📗【文書版】📗礼拝メッセージ『平和の大使』　2024年10月20日 新約聖書　マタイの福音書第9章35節～第10章15節

📗先日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
📗礼拝メッセージ『平和の大使』　2024年10月20日
 
新約聖書　マタイの福音書第9章35節～第10章15節
 
35　それからイエスは、すべての町や村を巡って、会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、あらゆる病気、あらゆるわずらいを癒やされた。
36また、群衆を見て深くあわれまれた。彼らが羊飼いのいない羊の群れのように、弱り果てて倒れていたからである。
37そこでイエスは弟子たちに言われた。「収穫は多いが、働き手が少ない。
38だから、収穫の主に、ご自分の収穫のために働き手を送ってくださるように祈りなさい。」
 
1イエスは十二弟子を呼んで、汚れた霊どもを制する権威をお授けになった。霊どもを追い出し、あらゆる病気、あらゆるわずらいを癒やすためであった。
2十二使徒の名は次のとおりである。まず、ペテロと呼ばれるシモンとその兄弟アンデレ、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネ、
3ピリポとバルトロマイ、トマスと取税人マタイ、アルパヨの子ヤコブとタダイ、
4熱心党のシモンと、イエスを裏切ったイスカリオテのユダである。
5　イエスはこの十二人を遣わす際、彼らにこう命じられた。「異邦人の道に行ってはいけません。また、サマリア人の町に入ってはいけません。
6むしろ、イスラエルの家の失われた羊たちのところに行きなさい。
7行って、『天の御国が近づいた』と宣べ伝えなさい。
8病人を癒やし、死人を生き返らせ、ツァラアトに冒された者をきよめ、悪霊どもを追い出しなさい。あなたがたはただで受けたのですから、ただで与えなさい。
9胴巻に金貨も銀貨も銅貨も入れて行ってはいけません。
10袋も二枚目の下着も履き物も杖も持たずに、旅に出なさい。働く者が食べ物を得るのは当然だからです。
11どの町や村に入っても、そこでだれがふさわしい人かをよく調べ、そこを立ち去るまで、その人のところにとどまりなさい。
12その家に入るときには、平安を祈るあいさつをしなさい。
13その家がそれにふさわしければ、あなたがたの祈る平安がその家に来るようにし、ふさわしくなければ、その平安があなたがたのところに返って来るようにしなさい。
14だれかがあなたがたを受け入れず、あなたがたのことばに耳を傾けないなら、その家や町を出て行くときに足のちりを払い落としなさい。
15まことに、あなたがたに言います。さばきの日には、ソドムとゴモラの地のほうが、その町よりもさばきに耐えやすいのです。
 
主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 私の母方の祖父母の住んでいた地域は、私が今住んでいる地域よりずっと田舎でして、ほとんど高齢者ばっかりの地域なんですね。
　そこで、もう15年かそれくらい前でしょうか？マイクロバスか、ワゴン車かとにかく大き目の車がその地域に来ていたそうです。
　それで、イベントをやってですね、地域の高齢者の方々を集めて、そのバスか何かに乗せるんです。
　そして楽しいゲームをするんですね。粗品がたくさんありましてですね、最初に手を上げた人に、「これらをなんとタダで、無料で差し上げます、はい最初はこの洗剤。」
　「ハイ！」ということでどんどん手が挙がって、商品が色んな参加者の手に渡るわけなんですけれども、「はい、ここからは、無料ではございません。今度はこの高級布団」というふうに、手を挙げさせて、おそらく定価の何倍もの値段なんでしょうけれども、高齢者に買わせて行くそうですね。
　そういうわけで、母は、「そういう車が回ってきたらよう気をつけないかんぞね」とよく言っていたんですけれども、その後何年もして、私が、2022年でしょうか。ちょうど、統一教会のことが大変話題になりました時に、私もカルト被害について色々勉強しようと思いまして、長年統一教会問題について取り組んでこられた弁護士の方が書かれた、マインドコントロールについての本を読んでいたんですね。
　そしたらですね、その後半の方のページに、書いてあったんですよ。そのまんま！うちの母が言っていたような手法が、そっくりそのまま載っていたんですね。それは「商業カルト」と言うそうで、そうやって密室で盛り上げて、高価な商品を買わせるというのは、マインドコントロールの一種だそうですので、今では違法となっているようですね。摘発されるんでしょうね。どおりで、母の実家の田舎の地域にも、ここ何年もそういう車が来ていないわけですね。
　そういうわけで、母は言っておりました。「タダほど怖いもんは無いぞね」
　よく聞くことばですよね。なぜ昔から日本では「タダほど怖いものは無い」と言われるんでしょうか？それは、こういう、商品を無料で差し上げます、を入口としての詐欺まがいの商法があるように、人間は、もう皆罪びとですから、たいていの場合、有形にしろ無形にしろ、自分に何か得や見返りがあるのでなければ、タダで何かしてくれるというのは、あんまり無いからなんですね。もちろん、「世界は贈与でできている」という本がありますので、例外はありますけれども、基本的に何かしたら、何かくれたら、何かしてあげる、というのが、まぁ人間社会のだいたいのルールになっているので、タダ、というのは、怪しい、と思いがちなわけです。
　今日は、その人間社会のあり方であるタダほど怖いものは無い、というのと真っ向から対立するような、「あなたがたはただで受けたのですから、ただで与えなさい」という主イエスのことばが出て来ますけれども、そのことばに至る前に、さまざまなことをお話しておきます。
 
