📗【文書版】📗礼拝メッセージ『狭き門』　2024年7月28日

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
📗礼拝メッセージ『狭き門』　2024年7月28日
 
新約聖書　マタイの福音書第7章13～14節
 
13　狭い門から入りなさい。滅びに至る門は大きく、その道は広く、そこから入って行く者が多いのです。
14いのちに至る門はなんと狭く、その道もなんと細いことでしょう。そして、それを見出す者はわずかです。


主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 
　（今日は、手術の後で、マウスピースを口にはめていますので、いつもより1割くらい言葉が明瞭さに欠けますが、なるべくハッキリ話しますのでご容赦いただきたいと思います。）皆さんは、今話題の、こちらの本をご存じでしょうか？

(これは高知県出身の三宅香帆さんという文芸評論家の方が書かれた本です)私も先日買いました。「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」（帯に疲れてスマホばかり見てしまうあなたへと、ありますけれども）（皆さんはもうお読みになったでしょうか？）
　このタイトルをお聞きになって、本が読めなくなる原因、その答えは何だと想像なさるでしょうか？まぁすぐに思い浮かぶのは、長時間労働の方も多いですので、時間が無い、ということだと思います。
　でも、これ、ブラックな会社に勤めていたら別ですけれども、時間って工夫すれば作り出せるわけですよね。スキマ時間に読む、ということもできるわけなんですけれども、そこじゃないんだと。そこで一つの例として、著者の三宅香帆さんは、大ヒットした「花束みたいな恋をした」という映画のカップルを例にあげるんです。
　これは恋愛映画ではあるんですけれども、麦と絹というカップルが出て来ます。2人とも、小説や漫画といった文化がとても好きで、でも、男性の方の麦さんの方が、だんだん会社人間になっていくんですけど、それにつれて、本棚に並ぶ本が変わって行くんですね。小説などは無くなって、自己啓発本やビジネス書ばかりが並ぶようになっていくわけです。そして、家で空いた時間には、死んだ目でスマホのパズル＆ドラゴンズというスマホアプリでゲームばっかりやっている、ということを例に出して、時代にもよるし、どんな職種かにもよると思いますけれど、労働と読書というのは相性が悪いということを、明治時代からひも解いて行くんですね。
　これはでも、私たち多かれ少なかれ経験していることではないでしょうか？何か会社勤めをしていると、昔は手が伸びた小説などに、何かよく分からない拒否反応が出たり、興味が薄れている自分に気が付いたり、いややめとこう、こっちのビジネス書や、自己啓発本の方がよさそうだと思って、結局そっちをレジに持って行ったりするということが私にも昔あったんですけれども、皆さんはいかがでしょうか？
　これは実はですね、著者の三宅香帆さんは、「ノイズ」という切り口で説明するんですね。「ノイズ」これが見事でして、脳の中のノイズを取り除くことが、実はビジネスに一直線に進むことに役に立つわけです。
　そういう意味で、―私なりの言葉に言い換えると―自己啓発本はたいてい、言ってみれば心の中を、ビジネスに最適化するように、チューニングしてくれるわけですね。余計なことを考えないようにしてくれる。(スマホゲームもそれに一役買ってくれるわけです)それの一番古いものが、日本では西国立志編(自助論セルフヘルプ)というものです「天は自ら助く者を助く」ということばが有名ですね。今思えば自己責任論みたいな響きがする言葉ですね。
　ところが、小説というのは、ノイズだらけであって、読み進めると次に何が来るか分からない。さらには、ある架空の国や会社などを描く小説なら、そこの矛盾であるとか、全体の構造というものにハッと気づかせてくれるような展開があるわけですね。そうやってフィクションを通して、何か現実の社会の矛盾を突く、というような小説ってあるわけですね。そういうのを読んでしまうと実はある意味で都合が悪くて、というのは、一直線に儲けるとか、稼ぐとか、出世の道をわき目もふらずにひた走るとか、そういうことの邪魔になってしまうわけですよね。
　というわけでだいぶ私なりに単純化して乱暴にまとめた感じもありますけれども、このノイズという切り口から解き明かすという、三宅香帆さんの視点は凄いですよね。
　
　で、なぜその話をしたかと申しますと、二、三十年前から言われるようになって、今特にそれがさらに進んでいますけれども、どんどん、何か勝ち組に入って行くように努力せよとか、そこから落ちた者は自己責任であるとか、何かまるで椅子取りゲームの椅子を増やすとか、何か社会全体を良くして行こうではなくて、椅子取りゲームの少ない椅子に座る努力をしていこうという、そういう風潮がますます強くなっているんですね。
　それは、多くの人が行きたがる道です。多くの人が殺到しています。他にも、今ですね、ＦＩＲＥ(ファイナンシャル　インディペンデンス　リタイア　アーリィの略)の生き方、というのがありますよね。これは若いうちに資産形成をして早期退職し、その後は投資の運用益によって暮らしていくという、まぁこれも言ってみれば椅子取りゲームで勝って行く道ですね。
　どういうあり方を目指すにしても、自分だけが勝って行く道がですね、言ってみれば、多くの人が歩きたがる道です。そして、社会全体を良くして行こう、という道を歩きたがる人は少ないと思いますね。これはですね、イエス様がおっしゃっている、大きい門、広い道、狭い門、狭い道、という対比と―もちろんイエス様がおっしゃっていることの方が遥かに深いことなんですけれども―通じるところがあると思うからなんですね。
 
