📗【文書版】⭐️ 礼拝メッセージ『この世界という畑をたまらなく愛しているから』2025年2月16日新約聖書　マタイの福音書第13章24～43節

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
📗礼拝メッセージ『この世界という畑をたまらなく愛しているから』2025年2月15日
新約聖書　マタイの福音書第13章24～43節

24　イエスは、また別のたとえを彼らに示して言われた。「天の御国は次のようにたとえられます。ある人が自分の畑に良い種を蒔いた。
25ところが人々が眠っている間に敵が来て、麦の中に毒麦を蒔いて立ち去った。
26麦が芽を出し実ったとき、毒麦も現れた。
27それで、しもべたちが主人のところに来て言った。『ご主人様、畑には良い麦を蒔かれたのではなかったでしょうか。どうして毒麦が生えたのでしょう。』
28主人は言った。『敵がしたことだ。』すると、しもべたちは言った。『それでは、私たちが行って毒麦を抜き集めましょうか。』
29しかし、主人は言った。『いや。毒麦を抜き集めるうちに麦も一緒に抜き取るかもしれない。
30だから、収穫まで両方とも育つままにしておきなさい。収穫の時に、私は刈る者たちに、まず毒麦を集めて焼くために束にし、麦のほうは集めて私の倉に納めなさい、と言おう。』」
31　イエスはまた、別のたとえを彼らに示して言われた。「天の御国はからし種に似ています。人はそれを取って畑に蒔きます。
32どんな種よりも小さいのですが、生長すると、どの野菜よりも大きくなって木となり、空の鳥が来て、その枝に巣を作るようになります。」
33　イエスはまた、別のたとえを彼らに話された。「天の御国はパン種に似ています。女の人がそれを取って三サトンの小麦粉の中に混ぜると、全体がふくらみます。」
34　イエスは、これらのことをみな、たとえで群衆に話された。たとえを使わずには何も話されなかった。
35それは、預言者を通して語られたことが、成就するためであった。
「私は口を開いて、たとえ話を、
世界の基が据えられたときから
隠されていることを語ろう。」
36　それから、イエスは群衆を解散させて家に入られた。すると弟子たちがみもとに来て、「畑の毒麦のたとえを説明してください」と言った。
37イエスは答えられた。「良い種を蒔く人は人の子です。
38畑は世界で、良い種は御国の子ら、毒麦は悪い者の子らです。
39毒麦を蒔いた敵は悪魔であり、収穫は世の終わり、刈る者は御使いたちです。
40ですから、毒麦が集められて火で焼かれるように、世の終わりにもそのようになります。
41人の子は御使いたちを遣わします。彼らは、すべてのつまずきと、不法を行う者たちを御国から取り集めて、
42火の燃える炉の中に投げ込みます。彼らはそこで泣いて歯ぎしりするのです。
43そのとき、正しい人たちは彼らの父の御国で太陽のように輝きます。耳のある者は聞きなさい。

主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。

今日はそのまま御言葉に入りたいと思いますが、イエス様のたとえ話が先週から続いています。先週は、どんなたとえ話だったでしょうか？四種類の土地も出て来る「種を蒔く人のたとえ話」です。表も作ってきました。これで前後の文脈がよくお分かりくださると思います。(1節と2節は正確にはこれから始まる7つのたとえ話の導入、という格好になっていますが、ここでは簡略化するために「種を蒔く人のたとえ」の中にまとめました。)

思い出していただきたいのですが、このマタイの福音書全体のテーマが「神の国の到来」だと言うことができますね。（もちろん、他のテーマだ、という捉え方もあるんですけれども）マタイは、当時のユダヤ人に向けてこの福音書を書きました。ですから、神の御名をみだりに唱えてはならないというのがユダヤ人の中にありましたから、天、と言い換えて、天の御国は、というふうに言い換えて記しています。この場合、天と神は同じ意味ですね。
天の御国、というのは、新共同訳でも、天の国、とここで訳されているだけあって、ああ、天の国、天国か、というふうに、地上の生涯を終えた後に行くところ、というイメージがありがちなんですが、それよりも神のご支配ということですね。このあたりはもう皆さん十分にお分かりくださっていると思います。
その天の御国、神の国を表すたとえ話がこの第13章で7つ続きます。今日は、毒麦のたとえ、と呼ばれるたとえ話があり、からし種のたとえ、パン種のたとえ、というのを挟んで、毒麦のたとえの―これまた前回に続いて数少ない―イエス様ご自身による解き明かし、というのがあります。
ですから毒麦のたとえからそのイエス様による解き明かし・解説に入るまでに、中断がなされているようなかっこうになっているんですね。