まずは、先週までのおさらいですけれども、主イエスの奇跡で、二人の目の見えない人の癒しと、悪霊につかれて口のきけない人の癒しでした。
これは、山上の説教で山から下りてこられた主イエスの癒しの奇跡のオンパレードの終わりの部分になりますけれども、これは単なるイエス様すごいね、という話ではなくて、マタイ第5章から始まる山上の説教で神の国の到来を告げられた。そこで山から降りて来られての奇跡は、神の国の到来、天の御国の到来、メシアの到来、その証拠としての奇跡、つまりしるしだったわけですね。新しいぶどう酒であり、花婿なるキリストが世に来られた、今は―断食などしていられない―神の国の祝宴・宴会の時なんだ。メシアが来て神の国が来た時には、目が見えない人が見えるようになり、口のきけない人が口がきけるようになる。そういうイザヤ書の神の国の到来の預言の成就なのだ、そういうことを含んだマタイの語りだったわけですけれども、35節から38節は、その第8章からの一連の奇跡というより、第5章からの山上の説教も含めた5，6，7，8，9章の5章分の総括であると同時に、次の展開の導入となっています。
　ですからここの第10章に入る、ここで文脈は切れていないんですね。続いているんです。ですから、いつもより少し長めですけれども、第10章の15節までを、続けて読ませていただきました。
　
　第9章35節は、マタイ第4章23節にも、ほぼ同じことばが出て来ます。マタイがこの働きについて、同じような総括をここでもしているということですね。
　そして36節で、
 
また、群衆を見て深くあわれまれた。彼らが羊飼いのいない羊の群れのように、弱り果てて倒れていたからである。
 
　とありますが、この深くあわれまれた、ということば、これは私も何度も説明したことがありますが、内臓に関係することばです。「はらわた痛む」ということばです。土佐弁でゆうたら「ぞうをもむ」「ぞうをもんだちや」ということばが少し近い、と言いましたけれども、「ぞうをもむ」ですと、「内臓がキリキリするほど心配した」という「心配」のニュアンスが強いんですけれども、ここでは心配のニュアンスはあまり無くて、「相手の痛みや苦しみが自分のことのように感じられて内臓がキリキリするほどであった」という深―い共感を表すことばなんですね。これはギリシャ語なんですけれども、ギリシャの人々は、神々を主語にした時に、このことばは決して使わなかった。それは、神々というのは私たちを超越しているので、それこそ雲の上でサイコロでも振って人間の運命を眺めているようなイメージだったんでしょうか。人間の苦しみを、わがことのように共感して苦しむ神というのは、およそギリシャ神話の神概念には合わなかったんでしょう。けれども、そういう神では血も涙もない、上から目線の、決して人間を救わない神、ということになるでしょうか。唯一まことの神である神とそのひとり子イエス・キリストは、上から目線ではなく、それほどまでに私たちのことを、一緒に苦しむほどに共感してくださっているのです。
 
