📗【文書版】⭐️ 礼拝メッセージ『神の家族』　2025年2月2日 新約聖書　マタイの福音書第12章46～50節

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
📗礼拝メッセージ『神の家族』　2025年2月2日
 
新約聖書　マタイの福音書第12章46～50節
 
46　イエスがまだ群衆に話しておられるとき、見よ、イエスの母と兄弟たちがイエスに話をしようとして、外に立っていた。
47ある人がイエスに「ご覧ください。母上と兄弟方が、お話ししようと外に立っておられます」と言った。
48イエスはそう言っている人に答えて、「わたしの母とはだれでしょうか。わたしの兄弟たちとはだれでしょうか」と言われた。
49それから、イエスは弟子たちの方に手を伸ばして言われた。「見なさい。わたしの母、わたしの兄弟たちです。
50だれでも天におられるわたしの父のみこころを行うなら、その人こそわたしの兄弟、姉妹、母なのです。」
 
主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 
先日、私のユーチューブのおすすめ欄の一番上に、こういう動画が出て来たんですね。トップに出て来る表紙にあたる画像にはこう書いてありました。
 
【説教・プロテスタントの最も神聖な偶像】
 
というですね、ちょっともう、しょっぱなから過激なタイトルなんですけれども、これは前後編の2本の動画に分かれておりましたので、一応私は2本とも、全編聞きました。
 
トップの画像にはですね。パワーポイントで箇条書きになっているのも載っていました。こういう内容です。
 
現代の説教がもたらす主要な問題
l 説教者を集会の主役にしてしまい、
本来の教えの在り方一全信徒の相互貢献を阻害する
l 信徒に受動的な性質を植え付け、聖職者への依存を生む
l 説教者の考え方が非聖書的でも直せない
l 話を聞くことが目的となりやすく、信徒が実践的な信仰から遠ざかる
l 信徒同士の関係を希薄なものにしてしまう
 
　いかがでしょうか？うんうん、と思われたでしょうか？一見、うんうん、とうなずいてしまいそうな文章に見えるかも知れません。しかしよくよく考えると、これらは、全部誤りだとお気づきになると思います。
　なぜなら、これら5つのことは全部、【良き礼拝説教がきちんとなされていればいるほど、全部解消して行く問題だからですね。】良き説教はですね、人に慰めと希望を与え、人をダイナミックに作り変えて、能動的で、実践的な信仰を促すからですね。皆さんも、「あの時のあの説教で人生変えられた！」というのがあるんではないでしょうか？そのように説教によって変えられた人が、時には海外にまで宣教に出かけ、説教によって変えられたある人々は社会活動・慈善活動を起こして(あるいは医療、教育などでも)社会を変革してきました。それは歴史を見れば火を見るより明らかですし、現代でもそうなんですよね。
　つまりこれら5つのポイントはですね、【説教が問題では無くて、まずい説教が継続してなされた時】（もしくは教会で信仰の実践の学びなどの何らかの取り組みが足りない場合）に起こる問題なんですね。つまり【本当の意味での説教が教会から無くなってしまっている問題】【「説教不在」がもたらす5つの問題】といった方が正確です。だからことは逆なんです。
　ここらへんの解像度が荒いがゆえに、動画全編がですね、まるでプロテスタントの全部の説教を一緒くたにズバッと斬る、といった非常に誤解・ミスリードを誘うような動画になっていまして、これはちょっとあんまりことだな、と思いました。
　まぁ最近は教会のカルト化問題もありますから、説教者がカルト化してですね、上から目線で、「私の言うことは神の言うことだ、私に逆らうことは神に逆らうことだ」などと言わんばかりの態度が透けて見えたり、あるいはあまつさえ、それを口にしたりするという、そういった非常に深刻なことまで起こることがありますから、私もそれを非常に心痛めるんですけれども、そういう説教の場合はズバッと斬った方がいいですね。なのにこの動画は説教全般を斬っているので、悪代官を斬ろうとして、良い町人まで一緒に斬っちゃったという印象の動画になってしまっています。
　で、この動画ちょっとまずいことはですね、こういう論が拡散されますと、もうすでにちょっとちらっと見たんですけれども、礼拝説教そのものを否定するような、乱暴な「説教否定論」のようなものをネットにちらっと書いていた人を見たんですけれども、影響を受けてそういうものを振り回す人が多く出て来ると、諸教会に悪影響が出て来かねないということですね。まぁ皆さんは、そういうのを聞いても影響を受けないと信じております。しかし、配信者が全国放送でそういう動画を公開するのはちょっとやめてほしいな、と思うところはあります。
　それで私もその説教についての文章を4回くらいに分けてフェイスブックやノートというアプリにも詳しく書きましたので、後でライングループに流してもいいかもしれません。詳しく知りたい方はタップして読んでみてください。
　
　そしてこれは今日のマタイ第12章46節以下のみことばに関わりのあることでもありますので、説教について少し話しておきます。皆さんは礼拝説教と聞いたら、何と定義なさるでしょうか？「教え」でしょうか？動画の中では説教のことを「教え」「情報伝達」と言っていたんですよね。果たして、「説教」とは、その程度のものなんでしょうか？
 
