📗【文書版】🏺カルトのキリスト教否定論についても少し語ります✴️礼拝メッセージ『魂の詫び』旧約聖書　詩篇第２２篇１、６～８、１４～１８、２１～３１節　2024年2月25日

🙇‍♂️申し訳ありません。今回2/25の礼拝のライブ配信が、礼拝メッセージの途中のところで切れてしまいました。代わりに礼拝メッセージのテキスト版を以下に掲載しておきます⬇️

✴️礼拝メッセージ『魂の詫び』
旧約聖書　詩篇第２２篇１、６～８、１４～１８、２１～３１節　2024年2月25日

指揮者のために。「暁の雌鹿」の調べにのせて。ダビデの賛歌。
１わが神　わが神
　どうして私をお見捨てになったのですか。
　私を救わず　遠く離れておられるのですか。
　私のうめきのことばにもかかわらず。

６しかし　私は虫けらです。人間ではありません。
　人のそしりの的　民の蔑みの的です。
７私を見る者はみな　私を嘲ります。
　口をとがらせ　頭を振ります。
８「主に身を任せよ。助け出してもらえばよい。
　主に救い出してもらえ。
　彼のお気に入りなのだから。」


14水のように　私は注ぎ出され
　骨はみな外れました。
　心は　ろうのように
　私のうちで溶けました。
15私の力は　土器のかけらのように乾ききり
　舌は上あごに貼り付いています。
　死のちりの上に　あなたは私を置かれます。
16犬どもが私を取り囲み
　悪者どもの群れが私を取り巻いて
　私の手足にかみついたからです。
17私は　自分の骨をみな数えることができます。
　彼らは目を凝らし　私を見ています。
18彼らは私の衣服を分け合い
　私の衣をくじ引きにします。

21救ってください。獅子の口から　野牛の角から。

　あなたは　私に答えてくださいました。
22私は　あなたの御名を兄弟たちに語り告げ
　会衆の中であなたを賛美します。

23主を恐れる人々よ　主を賛美せよ。
　ヤコブのすべての裔よ　主をあがめよ。
　イスラエルのすべての裔よ　主の前におののけ。
24主は　貧しい人の苦しみを蔑まず　いとわず
　御顔を彼から隠すことなく
　助けを叫び求めたとき　聞いてくださった。

25大いなる会衆の中での私の賛美は
　あなたからのものです。
　私は誓いを果たします。主を恐れる人々の前で。
26どうか　貧しい人々が食べて満ち足り
　主を求める人々が主を賛美しますように。
　──あなたがたの心がいつまでも生きるように──
27地の果てのすべての者が　思い起こし
　主に帰って来ますように。
　国々のあらゆる部族も
　あなたの御前にひれ伏しますように。

28王権は主のもの。
　主は　国々を統べ治めておられます。
29地の裕福な者はみな　食べてひれ伏し
　ちりに下る者もみな　主の御前にひざまずきます。
　自分のたましいを生かすことができない者も。
30子孫たちは主に仕え
　主のことが　世代を越えて語り告げられます。
31彼らは来て　生まれてくる民に
　主の義を告げ知らせます。
　主が義を行われたからです。
 