そこで、からし種のたとえと、パン種のたとえはイエス様による解説がありません。しかしこの2つは本当に短い解き明かしで十分だと思います。からし種はアンパンについているゴマみたいなつぶつぶくらい小さい種、それが成長するともう通常1.5ｍ、ガリラヤ湖周辺では3mにまで育つそうです。
そしてパン種のたとえ。パン種とはざっくり言えばイースト菌のことです。そして3サトンの小麦粉、ある説明によれば、100人分のパンを焼けるくらいの量だそうです。パン種は本当に小さいものなのに、小麦粉をふくらませて、100人分のパンになるほど、大きく膨らむのだ。
ここに、2つのたとえ共に、神の国は、初め小さくて隠されているようであっても、驚くほどの爆発力で、大ーきく広がっていくのだということが言い表されています。ここでは、このくらいの説明でもいいんですね。

さてそれを念頭に置いていただいて、今日の本題のようなことなんですが、やはりイエス様の「毒麦のたとえ」というのに、大きな文量が割かれているわけです。

【38節39節を映す】

このたとえ話は一つ一つ、イエス様ご自身がこれはこれを指す、これはこれを指すというふうに解説、解き明かしをしてくださっていますので、私がなおこれについて改めて2重に解き明かしをする必要は無いでしょう。あえて少しだけ説明を付け加えるなら、この毒麦とは、食べたらめまい、しびれ、嘔吐、下痢などを引き起こす、そして、途中まで普通の麦と見た目が変わらず、収穫の頃まで見分けがつかないものなのだそうです。

そこで、この毒麦のたとえ、印象深いたとえ話ではあるんですけれども、どうでしょう？皆さんの中で、教会学校の紙芝居や子供向けの聖書絵本をご覧になったことのある方で、この毒麦のたとえが紙芝居や絵本の題材になっているのをご覧になったことがある方はいらっしゃるでしょうか？まぁ、あったとしてもとても少ないと思いますね。四つの土地が出て来るたとえ話は絵本や紙芝居にしやすい。けれども、この話が、子どもに聞かせるにはちょっと…、というところがあるからですね。

　毒麦が世の終わりに集められて焼かれる、とありますので、そういう話を絵本や紙芝居に載せて安易に語れば、さぁ君は神様に聞き従わない毒麦のようなお友達になっちゃいけないよ、さもないと世の終わりに、などと言った、本当にカルトな話になってしまいかねないんですね。そんなのが福音だろうか？福音というのはグッドニュース、良きしらせです。ですからイエス様の話をそんな話にすり替えてしまっては、どっかおかしいわけですね。

　でも、教会の歴史の中で、案外このたとえ話は、それと似たような形で解釈されがちだったところもあるんですね。今からお話するのはその一例です。

　たとえば、教会の神学用語で、見える教会と見えざる教会、というのがあります。この用語自体には正統性があり、そしてこの言葉にはいくつかの意味があるんですが、その一部の意味は、見える教会というのは、表面的な、見える教会の姿、そして見えざる教会というのは、真実にイエス様を信じる人々の共同体だって言うんですね(「本物の信者」的な)。「見える教会」と「見えざる教会」の2つは重なるんだけれども完全には一致しないという理解です。