　プロテスタントの説教の伝統では、説教とは「宣言」なんですね。十字架と復活のできごと、罪のゆるしと永遠のいのちを宣言、布告、告知すること、神の国の到来を告げ知らせること、そして神への立ち帰りへの招き、こういったことが―神学用語になってしまうんですけれども―「ケリュグマ」と言います。使徒2:14以下の、ペンテコステの日にペテロが11人と共に立って行なった説教が【有名なケリュグマとしての説教の代表例】(ペテロは聴衆からの質問に答えて対話している)です。
 
　そして、「教え」の要素ももちろんあります。これは、信仰生活の勧めであったりします。こちらは「ディダケー」と言います。
 
　もちろんこの二つは明確には分かれていなくて、1つの説教の中にこの2つがほとんどの場合混ざっています。そうするために「聖書の解き明かし」が当然なされるわけです。
 
　ですからこのケリュグマとしての説教がなされなければ、福音が告げられないわけですから、新たにクリスチャンになる人が起こされませんね。「聞いたことのない方を、どのようにして信じるのでしょうか。 (ローマ10:14)」とある通りです。
　ですから、広い意味では、洗礼準備会などで語ることばも、あるいは牧師や信徒が、教会の外で個人伝道することも、ケリュグマとしての説教なんですよ。だからそういう意味では教会はまさに「説教中心主義」でいいわけですし、「説教中心主義」であるべきだ、とも言えます。また、この宣言としての説教は、クリスチャンでない方への伝道だけでなくて、罪の赦しと永遠のいのちがあなたに与えられた！という宣言は、クリスチャンになった人も繰り返し聞くべき宣言ですね。繰り返し魂の平安が与えられます。
 
　ところがこの動画では、そのプロテスタントの源流の基本、説教とは何かという前提が全く無視されて、「教え」としての説教のみが想定されているため、しかも、異教由来の弁論術が取り入れられている、というんですね。そういうタイプの説教のみを指して「聖書に説教は出てこない」とか「説教は聖書由来ではない」とか、「説教が聖書に出て来るというのは読み込み」などというですね、非常に暴論めいたこと言っているんですけれども、それは、「教え」としての説教しかも限られたタイプの説教のみのことであって、「説教」という言葉で何を指し何を指さないか、ということを明確に話していないため、非常に誤解と混乱を諸教会にもたらすかもしれない、変な話の内容になっているんですね。（それに福音書記者のルカも「パラダイス」という異教由来のことばを上手に用いて福音書っていう文書で伝道していますから、異教由来のものが入っていてもそんなに問題はないわけですね。）
　ですから皆さんも、「聖書に説教は出てこない」とか「説教は聖書に起源がない」とか、そういった類いの話をどこかで聞いたら、それは誤りだ、ということを心に留めていていただけたらと思います。
　
　まぁしかしですね、思いとしては共感する部分があります。一つはカルト的になった説教・説教者を憂いているわけですよね。私もその点は同じ思いです。ですから、誤解を招かない表現でそれを批判しますと、宝まで一緒くたに切り捨てない、真にクリティカルな良い批判になりますので、そういう発信をしてほしいと、その活動の祝福を祈らせていただいております。
 