　何を見て共感なさったか、彼らが羊飼いのいない羊の群れのように、弱り果てて倒れていたからだと、マタイは語るのです。
　文字通り倒れていたわけではないでしょう。でも、「弱り果てて」というのは、おとなしい翻訳でして、「皮をはがれて」ということばです。もう血もだらだら流れているような生々しい表現です。そして、「倒れていた」というのは、「投げ倒されている」「打ちのめされている」ということばです。人間を羊にたとえたら、羊が皮もはがれて、打ちのめされている、そういう状態ですね。
　確かに群衆の中には、たぶん、それなりに健康で、それなりにお金も持っていて、特にこれといって悩みもない、という人もいたのかもしれません。けれども、それは表面的な見方であって、これは神の目から見て、神から失われている、という点で、「皮をはがれてぼろぼろになっていて」「打ちのめされていた」ということですね。それは、「羊飼いのいない羊の群れのように」とある通り、羊飼いの責任をここで言っているわけです。
　神さまは、イスラエルの指導者たちに、民を養うように、使命を与えました。それは政治をつかさどる者、宗教をつかさどる者、それぞれに託されましたが、特に旧約聖書のエゼキエル書第34章などに書いてあります。彼らはイスラエルの羊飼いとしての使命を神さまから託されたわけですが、国民は羊たちなわけですね。この羊たちを羊飼いは養わなければならないのに、その養う使命を放棄して、自分を養うことをした、と。つまり、羊たちを食い物にした、っていうんですね。羊たちを癒さず、かえって支配した。政治家たちも宗教家たちも、民を、今のことばで言えば搾取した、ということですよね。
　そしてそのエゼキエル書第34章では、もう羊飼いには羊を養うことをさせない。神ご自身がその務めを取り上げ、神ご自身が羊を養う、そして、エゼキエル書第34章23節では、
 
23わたしは、彼らを牧する一人の牧者、わたしのしもべダビデを起こす。彼は彼らを養い、その牧者となる。
 
　と預言されている。これは、文字通りダビデではなくて、ダビデの子、つまり子孫として生まれる、メシア、つまりイエス・キリストのことを表しているわけですね。
　この方はご自身のことを「わたしは良い牧者です。良い牧者は羊のためにいのちを捨てます」とおっしゃいました。大牧者キリストです。
 
　そういう流れの中で、主イエスは弟子たちに、
 
「収穫は多いが、働き手が少ない。
38だから、収穫の主に、ご自分の収穫のために働き手を送ってくださるように祈りなさい。」
 
　とおっしゃったことが、次に12弟子を町々村々にお遣わしになる前段というか導入になっているわけです。
　ここで有名なみことばですね。先ほど、「実れる田の面は」という有名な讃美歌を歌いましたけれども、これは喜びの収穫の絵が浮かぶ讃美歌になっていますけれども、イエス様の37節38節のことばは、もともとは旧約聖書のヨエル書の預言から来ているんです。ヨエル書第3章13節14節。
 
13鎌を入れよ。刈り入れの機は熟した。
来て、踏め。踏み場は満ちた。
石がめはあふれている。彼らの悪がひどいから。
14判決の谷には、群衆また群衆。
主の日が判決の谷に近づくからだ。
 
　このように、実は終末の厳しいさばきの預言なんですね。終末と言ってもここで未来のことを考えないでください。イエス様が2000年前に最初に来られたいわゆる初臨も、言ってみれば終末なわけですから、長い終末ですね。そこでメシアの到来と救いがセットであるように、メシアの到来とさばき、というのもセットなんです。というより、救いとさばきがセットであると言った方がいいでしょうか。神の国の到来ってそういう両面があるんです。
　
　それでそういう神の国の到来を、12弟子を主イエスが遣わして告げに行かせたわけですね。伝道の働きの委託なわけですけれども、全権大使として行かせています。
　12弟子それぞれの名前が挙げられていますけれども、彼らひとりひとりの詳細については今日の説教では省きます。でも12人ということが凄く大事で、これは、イスラエル12部族になぞらえて、「新しいイスラエル」として、彼らに権威を授けて、神の国の到来を宣言して回らせたんです。
　ここで、おそらく多くの方が気になるところがあります。5節6節です。
　
5　イエスはこの十二人を遣わす際、彼らにこう命じられた。「異邦人の道に行ってはいけません。また、サマリア人の町に入ってはいけません。
6むしろ、イスラエルの家の失われた羊たちのところに行きなさい。
 