というのは、キリスト教会は、歴史の中で「異端」というのを設定してまいりました。現代ではキリスト教系三大異端と言えば統一教会などが入るわけですが、その異端というものの歴史は、実は新約聖書の書かれた紀元1世紀後半の時代からありまして、新約聖書にすでに「異端」っていうことばが載っています。パウロやペテロや他の使徒たちはこの異端と、激しくことばでもって戦いました。パウロは異端の偽教師たちを激しく非難しましたが、彼らが異端をなぜそんなにも非難したかというと、イエス・キリストが命がけでもたらしてくださった福音、というのとは、全く異なるものを、救いの道だとして教え、福音を台無しにしてしまう、（似ているようで全く異なる教えを、本物であるかのように教えたからなんですね。）これが教会の中に入り込むことを、非常に警戒しました。
　こんにちでも本物と見分けのつきにくい、非常に悪質な異端・カルトの団体がありまして、たとえばその一つに「新天地」というのがあります。その新天地は自分たちのところの信者を、「収穫の働き人」などと称して、既存キリスト教会に送り込み、何年もかけて信用を得て、自分たちの聖書勉強に信徒を誘い出したり、あるいは牧師の悪いところなんかをでっちあげたりして教会を分裂させたり、また他の手口で、教会ごと乗っ取るというような、悪質なグループもあります。

そういうふうに、異端・カルトが入り込んで悪質なことをすると、非常に破壊的なことになりますので、新約聖書が、それらに警戒するように教えているわけです。

そこで、このマタイがまさにこの福音書を書いた時代、それは、イエス様がきょうのこの毒麦のたとえ話をお語りになってから数十年が経っております。そこで、1世紀後半の教会の信徒たちがこのイエス様の「毒麦のたとえ」を読んだ時、あるいは礼拝でこのマタイの福音書が朗読されるのを聞いた時、この毒麦とは異端のことだ、と解釈したところがあったようです。イエス様のことばの「畑は世界です」というこの「世界」とは教会だと解釈したんですね。実際に当時非常に教会に異端が入り込むのは身近な、せっぱつまった問題だったようですから、そういう風に解釈されて、その解釈がこんにちまで伝統的に解釈の中の一つとして残っているわけですね。

そう取りますと結論はだいたいこういった形になってくるわけですね。見える教会・つまり教会の表面的な姿は理想的な形になっていなくてもあんまりガッカリしなくてよい、と。そして教会内部をあんまり純粋に保とうとしすぎると、良い麦まで抜けることがあるので、先走ったさばきをすることにブレーキをかける、そういうみことばとして比較的読まれてきた箇所です。
畑は世界だということばの、世界、というのを教会と解釈して、教会の中にどういう人を受け入れて、どういう人を受け入れないかという問いを促すみことば、あるいは教会内部の裁き合いを制限するための御言葉、だと取ったら、このたとえ話を読み間違えたことになるかもしれないんですね。というのはやはり、畑は世界だ、と言われている通りに、ここは畑は世界だ、と取った方がいいからですね。というのはイエス様が直接語られた意味としてはおそらくそちらの意味だからですね。畑を教会だと取るのは、イエス様が語られてから数十年経った時の教会の事情に引っ張られた解釈の可能性が高いからです。

では畑は世界である、と取りますと、こんにちなら、こういうことを考えてみると良いと思うんです。
NCC・日本キリスト教協議会、WCC・世界キリスト教協議会、カトリック正義と平和協議会、日本基督教団社会委員会、その他、さまざまな超教派のキリスト教団体が、戦争や紛争や虐殺などについて声明文を出したりいたします。それこそ世界で不正義が行なわれている、それに対する批判もいたします。また、異端やカルトなどがはびこっている時にも、それに対する声明文も出したりいたします。
これは、きょうのみことばに照らしてみると、いけないのではないだろうか？裁いてはなりません、とも別の箇所にあるし、イエス様がこのたとえ話の中で「するな」と言われている、毒麦を引っこ抜こうとする行為なのではないか、ということですね。
これは丁寧に考えたらいいんです。抑圧や戦争などの暴力に対してNOと言うこと、そして警鐘をならすこと、つまり世界に対して、異端やカルトにもいち早く気付いて、それらについて行かないように、単に個人としてだけでなく、教会として発言すること、これは、新約聖書の第二ペテロ第2章や、ユダ(イエス様を裏切ったユダではなくて、イエス様の弟のユダ)の手紙のみことばに従うことでもあるし、教会のことばは預言者のことばであるという、旧約以来の伝統という側面があります。こういった声明などもすっごく広い意味で言えば、教会の説教の一種とも言えるわけです。
　つまり、教会は社会に対して正義を求める声を上げる責任も担っているという側面があり、それは引っこ抜こうとすることとは異なるし、キング牧師などが言っているように、沈黙が加担となることもあるので、むしろ、声をあげることはすべきである、ということになるでしょう。