【5つのポイントをもう一度映す】
　
　それで、ついでに申しますと、説教者が集会の主役、ということはありません。特に日曜の礼拝説教では、神が主役であり、キリストが主役です。説教者は、このお方、十字架のキリストを指し示す、言ってみれば、指に過ぎないような存在です。ですから、この方の前にひざまずき、この方の前に悔い改め、初めの回心は、説教準備の時に「説教者の書斎で起こる」と言われますけれども、会衆に先立って聖書を読み、―注解書や別の資料も沢山読みますけれども―説教者は自らを神とその次の日曜日のみことばの前に問い直し、そして、会衆と同じ目線で、自らも神の前にへりくだる者として、会衆と共に神の前にひざまずく心の姿勢で、十字架のキリストを指し示すわけですから、教会としてのことば、ペテロがペンテコステの日に11人の使徒たちと共に立って説教をしたのは、教会としてのことばなんです。そこに、説教者が主役？とか、説教者の権威？とか、そういうふうな捉え方をすること自体がそもそも神学的ではないと思うわけですが、牧師、説教者は福音の説教と聖礼典(つまり洗礼と聖餐ですね)、の役目を負ったクリスチャン、恵みの手段の手段と言います。役目の違う信徒―まぁこういう言い方をすると、牧師先生によっては違う！と言うかも知れませんが―、ということで、皆さんより上でも何でもないわけです。こういうわけで、共に神のみ前にひれ伏す、神の家族、ということです。今日のみことばの根底に流れるテーマは、イエス様が呼び寄せられた「神の家族」ということになりそうです。ところで、今日の話で触れた“問題点”とされる5つのポイントの5つ目ですね。ここ凄いポイントだと思います。
　
【パワポに5つのポイント映す】
 
l 信徒同士の関係を希薄なものにしてしまう
 
　これはですね、私たち人間的な感覚からすれば、「教会は神の家族」と呼ばれますから、ならば、親しくなければいけない、人間関係が濃密でなければいけない、と思ってしまいがちです。けれどこれも聖書に基づいてよくよく考えないといけないので、今日のみことばに戻りたいと思います。
 
　今日、神のことばとして共に聞きましたマタイ第10章46節から50節は、大変短い、簡潔な話ですね。ストーリーとしてはシンプルで分かりやすい。これも、その話に至るまでの文脈があります。
　それは、前までの話を受けています。イエス様が聖霊のみわざによって悪霊追い出しのしるし、つまり、ご自身がメシアであることの証拠、そして神の国の到来の証拠としての奇跡を行なった。それをパリサイ人たちは、ベルゼブル、つまり悪魔の親玉の力を使って悪霊追い出しの魔術を行なったんだと言いました。
　こういうふうにして、イエス様について、間違った、悪い噂が広まったんですね。こういう文脈の中で語られている話です。
　ここに、イエス様のお母さんであるマリアと、イエス様の弟たちがやってきます。なんでやって来たかというと、その悪い噂を聞いたからですね。お父さんであるヨセフさんは、早いうちに亡くなっていたと言われています。マリアとイエス様の弟たちは、長男であるイエス様について、こう話し合っていたでしょう。
「お兄ちゃんはお父さんがみててから、大工の仕事を頑張ってくれよったに、突然家を出ていって、宗教家になってしもうたけんど、まぁ世間から先生先生言われて、慕われて有名になりゆうがはえいがやけんど、どうも偉いパリサイ人とか律法学者の先生がたに立てつくようなこと言いゆうらしいやんか。どうもお兄ちゃんはおかしゅうなった。何とかしちゃらないかんちや！」
　そういうわけで、母マリアと弟たちがやってきた気持ちというのは、「もうイエス、これぐらいでやめちょきや。もうもんてきたらえいやんか。またなんかベルゼブルとかなんとか悪口言われても、お母さんと家族みんなぁであんたを守るぞね。」という気持ちだったでしょう。
　けれどもそういう一番濃い人間関係と言いますか、日本語として定着した（元々はドイツの）「血は水よりも濃い」ということわざがありまして、血のつながった者同士の絆は、どれほど深い他人との関係よりも深く強いものだと言われますけれども、そういう絆をまるで断ち切るようにして、イエス様は言われるのです。
　
「わたしの母とはだれでしょうか。わたしの兄弟たちとはだれでしょうか」
 
