📗【文書版】✴️礼拝メッセージ『存在の深みにおいて聞く声』新約聖書　マルコの福音書第1章14～20節　2024年1月21日

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
✴️礼拝メッセージ『存在の深みにおいて聞く声』
新約聖書　マルコの福音書第1章14～20節　2024年1月21日

14　ヨハネが捕らえられた後、イエスはガリラヤに行き、神の福音を宣べ伝えて言われた。
15「時が満ち、神の国が近づいた。悔い改めて福音を信じなさい。」
16　イエスはガリラヤ湖のほとりを通り、シモンとシモンの兄弟アンデレが、湖で網を打っているのをご覧になった。彼らは漁師であった。
17イエスは彼らに言われた。「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしてあげよう。」
18すると、彼らはすぐに網を捨てて、イエスに従った。
19また少し先に行き、ゼベダイの子ヤコブと、その兄弟ヨハネをご覧になった。彼らは舟の中で網を繕っていた。
20イエスはすぐに彼らをお呼びになった。すると彼らは、父ゼベダイを雇い人たちとともに舟に残して、イエスの後について行った。

　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。

　私は、数年前に、高知県の人権啓発ポスターを見たんです。その人権についてのポスターにはこう書かれてあったんです。

「一人一人の心に人権」

　私は、直感的に違和感を感じたんです。皆さんも、違和感を感じられた方はいらっしゃるでしょうか？いや大切なことだけど何かが抜けてるよなぁ…。
　私はですね、直感的な感覚で、いやぁ一人一人が心がけても、人権は守れないよね、と感じたんですね。少なくとも一人一人の心がけでは不十分なんです。
　日本では、人権が、道徳の時間で教えられるんですね。そして、暖かい心と思いやりを持ちましょう、という話になってくることが多いと思うんですね。
　私も小中学校の頃、そういうふうに教えられました。その時は何の違和感も持ちませんでした。
　おもに、部落差別の問題を学びました。こういう過去があって、ひどい差別があった。そこで、そういった差別を君たちはやってはいけない。暖かい思いやりの心を持ちましょう、とこういうふうに教えられた記憶があるんですね。
　このことは、教えられないより、教えられて本当に良かったと思っていますし、その教育に大変感謝しています。でも、人権を守る世界のスタンダードは、道徳の時間の暖かい思いやりではなくて、しくみで守って行くのが、これが人権なんですね。これは、欧米の、個人主義から個人と個人との契約によって社会が形作られるという、社会契約論が土台になって生れています。

　なぜこの話をしたかと言いますと、先日妻と、今日のマルコ第1章14節から20節までを、共同黙想していたんですね。それで、もちろんイエス様からの呼びかけのみことばを自分に語られたことばとして聞く、その中で、召命と人権の関係についての話が出たからなんですね。召命とは神の召命、お召しですね。この日本語の言い方は、尊い人が、人を呼び招くことの意味ですね。そして命と書いて召命ですけれども、命を召すと書いて、この場合は、その人の人生そのものを、イエス様の弟子として歩むように、イエス様がお呼びになる、という意味ですね。ここで、ペテロとアンデレ、ヤコブとヨハネ、この4人の漁師たちが、イエス様に呼ばれて、網も船も捨てて、あるいは父も雇い人も捨てて、イエス様について行ったんですね。
　これは現代においては、人権侵害なのではないか？こういう風にとらえる人もいるのではないか？と思います。日本人には、まぁ仏教の出家みたいなものかなと、そういうふうに考えればイメージしやすいのかもしれませんけれども、でもまぁ去年から宗教の名を語るカルト団体が非常に話題になりましたね。
　ではイエス様は、そういったカルト団体のように、有無を言わさぬ迫力とカリスマ性をもって、家族や職業を捨てさせた上、十分な給与や職場環境の保証もなく、危険にさらされる伝道の旅にこの4人を同行させたのだろうか？（親泣かせの原理運動のようではないか？）
　あるいは、現代の教会のことを考えてみましょう。こんにち、神様の召命に応えて、牧師などのフルタイムの伝道者として献身する人たちがいます。あるいは劣悪な環境の国や、危険な国に、宣教師として赴く人たちがいます。
　そういう人たちの生活をはた目から見れば、どうも人権が守られているとは思えないかもしれない。そういうふうに、人権と召命というのは、相いれないものなんだろうか？