　そして、今日の説教題は「狭き門」といたしました。それはこのイエス様のみことばの文語訳版ですけれども、このことばは本当に、日本語としてもとっても有名なことばになっています。
　一つは、アンドレ・ジイドの小説のタイトルになっていますね。それから、もっと多くの人が使うのは、なんと言っても受験なのではないでしょうか？東京大学とか、何か別の難関大学、入るのが大変難しい大学のことを「狭き門」と表現するわけですね。
　で、ある牧師先生が、東大が狭き門と呼ばれることについてこのように言っていました。
 
【たとえば東京大学の毎年の募集人員は、3000人を超えています(まぁ今は2960人と3000人を割ったりしますけれど)。隠れるところのない大きな立派な門です。けれども、なぜ、その大きくて立派な門が狭き門だと言われるかと言えば、そこに人が殺到するからです。そこに人が殺到した結果、狭い門になってしまいます。
そして、考えてみれば、なぜ、そこに人が殺到するかと言えば、その立派な門、立派な道こそが、命に通じると見えるからです。私の命を養うためには、その門をくぐり、その道に進むことこそが、一番良いことだと誰もが思うからです。】
 
　と(下線は大事だと思うので私が引かせていただきました)。こういうふうにですね、言っています。もちろん、東大に入るのに、自分のことは顧みずに、世のため人の為に学問をするんだ、と思っていらっしゃる方もいるでしょうけれども、自分の命を養うために、その門に入るのだ、と考えている人もあるでしょう。
 
　だからですね、入社するのが大変難しい会社のことも含めて、日本語で、狭き門、という時には、イエス様のおっしゃっている狭き門とは、ちょうど逆のような意味にすり替わってしまっています。
　日本語になっている「狭き門」とは、人気があって入りにくい門、しかしイエス様がおっしゃっている「狭き門」とは、人気が無い門なんですね。それは何かということは、後で触れることとします。
 
　で、ちょっとここのところイエス様のことばが、ことわざや格言レベルで使われていることについて、説教の中で何度か触れました。山上の説教は人々の心に、印象的に響きますので、ことわざや格言のように捉えられることがあるんですね。その場合、たいていこういうふうに説明されます。
　
　狭き門より入れとは、
【本当に自分にとって価値ある成果を得たいならば、困難な道を歩んでいくべきだ、ということ】
 
あるいは、
【楽で安易な方法を選ぶより、難儀な方法を選ぶほうが、りっぱな人間が育つことをいう】
 
　こういう説明がされるんですね。それはそれで良い意味があることでしょうが、どうもイエス様のおっしゃっていることは、それとは少し異なるようです。
　でもこういうふうな類の理解の仕方は、案外たぶん中世くらいから、教会が説いてきたことだと思うんですね。
　というのも、外国の教会に行きますと、このみことばを、民衆のために、わかりすい絵にしたものがありまして、

