📗【文書版】礼拝メッセージ『奇跡のパン』　新約聖書　マタイの福音書第14章13～21節　2023年8月6日

📗昨日の礼拝メッセージのテキスト版もここに掲載いたします⬇️

✴️礼拝メッセージ『奇跡のパン』　
新約聖書　マタイの福音書第14章13～21節　2023年8月6日
 
13　それを聞くと、イエスは舟でそこを去り、自分だけで寂しいところに行かれた。群衆はそれを聞き、町々から歩いてイエスの後を追った。
14イエスは舟から上がり、大勢の群衆をご覧になった。そして彼らを深くあわれんで、彼らの中の病人たちを癒やされた。
15夕方になったので、弟子たちはイエスのところに来て言った。「ここは人里離れたところですし、時刻ももう遅くなっています。村に行って自分たちで食べ物を買うことができるように、群衆を解散させてください。」
16しかし、イエスは言われた。「彼らが行く必要はありません。あなたがたがあの人たちに食べる物をあげなさい。」
17弟子たちは言った。「ここには五つのパンと二匹の魚しかありません。」
18するとイエスは「それを、ここに持って来なさい」と言われた。
19そして、群衆に草の上に座るように命じられた。それからイエスは、五つのパンと二匹の魚を取り、天を見上げて神をほめたたえ、パンを裂いて弟子たちにお与えになったので、弟子たちは群衆に配った。
20人々はみな、食べて満腹した。そして余ったパン切れを集めると、十二のかごがいっぱいになった。
21食べた者は、女と子どもを除いて男五千人ほどであった。
 