　結論から言いますと、そんなことは全くないんですね。一方で人権と一方で召命。両方、キリスト信仰から考えることができるんですね。

　これは数年前になりますけれど、ある日本の議員さんがですね、「天賦人権説は、キリスト教の神さまからもらった人権ですから、日本は神道、仏教の国ですので、そんなものは要りませんので人権は綺麗に削りました(憲法第97条全文削除)」などと言っている人がいて、まぁひどい発言だなと思ったんですけれども、天賦人権説の天とはキリスト教の神であるというのは間違いみたいですね。しかし、人権という概念は西洋にキリスト信仰がなかったら生まれていないんです。

　欧米には個人主義がありますね。わがまま、や、自己中心、などというカッコつきの個人主義ではないです。英語でいうインディビデュアルですね。社会を構成する最小単位としての個人。
　その意識が生まれたのは、13世紀くらいから、カトリックの懺悔のシステムによって、神の前の個人の罪を告白するというのが盛んになって、そこから「神の前に責任ある一個の人間」としての意識が広まって、個人主義が育って行ったと言われることがあります。
　マグナカルタとか自然権などは、きょうのこの文脈では省きますけれども、宗教改革が非常に重要になってきます。宗教改革で「抵抗権」というのが生れました。国に対しても抵抗できるんだ、ということですね。宗教改革者マルティン・ルターが考え、そして彼の片腕であったメランヒトンが書いた「アウグスブルク信仰告白」には、「市民生活について」というところで、抵抗権についてちょこっとだけ書いています。
　基本的には個人は国に従うべきだと。しかし、国が神に背いている場合はこの限りではない、と書いてあるんですね。
　ルターに続いてスイスのジュネーブで宗教改革をしましたジャン・カルヴァン。彼の流れを汲む教会を改革派教会と言いますが、改革派教会は、この「抵抗権」の議論を非常に発展させました。やはり国が神に逆らっている場合は、抵抗できる、あるいは抵抗すべきである。これがプロテスタントの基本的な姿勢なんです。
　そういうキリスト信仰から来る抵抗権の後押しもあってのことでしょう。たとえ国家であっても、踏み込んではならない、犯してはならない、人間が人間である限り、生まれながらに持っている権利がある。これが人権、なわけですね。
　ジョン・ロックによれば、こういった権利を保障するために、人民は政府を樹立する。契約による政府の考え方ですね。「また、人民は、人民の権利を保障しない場合は、抵抗権によって、新たな政府を樹立する、これは自明の真理であると信ずる」とロックは言っています。
　ですから、一人一人の心に、ではなくて、政府には人権を保障する義務があるし、それをしないまたは人権を侵害する政府であればそれを倒すんだとロックは言っているわけですね。
　ちなみにこの人権はファンタジーだとか、あるいは発明だとか言われることがありますけれども、私はもっと根源的なものがあると思いますね。神のかたちに作られた人間には、国にでも他の人間にでも、犯されてはならないものが根源的に刻まれていると思います。それを言葉にしたのが人権だと思いますね。

　一方で召命の話に戻りましょう。これはたとえばマザーテレサなどを考えれば非常に分かりやすいと思います。
　マザーテレサは、ヨーロッパ南東部、現在のマケドニア、スコピエという町で生まれました。神様の召命を受け、修道女になります。インドで修道女として活動するのですが、壁で囲まれた女学校の校長先生になります。そこは、インドでも裕福な人が通う学校でした。でも学校の塀をを一枚隔ててすぐそばがスラムなんです。この塀の外には苦しんでいる人たち、子供たちがたくさんいる。これではいけない、と思っていたのですが、「貧しい人の中で最も貧しい人に仕えなさい」というイエス様からのお声に従って、校長先生をおやめになって、持ち物は何枚かのサリーと、手持ちのお金はたったの５ルピー、スラム街に出て、子供たちに勉強を教える、青空学校からスタートしました。これはすべてを捨ててイエス様に従って行った4人の漁師たちが彼女の生き方に重なります。
　それから死を待つ人の家を作ったり、ほか様々な素晴らしい働きを主が展開させてくださいました。マザーはその間何度も妨害されたり、殺されそうになったことさえあるとも聞きます。マザーの職場環境は普通に考えたら劣悪でしょう、だから彼女の人権は守られていない、だから神さま・イエス様は「マザーの人権侵害をしている」などと言うことはな、全くナンセンスでしょう。だいいち、修道会もバチカンも、指導する司祭も、そんな生活を彼女に強いるというパワハラをしたわけではありません。
　むしろ彼女が、イエス様の呼び声に応えて、進んでそれをして行った。そして、その活動は、聖書の福音をインドの人々に伝えると同時に、もう薬を処方しても治る見込みがない、死を待つだけだ、そういう人に、薬を塗って差し上げ、名前と宗教を聞いて、やさしく手当てする、そういうことをすることによって、彼ら彼女らを「ひと」として扱い、その人権をも回復してさしあげた。そういう見方もできないことはないと思います。