これなどは近代のものでしょうか。賭博場、遊技場が立ち並び、たくさんの人々が、華やかに遊び楽しんでゆったりと歩く広い道が描かれています。
　そしてそれと別に、教会堂がそばに立っていて、あるいは教会堂から出て教会堂に赴くような、ちょっと暗い感じの狭い道があります。
　しかし、それぞれの道の行く先を辿ると、狭い道のゆきつくところは、まばゆく輝く天国であり、もう一つの広い道は、恐ろしい地獄の中へと落ちて行く道です。これもまぁ単純化して稚拙な教えに変質してしまっていると思うんですけどね。教訓的な絵になっています。
　でこういうのをですね、より信仰的な面を薄くするか無くするかして、人生にあてはめて解釈すると、こういう
 
【本当に自分にとって価値ある成果を得たいならば、困難な道を歩んでいくべきだ、ということ】
 
【楽で安易な方法を選ぶより、難儀な方法を選ぶほうが、りっぱな人間が育つことをいう】
 
格言と同じようなものになってしまう、ということですね。
　こういうふうにイエス様のことばを格言化しますと、要するに安易な道で成功するのは広い門、そして厳しく険しい道で成功するのが狭い門、ということになってしまいそうです。
　ところがイエス様のおっしゃっていることは、安易な道で成功を目指すのも広い門、厳しくて険しい道で成功を目指すのも広い門ということになるんですね。
　つまり、厳しくて険しい道で成功を目指すのも、厳しくて険しい道で天国に入ろうとするのも、違うよと、イエス様はおっしゃっている。思い起こしていただきたいのですが、その、厳しくて険しい道で天国に入ろうとするのは、パリサイ人律法学者の道だっていうことなんです。
　これは、このマタイの福音書の第5章から7章の、山上の説教の中で語られたことだということも思い起こしてみましょう。山上の説教に一貫して流れていたものは何でしょうか？色んな切り口で色んな言い方ができるんですけれども、パリサイ人律法学者たちの律法主義への批判というものが、貫かれている。彼らは口伝律法(くでんりっぽう)という、イエス様が先祖たちの言い伝えと呼んでいる、口伝えの律法を沢山作りました。それはモーセの律法違反を犯さないための、周りに張り巡らせた垣だと言いました。これをやっておけば、あるいはこれをやらなければ大丈夫ですよって、そして重要度ではモーセの律法と同じだとに説きました。
これは当時の民衆に大変人気があったわけです。真面目に、自助努力をして、一所懸命律法を自分の力で守って、救われるというのは、人間の本能にもかなっているからです。
それは2000年前でも今でも変わりません。説教の最初の方でお話したように、あえて苦難の道を選んで、その道を歩んで、努力して、立派になって、成功しよう、それは学業でも、仕事でもそうであるし、努力して向上して行くのは悪いことではありませんし、むしろいいことだと言えます。
けれども、神さまの前でも、その法則でいいと思っている。これがまさに、わかりにくいけれども、人間の思いあがりであり、罪だということを、主イエスは鋭く突かれるのです。人間の自助努力で、神さまの前に立てると思っていること自体が、つまりその律法主義というのが、神さまのみこころとは、どんどんどんどん離れたところに行ってしまっているのです。なぜなら、自分の善行や功徳を積むことで、救われるんだったら、神さまはいらないんです。それは自分を信じているのであって、神さまを信じてはいないし、神さまを愛してもいない。イエス様は、山上の説教で一貫してパリサイ人律法学者のこのあり方を批判されて、そして、モーセの律法、神のみこころの本当のところを根っこのところからお語りくださいました。
しかし、それはそれは厳しいものでした。「殺してはならない」という律法の一つをとっても、相手に「ばか者」と言うだけで、燃えるゲヘナに放り込まれる。「姦淫してはならない」という律法の一つをとっても、情欲をもって女性を見るだけで、心の中で姦淫を犯したのである。
主イエスは、自分の力では、決して、律法の一つたりとも、守れないことを山上の説教全体を通して教えてくださいました。それではどうやって救われるのでしょうか？
　この13節の、最初の狭いということばは、そのまま「狭い」なんですけれども、14節の「狭い」と訳されていることばは、押しつぶされている、圧迫されている、ということばなんです。押しつぶされているから狭くなっているわけなんですけれども。
　押しつぶされている、このことばが、クリスチャンが経験する苦難や迫害を意味することばになりました。
いのちに通じる門はどうしてこんなに押しつぶされているのか？それは、いのちそのものである方を、私たちが押しつぶしたからです。だからこれは、十字架を予告することばでもあります。
ヨハネの福音書第10章9節では、「わたしは門です。だれでも、わたしを通って入るなら救われます。また出たり入ったりして、牧草を見つけます」とおっしゃって下さいました。実に主イエスこそが、この山上の説教で言われている門そのものなのです。
この主イエスという門を、私たち人間が押しつぶした。
主イエスの時代でさえ、主イエスという門を見出して、そこくぐって通って行く者はまれでした。これはほぼいないという意味です。
弟子たちでさえも、この主イエスの門を見いだせなかったのです。これはいのちの門ではないと思い込みまして、十字架の上に主イエスを捨てたのです。
 
