📗【文書版】⭐️礼拝メッセージ『長血の女と会堂司の娘』　2024年10月6日 新約聖書　マタイの福音書第9章18～26節

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️
📗礼拝メッセージ『長血の女と会堂司の娘』　2024年10月6日
 
新約聖書　マタイの福音書第9章18～26節
 
18　イエスがこれらのことを話しておられると、見よ、一人の会堂司が来てひれ伏し、「私の娘が今、死にました。でも、おいでになって娘の上に手を置いてやってください。そうすれば娘は生き返ります」と言った。
19そこでイエスは立ち上がり、彼について行かれた。弟子たちも従った。
20すると見よ。十二年の間長血をわずらっている女の人が、イエスのうしろから近づいて、その衣の房に触れた。
21「この方の衣に触れさえすれば、私は救われる」と心のうちで考えたからである。
22イエスは振り向いて、彼女を見て言われた。「娘よ、しっかりしなさい。あなたの信仰があなたを救ったのです。」すると、その時から彼女は癒やされた。
23イエスは会堂司の家に着き、笛吹く者たちや騒いでいる群衆を見て、
24「出て行きなさい。その少女は死んだのではなく、眠っているのです」と言われた。人々はイエスをあざ笑った。
25群衆が外に出されると、イエスは中に入り、少女の手を取られた。すると少女は起き上がった。
26この話はその地方全体に広まった。
 
主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 
　もうこの1週間私は激しく激しく心が痛んでいました。めまぐるしくたくさんの状況が動いていて、イスラエルがパレスチナ、イエメン、シリアも攻撃していて、レバノンにも地上侵攻を始めました。イラクはイスラエルに宣戦布告をしました。
　さらにこれがイスラエルだけではなくて、ＢＢＣの報道によればアメリカとイギリスまでイエメンを爆撃していて頭をかかえるんですけれども、アメリカのトランプ氏は、イランの核施設を攻撃すべきなどと挑発的なことを言っています。平和がどんどん遠のいているように思えます。
　イスラエルはどうしてこんなに攻撃的なのか？現在のイスラエルという国が、世界中に張っていた煙幕というか嘘が、この1年でどんどん剥がれて、関心を持つ人には実体が見えてきていると思います。私もこの一年、大学教授などの中東問題のイスラムの研究者たち、沢山の方々の本などを読んで、実態が色々分かってきたところなんですね。
　たとえば、よーく聞くストーリーがあります。新聞にも載ることがあるし、教会でも広く広まっているストーリーだと思います。私もそれを信じ込んで語ったことがありますので、以前、誤ったことを語ったことがあったということで申し訳ありません。そのストーリーはこうです。紀元1世紀のユダヤ戦争、もしくは紀元二世紀の第二次ユダヤ戦争で、ユダヤ人が【追放されて】世界中に【散らされて】、そして20世紀になって、あの聖書ゆかりの現在のパレスチナの地に、悲願の帰還を果たしたというようなよくあるストーリーですね。
　しかし、これは、テルアビブ大学のご自身もユダヤ人でありますシェロモー・サンド教授によれば、「追放を記録した信頼できる文献は無い。19世紀にユダヤ人の歴史家たちが作った神話だった」ということを言っています。
　おまけにですね、パレスチナの地に入植してきた人たちは、ユダヤ人はユダヤ人でも、アシュケナジーとかアシュケナジムと言います。（お聞きになったことがあるでしょう）この人たちは、集団改宗でユダヤ教徒となったもともとのヨーロッパ人であるので、古代ユダヤ人の血を引いていない、ということですね。かえって、1世紀2世紀の追放は無く、ユダヤ人の子孫はその地にとどまっているので、古代ユダヤ人の血を引いているのは実はパレスチナ人だということなんですね。（近年の歴史の研究ではそうです。）
　そして、ユダヤ教の本来は、―イエス様をメシアと認めていませんので、今もメシアを待っているんですね―やがていつかメシアが来られて、それで武力や政治の力によらずして、約束の地にメシアが帰らせて下さるというのが、ユダヤ教の本来なので、今のイスラエル国家は、それから大きく外れているので、1948年の建国の時点から、もはや本当のユダヤ教とは言えないということで、イスラエル国内でも、正統派のユダヤ教徒、ラビたちはその正統な教えを保持しているからこそ、こんな国家は認めないと、そして特にこの１年間のガザほかでの虐殺に、警察に殴られるなどしても反対しているんですね。本当に立派だと思って頭が下がります。
　
　キリスト教終末論に、現在のイスラエル国家をからめて、イエス様の再臨と関係があるかのように語る終末論があるんですけれども、それは詳しく聖書解釈学に照らせば、じつは大きな穴があるんですね。それを語り出すと、神学校の授業みたいになりますので割愛しますが、私がなぜ中東情勢に心を砕いているかと言えば、人間の最も悲惨にされた状況がそこにあるからです。特にガザに。（日本のような先進国に住んでいるだけで、誰もが間接的にわずかずつ加担してしまっているのでなおさら、パレスチナ人のために何一つ声をあげなかったとしたら、もし教会が愛のわざに励んでも、そして神の愛や、神の義について語っても、それはむなしく響くでしょうし、ましてやイスラエルを応援する発信をするなら、愛とは逆のことをすることになるでしょう。）だから今日のみことばとも関係しますけれども、イエス様が最も小さく周縁に置かれた人々に愛のまなざしを向けられたように、私たちもそうしたいと思うからですね。苦悩する人々との連帯ということを、テゼの修道士ブラザーロジェなどは目指しました。私たちも目指したいと思うわけです。
 