　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 
　四旬節の第2週目になりました。この期節はレントとも受難節とも呼ばれて、イエス様の十字架に向かわれるご受難と、自らの罪を深くおぼえる期節ですが、今日は次の話から始めたいと思います。
　元統一協会の原理研究会・CARPですね、それに通っていたことがあるという過去をもつある牧師先生が、インターネット上に、文章を書いていらっしゃいました。その原理研では、悪態ばかりついていらっしゃったので、「もう来るな」と言われてクビになった、ということを書いていらっしゃったんですけれども、こういった内容の文章です。「原理研では、イエス様が十字架の上で叫ばれた七つのことばのうちの『わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか。』ということばから、既存のキリスト教会を否定している、って言うんですね。
　ご存じの方も多いと思いますけれども、統一教会は、イエス・キリストの十字架による救いは、失敗だったとか、不十分であったなどと言います。それでこのイエス様のことばに突っ込みが入れられる(批判がなされる)わけですね。
　イエス・キリストが、「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか。」と叫ぶということは、この十字架は、必要かつ予定されていたものではないことの証拠だ、というそういう理屈で否定しようとしてくるわけですね。
　実は、創価学会も、―相手を創価学会に入信させるために説得することを折伏(しゃくふく)と言うそうですが―その折伏の手引書に、キリスト信仰は誤っている、と説得する論拠の一つとしてこのことばが載っているそうですね。イエスが十字架の上で、自分の敗北を認めているではないか、とこういうわけですね。
　
　しかし皆さんも、お気づきかもしれませんが、そのような批判は、とても浅い批判です。とは言っても、クリスチャン・キリスト者の中でも、イエス様のこのことばはあまりにもみじめで、痛ましいことばではないか、まるでイエス様らしくない、そう思われる方もいらっしゃるんですね。
そういう、他宗教からの批判のことばにも、またキリスト者の中からの疑問の声にも、答える論はきちんとあるんですね。
 
　一つの説得力のある説明は、イエス様が十字架の上で叫ばれた「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか。」ということばは、先ほどお読みしました、旧約聖書、詩篇第22篇の冒頭のことばなんですね。詩篇はイスラエルで昔から歌われていた歌の歌詞を集めた詩集なんですね。
　先ほど詩篇第22篇を、時間の関係で少し抜粋しながら朗読をいたしました。抜粋であってもお気づきになった方も多いと思いますけれども、前半は非常に暗く、愚痴にも似た、絶望していて、悲しみと嘆きに満ちている歌である。
　けれども後半は、非常に明るくて、スケールが大きくて、勝利の希望と喜びに満ちている歌である。そんな印象をお受けになると思います。
　そんな途中から突き抜けるようにして、信仰による勝利の希望が見いだされていく歌なんですね。
　それで、ユダヤにおいては、詩篇の最初の歌い出しの一行がタイトルのようにみなされて、その一行を言っただけで、その詩篇の全部を言ったことになるんだ、というそういう共通理解が当時ありました。だからイエス様は、何も絶望だけを叫ばれたのではなくて、この一行だけを叫ぶことによって、勝利の希望を叫んでおられたんだ、という理解ですね。
 
　これはちゃんと当時のユダヤの文化の背景にも合致した、説得力のある説明だと思いますし、批判に対するきちっとした反論であると思います。
 
　そしてまだもう一つ付け加えるならば、イエス様が十字架で叫ばれた7つのことばのうちのもう一つ「父よ、彼らをおゆるしください。彼らは何をしているのか分からないのです」と、ご自身を十字架にかける兵士たちを目の前にして、こういう祈りをなさったイエス様の真実と、その7つのことばの一つ一つ全部が恐ろしく深いことから考えるに、そういう「イエスの叫びは敗北の叫びだったではないか。そんな者が神なのか。そんな者は信じるに足りるのか」という批判自体が的はずれで、浅いものであるし、いやむしろ、私たち人間ごときが、そういう批判に、理屈で反論して論証すること自体も浅いことであるということも分かってくるわけですね。イエス様の真実と深淵さに触れた時に、その批判や疑問はどこかに吹っ飛ぶようにして消えるからですね。
 