律法の行ないでは救われないが、しかしこの主イエスの十字架に罪のゆるしと永遠のいのちがある。私たちはこの十字架を通って、救われる。ここに福音があります。
　
日本基督教団に平野克己先生という有名な牧師先生がいらっしゃいまして、この今日のみことばに関連して、もう10年位前になりますけれども、こんなことをおっしゃっていました。（今もなお全く色あせずに聞くべきメッセージ、いや、今こそ聞くべきメッセージだと思うんですけれども）
平野先生がアメリカの　デューク大学に赴いた時に、北東アジアの和解協議会というのが開かれたそうです。中国、韓国、日本、そして　北朝鮮の関係者の28名が集められて、この北東アジアにどうやって和解をもたらすことができるのだろう、ということを語り合ったそうです。
もちろん平野先生は日本人牧師としてそのメンバーとなっていたわけです。すでに日本、韓国、中国、北朝鮮　緊張が高まっていた時代だとも言えますので、その中に和解をもたらすためのクリスチャンネットワークを作っておこう
そういう志を立てる。
平野先生がその滞在していた折に、デューク大学の神学部が発行している新聞があって、そのインタビューを受けたそうです。日本からひとり、中国からひとり　韓国から一人、それぞれがインタビューを受けてその大学の新聞に載せられたのです。
参加したメンバーにとって　日本のクリスチャン・日本のキリスト者、あるいは日本の教会は、とっても不思議に思えるようです。
何よりも、これほどクリスチャンが増えない・キリスト者が増えない土地は世界中で珍しいのです。
韓国では一時期3割になったと言われました。中国でも1割あるいは2割がキリスト者になっていると伝えられることがあります。しかし日本ではいまだに、１％に満たない。いったいどうしてだろうか？そのことを聞かれたそうです。
あるいは、今日本の教会では若者が集まっているだろうか？日本の教会に若者が集まっていないならば、日本の教会はどのように考え何をしているのか？どうしてクリスチャンが増えないのか？その中で教会は何を考えているのか？などなど、矢継ぎ早に訪ねられたそうです。
平野先生はご自分で十分に答えることができなかったとおっしゃっていまして、しかし、そのインタビューがまとめられて、その記事に、記者が題をつけたそうです。
それは、その平野先生へのインタビューの中で、一番印象的に響いた言葉だったのでしょう
 
Don’t be afraid to be a minority. The word of God is still live in Japan. 
（私英語発音悪いですけれど）
「少数者になることを恐れないでほしい。神のことばは　今なお日本で生き延びている」
って。
 
平野先生はこのようにおっしゃるのです。
 
【アメリカでは教会がどんどんどんどん小さくなっています。もともとある程度の規模がある教会でしたから、小さくなってゆく悲しみはずいぶん深いものがあると思います。
あちらの教会もこちらの教会も閉じざるを得ない状況になる。そういうアメリカの教会に対して、日本の牧師として何かメッセージがあるか？と聞かれた時にこのように答えたのです。
少数者であることを恐れないでほしい。神のことばは今も日本に生き延びている。今も生き生きと生きている。ここに神のことばは生きているのです！
しかも、私たちのこの国は、隠れキリシタンの歴史を知っている国です
２５０年の間、あの隠れキリシタンの時代にも、神のことばは生き続けたのです！神のことばは　決して死ぬことがない！いくらキリスト者が殺されても！
どれほど迫害されても！このキリスト信仰を根絶やしにすることができなかったそのことを、私どもの国は知っているのだ。
 