　そこまではそれでいいんです。ところが、話はもちろんこれで終わらないんです。どんなに教会が賢い神学者たちが綿密に話し合った末に出した結論であっても、それは時に誤ることもあるからです。完全な知識を持っている人は誰もいません。それの真偽はのちに歴史が証明することもあるでしょう。また、そのことばが正しいかどうかは、神さまだけが知っている、というのも、今日のみことばが語っていることに即していることです。

そういうふうに、誠実を尽くしたけれども計らずして間違った、ということならまだ動機としは良いかもしれませんが、時にキリスト教会は、歴史の中で、この毒麦のたとえを見事に読み飛ばして、それを誤用して来ました。自分たちを正義、良い麦だとして、誤ったジャッジ、とんでもないさばきをしてきました。

　それは十字軍、異端審問など、自分たちの目から悪いと見える者を取り除いて理想郷を造ろうなどというような考えになり、言ってみれば逆にその当時のキリスト教会がカルト化していたという言い方もできるのではないかと思います。

ですから、そもそも私たちが、自分、あるいは自分たちは良い麦だというふうに考えること自体が、間違っている、というふうに考えないといけません。カトリックの晴佐久昌英神父がこうおっしゃっていました。「神さま、毒麦を全部抜いてください」と祈ったら、自分もスポン、と抜かれた、というオチじゃないですか？って。そうだと思いますね。

ではやはり、私たちは、今日のこのたとえ話も、新しく聞きなおさなくちゃいけない。本当にイエス様が私たちに、きょうお語りになってくださっていることに、耳と心を澄ませていきたいと思うわけですね。

私たちが、イエス様のたとえ話を聞く時のコツを申し上げますと―他人ごとではなくて自分自身に語られた神のことばとして聞くのは、まぁ大前提としまして、それに加えて―、イエス様のたとえ話には、必ずどこかおかしいところがあるんです。変なところがあるんです。常識で考えたら、こんなことありえないでしょう、というところがあるんです。そこに大きなポイントがあるんですね。
イエス様のたとえ話は、今日のみことばには、イエス様がたとえ話で語られた理由をマタイが記してくれています。35節に、「預言者を通して語られたことが成就するためであった」とありまして、これは詩篇第78篇(2節)の詩をイエス様がたとえ話をなさることを預言している詩篇だとマタイは言っているわけですね。
でマタイが言っている、たとえ話でイエス様がお語りになった理由としてはその通りなんですけれども、たとえ話そのものの効果、というものも、やはり見逃してはならないことだと思うんですね。
先週お話した通り、人の心の一番奥深いところ、無意識の地下二階の部分に届くことばの一つが、イエス様のたとえ話なんです。

そのことを（文学的な賜物を与えられているであろう）ある説教者は「たとえ話はまるで夢や詩のようにふるまい、イメージによって伝えられる意味は、頭よりも心に語りかけてきます」と言っています。知識、説明の言葉は地上一階の言葉なので、―もちろんそれも大事ですよ―たとえ話は、知的な理解のバリアを超えて、イエス様の心が、こちらのハートにダイレクトに伝わってくるわけですね。
そこで、私たちの心に、イエス様のハートがダイレクトに伝わってくるわけですが、私たちの心に一種のとまどいを引き起こすところがあります。それはこの毒麦に対する、主人の極端なまでの寛容さです。忍耐深さです。「引っこ抜きましょうか」ってしもべが言ったら、「だめだ」と。「毒麦を引っこ抜いたら、良い麦まで一緒に抜けるかもしれない。だから収穫の時まで、良い麦も、毒麦も、両方育つままにしておきなさい。」と。
…なんということでしょうか？しかもこの毒麦は、敵が蒔いたにもかかわらずです。しもべたちは、良い意味で、忖度していますね。気をきかせています。きっと悪いものを抜いたら、畑の栄養も、全部良い麦に行くから収穫は増えて、主人は喜んでくれるだろうと思って。ですからこの主人は、見方によってはいい加減な人物にさえ見えて来ます。私たちが当たり前のように思い浮かべるような、混じり気のない作物とか、整然とした畑とか、畑の効率的な運用とか、そういうことにはどうやら関心がないようだからです。この主人が求めるのは、完璧さではなく、植物の育つことに関心があるということ、そして、危険を承知で、豊かな麦の収穫のためには毒麦をも豊かに育てるのだということを、ハートに伝えてくれます。私たちが少しでも手伝おうとして、主人の計画を良いものにしようとするとき、それは的外れであるということ、私たちの判断が正確ではないこと、そしてなんといっても、ご自身がこの世界という畑のあるじであることを私たちに伝えられます。