　その真実と深淵さには後ほど触れてさせていただきたいと思いますけれども、その前に、詩篇第22篇の解き明かしをしたいと思います。と言いましても、―本当は詩篇第22篇全体をじっくり1時間でもかけて繰り返し読んで味わっていただきたい気持ちもありますけれども―先ほどは特に大事だと思われる部分のみを読みましたので、そこからピックアップして、私の黙想もまじえながら解き明かしたいと思いますが、この詩の前提をまずお話ししておきます。
　詩編第22篇は、表題に、ダビデの讃歌とありまして、伝統的にイスラエルの王ダビデ王の作だと言われています。
　その中でも「嘆きの詩篇」というのに分類されていまして、とにかく神様への絶望的な嘆きのことばが凄いんですね。これはダビデがどんな時に歌って、その詩を書き記したのか？これは推測する人はありまして、サウル王様に妬まれて命を狙われていた時なのか？あるいは、王様になってから、息子のアブシャロムの謀反がありました。ダビデ王様はエルサレムから都落ちするんですね。そういう苦難の時に歌った歌なのか？これは何も決定的なことは分かりません。特定できないんですね。特定できないように書いてある。それは詮索も特定もしない方がよくて、誰もが苦しみの時に、この詩を自分の神への祈りとして口ずさんで、慰めを受けることができるように書かれている詩なんですね。だから冒頭に、「わが神、わが神。どうして、わたしをお見捨てになったのですか」という叫びがある。これは、日本の言い回しで「神も仏もあるものか」という叫びに少し似ている心理状態の時に出てくることばだとも言えるでしょう。クリスチャンにとってもですね、神様の助けや守りがどこにも見えない、人生にある意味で失望したり絶望している、しかも神さまは祈っても全然答えてくれているようには思えない。神さまは沈黙しておられるように見える。そういう時に叫びたくなる叫びです。
　そして私は実は15年くらい前に、四国説教塾で、説教演習の時に、この詩篇第22篇で説教をするという実習がありまして、ここについて黙想したことを書いたんですね。どう書いたか正確な文章は覚えていませんけれども、この6節から8節、特に強く6節に心惹かれたんですね。
 
６しかし　私は虫けらです。人間ではありません。
　人のそしりの的　民の蔑みの的です。
７私を見る者はみな　私を嘲ります。
　口をとがらせ　頭を振ります。
８「主に身を任せよ。助け出してもらえばよい。
　主に救い出してもらえ。
　彼のお気に入りなのだから。」
 
　この一行目を読んで、まさに自分のことだ、って思ったんですね。虫けらって訳されていますと、虫けらと言いますと、何かカゲロウとか、アブラムシとか、オケラとか、あるいは田んぼの道を自転車で走っている時に口に入ってくる羽虫のようなイメージを持つかも知れませんけれども、どちらかというと、ウジ虫のようなブヨブヨした虫を表すヘブル語なんですね。私なんてウジ虫です、と。
　私は高校の時に不登校をやって、引きこもりをやって、当時の私は、自分はウジ虫だと思いましたし、人間としての価値は無い、と思って、まさに絶望でしたね。そして、人のそしりの的、民の蔑みの的です、と。まるでこの詩篇はかつての自分のことを言われているように思いましたね。（また今でもインターネットなどを見ますと、若い方が「私なんかウジ虫ごときが」などと書き込んだりしているのを見て悲しく思いますけれども、いつの時代でも自分のいのちの価値を見いだせない、自己肯定感を削られている人びとが自分のこころを重ねあわせることができる詩になっていると思います。）
　しかし、これは後で知ったことなのですが、そうやって、読む者が自分を重ねあわせることができるように書かれてあるばかりではなく、これはイエス様の十字架の預言の詩である、ということなんですね。見事に、最初のエリエリレマサバクタニ・わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか。ということばが、十字架の場面にイエス様によって叫ばれたばかりが、全体に実にイエス様の十字架のあらゆる場面がちりばめられている、ということが分かるんですね。もちろんダビデがイエス様の十字架のシーンを知るはずがありませんけれども、聖霊によって、おそらくはからずして預言の詩を書くに至った、ということでしょう。
 