けれども、少数者になることは恐ろしいことなのです。アメリカでは、多くのキリスト者たちが、そのことに震えている。
だからとても教会とは思えないような姿を、教会が示しながら、人をなんとか集めようとしているところがあります。
私共日本の教会もそうです。日本の教会も数がどんどん減っています。
30年後50年後、いくつ教会を閉じなければならないのかということが日本基督教団でも語られる。
数が減って行くことを恐れてはならないと思います。もっと恐ろしいことがある。それは、数が減っていくことを恐れるあまりに、教会を広い門に変えていくということです。
広い門に変えるためにはどうすればいいのか？主イエスキリストをいなくならせればいいのです。
そして誰でもが入って来られる、誰でもが安心していられる場所を築いたらいい。
 
主イエス・キリストはご自分のことを狭い門と呼ばれたのです。ご自分、自らおっしゃった。
少数者になっていく、主イエス・キリストに従う者はいつも少数者なのです。それは恐ろしいことなのです。
そのことは皆さんもよくご存じだと思います。
キリスト者は100人に一人なのです。他の99人とは異なる道を歩み出したのです。他の99人とは　違う判断をしなければならないことがある。違う道を歩まなければならないことがある。
この世界は、ある意味、残酷で暴力的な世界ですから、キリスト者もうっかりすると、同じように少しは残酷で暴力的でなければ生き延びられないと思ってしまう。
勝ち負けの世界です。勝ち負けの中で、多少ズルをしてでも先頭に出ないといけないと思いこんでしまうことがあるかもしれない。
そうしながら、自分が誰であるか忘れてしまう。人のまなざしだけがすべてになってしまう。そして主イエスのまなざしを忘れてしまうのです。
けれども主イエスは、「狭い門から入れ　そこにこそいのちがあるんだ」と私共を招いてくださっている。
門、主イエスに従うことです。
主イエスはヨハネ福音書でこうおっしゃった。
「わたしは門である。わたしを通って入る者は　救われる　その人は門を出入りして牧草を見つける」
主イエスに従う者は、狭い門を入って行く者は救われる、と主イエスはおっしゃいました。救われる、祝福と同じように、意味が分からなくなることばの一つです。
救われるとは何でしょう？死んだ後に天国に行くことでしょうか？それもあるでしょう。
あるいは、苦しんでいる心が慰められると言うことでしょうか？それもあるでしょう。
けれど、ある人は救われるということをこういうふうに言い換えました
「それは、他の人たちとは違う生き方ができるようになるということだ。自分にこれしかないと思っていた　それ以外の選択肢がある。そして違う道を歩んでいくことができるようになることだ。」
私はその定義が好きです。
私たちの時代はいつでもそうかもしれませんけれども、そのように生きて行けばよい、そういうことを約束してくれます。
けれどもある人は言いました。
「私たちの時代というのは、飲めば飲むほど乾く水を、欲しくなるように、そういうふうにする時代だ。」
また水が欲しくなる　飲めばまた渇くのです。
まだ水が欲しくなる　飲めばまた渇くのです。
ある企業に勤めていた人がこういうふうにおっしゃったことがある。
「自分はこの会社を、また企業を自由にしようと思って一所懸命働いてきた。そして社長になった。けれども社長になって分かったことがある。それは自分もまた、この企業に使われているということでしかない。と、そういうことです。誰がこの社会を動かしているか分からないのです。たとえ社長になっても自由になるわけじゃない。何か得体のしれないものが、この社会の歯車を動かしているようなのです。皆が、誰でもが、そのパーツの一つになってしまう。
飲めば飲むほど乾く水でしか生きていくことができない。なるほど、この社会で、生きる力を身に付けまして、社会の中で糧を得ていかなければならない。
しかし、もしもそれがすべてであるとしたら私たちには滅びしかない。違うでしょうか？
主イエスは、ご自分の門から入れとおっしゃる。狭い門から入って来い、とおっしゃる。その人は門を出入りして牧草を見つけるのです。いつまでも乾かない水がある、と主イエスはお約束なさる。
主イエスは、狭い門から入って来い、とおっしゃる。わたしのもとに入って来い、とおっしゃる。そしてその者を、世の光と呼んでくださるのです。
地の塩だと呼んでくださる。
たった、１％であるかもしれない　けれどもその私どものこの社会の９９人のためにあなた一人が必要なのです。
神さまは、私共から新しい時代を始めようとしてくださっている。いいえ、それはキリシタンの時代からずうっと連綿と続いているキリスト者の歴史を、私たちに担うように願っていてくださっている。】
 