　そういう濃密な絆をここでは拒否されたのです。ここではイエス様は、母や弟たちに冷たい、と印象を受けがちなところですけれども、そうではありません。イエス様は、母や弟たちを深く愛しておられたことが、ヨハネの福音書の場面で母マリアの老後を弟子のヨハネに託したことなどからも分かります。
 
　ところで日本の名説教家の1人と言われる、竹森満佐一という牧師先生がいらっしゃいました。もう35年も前に天に召された方ですけれども。
　その方が牧会していらっしゃった時代の吉祥寺教会では、日曜日の礼拝以外にはほとんど何の集会もない。その礼拝では、始まる前に私語のできる雰囲気などはなく、週報にも目を通さず、ひたすら祈りと黙想のうちに礼拝の開始を待つという、そして、礼拝が終われば、その後は、すぐに皆教会堂を後にする、というようなことだったそうです。
　ある時竹森先生は、教会の青年に言ったことがあるそうです。礼拝の席に座って、【隣の席の人の名前を知らなくても、教会の、神の家族としての交わりは成り立つのだ】というのですね。
　竹森先生は、たぶん教会員同士の人間関係が希薄だと思った青年たちが、ある時、親睦会のようなことをしたことを、叱ることまでしたそうです。そんなことは必要ないと考えたのです。
　まぁちょっとこれは極端だとは思いますし、私たちや他の教会がそのままマネできるものでもないし、またマネすべきではないと思います。安直な考えでマネをすれば、失うもの、見落としてしまう大切なものも多いでしょう。やはり親密な人間関係には素晴らしさがあります。
　しかし、なぜ竹森先生が、親密な人間関係をいわば禁欲したのか、というその心は、学んでおく必要はあると思います。（そこにもたくましい教会に成長する一つのヒントがあると思います）
　神の家族である教会の交わりを形成するのは、人間関係ではなくて、【神のみこころ】なのだということが分かってくる。
　そのことは、使徒信条の文章にヒントがあります。この使徒信条という文章は、12使徒たちが、聖書全体を要約して告白したことばだと言い伝えられています。
　それでその、最後の方に、われは聖霊を信ず、から後の文章ですね。聖なる公同の教会、聖徒の交わり、ですね。
　この聖徒の交わり、というのは、聖なる人たち、といっても聖人君子ではなくて、皆さんのことです。動画の向こうの皆さんのことです。イエス様を信じて、神の所有とされた民のことを、聖徒、と呼びます。その神の家族としての交わり、ということですが、実は聖徒の交わりというのは、もう一つの翻訳ができるんです。ラテン語で書かれているんですけれども、聖なるものの交わり・聖なるものの共有、と両方の翻訳ができる。そして使徒信条の研究によれば、どっちの訳が正しいというわけではなくて、両方なんだと、ということですね。互いが互いの読み方を教え合っている、補い合っている、ということです。
　つまり聖徒の交わり、神の家族としての交わりというのは、【聖なるものを共有することによって作られる交わり】なんだ。ということですね。
　ではこの聖なるものとは何か？これが答えを言えば聖礼典なんです。聖礼典とは、つまり、洗礼と聖餐です。
　つまり使徒信条が語っている、聖徒の交わり、神の家族の交わりとは、何よりも洗礼と聖餐を共有することによって成り立っているということです。
　これはエペソ人への手紙第4章5節で、
 