　この6～8節と合わせて、マタイの福音書第27章39節、43節前半をお読みしましょう。

39　通りすがりの人たちは、頭を振りながらイエスをののしった。

43彼は神に拠り頼んでいる。神のお気に入りなら、今、救い出してもらえ。
 
　ののしることばを言っている台詞自体もそっくりですよね。
　
　そして詩篇第22篇の14～18節です。
 
14水のように　私は注ぎ出され
　骨はみな外れました。
―十字架刑になると、両腕が伸び、両肩が外れるんだそうです―
　心は　ろうのように
　私のうちで溶けました。
15私の力は　土器のかけらのように乾ききり
　舌は上あごに貼り付いています。
―これは口の中が渇いていることの表現ですね。イエス様は十字架の上で「渇く」と言われました―
　死のちりの上に　あなたは私を置かれます。
16犬どもが私を取り囲み
―これは文字通り犬ではなくて、悪者を表す比喩的表現です―
　悪者どもの群れが私を取り巻いて
　私の手足にかみついたからです。
17私は　自分の骨をみな数えることができます。
―イエス様はやせ衰えられて、肋骨が外から見えるようになっていたでしょうから、そのことを言っているのでしょう―
　彼らは目を凝らし　私を見ています。
18彼らは私の衣服を分け合い
　私の衣をくじ引きにします。
―これは、驚くべきことに、その通りになりました。たとえば、マタイの福音書第27章35節に、兵士たちの行動がこう記されています。

　彼らはイエスを十字架につけてから、くじを引いてその衣を分けた。
 
　当時、衣服というのは貴重なもので、高価なものでした。ローマでは、下級の兵士たちが十字架刑の係をさせられるんですね。それで、彼らへの役得として、服などの処刑される人の持ち物が自分たちのものになる、ということがありました。ここも預言となっているんですね。
 
　そして、注目すべきところは、16節なんです。この翻訳では、「私の手足にかみついたからです」と翻訳されていますが、原語は「刺し貫く」ということばなんです。現に口語訳では「わたしの手と足を刺し貫いた」と訳されています。まさに十字架のシーンですよね。ダビデの時代には、十字架刑というのは存在しなかったと聞きます。ダビデが知らなかったのに、手足を刺し貫かれる、という表現があるわけですね。これは本当に不思議なことだと思います。
　
　そして、詩篇第22篇の31節の最後の行。
 
　主が義を行われたからです。
 
　この最後の「主が義を行なわれた」の「行なわれた」は、「完了した」ということばなんですね。それはイエス様が十字架の上で叫ばれたことば「完了した・テテレスタイ！」主の救いが完了した。罪の代価が支払済みとなった！こう叫ばれることの預言となっているわけですね。
 
　さらにさらに、詩篇第22篇の25～27節までをもう一度お読みしましょう。
 
25大いなる会衆―これが教会を表すんですね―の中での私の賛美は
　あなたからのものです。
　私は誓いを果たします。主を恐れる人々の前で。
26どうか　貧しい人々が食べて満ち足り
　主を求める人々が主を賛美しますように。
　──あなたがたの心がいつまでも生きるように──
27地の果てのすべての者が　思い起こし
　主に帰って来ますように。
　国々のあらゆる部族も
　あなたの御前にひれ伏しますように。
 
　「あなた」は父なる神です。後に教会が生まれて、そして27節で地の果てのすべての者が思い起こし主に帰って来ますように、とありますから、教会によって世界宣教がなされて、国境も民族も越えて、あらゆる人々がイエス・キリストの十字架のあがないを通して父なる神を信じるようになる。こうして全編がイエス・キリストの十字架による救いと、その世界的な広がり、というのを預言している不思議な詩になっているわけですね。
 
　これで、この詩の不思議さ、というのをお分かりいただいたと思いますし、イエス様の十字架とぴったり二重写しのようになっているこの詩を読むこと聞くことは、イエス様の十字架のご受難をおぼえるというために、とても素晴らしい詩であると思います。
　私たちは、受難節の歩みをする時に、イエス様の十字架の苦難というのをおぼえ、自らの罪をおぼえる歩みをしていく、ということを申し上げました。
 