そういうふうに言うのです。
　
　これは私たちにも、とってもとっても大事なことだと思います。そして、最初の「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という本の言っていることとも少し通じることでもあるでしょう。行き過ぎた資本主義の社会の中で、誰もが得体のしれない力に動かされている。そうして社会の歯車のようになってしまっていて、マモン・富の奴隷になっていて、それに自己啓発本などで、自分で自分を最適化して歩いている。飲めば飲むほど渇く水を、もっと欲しいもっと欲しいって、苦労して努力して成功を手に入れる道を歩もうとしている。こういう大きな広い流れがあるのです。
私たちも気をつけなきゃいけない。こうして礼拝場所として以前より広い場所をお借りすることができた、これは神様のお導きだと私は思っておりますし、神さまに感謝すべきことだと思っております。
しかしともすれば、うっかりすると、この場所を満たすために人集めをしなくちゃと思うことがあるのです。これは一つの誘惑だと思います。教会の中でも、ともすればありがちな言葉に「もっと楽しいことしないと人来ないよ」というのがあります。これはよくよく私たちは目を覚まして気付いていなければならないでしょう。それはおそらく、この世の成功哲学を、そのまま教会に持ち込んだ言葉なのかもしれません。それはおそらく飲めば飲むほど渇く水なんです。努力して成功しようという価値観に教会をチューニングして、教会の組織拡大をしようとする流れから来ることばなのかもしれません。（礼拝動画をコンテンツと呼ぶ動きについてあるクリスチャンの方が小さな危機感を覚えていらっしゃいました。呼び方がいけないから直しなさいとか、そういう発言をする人はいけないということではなくて、商品のように捉えることは、違うのではないか？ということをその方は言いたいわけですね。というのは、）
平野先生が、アメリカの教会が、教会とは思えないような姿を見せながら、何とか人集めをしようとしていると語っていらっしゃいましたが、それはおそらくこういった類いのことでしょう。私は数年前にインターネットでアメリカのある教会の記事を読みました。その教会は、射撃場を教会の敷地内に作って、それが話題になっているという記事でした。銃社会アメリカらしい記事だと思いますが、当然批判を浴びていました。愛を説くはずのキリスト教会が、人を殺すことのできる道具である銃を使って、人集めをしているのはいかがなものか、と。
ともすれば日本の教会も、そこまでではなくても、似たような発想をすることがあるかもしれません。そもそも人集めという発想自体がいけないのかもしれません。（人集めなら教会の自己目的でしょう。）そうではなくて、静けさから始めなければなりません。静けさ、主イエスの現臨からくる、深い慰めです。これを魂の底からほっとすることという意味で、ほっとチャーチとつけました。この魂の底からの平安、慰めから、その慰めで人を慰めて行くこと、そして、苦悩する人々といかに連帯して行くか、という思いが神さまから与えられます。そうして、地域で、世界で悩んでいる人びと、苦しんでいる人びとにどうやって仕えて行こうか、そういう思いから、地域への貢献が出て来ます。人集めではない。教会に人を引き込んでくるのではない。静けさから、祈りから、そして祈りから生まれる、人々への連帯から活動が始まります。あせって活動を始める必要は無い。急いで活動を始める必要は一切ないんです。神様の現臨に触れ続けるんです。人々へのとりなしの祈りを続けるんです。そこから連帯の心が生まれ、そこから行動が生まれるのです。
 
　主イエスはきょう、そういう道へと招いておられます。
 
お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
私たちは全員、広い門、広い道を歩きたがる傾向があります。そこにいのちがあると思いこむからですし、自分の努力で成功して行こう、という発想は、あまりにもこの世界で慣れさせられ過ぎていますし、とても説得力のあるように思えます。しかし、神の国のルールでさえ、そうだと思い込んでしまうことに、私たちの罪があります。しかし主は狭い門を見出させてくださいました。その狭い門とは、主イエスご自身です。その主の十字架のうち傷によって私たちのその罪を彼方に葬り去ってくださり、まことのいのちに生きるようにしてくださいました。主よ願わくは、この狭い門から来る慰めと喜びから生まれて来る、祈りと、他者への連帯から、人々に仕えさせてください。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。