　これはどういうことでしょうか？現代の読者が読めば、おそらく多くの方が、「イエス様は差別しておられるのか？」「平等ではない」「不公平だ」と感じられるところかな、と思うわけです。
　でもそれは、おそらく「読み込み」なんです。つまり、現代の価値観を聖書に持ち込んでしまう、ということですね。ここを、「イエスは異邦人やサマリア人を差別しているのか？」「イスラエル人をえこひいきしているのか？」と人から聞かれたら、皆さんならどんなふうにお答えになりますでしょうか？
　いやそんなことはない。イエス様は、ヨハネ4章で、サマリアの女性の井戸のところで、全く分け隔てなく、この女性に救いをお与えになった。また異邦人のカナンの女性や、異邦人の百人隊長の信仰を、「イスラエルの中でも見たことがない」と言って称賛された。イエス様は分け隔てをなさらない方だ。マタイの最後の章でも、「あらゆる国の人々を弟子としなさい」と言われた。だから異邦人差別などしておられない。しかし神のご計画には順序があったんだ。そういう答えもいいですよね。
　でも、それでもやはり、神は順序をつけておられるなら、えこひいきしているのでは？という疑問が残ります。
　けれども神さまは、人間の考えるちっぽけな平等とか公平とか、差別の無い世界とか、そう枠組みではとらえられない方なんですね。
　それで差別ではないか、と思われやすいみことばは、今日の第10章11節にもあります。
そこでは、「どの町や村に入っても、そこでだれがふさわしい人かをよく調べ」なさい。そしてふさわしい人が見つかったら、初めてその人に平安を告げるようにと命じられています。(ちなみに「祈る」ということばは原文にありません。補足なんです。)
これは平安とも平和とも訳せます。シャロームです。神の国の到来、神の平和を告げるキリスト者の働きは、むやみやたらに誰にでも与えるものではない。聖書の中には豚に真珠ということばも確かにあります。そうなると、キリストの福音はその価値が分からない者、その価値を見出すことのできない者には与えてはならない高価なものなのだと、そういうふうにここは理解すべきなんでしょうか？
でも福音を聴くべき者のふさわしさを問う、こういう厳しいことばを本当に理解するためには、ある人は8節後半のことばを読み飛ばすことは決してできないと言いました。
それは、「ただで受けたのですから、ただで与えなさい。」ということばです。ただでというのは言い換えれば、賜物として、あるいは贈り物として、ということです。
私たちはただで受けたんだから、ただで与えなさいって遣わされて行きます。ただで何を受けたんでしょうか　神の救いです。
私たちがどんなに罪びとであっても、神は私たちの神となり、私たちの最大の味方でいてくださる。この福音をただで受けたのです。
恵みっていうのはふさわしくない者に与えられるから恵みっていうんです。ふさわしい者に与えられるのは　恵みではなくて　報酬です。福音は、報酬としてではなくて　恵みとしてただで与えられるものです。
神が私たちの味方だということは　私たちにふさわしさがあるのではなく、
なんのふさわしさもないからです。
そうだとすればここで問われているふさわしさとは、―本当に驚くべきことですが―これは【資格がない】ということです。
だから　最初にイスラエル人のもとに12人が送り出されたのは、【彼らが選びの民だと自認しているそのイスラエル人こそ、もっとも罪深い者だったから、なんです。】
彼らこそ、主イエスを十字架につけてしまう罪びとである私たち人間の代表そのものです。
そうであるならば、働きに遣わされた12人についても同じことが言えます。使徒と呼ばれる12人もまた、ふさわしいから選ばれたのではありません。罪深かったから選ばれたのです。使徒パウロも罪びとのかしらであると言った心が、ここにすでにあると言っていいと思います。
神はどうにもならない者をこそまず先に救ってくださるのです。だから旧約でもイスラエルを神は選ばれた。―現代のイスラエル国家は全然繋がっていませんから選びの民ではありませんよ―それはどの民よりも数が多かったからではない。むしろすべての民の中で最も数が少なかった、しかし神さまはそれを愛されて、ご自分の宝の民とされたわけです。（つまり神の選びというのは、順番があるというより、選びにおいて神の驚くべき逆転現象とでも言うべきものだ、ということです。）
そう考えるならば、【ふさわしくない、ということが、唯一のふさわしさです。】罪や失敗の多かったアブラハムが、祝福の基とされたのも、そういうことです。(だからこそ「選ばれた」ということを誇りにする選民思想を、バプテスマのヨハネも主イエスも、厳しく批判されたのです。)
 
　ところで「ただで」ということばは、「価なしに」ということばです。これと同じことばが、あのルターの宗教改革でも非常に重要な、ローマ人への手紙第3章24節に出て来ます。
 