　さて、今日、神のことばとして共に聞きましたマタイの福音書の第9章18節以下は、「長血の女と会堂司の娘」と題をつけましたように、2人のイエス様に癒していただいた、あるいは救っていただいた人が出て来ます。
　でも、この2人と、イエス様との出会いのできごとは、まさに小さくされた、もしくは周縁に置かれた人とイエス様との出会いの物語であるし、じつに私たちとイエス様との出会いの物語なんです。
　特にマタイの福音書はそういうところがあります。今日聖書朗読をお聞きになってお気づきになっている方がいらっしゃると思いますけれども、マタイは色々省略しているな、と感じられた方がいらっしゃると思います。ずいぶん短いという印象を持たれたかもしれません。
　とするならば、おそらくは、マルコの福音書か、ルカの福音書で覚えていらっしゃるのだと思います。ルカも長いけれども、特にマルコが一番長い、詳しく伝えてくれています。そして、この人物の背景やできごとのディティールなどを見れば、マルコなどが一番読むだけで面白いし、また感動的ですね。
　ところが、マタイは、長血という血が止まらなくなる婦人病になっていた一人の女性が、多くの医者に酷い目に遭わされた上何のかいもなく、かえって悪化し、財産を使い果たしてしまったことであるとか、イエス様に真実をあますところなく打ち明けたことであるとか、会堂司の名前がヤイロであったとか、娘が12歳であったとか、その娘が死にかけている段階ですでにイエス様に懇願しに来たこととか、長血の女とのやりとりが終わった後で、会堂司の娘が無くなったと言う知らせが来て、会堂管理者に「恐れないでただ信じていなさい」とおっしゃったことであるとか、ペテロとヤコブとヨハネの三人を特別訓練でしょうね、連れて、少女の家族と一緒に部屋に入ったことも省略して、まるで一人で入ったかのようにマタイは書いておりますし、少女を起こす時の印象的な「タリタ・クミ」というアラム語も省いています。というもう省略省略省略で、短く短く短く書いているので、この前のたとえば第9章の始めの、中風の人の癒しの記事の時に、屋根をはがしてつり下ろした場面を、マタイだけが省いて書いていないように、新聞記者が好んで描きそうな面白い描写を全部省いてしまった、マタイという人は話の面白さが分からん奴だ、という感想も、読む人によっては生まれかねないようなところなんですが、もちろんそういうことではなくて、マタイが意図していることがあるわけですね。
　それは、読者に、また朗読を聴く人に、「あなたの物語ですよ」「あなたとイエス・キリストの出会いの物語ですよ」「それが読まれた瞬間に起こっているんですよ」と言うためなんです。
ヤイロ、という固有名詞を省いたのも、そのことに集中させるためなんです。すべての人の悲しみが主イエスの恵み・慰めに包まれるように、なんです。これはヤイロ一人の物語ではない、あなたの物語ですよ。それを受け止めて、「これは私の物語だ」と、そういうふうに読むべきものなんです。
特に、福音書と呼ばれるものは、何もマタイに限らないんですけれども、そういうふうに読まれることを目的とした文書なんです。
これは、私の物語、私とイエス様の物語だ。
マタイという人が、すでに先に書かれていたマルコの福音書を自分で読み、これは私の救いの物語だと受け止めました。それで、今度は自分が福音書を書くことになった時に、なるべく普遍的なことばで書きなおそうとした。