　主の恵みと平安が皆さんの上に豊かにありますように。
　この日も皆さんとご一緒に主の日の礼拝にあずかれますことを心から感謝いたします。
 
　今日はそのまま、みことばに入りますけれども、今日のみことばは、13節の「それを聞くと」ということばから始まります。イエス様が何かを聞かれたわけですが、それはどういうできごとがあったかというと、領主ヘロデ・アンティパスが、バプテスマのヨハネ(洗礼者ヨハネ)の首を斬って殺してしまった。そして、ヨハネの弟子たちが遺体を引きとって葬った、ということを聞くと、ということですね。
　イエス様にとっては、バプテスマのヨハネは親戚でもあります。いとこですね。その死の知らせを聞いて、大きな悲しみもその心中にあったことでしょう。そこで船に乗って、人里離れた寂しいところへ行かれました。静まって、祈って、父なる神さまとの対話の時を持ちにいかれたわけです。
　ところが、この時にはイエス様の人気は絶頂になっておりまして、群衆が陸を歩いて先回りするわけですね。風向きによってはそれができたようでして、イエス様はそうまでして追いかけてくる群衆を深くあわれまれました。
　これはあわれんだ、と言っても、はらわた痛む、ということばでして、胸が痛くなるよりももっと深い共感ですね。断腸の思いになるほどに、からだが痛むほどに心動かされて、その群衆の病の人や弱っている人々をお癒しになりました。
　たくさんの人が列をなしていたことでしょう。だんだんと日が落ちて、夕闇が迫ってきています。弟子たちが心配になって気を回してイエス様に言いました。
「ここは人里離れたところですし、時刻ももう遅くなっています。村に行って自分たちで食べ物を買うことができるように、群衆を解散させてください。」もっともな提案ですね。
　でも、イエス様は、「行かせることはない」とおっしゃいます。「あなたがたがあの人たちに食べる物をあげなさい」とおっしゃるのです。
　弟子たちは顔を見合わせました。そんな無茶な、と思いました。先生は私らぁをからかいゆうがやろうか？と思いました。
　「先生、ここには五つのパンと二匹の魚しかありません」
　イエス様は、じっとこちらを見つめています。冗談を言ってからかっている顔ではありません。「それを、ここに持ってきなさい」けげんな顔をしてそのわずかな食べ物を持ってきた弟子たちに何も説明することなく、群衆を草の上に座らせるように指示します。
　そして、イエス様は天を見上げて神をほめたたえ、パンを裂いて弟子たちに渡して、みんなに配らせました。
　なにしろ男性だけでも5000人もいたわけですから、女性や子供も合わせると、1万人からひょっとしたら2万人いたかもしれません。後ろの方からだと、イエス様と弟子たちが何をやっているかさえも分からなかったでしょう。
「いったい何をしゆうがやろうか？僕らぁを座らせちょいて」
「なんか、みんなぁに夕食を配ってくれるって言いゆうで」
「けんど、そればぁようけ食べ物があるかぇ？」
「あるわけないやん。ほら、あんな手元で、ちょこちょことなんかやりゆうで」
「なんやろう？…あんたちょっと目、えいろうがね？ちょっと立って見てくれんかえ？」
「うん？なんかパンがいくつかと、魚が一匹？二匹やろうか？それしか見当たらんけど。」
「ああ、そりゃあ期待せられんで。見てみいや！この荒野をぼったり埋め尽くすばぁ人がおるやいか。俺らぁのところにはカケラも回って来んで」
　ところが！すんぐ無くなると思いよったに、ぜんぜん無くならんで、なんか結構後ろの方まで回って来ゆうがよ。だんだん前の方からざわめきが広まって行って、え？どうして増えちゅうがやろう？と口々にみんなぁが言い出して、とうとう一番後ろの人にまで、十分回ってきたがです。いやー！
　ほんで、余ったらもったいないき、集めて見たら、12のカゴに、いっぱいになったがぞね。
　
　これが、皆さんも教会の礼拝で何度も聞かれたパンの奇跡、とか、五千人の給食、とか呼ばれるできごとですね。
　
　実はこのできごとは、4つの福音書すべて記されているできごとです。福音書記者4人全員が書いたんです。しかし、4人とも、どんなふうにしてパンが増えたのか、具体的なことは何も記してくれていません。
　いったい正確には、何が起こったんだろうか？パンに手を伸ばすと同時に、手の中で飛び跳ねるみたいにして大きくなったのでしょうか？それとも、誰も見ていないところで新しいパンが現れたのでしょうか？もしかしたら、自分が取った分をちょっと下に置いて、抱いていた子供をもう片方の腕で抱きなおして、置いたパンをもう一度拾おうとしたら、一つだったパンが二つに増えていたのでしょうか？
　けれども、そういうことには、4人の福音書記者共に、そんなことはどうでもいい。と、言わんばかりに、何も書いてくれていません。
　そのために、私たちクリスチャンは、もう2000年間と言ってもいいと思いますけれども、さまざまに詮索してきました。聖書を読んできた色んな人が、いろんな説明をしてくれているようです。
　その中で、多分、現代で一番よく知られている説明は次のようなものです。皆さんもひょっとしたらこういう説明はお聞きになったことがあるかもしれません。
 
　群衆の中の誰もが何も持って来なかったわけではなかった。弟子たちの方が不用意なのであって、群衆は、これからイエス様の後を追いかけるのだから、かなりの時間がかかるだろうと思ってそれぞれが弁当を用意していた、と。ところが、だんだんお腹がすいてきたけんど、ここで自分が弁当を広げたらどうなるか。どうもこの右の家族は持っちゃあせんにかぁらん。この左の家族も持っちゃあせんにかぁらん。今ここで弁当を広げたら、不用意な家族にも分けないかんなってくる。それもどうかなぁ、と思っているうちに、イエス様と、弟子たちが、ほんのわずかな食べ物を喜んで分け始めた。あぁあんなわずかなものでも惜しまずに分け合いゆう、それに引き替え自分たちは…、と、そこで恥ずかしく思って、群衆のみんなぁが、弁当を取り出して、分け合ってみると、1万人か二万人の群衆みんなぁが食べることができた、そういう説明です。さらに付け加えて、そこで分け合ったものは僅かであったかもしれないけれど、イエスさまのみことばを聞いて、その愛の中で食べる食事は、肉体的には満腹できなくても、心においては、満腹できるようなものであっただろうと、そう推測する人もあります。
 