神の恵みにより、キリスト・イエスによる贖いを通して、価なしに義と認められるからです。
 
　それから新約聖書の最後、ヨハネの黙示録第21章6節と22章17節には、
 
わたしは渇く者に、いのちの水の泉からただで飲ませる
 
渇く者は来なさい。いのちの水が欲しい者は、ただで受けなさい。
 
　とあります。イザヤ書第55章1節にも、
 
「ああ、渇いている者はみな、水を求めて出て来るがよい。金のない者も。
 
　とあります。神さまが、価なしに、ただで恵みをくださるんです。
　これは人間の世界ですと、一番違和感を感じるんです。説教の始めに話した通り、怪しいとさえ思うんです。相手が賢い人間なら、何の狙いも下心もなく何かをくれることはまずないだろうから騙されないぞ、と思うわけですね。
　そういうわけだから、聖書以外の神さまですとそう思う。何か難行苦行をして、お布施をして、その見返りとして、何かのご利益をくださる、という方が納得感があるかもしれない。それゆえ、それはおそらく福音よりも信じやすいんです。でも仕組みは、パリサイ人の道と同じです。ですから「狭い門から入りなさい」と主イエスは言われました。
　狭い門とは、「わたしは羊の門です」と言われた主イエスというお方そのものです。この方を通って神の国に入る。
全くふさわしくないこんな自分のために、十字架で苦しんでいのちまで投げ出して助けようとする羊飼いイエス様のお姿。
そんなことをして何の得があるのか、何もないはずなのに、それでも、失われた羊であり、身動きとれない羊である、そんな私のために、はらわた痛むほどに心配してくださって、捜しだして助けだしてくださる方に出会ったときに、
　そう、ただの罪びとの人間だったら、損はしたくないから、裏に下心をもってやってくるわけですけれども、全知全能の神さまは、まったく馬鹿になれるんです。全知全能の神さまが、自分だけ損をして、ばかを見るようなことをしてくださって、すなわち十字架についてくださって、こんなふさわしくない私のために、そんな馬鹿なことなさらないでください、って言いたくなるようなことですけれども、この神であるイエス・キリストは、あまりにも人間を愛しておられるので、ひたすらに、愚かに見える行為をしてくださったんです。そして私たちの罪をゆるし、永遠のいのちを与えてくださいました。ご自身を犠牲にしてです。「神の愚かさは人よりも賢い」と第一コリントで言われているのは、この十字架の愚かさなんです。マタイ第10章15節に、「ソドムとゴモラの地のほうが、その拒んだ町よりもさばきに耐えやすい」という、神の厳しいさばきを、主イエスご自身が、十字架の上で受けてくださったのです。（あなたへのさばきは、完全に終わりました。）
　
　だからこそですね、私たちキリスト者は、この12弟子と同じように、福音を携えて、イエス・キリストの死と復活、罪のゆるしと永遠のいのちを告げ知らせる、そして、ここで平和を町々村々に携えて行く、平和の挨拶をすることが記されている、と申しました。
　福音は、神の国の到来の知らせであり、罪のゆるしの福音が中心ですけれども、それだけではなくて、あらゆる良いものがセットなんですね。
　その良いものの中でここでは特に「平安」「平和」ということが強調されています。というより、あらゆる良いもののセットが、シャローム、平安、平和、だと言った方が良いかもしれません。
　そのシャロームが無い状態が、主イエスが山上の説教で言われた「思い煩うな」と言われた「思い煩い」です。「心配」とよく訳されるんですけど、「思い煩い」という訳はとても聖書の言っていることを的確に表現している訳だと思います。思いが、患っている、思いが　病んでいる、ということなんです。
マタイ第9章35節に、「あらゆる病気、あらゆるわずらいを癒された」とありますが、この思い煩いをどうしても癒さなければならないと、神ご自身が決断なさったのです。
私たちもよく知っています。自分の病を、あれもないと不安、これもないと不安、けれどもそういう私たちのその病をはらわた痛むほどに、深く心配してくださったのは、このイエス様であったのだということを、私たちはここで悟るのです。
そして私たちも　この主イエスの分身のように、解き放たれて、遣わされる
そういう姿を福音書はここで語ってくれているのです。
ただし、一つこの福音書を読んで不思議なのは、12人の弟子が遣わされる。しかし、遣わされた場所でいったいどういうことをしたのかほとんど全く聖書は書いていないことです。
けれどももう一つ興味深いのは、主イエスが十字架につけられる前の晩、主イエスが改めてこの時のことを弟子たちに振り返らせておられます。
最後の晩餐と呼ばれる食事の席で、おもむろに弟子たちにお尋ねになりました。
あなたがたを遣わした時　財布も、袋も、下着も、履き物も、何も持たせずに遣わしたことがあったね。その時に何か困ったことがあったか？
弟子たちは、いいえ、何も困りませんでした、と答えました。
ところが主イエスはなお、こう言われたのです。
しかし今は、財布を持って行きなさい、あなたが必要だと思うものは何でも、そして　持ち物を売り払ってでも剣(つるぎ)を買いなさい。
そう言われたのです。なぜそんなことをおっしゃったのだろうか。
この直後に主イエスは捕らえられて、十字架につけられていきます。その時、弟子たちはたちまち主イエスを捨てて、逃げ出してしまいます。
その時弟子たちは、財布を握りしめていなければならなくなります。剣を握りしめていなければならなくなるっていうんです。
その心の最も深いところにあるのは神を信じない者の不安です。神を信じないから不安なんです。そしてそういう人間は、ついに剣を手放すことができないんだっていうんです。
そのような人間に囲まれながら　財布も持たず、剣も持たず、ついに十字架につけられたのです。主イエスが　お生まれになった時に、ヘロデという王が、自分の生活がおびやかされることを恐れて、どうしてもこの新しい王を殺さなければならない。そう思って、その地方一帯に住む2歳以下の男の子を皆殺しにしたという、大変おぞましいできごとを福音書は伝えています。
残酷すぎるとしか言いようがないと思いますが、しかしそれは、ヘロデだけのことではありません。
あれがほしい。あれがないと不安、これがないと自分の生活を守ることができないという人間の不安が、最後に握りしめるのは剣だと　武器を持ちたいと人を脅してでも、自分の不安を癒したいという人間の思いは、しかしまさに、それこそ神の前に癒されなくてはならない、私たちの最も深刻な病なのです。
武器を持ちたい、そういう思いが人間をどんなに不健康にすることか。
 