そしてこのような父親のことばを伝えるのです
「私の娘が今死にました。私の娘です。しかし、あなたがおいでになってくだされば、あなたが手を置いてやってくだされば、娘は生き返ります。」
こういうことばをマタイは書きながら、これはあなたのことばですよ。あなたの祈りですよ。あなたとイエス様の物語ですよ。そう語っています。
しかし、このような父親のことばがどのような場面で、どのような文脈の中で語られたのでしょうか？
案外大切なのは18節で、
「イエスがこれらのことを話しておられると、一人の会堂司が来て」
　こういうふうに書かれています。
「これらのことを話しておられると」どれらのことを話しておられたのでしょうか？
それが先週のおさらいになりますけれども、先週は、新しいブドウ酒は新しい革袋に、でしたね。花婿イエス様との、喜びの婚礼に入ったんだ。弟子たちは今まさにそういう喜びの婚礼の中にいるんだ。取税人や罪びとたちとの食事の席も、それは天の御国の宴会の先取りなんだ。それはユダヤ教の古い断食の慣習などとは本質的に合わないし、そういう古い革袋に、新しい福音、神の国の到来、またはメシアであるイエス様という新しいぶどう酒は、そもそも入らないものなんだよ。入れようとしたら破裂してしまう。だから悲しみのしるしである断食がどうしてできようか？婚礼の祝宴なのに！花婿が一緒にいるのに！悲しむことができるでしょうか？いや決して悲しむことはできないんだ。そう主イエスに言われているわけです。
わたしが共にいる。だからあなたがたは、悲しむことができない。マタイにおいては、そういう文脈の中で起こったできごとなのです。
つまり、新しいブドウ酒と新しい革袋、この神の国の婚礼の喜びが語られているまさにその時に、2つの悲しみが転がり込んできたのです。
私の娘が今死にました。私の大切な人が死にました。あるいは、私自身が、病であって、イエス様に癒してほしいと願っている、それはあなたの物語ですよ。そうマタイは語りかけているし、それが今生きておられるキリストが語りかけてくださっていることなのです。
　
　長血の女から自分自身に重ねてみましょう。マタイだと、マルコやルカの記事よりは自分自身に重ねにくいかもしれません。イエス様に出会う前に、こんなに苦しんで来た。何年もの体の病や心の病で苦しんで来た人ほど、そしてそれをどこに持って行っても治らなかった経験をお持ちの方なら、非常に重ねやすいし、私のように、「生きていてもしょうがない」「私は愛される価値のない人間だ」という人生そのものに意味を見いだせない魂の病をかかえていた人にとってはまさにすぐに重ねあわせやすいでしょう。実際に、私は、マタイではない方のこの物語が特別伝道集会で説かれた時に、「これは私の物語だ」と感じてイエス様との出会いを経験し、涙がぼろぼろ流れて止まらなくなり、洗礼を受けることを志願したのでした。
　でも、ここでは、どこに行っても治らなかった、というようなことばは無いですね。でも、ここで「『この方の衣に触れさえすれば私は救われる』と心のうちで考えたからである。」とあります。