　ここにですね、人権と、召命、見事な調和があると思いますね。

　矢内原忠雄先生はですね、「自分に対する侮辱は耐え忍べ、しかし、社会で弱い立場に置かれた人々を権力者が虐げたら怒れ」と書いています。これは正しいと思いますね。
　しかしついでに言いますと、耐え忍ばない方が良い場合もあります。それはジャニーズ問題ほかのような場合ですね。被害者が黙ることによって、次々と被害者が生み出され続けるというシステムが温存されたままで、放置されてしまっていたという問題があるわけですね。ですから自分が人権侵害をされた時に、次の被害者を生まないために、声を上げると言うこともまた、善であると思います。

　ずいぶん長くなってしまいましたけれども、このマルコの福音書のテキスト方に戻りますと、14節の冒頭で、ヨハネが捕らえられた後、とあります(ヘロデ・アンティパスがお兄さんのピリポの妻を横取りして妻にしたことを批判したので捕らえられた)。
　ここで、時がガラリと変わりました。これは、バプテスマのヨハネが捕らえられることによって、ヨハネの宣教の時が終わり、主イエスの宣教の時が始まった、ということが表現されているんです。
　この時主イエスがおっしゃった「時が満ち、神の国が近づいた」ということばの「時」とは、ただ流れて行く時ではなくて、「カイロス」という「神の時」ということなんですね。そして神の国というのは、国と言っても、国土や領地のイメージではないんですね。神のご支配のことです、私たちの心を魂を全存在を神さまが力づくではなくて、神さまが、愛によってご支配なさってくださる、神さまに私の全てを任せて安心の時近づいた、っていうんですね。
　しかも、この近づいたということばは、ちょうど電車が来た、(スプリング　ハズ　カム)っていう表現なんですね。もう神の国の福音という電車が来たから、「悔い改めて福音を信じなさい」と翻訳されていますけれども、ここでは、悔いるというニュアンスは原語には無いですね。ですから回る心と書いて「回心」と訳している聖書があります(岩波訳)。神の国の福音の電車が来たから、くるりと向きを変えて、さぁ電車にお乗りなさい、こういうニュアンスだと言っていいと思います。
　さてそれから最初にイエス様は、シモンと―シモンというのは、ペテロの本名なわけですが―シモンの兄弟アンデレが、湖で網を打っているのをご覧になりました。
　ここで彼らに「わたしについて来なさい。人間をとる漁師にしてあげよう」とおっしゃるのですが、あれあれと思われた方もいらっしゃるかもしれません。というのはシモンとアンデレとの出会いです。先週のメッセージをお聞きになった方は、話が違うじゃないか、と思われたかも知れないんですね。
　というのも、先週はヨハネの福音書の第1章でした。ヨハネの福音書の方では、イエス様に会ったシチュエーションが全然違うんですね。特に、アンデレはもともとバプテスマのヨハネの弟子だったのが、イエス様に弟子入りするようになるんですね。
　これはどういうことだろうか？矛盾しているのではないか？いいえ、何も矛盾していないんです。実は福音書記者のマルコは、ずいぶん省略して書いています。もう急いで、福音を伝えるために、最低限必要な事だけを残して、他はでっきるだけ省いて書いているように思えます。たとえばクリスマスに取り上げられがちな、イエス様誕生の話なども一切書いていません。
　ですから、この湖、これはガリラヤ湖なんですが、ここで出会う前に、シモンも、アンデレも、すでにイエス様に出会っていて、いわば漁師をしながらパートタイムのようにして、イエス様の弟子として活動していたということなんです。初対面ではなかった。そこで、湖でまたイエス様がシモンとアンデレにお会いして、また、わたしについて来なさい、と声をかけられたわけです。