主はひとり、信仰は一つ、バプテスマは一つです。
 
　と言われている通りですね。私たちは皆、一つのバプテスマ、一つの洗礼にあずかっているから一つなのである。
 
　神学者であった竹森満佐一先生は、そのこといつも心に刻みつけていたのでしょう。教会の交わりは、お互いの親しさに基づくものではない。それは神のみこころに基づくのだ。できごととなったキリストのみによって、成り立つことなんだ。キリストがいのちを注ぎ込んで、召し出して下さっていることによって、教会という神の家族が成立しているということが、決定的に大事なことであるわけです。
　ですからこの聖なるものを共有する交わり、の「聖なるもの」の中に、「説教」を入れることも当然可能であると思います。「十字架と復活のできごと・罪のゆるしと永遠の命の宣言」というその人を作り変えてしまうできごとが起こる聖なることば、を共有する交わり。もっと分かりやすく言えば、「あなたを愛してる」という神様からのことばを共有する交わりである、ということです。ここで起こっていることは、牧師・説教者も、一緒にイエス様からの宣言を聞いている者としてそこにいるわけです。
　だからある牧師先生は、若い頃でしょうか。ある教会で、伝道牧会に励むその最初の時に、先輩の牧師先生からこう言われたそうですね。「説教と聖礼典がないがしろにされない限り、何をしたっていいんだよ」
　「説教と聖礼典がないがしろにされない限り、何をしたっていいんだよ」(もちろん何をしたって、と言っても、聖書に反することをしてもいいということではありません)つまり、説教と聖礼典、その聖なるものを共有していることが、何よりも大事なことであって、私たちが神の家族であるというのは、ただキリストのいのちを共有している、ということです。
そうするならば、50節のみことばは、絶対に律法主義的には聞けないみことばだということも分かってきます。
 
50だれでも天におられるわたしの父のみこころを行うなら、その人こそわたしの兄弟、姉妹、母なのです。」
 
　と。ここでは女性がいますから、12弟子以外の弟子たちも入っているでしょう。イエス様がその弟子たちの方に手を伸ばされて、ある人の前では、んんっ！！とちょっと手を止めて、いや、この人は天におられるわたしの父のみこころを行なってないなぁ。じゃあここからここまで、ここからここまでが、わたしの兄弟、姉妹、母なのです！と宣言されたでしょうか？もちろんそうではありません。
　ここでいう父のみこころを行うということは、キリストのみわざのことです。そうすると、私たちがなすべきことは、一つ、ということになります。「あなたは、キリストの十字架と復活によって罪ゆるされました！永遠のいのちが与えられました！」という、これを受け入れることです。これが父のみこころを行う、ということです。
　主イエスは、今ここにぐうっと手を伸ばして、「あなたたちはわたしの兄弟、姉妹だ、わたしの家族だ」とおっしゃっています。
 