　これはどうでしょうか？ある有名な神学者の言葉で、ここについてこういうものがあります。「この女の信仰には悪徳も間違いも混じっている。それはサルであって、マネをするものではない。」彼女の猿まねをしてはいけないと言うんです。それはたとえば、何人かの日本の牧師先生が、東京巣鴨のとげぬき地蔵などを例にあげます。あのとげぬき地蔵は、地蔵の顔とか足とかがつるつるになっているそうですね。これはどうしてかって言ったら　お参りする人が悪いところをさわれば、よくなると信じていたからなんですね
足の悪い者は地蔵の足をさわり、胃の悪い者は地蔵のお腹をさわる。
この長血の女性の姿というのは、それと少しも変わらないじゃないか。だからその神学者が言うように、猿まねをしてはいけないのだけれどもイエス様は、確かに誤っているかもしれないその信仰を受け入れられたという説明がよくされるのです。
でもそういう説明を私は20年近く前から何度も読んだんですけれども、どうしてもしっくり来ないんです。というのは、そういう偶像礼拝か迷信みたいなものをここだけイエス様が容認されたようにとらえますと、聖書の他の箇所と整合性が取れず、調和しないんですね。
それで、有名なその昔の神学者の方が、置かれていた状況というのがありまして、それはそういう誤った信仰と真正面から戦わなければならなかった事情があるわけです。聖ペテロ様のお骨に触ったら癒されるとか、そういった迷信というか群像礼拝的なもの、そういうものと宗教改革者たちは戦わなければならなかったから、そういう言葉になっている部分があるでしょう。
そうするとですね、私たちはそういう当時のバイアスからは自由になって解釈ができるわけですから、聖書の他の箇所と調和するように解釈できるわけです。
イエス様は彼女に「あなたの信仰があなたを救ったのです」とおっしゃっています。この「信仰」って何でしょうか？信仰、これは信頼とも訳せることばです。神への信頼です。それが彼女にはあった。そしてこの二つの話が重なっているわけですから、会堂司にも信仰、神への信頼があったと考えた方がいいです。この2人に共通する神への信頼とはどういうものでしょうか？
ここを、テーマは「信仰」なのだ、と捉え、長血の女だけではなくて色んな人がイエス様の服に触っているんだけれども、それはイエス様に気付いていただけなかった、と。しかしこの女性の触り方は、イエス様に気付いていただける触り方だった。だからこの女性のような、イエス様への触れ方をしましょう、というような解釈がなされることがありますけれども、それですと、皆さん、今の皆さんの信仰じゃだめですから、もっとイエス様に気付いていただけるようなイエス様へのタッチをしましょう、というようなですね、信仰が「うーんもっと自分の内側から信仰を振るい出そう」という努力に変えられてしまって、信仰が我力にすり替わってしまうんですね。自分の努力で信仰は出るものじゃないんです。信仰は、神からの贈り物・賜物だからです。
神への、イエス様への触り方に気をつけましょう、という話ではない。それならどういうことか？
それは、細かいようですけれども、「その衣の房に触れた」というところです。これが、実は旧約聖書のマラキ書の預言の成就という見方があるんです。この房というのは、3ｍもある長方形の布に穴をあけただけの衣の四隅に房を作って、青いひもをつけて、神の律法を思い起こし、ひとりひとりの心に刻み込むためのものだったんですね。つまり神のみことばと、また権威のしるしでもありました。
　そしてマラキ書第4章2節にはこうあるんですね。
 