　それでこの40日間の時期に、教派によっては、（―これは特に古くからある伝統的な教派に多いんですけれども―）断食をしたり、肉や、あるいは好きなものを断つという習慣があります。それは立派なことだと思いますし、イエス様のご受難に少しでもあずかろうという意味で、それも掘り下げれば大変深いものがきっとあるんだと思って尊敬をするんですけれども。けれども、食事を抜いたり、好きなものを40日間食べないくらいで、本当にイエス様の、十字架の苦しみの一部でも味わえるかというと、どうだろうなということは、少し思います。それには理由がありまして、イエス様の十字架のお苦しみは、肉体の苦しみはもちろんありますけれども、そこが本質ではなくて、魂の苦しみなんです。それは後で述べます。
 
　そしてもう一つはですね、先週私は、被造物、つまり地球環境や動物・生き物に対する罪の話もいたしました。サプライチェーンの問題で、遠い空の誰かを犠牲にしながら私たちは安全便利快適な生活を送っているのではないかという罪についても触れました。
ですからもし教会が片方の手で、信徒に断食や好きなもの断ちをすることを勧めておきながら―それ自体は立派なこととしても―、もう片方の手で環境破壊の罪には全く触れなかったり、あるいは発展途上国の人々を間接的に苦しめていながらそれらの国々の人々を無自覚に見下げていたりする罪があったり、あるいはマイノリティの方々を無自覚に差別していたりとか、―これは私が悔い改めたことでありますけれども、性的マイノリティの方々ですね。その方々を無自覚に差別する発言を含む説教を、10年くらい前に講壇から語ったことがあります。その人たちの現実というものを知らずに、無自覚な差別してきたことを、本当に申し訳なかったと思っています―
それでこういった程度の差はあるんですけれども、教会自体がそういった差別を行ない、人権侵害を行なってきたわけですね。それを放置しながら、もしくはそこには触れることがないまま片方の手で、「このレントの40日の間、悔い改めをしましょう。イエス様のみ苦しみをおぼえましょう。」あるいは「断食をしましょう。好きなものを一品断ちましょう」などと皆さんに呼びかける気には、私はなれない、と思います。
 
　それで先々週・2週間前に私は、もっと本質的な部分でですね、もっと深く人間の罪というものを考えるために、経済思想家の齊藤幸平さんと、奥田知志牧師の対談のことをお話しました。
　その中で、齊藤幸平さんに、キリスト信仰の「ゆるし」について問われた時に、奥田牧師は、
 
もちろん加害者と被害者の関係があって、被害者が加害者をゆるすっていうことはあるんだけれども、
 
たとえば今の資本の仕組みからしても
完全なる加害者と、完全なる被害者はいないんだろうと思うんですね
 
ということと、
 
私が生きているということにおいて誰かがこの空の下で犠牲を払っているんじゃないかということに、そこに気付けるかどうかというところが、人間として、ゆるせるか、ゆるせないかにおいては、非常に大事である、ということをおっしゃっているんですね。
 
　そして、お二人とも、「チッソは私であった」という、緒方正人さんの魂の遍歴とも言えるような本について触れるんですね。チッソ株式会社は、水俣病の原因を作ったとされる会社ですね。緒方さんは、お父様を水俣病で亡くされた方です。水俣病患者認定運動の最前線で闘っていましたが、後に認定申請を取り下げたんですね。なぜそういうことをしたのか？私は緒方さんの「チッソは私であった」というご著書を読んでみました。
　緒方さんは、文面から見るに非常に素朴な漁師という印象の方ですけれども、非常に繊細で、ものごとの本質を見抜く、非常に鋭い感性をお持ちでいらっしゃいます。
　彼は色々と国や県であるとか、裁判所であるとか、会社であるとか、そういうところに色々と訴えて行くわけですけれども、その時得体のしれない化け物と戦っているようだった、って言うんですね。というのは、私は人間に会いたかった！人間としての詫び、というものが欲しいのに(先々週礼拝後に語り合った時に出たように、大臣が出てきて人間として謝ったら気が済んだ、というのはある)、担当者は次々と入れ替わるし、会社からは紋切型の答えが返ってくるし、裁判の判決文も無味乾燥なもので、見えないシステムと空回りしてケンカしているようだった。っていうんですね。そして相手側に突きつけた問いが、「お前はどうなんだ？」こちらに返ってきた、っていうんです。「自分がチッソの労働者や、重役だったら、同じことしたんじゃないだろうか？」そのことに気が付いた。
　そしてもう一つ緒方さんのもう一歩深いところが、こう言っているんです。
 
