📗【文書版】✴️礼拝メッセージ『憐みの一しずく』　2024年11月24日 新約聖書　マタイの福音書第11章2～6節

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
📗礼拝メッセージ『憐みの一しずく』　2024年11月24日
 
新約聖書　マタイの福音書第11章2～6節
 
2　さて、牢獄でキリストのみわざについて聞いたヨハネは、自分の弟子たちを通じて
3イエスにこう言い送った。「おいでになるはずの方はあなたですか。それとも、別の方を待つべきでしょうか。」
4イエスは彼らに答えられた。「あなたがたは行って、自分たちが見たり聞いたりしていることをヨハネに伝えなさい。
5目の見えない者たちが見、足の不自由な者たちが歩き、ツァラアトに冒された者たちがきよめられ、耳の聞こえない者たちが聞き、死人たちが生き返り、貧しい者たちに福音が伝えられています。
6だれでも、わたしにつまずかない者は幸いです。」


　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 
　先日「大竹まことのゴールデンラジオ」というのを聞いていましたら、「従順さのどこがいけないのか」という本をお書きになった将基面貴巳(しょうぎめんたかし)さんという方が出演してインタビューに答えていらっしゃいました。
　今、ニュージーランドで大学教授をしていらっしゃる方ですけれども、そのご著書の「従順さのどこがいけないのか」というタイトルの通りに、従順さというのは日本では普通、美徳とされますね。そしてそれは上位の者、権力者、権威者への従順さ、ということになりがちなんですけれども、それは必ずしも良いことではない場合もある、ということをお話していらっしゃいました。
　キリスト教や聖書についても話しておられたんです。欧米では、日本とは考えが違う。神、または聖書、という絶対的な権威があるので、その前には誰であれ相対化されると。つまり、どんな権力者の権威であっても、神や聖書に比べればそれは大したことがない、と。
　将基面さんはちゃんと、聖書の御言葉を引用しておられて「人に従うより、神に従うべきです」という使徒の働き(5:29)のことばを紹介して、欧米では、権力者が、神に逆らっている場合は、それに従ってしまうと、結果的に悪を行なってしまうことになると。だから、権力者が悪を行なっている時には、従わない方がいいし、批判もするべきである、という前提があるけれども―これは私たちが「キリスト者の抵抗権」と呼んでいるものですね―、日本ではなかなかそうならない、と。そういうことに問題意識を感じて、そのご本をお書きになった、ということがあるみたいですね。
 
今日、神のことばとして共に聞きましたマタイの福音書第11章2節以下には、まさにそういうことの見本のような人物が出て来ます。バプテスマのヨハネ・洗礼者ヨハネです。
バプテスマのヨハネと言えば、皆さん何度も説教でお聞きになっている人物だと思いますが、皆さん彼にどんなイメージをお持ちでしょうか？恐い顔をしながら激しい説教をする人物、厳しい人、頑固な人、いごっそう、龍馬のような反骨精神にあふれた人、と言ったら少し違うでしょうか？ヨハネの場合は、神を恐れるがゆえに、反骨精神のように見える行動をしたわけですから、ちょっと質が違うわけですね。
反骨精神のように見える行動は、2節でヨハネが牢獄にいたまさにその理由に当たるものです。なんで牢獄にいたのでしょうか？それは、権力者であるヘロデ王を忖度無しに批判したからですね。
ヘロデ王と言っても、正確には王ではありません。国主と言います。お父さんのヘロデ大王とは違って、ローマ帝国から王のタイトルまではもらえなかったんですね。四分割領主とも言われている、ヘロデ・アンティパスという人です。
この人が、略奪婚をしまして、人の妻を取っちゃったんですね。兄弟フィリポの妻ヘロディアを自分の妻にしました。その結婚は神の教えである律法にかなっていない。不法です、と批判しましたから、牢に入れられた。これも理不尽な話です。ヨハネはローマの法にも、ユダヤの律法にも触れたわけではないでしょう。けれども、どの時代の権力者でもやりがちなことは、自分にとって都合の悪い言葉を語る者の口は封じてしまう、そのことばを消してしまう、ということです。
けれどもヘロデ・アンティパスは、ヨハネが民衆から預言者と呼ばれて大変な人気だったものですから、簡単に殺せないでいた。妻のヘロディアとしては自分の結婚を批判されたわけですから早くヨハネを消したかったでしょうけれども、ヘロデの方は牢の中のヨハネの教えに、非常に困惑しながらも、彼のことばには何か本物があると思って、耳を傾けていたわけですね。
ヨハネは捕まる前に荒野にいて、ヨルダン川で洗礼運動をしましたが、この荒野にいて、らくだの毛衣を着て、腰には皮の帯をしめて、イナゴと野蜜を食べていたという風変りなライフスタイルをしていましたけれども、このライフスタイルは、一つは神のことばをまっすぐに語ることに役立ったと思います。
というのは、旧約の時代の王様のおかかえ預言者のような何らかの経済システムの中に組み込まれてしまえば、生活を人質に取られると、言うべきことを語りにくくなることもあるでしょうし、そういう意味では何にも依存しない、自然の中だけで生きるというのは理にかなっていたかもしれませんし、そもそも荒野で生活するのが、旧約時代からの預言者の伝統になっているのは、荒野というヘブライ語が、「ことば」というのを含んでいるからなんですね。神のことばなんです。古代ユダヤでは、荒野っていうのは、神のことばを聞く場所という伝統があって、それもそうですよね。人がたくさんいるところでは、「小さくか細い」神のことばは聞こえにくい。だからこそ、何もない荒野に出て行って、神のことばを聴くことに集中する伝統があったわけですね。
 