しかしあなたがた、わたしの名を恐れる者には、
義の太陽が昇る。
その翼には癒やしがある。
あなたがたは外に出て、
牛舎の子牛のように跳ね回る。
 
　よく賛美の歌にもなっている有名なみことばだと思いますけれども、義の太陽というのは、ここにしかない表現で、メシアのことを表す象徴的表現ですね。そして、その翼、ってありますね。これが衣の房の「房」と訳せることばなんですね。
　おそらくマタイはユダヤ人向けに書きましたので、この箇所を思い起こしていたのではないでしょうか？メシアであるイエス様の房、つまり権威の中に入る、そのメシアの権威の下には癒しがある。だからメシアがもたらす神の国では人々が癒される。まさにマタイの福音書第9章に次々起こる癒しは、その預言と言えるでしょう。
　その衣の房が象徴する権威の下に入る、これはルツの話でも見ることができます。ルツはボアズと結婚しましたけれども、ルツは、ボアズが打ち場で寝ているところに行って、上着をめくって、ボアズの足元、ふさの下に入って寝ました。
　これはふしだらな行為ではなくて、当時の普通のポロポーズの方法でした。つまり、ふさの下に入るということは、妻となって、ボアズの権威と守りの中に入る、ということを意味していたわけです(当時は家父長制の文化ですから)。
　こういう背景も併せて考える時に、このイエス様に会いに来た二人の人は、まさに、他に何も頼るものがなかった。
　会堂司は地元の名士です。財産もありました。地位もありました。名声もありました。けれども、だいたいユダヤ人はこの当時、子だくさんです。そういう文化の中でひとり娘なんです。目の中に入れて痛くないかわいい娘、この子がいるだけでうちの中は幸せいっぱい。昔のことですから、それはもうこの子だけがわが家の将来の希望、そんなふうに思っていたでしょう。
　けれどもその子が死んでしまった。もう地位も財産も名声も、この子がいなければ何の意味もないじゃないか。そんなふうに思ったかもしれません。会堂司は、礼拝をつかさどり、説教者を選びます。特にパリサイ人や律法学者たちから選んだでしょう。そういうものですから、どこの馬の骨とも分からないナザレのイエスという男に、娘のことを頼みに行ったという噂が立てば、大スキャンダルで、評判は下がり、パリサイ人律法学者たちとの関係も悪くなったでしょう。けれども、そういう地位も財産も名声も人脈も、今の私には何の意味もない。ただすがれるのはこのイエス様というお方だ、そんな思いでイエス様のもとに出た。そして「ひれ伏し」たということばは、礼拝した、とか、拝んだ、と訳せることばですので、イエス様を神と認めているんです。
　そしてこの長血の女性も、ただ病気で肉体的に辛かっただけではありません。この病気は、ユダヤでは、けがれだと考えられていたんですね。それで、この女性がさわったものは、椅子でも座布団でも服でもけがれるとか、そういうことであるし、血がいつも止まらないということは、そのけがれが年中、とけないと見なされたわけですから、シナゴーグ・会堂での礼拝にも、また、エルサレム神殿での礼拝にも行けません。もし結婚していたとしても、夫に触れることはできません。そういうことで、あらゆる人との接触から疎外され、共同体からも排除され、孤独の中を過ごしていたわけです。
　そういう者ですから、他に何も頼るものがない。ある意味では会堂司と同じです。ただ神にすがるしかない。神だけが頼りだ。この方以外に信頼できるものは何もない。そういう思いで、このイエス様こそメシア、義の太陽だと信じて、その衣の房にさわって、この方の権威のもとにすがれば、きっと私も救われる、そうやって、この方のみに信頼したんです。
　2人が人生の挫折と悲しみを経験しながら、他のあらゆるものに頼る偶像礼拝から解き放たれて、主イエスだけにより頼む・信頼するようになった。つまり、この長血の女性の表面的な行動だけを見て、巣鴨のお地蔵さんをなでるような、あるいは聖人のお骨を触って癒されるとか、そんな迷信的なものだったのと捉えるべきではおそらくなくて、まさに主イエスへの信頼の行動であった、そして主イエスは、長血の女性に、その「あなたの信仰・信頼があなたを救ったのです」と言ってくださった、こういうことだと思います。この長血の女性は、ボアズの衣の房の下に入ったように、主イエスの衣の房の下に入り、主イエスを花婿としたのです。もちろん本当に結婚したのではなくて、霊的な意味でキリストの花嫁となって、新しい革袋となったのです。これが私たちの物語です。あなたの物語です。ひとりひとりディティールは異なると思いますけれども、キリスト者はどこかで挫折を経験して、神以外何も頼るものが無い、このイエス様を信じてみよう、この方に頼るほかない。そういうところを通って、洗礼を受け、キリスト者になり、キリストの花嫁という経験があるのではないでしょうか？
　
　さて、新しいブドウ酒と新しい革袋の神の国の到来の祝宴は、悲しみを喜びに変えるものですが、この会堂司の娘のよみがえりです。
　25節に「イエスは中に入り、少女の手を取られた。すると少女は起き上がった」とあります。
　この「起き上がった」ということばは、復活とも訳せることばです。明らかにマタイはイエス様のご復活と重ねて書いてあるし、また、来たるべき私たちの復活の型でもあるんですね。死はいのちに飲まれてしまった。神の国の祝宴というのは、「すでに」と「いまだ」ですから、すでに到来したけれども、やがて新天新地で完全に実現します。私たちは今それの前味を味わっているんですね。地上でも天の御国を生きている。復活のいのちをいただいて、今永遠のいのちを生きているわけです。
 