　とするならば、私たちはもしかしたら悲しみも覚えつつ思い起こすかも知れません。4年前の高知クリスチャンセンターの閉所の時に、離れてしまった兄弟姉妹です。もちろん、別の教会につながって、福音の説教と聖礼典にあずかっているならいいですが、そうしていない人たちもいるのです。
　その人たちを教会の礼拝に誘っても、またみことばや聖餐を携えて行って届けても、どうしても全くのれんに腕押し、ということもあります。何年も礼拝にも、聖餐にもあずかっていない方もいらっしゃるでしょう。ではそれならば神の家族ではないんでしょうか？そんなことは断じてありません。高知クリスチャンセンターが閉所した最後の礼拝の時、私は説教でこういうことを語りました。「先ほど讃美で『キリストイエスを基として』を歌い、『一つに生まれ、一つに伸び、一つに食し、一つに生く』と歌いましたけれども、これから解散するのに『一つ』とはどういうことか？と訝られたかもしれません。しかし、離れれば一つではなくなるのでしょうか？」そう語りました。
　離れれば一つではなくなるのではありません。家族でなくなるのではありません。やはり、福音の説教のことば、罪のゆるしと永遠のいのち、そして一つの洗礼・一つのバプテスマを共有しているのです。この洗礼は、どこの教派のどこの教会で受けたとか、誰々牧師から受けたとか、そういうことは全く関係がないのです。父と子と聖霊の御名によって受けたということが、「一つの洗礼」と呼ぶ根拠です。
　
　また、さらにこの神の家族、神の兄弟姉妹、とは、この時代において、全く新しい大きな広がりをもって響いてきます。
　先ほど私は、離れてしまった兄弟姉妹、と申しましたけれども、カトリック教会が第二バチカン公会議で、プロテスタントのことを「離れていった兄弟たち」と表現しました。
　これは今では何でもない表現のようですけれども、当時では画期的なことだったと思います。それまでカトリック教会が、少なくとも公式には、プロテスタントの人を「兄弟姉妹」と認めたことはなかったと思います。
　それを覆したこともあって、それ以来、カトリックとプロテスタントの交流や対話が盛んになされるようになりました。
　もう10年近く前になりますが、2016年(10月31日)には、宗教改革500周年を記念して、カトリックとプロテスタントの共同司式による祈りの集いが、テゼの修道会の働きもあって実現しました。これも、互いに主イエスが作ってくださった神の家族、兄弟姉妹、として認め合ったことから実現して行ったことです。こういったエキュメニカルな動きは、さらに進んでいるでしょうけれども、カトリックとプロテスタントのように、互いに考え方、また教会のシステムが異なる同士であっても、それぞれが大切にしているものを壊さない範囲であれば、一致協力ができるということを示す良い例だと思います。
　そして神さまが多様な教会をこの地上にお創りになっている理由は、突き詰めれば人間というものが多様だからだと思います。教派がたくさんあること自体が一致していなくてダメだというご批判をいただくこともあるんですけれども、むしろ、歴史の中で様々な教派は、人々のうちにある何らかの要請によって生まれています。それまでの既存の教会では無かったものを補う教会が、―わざと分裂と混乱を起こそうとしているのでなければ―相互補完的に、別の地に開かれる、という、そんなふうに色んな教派の教会が生まれて行った、きっとそういうことなのだと思います。
　そのように世界大に（違いつつも）一つである、主イエスが召し出された、聖なるものを共有する神の家族、というものが、私たちの目の前の世界に大きくに広がっている景色であり、主イエスが心に思い浮かべておられた、一面の金色の麦畑の広がりなのです。それがまさに、新天新地で完成する、天国の神の家族の表れなのです。その神の家族が一つであることを示す聖餐に、ただ今より共にあずかります。
 
お祈りいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様は主イエス・キリストをこの世にお遣わし下さり、私たちを神の家族にしてくださいました。私たち一人一人を、私の兄弟、姉妹、また母なのです。と呼んでくださいました。なんということでしょうか。主イエスの肉親の絆よりも強い絆を、あなた様は結んでくださいました。このお方は私たちを兄弟と呼ぶことを恥とはなさいませんでした。それよりも私たちは、性格が合うとか合わないとか、考えの前提が一緒とか異なるとか、近い距離にいるとか適度な距離感を保っているとか、そういうことは関係なく、そういうことを越えて、あなたがたはわたしの家族なのだ。と主イエスは呼んでくださいます。心から感謝して、主イエス・キリストの御名によって祈ります。アーメン。