だからこそヨハネは、それをまっすぐに語っただけである。神から与えられていた特別な感性と鋭さもあったでしょう、父親から、「生まれる前に、神からお告げを聞いた」とも聞かされていたかもしれません。母の胎内にいる時から聖霊に満たされていました。
そういうわけですから、見抜くことができたのです。大人になってから、主イエスに出会った時、「見よ、世の罪を取り除く神の小羊」と言いました。イエス様から「洗礼を授けてほしい」と言われた時に「めっそうもない。私こそあなたから洗礼を受けなければなりませんのに」と一度は断りました。イエス様のことを「わたしはこの方の靴の紐を解く値打ちもない」と言いました。靴の紐を解くのは奴隷の仕事です。しかも古代ユダヤ人の奴隷はやらなかった卑しい仕事とされていました。私はその方の前には、それさえする値打ちもない。それはヨハネの行き過ぎた度の過ぎた謙遜ということではなくて、この主イエスというお方は、私など比べようもない偉大なお方だ、と言っているわけです。
つまり、メシアだと見ぬいていたわけですね。
　そしてヨハネは、自分自身についても正しい認識を持っていました。私はただ「荒野で叫ぶ者の声」だ、声に過ぎない、と言いました。ではその「声」は何を叫ぶのか？世の中や権力者の不正を糾弾する声なのか。いいえ、それは結果の一つにすぎません。人々に悔い改めというか神に立ち帰ることを迫るんです。そのためにその人々の罪を責めるわけです。誰であってもヘロデ・アンティパスであっても分け隔てなく責めた。これらのことは、「私の後に来られる方」のためだとヨハネは言います。私はこの方の露払いだ。前座だ。この方、つまり真打であるメシア、主イエスによって神の国の到来の本番が始まる。「メシア」ということばこそヨハネは使わなかったかもしれませんけれども、こういうことをヨハネは言っていたわけですね。
 
　ところがヘロデによって牢屋に長く閉じ込められておりますと、心が揺らいでくる。ヨハネの弟子たちと面会はできたし、彼らを使いにやって色々外の世界の情報を得たり誰かにメッセージを伝えたりすることなどはできたようですが、見るのは来る日も来る日も牢獄の壁ばかり。しかも弟子たちを通じてでしょうか。看守から聞かされてでしょうか？聞くのは、こんなはずではなかったんではないだろうか？私が人生をかけて、命をかけて信じてきたことや、ライフワークとしてきたことは、正しかったんだろうか？という心がもたげさせるようなことばかりなんです。
　ヨハネは、自分自身も口から火が出るような激しい説教をしましたが「私の後から来る方は―つまりイエスは―手に箕(み)を持って、脱穀場を隅々まできれいに、麦を集めて倉に入れ、殻を消えることの無い火で焼き払われる」とも言いました。つまりこのメシアは、厳しい裁き主として来られる。不正を見逃さず悪を糾弾して打ち滅ぼし、神の国を建て上げ、正義をもって治められる、そういうメシアのはずだった、と思ったんです。
　ところが伝え聞くのは、正義どころか、悪でしかない、ローマ帝国の手先となって売国奴と呼ばれるような取税人とか罪びとと呼ばれる人たちと楽しそうに宴会をしているそうじゃないか。それが一体全体、神の国の到来なんだろうか？そう疑問に思ってのことでしょう。ついに彼は弟子たちを主イエスのもとに遣わして、質問をさせるのです。けっこうクリティカルな(核心を突いた)質問です。
　
「おいでになるはずの方はあなたですか。それとも、別の方を待つべきでしょうか。」
 