ところで、このたとえ話を本当に理解するために、どうしても取り上げておかなければならないことが旧約聖書の中にあると思います。それは、創世記第18章に描かれている信仰の父アブラハムの話です。
アブラハムの甥のロトがソドムの町に住んでいました。創世記第18章では、マムレの樫の木のそばで、3人の主の使い、天使がアブラハムのもとに現れます。その天使が、―この天使は神ご自身と考えてよいわけですが―ソドムとゴモラの町の罪が重いので、それを見てこよう、と言うわけですね。
それを聞いたアブラハムは、甥のロトを思ってのことでもあったでしょう。こう天使たちに言うんですね。読んでみます。

旧約聖書　創世記第18章23～26節

23アブラハムは近づいて言った。「あなたは本当に、正しい者を悪い者とともに滅ぼし尽くされるのですか。
24もしかすると、その町の中に正しい者が五十人いるかもしれません。あなたは本当に彼らを滅ぼし尽くされるのですか。その中にいる五十人の正しい者のために、その町をお赦しにならないのですか。
25正しい者を悪い者とともに殺し、そのため正しい者と悪い者が同じようになる、というようなことを、あなたがなさることは絶対にありません。そんなことは絶対にあり得ないことです。全地をさばくお方は、公正を行うべきではありませんか。」
26主は言われた。「もしソドムで、わたしが正しい者を五十人、町の中に見つけたら、その人たちのゆえにその町のすべてを赦そう。」

　と、アブラハムは、一見神さまに食って掛かっているかのような響きさえもありますが、それはそれだけ神さまに対する絶対の信頼を込めて語っているのだと思います。ソドムとゴモラの町に、何千人もの毒麦がいたとしても、良い麦が50人いるかもしれない。あなた様は、毒麦と一緒に良い麦まで引っこ抜かれるのですか？(絶対にそんなことは無いでしょう。)そして、面白いことに、なのですけれど、この続きは省略して読みませんでしたけれども、アブラハムの値切りが始まるんですね。交渉するんです。いやもしかしたら50人いないかもしれません。45人かもしれません。40人かもしれません。30人かもしれません。と次々値切っていって、最後には、10人かもしれません。と言って、神さまは、「滅ぼすまい。その10人のために」とおっしゃるんですね。こうしてアブラハムの交渉自体は成功したんですけれども、結局ソドムとゴモラの町は、正しい者が10人もいなくて、火と硫黄で滅ぼされてしまいました。甥のロトと2人の娘だけが助かりました。

　でそのことを考えます時にですね、では今の悪に満ちたこの世界は、どうして、すでに滅ぼされていないんでしょうか？神さまのさばきの火で焼きつくされていないんでしょうか？50人の、あるいは10人の、正しい人がいたからでしょうか？いいえ、本当の「ただしい人」、【義人】というのは、10人もいらないんです。
　アブラハムが、ソドムとゴモラの町の人々が、たとえ毒麦であっても執拗にかばったように、いやそれ以上に、私たちを、私を、あなたを、かばってくださった方がいらっしゃいました。ただお一人の正しいお方が、とりなしてくださったのです。そのお方は、一本一本の麦を、あまりにも大切にし、あまりにも愛されたので、一本たりとも、火で焼いてしまいたくないと思われました。それで血の汗を流されるほどに祈りぬいてくださって、ご自分のいのちを犠牲にすることになさいました。
　このお方イエス・キリストはゴルゴタの十字架の上で、神のさばきの火を、一身に、私たちのみがわりに受けてくだり、魂を焼く火で私たちの身代わりに焼きつくされなさることによって、毒麦であった私たちが、決して神のさばきの火で焼かれることのないように、してくださいました。