　イエス様は、笛吹く者たちや騒いでいる群衆を追い出されました。笛吹く者たちとは葬式に雇われた者たちで、悲しげな曲を吹いて、皆が思いっきり泣けるように手助けする人たちです。その人たちをイエス様はかなり強い調子で追い出されました。
　それは、新しいブドウ酒と新しい革袋だから、死の悲しみはそぐわない、ということで私たちを縛りつける死の力や、私たちの悲しみを追い出してくださったと受け止めることができるでしょうけれども、イエス様は復活の力をお持ちだから、死など大したことないと言って追い出されたのでしょうか？それも違うと思うのです。
　
なぜなら、主イエスもまた愛する友ラザロが死んだ時に　一目をはばからずに、涙を流されたのです。
それに考えてみれば主イエスというお方は、ご自分が死なれると言う時に、ご自分が死なれることを、血の汗を流されて、誰よりも恐れた方でありました(ゲッセマネの園)。
 
そして十字架の上では、わが神わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか？絶望の極みの中で大声で叫んでくださいました。
「少女は死んだのではない。」と主イエスはおっしゃいましたが、死の恐ろしさを誰よりも知っておられた方が、その十字架の上での死によって、私たちが罪のゆえに滅びるべき存在、死ななければならない存在であったけれども、私たちの罪をその身に一身に背負ってくださったその身代わりの死によって、私たちが完全にゆるされてしまったこと、その重さと、しかし晴れやかさを、私たちはここで思うんです。
私は思うんです、神を信じるからこそ、復活を信じるからこそ、死はいのちを決して飲み込むことができないことを知るからこそ、私たちはその時初めて真剣に死の危険や、死の恐れと向き合うことができるのかもしれません。
この生き返らせてくださった少女も、やがて年をとって死んだでしょう。けれども、その死の床でも、この私の手をとってくださった、主の手のぬくもりを決して忘れることはなかったと思います。
それは、私たちにも等しく与えられている祝福なのです。
 
主イエスが私たちに触れてくださるというのは、今は肉体をもったイエス様は触れてくださらないではないかと思われるかも知れませんが、教会に備えられた礼典(・聖餐式)というのは、それをまさに味わう者として神さまから与えられているものです。
　聖餐を祝うことにおいて、神の国の祝宴を祝い、主イエスがそこで私たちの手を取ってくださっているのです。
 
その祝福を携えて、病める者、死せる者、排除され、抑圧されている者、小さくされた者のもとに向かい、その手を取り、いのちの勝利を告げ知らせ、また連帯して行く、そのような歩みへと主が今、押し出して下さっているのです。
 
お祈りいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様は、神の国の到来をもたらすメシアとして、御子主イエスをお遣わし下さり、いのちの祝宴に入れてくださいました。そのいのちの祝福は、どのような悲しみも死をも、飲み込んでしまうものです。死は勝利に飲まれた。その温かな手のぬくもりに、信頼をし、あなたの花嫁として、歩んで行きます。その祝福を携えて、弱くされた者、小さくされた者、排除された者、抑圧された者のもとに出かけて、いのちの勝利を告げるために、今おひとりひとりを祝福して遣わしてください。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。
 
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