チッソのような化学工場が作った材料で作られたモノが、家の中にもある。水道のパイプに使われている塩化ビニールの大半は、当時チッソが作っていました。
水俣病事件に限定すればチッソという会社に責任がありますけれども、時代の中ではすでに私たちも「もう一人のチッソ」なのです。「近代化」とか「豊かさ」を求めたこの社会は、私たち自身ではなかったのか。
 
　これ深いですよね。彼は、文明の罪というふうに、捉えなおしています。（そして私たちも、そういうの商品を使っている時点で、全く加担していないとは言い切れないんですね。)そして、緒方さん自身は、クリスチャンではなくて、仏教的な素養が強い方なんですけれども、だいたいこういったことも言っているんですね。
 
【緒方正人さんが本の中で語っている大まかな内容】
 
私どもは漁師ですので、一日に沢山の魚を殺して食っておるわけですが、その罪の意識が日常的にあります。
そして殺すということが、人に向かないように、他の生き物の中で何とか止まっているという気がします。
しかし、悲しいかな、人が人を殺さずとも我々は既に深き罪を背負っているんじゃないか。この世に生まれて生きているというそのものが、もうやはり罪深き存在ではないのかなと思うんです。
 
　こう言うんですね。深いですね。しかし、こういう考えを言いますと、人間全体の罪であるなら、悪事を行なった会社や、個人の加害者の責任を問い、謝罪を求めるのはやめよう、ということになるのでしょうか？国の悪い政策の責任を問い、謝罪を求めるのはやめよう、ということになるのでしょうか？いいえ、それはそれで必要なんです。透明化されていないことにされたり、被害を受けている人びとが声を上げることによって可視化する。そして加害をした方は真摯に謝って、改善につとめる。そういうことによって、少しずつ社会が良くなってゆく、そしてその少し良くなった社会を、次の世代に手渡して行けるというのがあるでしょう。
　
　しかしそれはそれとして、緒方さんが言っていることは、そのもっと位相の違うというか、次元が違うというか、地層の重なりの中でもっと深いところで、人間全体の罪と救いというものを問うています。もっとも緒方さんは、仏教的な思想が強いですので、自然や生き物への罪というのは言うんですけれども、その自然や生き物をお創りになった、創造主なる神への罪、ということについてはもちろん語らないんですけれども、システムに、からめ捕られることから脱却して、同じ人間と人間として、魂と魂で語り合おうじゃないか、というところで、終わりのない道を選んだ、って言うんです。
 
　それで緒方さんのことばとして私が忘れられないのが、彼が患者認定運動の最前線で闘った時のことを思い返しながら、結局欲しかったものは何かということでこう語るんです。
 
ひとことで言えば魂の詫びがほしかったのであり、魂の痛みを背負うという意味での責任の取り方をしてほしかった。
 
　こういうことなんですね。それでずいぶん沢山、緒方さんのことを挙げて回り道したように思いますけれども、この緒方さんが言っている【魂の詫び】ということと【魂の痛みを背負う】ということが、まさにあのイエス・キリストの十字架ということではなかったか、ということなんです。いや、実はもっとさらにイエス・キリストの十字架というのは深い。
 