ここで、もう一つのたとえ話をお話しましょう。

ある所に、一つの畑がありました。そこに、一本の毒麦が育っていました。その毒麦は、小さい苗の頃から、自分なんて所詮こんなもんさ、って思っていました。日に日に背を伸ばしながらも、自分がやがて実らせる実には、しょせん毒があるんだ、と思っていました。
ある日のことです。毒麦はおや？と思いました。普通なら、育ちきったら、小麦との違いが出てきて、見分けられてくるはずなのに、ちっともその気配はありません。いつまでたっても小麦とおんなじなのです。その小さな毒の麦の黒い粒が、ちっとも実らなずに、まるで太陽のように輝く黄金(きん)色の麦の粒が実っていたのでした。この毒麦だった麦は、いったいぜんたいどうしたことだろうか？と思いました。私のからだはどうなってしまったんだろうか？こんな実が実ることは一生無いと思っていたのに！
　毒麦だった麦は、主人が畑を見回りながら、こちらにやってくるのを見ました。ニコニコしながらほんとうに、ほんとうに嬉しそうに、元毒麦の穂をそっとその手に載せます。その節くれだった手をよーく見ると、痛々しい釘の跡があります。でも、彼にとって、その元毒麦の実らせた黄金(きん)色の実をその手の平に載せるのが嬉しくて嬉しくて、主人はその痛みをどうやら忘れてしまったようでした。
　かつて毒麦だった麦は、主人に聞いてみました。「どうして？私は毒麦だったのに、こんな黄金(きん)色の実をつけることができたのですか？」
　主人は優しく微笑んで答えました。「わたしの血には不思議な力があってね。わたしの血を浴びたものは、すっかり毒が消えてしまうのさ。」
　かつて毒麦だった麦は、信じられないようすで、主人の目を見つめました。主人の目には、燃える炎のような情熱が見て取れました。そして主人は言いました。「これは、ほんとうに、ほんとうのことなんだ。わたしは、君がここに植えられる前から、君を知っていて、わたしの手に帰ってくるのを、今か今かとずっとずっと待っていたんだよ。さぁ、おかえり、私の宝物、君はわたしの目に高価で尊い。わたしは君を愛しているんだ。」
　かつて毒麦だった麦は、心の中で突然何かが大きくふくらんで弾けたかのように、わかったような気がしました。こんなめちゃくちゃな私であっても、そしてこんなにめちゃくちゃな畑であっても、この主人がこの畑の持ち主であって、この世界という畑をたまらなく愛しているんだと。

お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる神さま
あなた様は天の倉におさめるために、良い麦を求められます。主よ、不思議な事です。毒麦だった私たちが、生まれつき決して良い麦には変わることのできないと自分でも思っていた私たちが、なんということでしょう。植えられる前からあなたに知られ、あなたに愛され、主イエス・キリストの十字架の血を受ける者は、その毒が消し去られ、良い実を実らせる良い麦に変えられたという恵みの奇跡を、驚きをもって受け止めます。
　主よ、この畑という世界は、毒に満ちているようにも見えます。自らのうちにある毒に絶望し、このめちゃくちゃに見える畑に絶望しそうになることがありますが、しかしなお、こんなどうしようもない世界でさえも、しかしあなた様が主人であり、これをたまらなく愛しておられること、そのために命をお捨てになったこと。希望を捨てておられないで、どこまでも愛しぬいておられることを覚えます。主よ、あなた様の所有物であるこの世界を、また人々を、あなた様が見ておられるまなざしで、見つめること、そしてこの世界にあなたのみこころがなされるために祝福のうちに祈り働くこと、愛の種を蒔いて行くことを、私たち一人一人に得させてください。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。