　ところでこの声をかけられたことばですね。「人間をとる漁師」というのは聖書の中でも有名なことばですね。でも私はあんまり好きなことばではありませんでした。それは多分イメージなんですね。
　人間をとる漁師、と言ったら皆さんはどんなことをイメージしますか？物凄い悪い取り方をしたら、網を張って罠をかけて、できるだけ多くの人をサティアンみたいなどこかに連れ込んで、マインドコントロールをかけるようなイメージでしょうか？
　また、魚を取るのにたとえるとイメージが悪い。漁師は塩づけにして売るか、売れ残ったものは自分で食べてしまうわけですから、人を食い物にするのか、と、悪く取るならそういう取り方もしてしまうかもしれません。
　しかし、それは単なる言葉のイメージですね。イエス様がお声をおかけになったのが漁師だったから、魚取りにたとえられたわけですが、もし大工が職業である4人に声をおかけになったのだったら、「人間を建て上げる・作り上げる大工にしてあげよう」とおっしゃったに違いないと思うのです。
　それにもっと大事なことは、この原文には「取る」っていうことばが無いんです。「取る」ということばはありません。直訳すると、「人間たちのための漁師」「人間たちの海の人」になります。

　しかしこの漁のたとえはですね、実は旧約聖書でも出て来るんですね。漁をすることを、「すなどる」と言いますが、旧約聖書で、漁師が人間をすなどる、というのがエレミヤ書(16:16)、エゼキエル書、アモス書、ハバクク書に出て来るんですけれども、それらはどれも、神のさばき、迫りくる審判と滅亡ということと結びついて語られています。
　それなら辻褄が合わないのではないでしょうか？旧約の伝統からすれば、人間たちの漁師にしてあげようというのが、さばきのイメージで聞かれるはずのことばだったはずです。旧約を知っていたシモンとアンデレにとっては特にそうでしょう。それがどうして、神の国の喜びのおとずれの福音の宣言になるのでしょうか？
　それは、メシアとして来られたイエス・キリストが、神の国をもたらすために、その民の罪に対する神のさばきを一身に、あの十字架の上で引き受けてくださったからこそ、神のさばきは終わり、この方を信頼する者はすべて、完全な罪のゆるしと、永遠のいのちを受けたからなのです。

　だからもはや、旧約のように、この網は、人をさばく網ではありません。ある人はこの網を、和解の網だと言いました。人を生かす、人に対して、共に生きて行こうという寄り添いの網だとも言いました。救いの網、天国の網の中で、私たちは一緒に安心していられるのです。そしてイエス様を船頭にする船に一緒に乗って、一緒にまた天国の網を海に降ろす者とされているのです。そう、されています。人間をとる漁師にしてあげよう、と訳されていますが、これは、「してあげよう」は「作ろう」とも訳せるんですね。「作ろう」ある牧師はこれは再創造だと言いました。人間を、福音によって新しく作り変えられるんですね。皆さんもきっとそれぞれおありだと思います。イエス様信じる前はなかった平安・安心が心の中にあるとか、イエス様信じる前は生きる意味なんて無いと思っていたのが生きる意味が生まれたとか、イエス様を信じてから、私も含めてひとりひとりの命を大切なものとして見れるようになったとか、ほか様々あると思います。それはキリストとの出会いを体験したからですね。

　私たちはそのキリストとの出会いの現実においてこそ、私たちの存在の深い所に、イエス様が呼びかけられている声を聞くのです。私たちの存在の聖なるところ、特別なところに神さまから・イエス様からの呼びかけがあります。「わたしについてきなさい。人びとを生かす者にしてあげよう」皆さんはそれぞれ主のお声が聞こえるでしょうか？皆さんは、主について行き、何をするように呼びかけられているでしょうか？

お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様は、私たちを愛してくださいました。一人さえ、滅びるのを望みたまわず、そのために御子イエス・キリストをこの世にお送りくださいました。この御子の十字架の死によって、私たちは贖われました。さばきは終わり、私たちは主イエスの呼び声を聞くのです。わたしについて来なさい。私たちの存在の深いところの水面(みなも)に、一つの石が投げられるように、波紋が広がって、それが、私たちを突き動かします。人々に福音を届けるために、私たちの魂の深みにいただいた平安と同じ平安を人々に届けるために、また隣人を一人の人間として生かすために、何をせよとおっしゃっているのかを、ここに集う、また配信を通して集うお一人一人の心に魂に、み声を聞かせてくださいますように。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。

#人権 #基本的人権