　「おいでになるはずの方」とは、「きたりつつある方」または「今来てくださっている方」です。つまりメシアを指します。するとこの意味は平たく言うとこうですよね。「やはりあなたはメシアでは無かったのですか？それならそうとおっしゃってください。あなたにこれ以上期待をかけるのはもうあきらめますから」ということですよね。
　
　そこで主イエスはお答えになります。直接は「わたしはメシアだ」とか「わたしはメシアではない」とはおっしゃいませんでした。間接的にお答えになります。
 
4イエスは彼らに答えられた。「あなたがたは行って、自分たちが見たり聞いたりしていることをヨハネに伝えなさい。
5目の見えない者たちが見、足の不自由な者たちが歩き、ツァラアトに冒された者たちがきよめられ、耳の聞こえない者たちが聞き、死人たちが生き返り、貧しい者たちに福音が伝えられています。
6だれでも、わたしにつまずかない者は幸いです。」
 
これは旧約聖書のメシア預言と呼ばれることもある箇所の引用なんですね。イザヤ書です。まず第35章5～6節です。
 
旧約聖書　イザヤ書第35章5～6節前半
そのとき、目の見えない者の目は開かれ、
耳の聞こえない者の耳は開けられる。
そのとき、足の萎えた者は鹿のように飛び跳ね、
 
　そして、次にイザヤ書第61章1節です。
 
旧約聖書　イザヤ書第61章1節
神である主の霊がわたしの上にある。
貧しい人に良い知らせを伝えるため、
心の傷ついた者を癒やすため、
主はわたしに油を注ぎ、
わたしを遣わされた。
捕らわれ人には解放を、
囚人には釈放を告げ、
 
　この二つのメシア預言はメシアが来られたらこういうことが起こるという預言です。その二つをイエス様は組み合わせて語られたわけです。つまり、わたしが来てからこういうことが起こっているではないか。それを見て悟りなさい、とおっしゃっているのです。
　
　ところで、イザヤ書第61章の方には、「捕われ人には解放を、囚人には釈放を告げ」ということばがありますが、少なくとも主イエスは、バプテスマのヨハネに対しては、文字通りのこれをなさいませんでした。これは大変厳しいことのように思えます。バプテスマのヨハネが処刑されるままにしておられた。ヨハネはヘロデに首を斬られて殺されてしまいます。主イエスはその神の力によって、12軍団の天使を遣わして、ヘロデの持つ兵隊たちを蹴散らして、ヨハネを牢から助け出すこともできたでしょう。けれどもそれをなさらなかったのは、もちろんヨハネを愛しておられなかったからではありません。愛しておられました。それなのに地上の権力に立ち向かってそれを打ち倒すことによってヨハネを死から逃れさせる、ということの理由には、次のことを考えてみるとよいのです。
 
　興味深いことに、昔からこのマタイの福音書の5節の(映すだけ)
 
5目の見えない者たちが見、足の不自由な者たちが歩き、ツァラアトに冒された者たちがきよめられ、耳の聞こえない者たちが聞き、死人たちが生き返り、貧しい者たちに福音が伝えられています。
 