今から87年前の1937年12月という時に南京事件、南京大虐殺とも呼ばれる事件が起こりました。
その時に、東大経済学部の教授であった矢内原忠雄という人が、この南京事件をきびしく批判して、そのために東大を追われるということが起こりました
この南京事件を批判する講演の中で　こういうことを言ったというのです。
 
「日本の理想を生かすために、そのためにひとまず、この国を葬ってください」
 
この矢内原忠雄が東大を負われたのは、この発言のためであったと言われています。そののち終戦まで8年間、大変厳しい場所に捨てられました。
この矢内原忠雄という人が戦争が終わってから繰り返し語ったことばがあったそうです。
「なぜ日本が戦争に負けたか、われわれの語ることばを無視したからだ。」
神のことばに耳を傾けない国は、必ず、滅びるのだ。
これは、大胆に過ぎることばかもしれません。もしかしたら一部行きすぎも含む言葉かもしれませんけれども、しかし日本の今のこの国の惨状は何に起因するのか？それはわれわれのことばを無視したからだ。と言った。
それは明らかに今日のマタイの福音書第10章14節15節に通じることばでもあります。
日本にバチが当たったとか、そんなつまらない次元の話じゃないんです。「あなたがたに平和があるように。」その神の平和への呼びかけに耳を傾けずに　いったい人間が本物の人間として人間らしく生きることができるのだろうか。
神があなたがたに与えたいものは、平和なんだ。この平和の挨拶を託された主イエスは、十字架の死にいたるまで、ついに一度も剣を手になさることはなく、この世界を愛しぬく決断をなさったのです。
このお方に愛され、思い煩いを深いところで癒された者は、人々に単に剣を捨てよと呼びかけるだけではなく、主イエスの罪のゆるしがもたらす、この平安、この平和の中にそれぞれが遣わされた場所で、招くことができる神の国の大使なのです。
 
お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様が御子イエス・キリストをお遣わし下さり、私たち一人一人を深くあわれんでくださいました。ふさわしくない者をこそふさわしいとし、価なしに義として、神様の全権大使としてくださった驚くばかりの逆転の恵みを恐れつつも感謝して受け取ります。私たちは全員があなたの平和を告げる者として召されております。祝福のうちに、この平和のうちに、人々を招いてください。大牧者なる主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。