　それで、よくキリスト信仰への反論としてあるのが、イエス・キリストの十字架による私たちへの罪のゆるしというのは、2000年前の人が死んだのが、どうして私の罪と関係があるのか？というものですね。それは一番地層の浅いところですね。チッソと患者というふうに、加害者と被害者という関係で言えば、まったくキリストの十字架と現代の人は関係がないことになるでしょう。
 
　しかし地層をもう一歩深いところに行くと、私たちがあの十字架の周りにいた人間だったらどうだろう？という視点ですね。ちょうど、緒方さんが、私がチッソの従業員や重役だったとしたら、同じことをしたんじゃないか、という視点と似ています。これは実は牧師も説教がしやすいんですね。自分がペテロだったらどうだろう？自分も十字架で処刑されてしまうかもしれないとなったら、私も鶏が二度鳴く前に、イエス様のことを三度知らないと言ったんじゃないか。私も命が狙われたら、裏切るということがあるかも知れないな。あるいは私が総督ポンテオピラトだったらどうだろう？ローマ皇帝が怖いし、民衆の暴動も怖い、そういうところで、板挟みになって、優柔不断な判断をして、イエス様を十字架に追いやったかもしれない。あるいは私が当時の民衆だったらどうだろう。祭司長たちに扇動されて、場の空気に流されて、「イエスを十字架につけろ十字架につけろ」と叫んだかもしれない。そういうふうに、自分を重ねて、自らの罪を思う、主イエスを十字架に追いやったのは、私のうちにある罪だ。そして、私のこの罪をゆるすために、イエス様が十字架にかかってくださった、ということは、深い慰めになると思います。
 
　それでさらにもう一つ、地層の深いところに行きますと、人間全体の罪ということですね。先々週、奥田知志牧師が、タルコフスキー監督の「サクリファイス」という映画について触れていらっしゃったことを申し上げました。
 
われわれが一日一日を平穏に過ごしていられるのは、
この広い世界、広い空のどこかで、名も知れぬ人間がひそかに自己犠牲をささげているからではないかという、信仰的思想を、この映画は
主人公アレキサンデルが、人類を核戦争の危機から救うために自分の家に火を放って、自分自身を神へのささげものとし、自らは精神病院に収容されると言う、かなり難解な寓話によって表現している。
 
　って言うんですけれど、イエス様の当時パックスロマーナ、ローマの平和、というのがありました。戦争が無く、平和な時代だったんですね。ところがその平和は、色んな誰かが犠牲になることによって保たれていた。
　イスラエルがローマに支配されて属州にされていたこともそうです。重い税金をかけられてきゅうきゅうしていた、そこでユダヤ独立を勝ち取りたいと思って立ち上がった人たちはですね、政治犯として十字架にかけられたんですね。そうやって犠牲になる。でもそれによって治安と平和が保たれる。ユダヤの民がローマに支配されていながらも、ローマの平和を享受していたら、チッソの製品を使っている民衆と同じではないか、人間ひとりひとりが、コストを少しずつ外部化外部化して行って、誰かに割を食わせて行って、それによって誰かがしわ寄せを受けて犠牲になって行く、その究極がイエス・キリストの十字架ではないか、という見方もできると思うんですね。
 