書き方に、疑いを持った人がいました。どこに疑いを持ったかと言うと、「死人たちが生き返り、貧しい者たちに福音が伝えられています。」というこの順序についてなんです。どうして「死人たちが生き返り」という言葉が最後に来ないのかということです。死人がよみがえらせられるということこそ、決定的に大事なことではないか。実際にそう考えて、自分の聖書を書きなおした人さえあります。「聞こえない人は聞こえ、貧しい人びとは福音を聞かされ、死人は生きかえる」というふうに変えたんです。
けれども、長い教会の歴史の中では、一般に人々はそうは理解してきませんでした。やはり死人が生き返ることよりも、もっと大事なこととして、貧しい人たちが福音を聞いたのだということを受け止めました。その方が重いんです。しかも貧しい人というのは、今経済状況がこのくらいだから、うちはその貧しい人に入る、うちは入らない、ということではなくて、主イエスが山上の説教のはじめに「幸いなるかな！心貧しき者！」と宣言してくださったことの意味から、神様以外に何も頼ることもできない、そういう者は幸いだ、ということであるし、経済状況によらずしてそういう者たちに福音が聞かされていることこそが、死人たちが生き返ることよりも決定的に大事なことである。
この福音とは、もともと良き知らせ、グッドニュース、戦争に勝ったぞ、ということを知らせる勝利の知らせのことを言います。抑圧されている民にとっては解放の知らせなんです。福音、ゴスペル、グッドニュースとは、「解放を告げる言葉」なんです。それがヨハネの弟子たちを通してヨハネに告げられる、というのはおかしなことかもしれません。しかし、あなたの思い通りのメシアではないかもしれないけれども、ごらん、あなたの弟子たちがわたしのところで見聞きしたことをよく聞いてみるがいい。喜びの言葉が語られ始めている。神の勝利が語られ始めている。解放のわざが始まっている。わたしがそれをしている。神の勝利は主イエスのみわざと深く結びついているのです。
何よりも、目の見えない人、足の不自由な人、ツァラアトの人、耳の聞こえない人、そして死んだ者という人びとの悩みの中に踏み込んで、そこで主イエスは共に生き、共にはらわた痛むほどにあわれんで、悲しんでいてくださっています。そして結局はどこに赴かれたのか。あのゴルゴタの丘にです。あのゴルゴタの丘の上の十字架に向かって行かれました。その十字架の死に至るまで歩き続けるご自分のわざとことばとを語りながらヨハネに言われたのです。あなたは死ぬかもしれない。しかし、福音のことばは語られ始めている！わたしも死ぬ。あなたが殺されて行くように、わたしも殺される。いや、あなたが死ぬようにではない。わたしはすべての人の罪の呪いを背負って、魂までも神から引き離された地獄を味わって死ぬ。しかし、そこで福音が始まっている！解放が始まっているのだと！
主イエスは、ご自分の持って来られた火を、権力者たちを焼き尽くすためにお使いになりませんでした。かえって、十字架の上でご自分を焼き尽くすためにお用いになりました。罪に対するさばきは、すべて主イエスがその背負ってくださいました。主イエスはヨハネの弟子たちに対して、イザヤ書第35章4節の
 
「見よ。あなたがたの神が、復讐が、
神の報いがやって来る。」
 
　は引用なさいませんでした。6節の、
 
そのとき、目の見えない者の目は開かれ、
耳の聞こえない者の耳は開けられる。
そのとき、足の萎えた者は鹿のように飛び跳ね、
 
　ということばを引用なさいました。そして、愛情に満ちた追伸を手紙に添え書きするかのように、主イエスはご自身に洗礼を授けた人に向かって、あの山上の説教の8つの幸いに、もう一つの幸いを付け足されました。「幸いだ！ヨハネよ。失望する心に飲み込まれずにいるあなたは！」
　
　ヨハネが望んでいたのは、大波のようなメシアが現れること―誰もがメシアと認め、すべてを押し流して一掃し、神は全能であり正義に満ちた方であると証言するメシアが現れること―でした。しかし、そのかわりにヨハネに与えられたのは、イエスというお方からポタリポタリとしたたり落ちる、憐みのしずくでした。
　ヨハネに、主イエスが直接お答えにならなかった理由がここでも分かります。主イエスは今でも、「あなたは本当にメシアですか？」というその問いに、その憐みのしずくを受けて、解放されたひとりひとりの小さな人々をお見せになります。この人たちが救われている、ここに確かに神の国の現実が始まっている。小さくても、生き生きと動き出している。主イエスというお方について来た人たちから、ポタリ、ポタリと絶え間なくしたたり落ちて来る、憐みの一しずくを用いて、主イエスは今でも、この世界の片隅に追われている多くの人たちに対して、医者としてふるまっておられます。いっぺんにではなく、絶え間なく、一滴また一滴、千年、二千年をかけて、主イエスが生きられたように、主イエスが愛されたように、キリスト者が人々の魂と被造世界を愛して行動するその時、しずくがもう一粒落ちて来ます。そんなことでは全然足りない、と言う人もいるかもしれません。けれども、これが、メシアが、今私たちをお用いになって働かれるために、お決めになったやり方なのです。この主イエスにつまずかない者は幸いである。
 
お祈りいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様は、御子主イエス・キリストをこの世にお遣わしになり、解放を告げて下さいました。私たちの思い描くメシアではない、ヨハネのようにこの方は本当にメシアだろうか？この方に本当に人生をかけて良いのだろうか、と不安になることがたとえあったとしても、それは正直なことかもしれません。しかし、あなた様は、より素晴らしい絵を今日、見せて下さいました。ポタリ、ポタリと一しずく、一しずく、恵みのしずくが滴り落ちる時に、私たちは主のはらわた痛むほどのあわれみを受けて、罪の赦しと永遠のいのちの約束と、魂の底からの慰めと平和を受けて、また世界の片隅に置かれた人々に、ポタリ、ポタリ、ひとしずく、ひとしずく、恵みと愛のしずくが滴る時、人々は目立つメシアではなくて、片隅のメシアに出会うことでしょう。そのように、あなた様が私たちを通して働き、人々に出会ってくださいますように。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。