいは、外に暴力をしない人はですね、アルコールやギャンブルや他さまざまな依存症になったりするわけですね。だから感情の社会化というのは、人に伝わる形で、ネガティブな感情を、単に辛かった悲しかっただけにとどまらず、どんなふうに辛かった悲しかったか、ということを表現できるようになることが大事なこと、別の言い方をすれば弱さを見せられるようになるということですね。

　ですから「ゆるさなくちゃいけませんよ」というメッセージはですね、たいてい「怒りという感情に蓋をして我慢しましょう。その感情を表現してはいけません。声をあげてはいけません」というメッセージとして伝わるので、蓋をされた感情が行き場を無くして、「ゆるせない私はダメだ、ダメだ」という牢屋に、相手を閉じ込めてしまうことになりかねないんですね。これはやはり「ゆるさなければならない律法主義」で、それを私は、かつて教えていたと思うので、申し訳ないと思っています。

　ではどう聞けばいいんでしょうか。このたとえ話を。ある神学者の方が面白いことを言っていまして、もしペテロが、質問をする時に、もうちょっと気をまわしまして、七度までゆるすべきか、いや、うちのイエス先生は、そんじゃそこらのラビとは違う。もっとだ。と思いまして、「七の七十倍ゆるせばよいでしょうか？」と聞いていたとしたらどうなっていたでしょうか。皆さんは、イエス様がどうお答えになったと思われますか？その先生はこういうふうに言うんです。―私の想像ですが―とことわりを入れた上で「いや、その七十倍だ」とイエス様はおっしゃったでしょう、と。おそらく私もそうだと思います。
　つまり、ペテロがどこに立っているか、ということなんです。物理的な場所じゃないですよ。心の、霊的な立ち位置というかですね。
　パリサイ人律法学者たちは、先に申しあげましたように、人を3度までゆるすべきだ、と教えました。そして、ゆるせばゆるすほど、自分が神に近くなる、と。あのポイントがたまって魂のランクが上がっていくとかナントカじゃないんですけれど、だんだん徳を積んで神的(かみてき)な人間になっていくっていうぐらいに考えたんですね。つまり自分たちは常に赦す側であって、ある意味で非常に上から目線なんですね。
　ペテロの立ち位置も、そうでした。何度まで赦すべきでしょうか。パリサイ人律法学者が教えた3回というのの2倍以上、7回まで、イエス様のもとでよーく修業を積んで、7回赦せるぐらいに修練を積めば、パリサイ人や律法学者にまさる義を、手に入れることができるに違いない、と思ったのかもしれません。　そもそも、もう一つ言えば、ペテロが回数を問うている時点で、自分が裁き主になっているわけですね。自分がジャッジしうる者だと思っていた。けれども、それではどこまで行っても律法主義、自分の「他者をどこまでゆるせるか」という我慢と努力によってのみ、人生も信仰も支えられているので、そうしたら究極的には「神はいらなくなる」んです。それはキリが無い歩むなので、どこまでいっても返し切れない借金を自分の努力で返し続けるようなものです。出口のない牢獄のようなものです。

　だからこそ、この王の態度が、そこから人を解放します。27節の、
27家来の主君はかわいそうに思って彼を赦し、負債を免除してやった。

　というこのことば、私は何度でも喜んで説明いたしますけれども、この主君の「かわいそうに思って」というのは、別の箇所では「深くあわれんで」などとも翻訳されますけれども、「はらわた痛む」っていうことばなんです。自分の胸がきゅうっと痛むよりももっと深く、相手の痛みを自分のことのように共感して痛むことなんです。これは新約聖書では、神か、イエスさまが主語の時にしか使われないことばです。つまり、人間レベルの共感じゃないと。人間だったら共感力のある人でも、完全には相手の気持ちを分かって差し上げることはできませんから、何十パーセントですよね。もっと低いかもしれません。けれども、神さまは完全にあなたの気持ちを分かっていらっしゃって、全部分かってくださっている。「お前の辛いのは痛いほどわかった」って。「自分の罪に嘆くのか。ゆるしえない悲しみに嘆くのか。お前が嘆く何十万倍もわたしは苦しもう。この十字架の上で。」そうやって、私たちがゆるせなくて悩む100万円よりも、はるかに多い、いや、無限の、6000億円の苦悩を、あのゴルゴタの十字架の上で、味わってくださった。そして私たちは、あの慈しみ深い声を、十字架のみもとで聞くのです。「父よ、彼らをゆるしたまえ」

　ペテロは、何回ゆるすべきでしょうか？と問うた時に、ゆるしは我慢することだと思っています。我慢だと思っていたから、回数を問うたわけですけれども、ある人がイエス様がここでおっしゃるゆるしについて、こういうことを言っているのです。

ゆるしによって失われるものは何もなく、むしろ良いものを獲得する
とするならば、ゆるしに限界はない。
神のゆるしは犠牲でもないし、我慢でもない。

　これは深いことばですね。神が獲得する良いものって何でしょうか。この家来です。一人の魂です。そもそも、なぜ神さまは、6000億円の莫大な犠牲を払って、彼をゆるしてあげたのでしょうか？答えは一つでしょう。神にとっては1万タラントよりもこの家来の方が大切だったからです。これが、神が獲得する良いものです。1万タラントは当時で言えば、支払ったら国が傾いてしまうほどのお金です。けれども、たとえ国が傾いても、この家来を愛さないという選択肢そのものが、この王になかったんです。あなたを愛さない、ゆるさない、という選択肢は、神になかったんです。それだけの価値があなたにある。だからひとり子、御子主イエスを、父なる神は十字架におつけになった。この1万タラントは、この御子のいのちの代価です。
　そして、この十字架のゆるしは、交わりを回復します。神とあなたの交わりを回復します。神とあなたとの和解を成立させます。罪という借金によって私たちと神との間は、かつては離れていました。けれど神は、債務証書の帳簿を破られたのです。神はあなたと一緒に生きて行きたいと思ったのです。私たちの内には醜い考えも、冷たい思いも、ゆるせない心もあります。神はそれを全てご存じですが、それでも、正義を立てるよりも、共に生きることを、幾度も幾度も願ってくださったのです。
　私たちはなぜ、礼拝に集い続けるのでしょうか？それは、ここに赦しがあるからです。主イエスの赦しのことばが、赦しの宣言が、響き続けているからです。私たちはゆるされた小さな者として、父と子と聖霊なる三位一体の神の交わりの中に入れていただいた。そして、失われたひとりの小さな魂を、この交わり・エクレーシア・神の教会の中に招き続けるのです。

お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神。
あなた様が豊かな赦しをくださって、もったないばかりです。幾度も幾度も私たちは過ちをおかし、牢屋に入ってしまいます。人を牢屋に入れてしまうような者かもしれません。あなたの恵みのことばを、基準として自分の中に取り入れて、ゆるしを宣言できた自分は偉いとか思ったり、反対にゆるせない私はダメだダメだと自分を責め続けたり、あるいは他人をゆるしなさいというプレッシャーで縛ってしまった者です。主よあわれんでください。いやあなた様が無限の愛とあわれみと赦しをすでに下さったので、私たちはそのふところの中に憩います。自分が他人をジャッジしなければという立ち位置から降ろしてくださって、まことに自由で、解放された、歩みをあなた様が作って下さっていますことを心から感謝して、主イエス・キリストの御名によってお祈りをいたします。アーメン。