　それで私たちは、そういう自分の姿を見て失望、強いことばで言えば絶望する、ということがあると思うんですね。そんなことを言ったら、システムの中に望まずして入れられていて、そして加害の片棒をかつがされているなんて言われたら、もうがんじがらめで何もできなくなるし、生活自体ができなくなるかもしれないと思ってしまう。そして私たちがそんなに罪について言わないでほしいと思うのは、明るく生きられなくなるんじゃないかということと、もう一つは、私たちもどこかで被害を受けているので、緒方さんが言うように【魂の詫びがほしい】って思っているからだと思うんです。でも魂の中のもう一方では、【魂の詫びがしたい】ともどこかで思っていると思うんです。でもそれを認めてしまいますと、罪の意識に悩んで、生まれてすみませんとか、生きていてすみません、というような暗い生き方になりそうだし、罪を告白したが最後、もっと責められそうなので打ち明けたくないって思ったりするところがあると思うんです。逆に言えば、安全で責められない所で、全部打ち明けたいと思っているんです。人間はそもそも弱い存在なので、完全にゆるされると分かっている場所でならば、安心して魂の詫びをすることができるのではないかと思います。もっと言えば、魂の詫びを入れた上で、それでも力強く「あなたは生きていていい！」と権威をもって言ってくれる「誰か」に出会いたい、とどこかで切望しているところが、人間誰しもあるのではないでしょうか？
 
　イエス・キリストは、まことの人であると同時に、まことの神でもあられたので、その二つを両方とも解決する十字架を、進んで負われたのです。これはただの人間にはできません(緒方さんがどんなに人々と、魂と命の対話をしても、どの人間も弱く限界があるので、真の魂の詫びってできないんです。それならば人間を超える存在と出会い、関係を結ぶ必要があるんです。それが神なるイエス・キリストです)。
 
　主イエスは十字架の上で、
 
「父よ、彼らをおゆるしください。彼らは何をしているのか分からないのです」
 
　と言われました。これは私たちへの呼びかけです。私への、あなたへのゆるしの宣言です。あなたの罪は完全にゆるされました。
　そして、十字架の上の叫びがあります。「エリエリレマサバクタニ・わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」これは、これさえも、主イエスが、私たちの代わりに叫んでくださっているのです。
　私たちの魂の地獄、つまり、無限で無条件の愛とゆるしの源泉である大いなる存在、父なる神・天地の創り主なる神、この方との関係の破れの中を生きることは、人間には耐えられないものなんです。愛されなくて赦されなければ、自分の罪に絶望して行くからですね。
　その人間の絶望を引き受けるようにして、「エリエリレマサバクタニ・わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」と代わりに叫んでくださった。だから私たちの側は、もうその絶望を、味わうことは決して無いんです。もう終わってしまった。なんということかこともあろうに、子なる神ともあろう方が、十字架の肉体的な苦しみにのみならず、父なる神に見捨てられるという魂の地獄を味わってくださることによって、【魂の詫びをしてくださった。】さばきは完了した。いのちの代価はキリストのいのちによって支払われた！救いは完了した！済んだことなんだ。もうあなたがこれから神から受け取るものは、愛と、ゆるしと、恵みと、平安と、祝福、良いものしかないんだ。
　それが、イエス・キリストが十字架の上で勝利を取られ、死と悪魔と罪を滅ぼしてくださって、よみの力を打ち砕いてくださった、ということの意味なのです。
　
　だからこそ私たちには、詩篇第22篇後半の、爆発するような賛美が聞こえてくる！いや、この爆発するような賛美を、主の集会・教会で共に歌うことができる！この詩篇の結びにあるように、喜びにあふれて、主のなされた義を、主が完成された救いを、次の世代にも語り告げて行かせていただけるのです。
 
お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
主のご受難をおぼえ、自らの罪を思うと共に、人間であることの本質的な罪の現実にしっかりと向き合います。しかしあなた様は、それが人間である限り、その罪は背負いきれないものであることを知っていてくださって、ひとり子なる神、主イエス・キリストをこの世にお送りくださいました。この方は私たち人間の罪をすべて背負ってくださるばかりか、私たち人間の絶望というものもすべて背負ってくださいました。父なる神に見捨てられることによって、私たちが決して神に見捨てられることがないようにしてくださいました。どのように感謝してもその愛の大きさにふさわしい言葉が見つかりません。ただ、感謝のうちに、主のなされた義を・救いを、人々に知らせるつとめに、喜びをもって生きさせてください。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。