　どうでしょうか？皆さん、とっても心惹かれる、魅力あふれる解説かもしれません。心暖まる話です。現代人にも納得のいく、合理的な話でもあります。受け入れやすいとも思います。思わずこの解説に飛びつきたくなってしまうかもしれません。説教者もこれで話を通したくなる誘惑にかられるかもしれませんけれども、心暖まる感動の話で、わずかなものでも、自分だけでひとりじめしていてはさみしい。だけども、分け合えば心ぽかぽか、というようなたぐいの話であるならば、
そういう心暖まる感動のストーリーで、その中から教訓を読み取るような話であるならば、世の中にたくさんあふれていますし、それらを読むか聞くかすればいいわけで、そうなると、わざわざ聖書を開く必要はなくなるわけですね。それらの心暖まる話をはるかに超えることを、福音書は語っているんです。
 
　福音書は、その福音書、と呼ばれるように、開かれるごとに福音を宣言する生きた書物なんですね。ですから、道徳や教訓を教える目的で書かれた書物ではない。日曜ごとに、定められた箇所がありますけれども、どの箇所が開かれる時にも、福音が、つまりイエス・キリストがもたらしてくださった救いというものが、力強く宣言されている。そうですよね、この前の天の国のたとえも、神の国の秘密が、たとえ話を通して明らかにされて、救いが宣言されたわけです。
 
　であるならば、4人の福音書記者が、パンがどのように増えたか記していない事と、もう一つは、4人の福音書記者が、4人ともが記した奇跡というのは、イエス様の復活を除いては、―まぁ復活は別格の奇跡としまして―これだけなんですよ。福音書記者によって、それぞれへの聖霊の導きによって、書き残したり、省いたりそれぞれがしているわけです。ですからイエス様の奇跡のうちで、1人だけが書いている。2人だけが書いている、3人が記している、そういうできごとがありますが、これだけは、4人が4人とも、絶対に書き落としてはいけない、と思ったのは、ここに天の御国・神の国の秘密が、隠されているから、ということに他なりません。
 
　どういうふうに隠されているでしょうか？19節の、
 
それからイエスは、五つのパンと二匹の魚を取り、天を見上げて神をほめたたえ、パンを裂いて弟子たちにお与えになったので、
 
　ここのイエス様のしぐさで、何かを思い起こさないでしょうか？
　そうです。あの最後の晩餐とも呼ばれることのある、主の晩餐ですね。イエス様が十字架にかけられる前日のことを、マタイの福音書第26章はこう語ります。
 
新約聖書　マタイの福音書第26章26節
　また、一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、神をほめたたえてこれを裂き、弟子たちに与えて言われた。「取って食べなさい。これはわたしのからだです。」
 
　そうです。しぐさがそっくりではありませんか？イエス様がパンを裂いて弟子たちに与えられた。その裂かれたパンを、「わたしのからだ」だとイエス様はおっしゃった。それは、十字架上で私たちの罪のために、身代わりとして裂かれるイエス様のおからだそのものなんです。
　その十字架の死によって、私たちの罪はゆるされました。そして、パンの奇跡では、余ったパン切れを集めると12のカゴにいっぱいになった。
　この12というのは、日本人であればすぐにはピンと来ないかも知れませんけれども、マタイが読者として想定したユダヤ人にとってはすぐにピンと来たんです。12というのはイスラエル12部族を表します。そして、この、かつてイスラエル12部族に与えられた神の救いが、12弟子、12使徒、つまり、新しいイスラエルであるキリストの教会を通して、大勢の人々、つまり全世界に分かち与えられるということを表しているんです。そして、やがて完成する天の御国での祝宴を、この五千人の給食も、主の晩餐も、先取りして表しているんです！
　そして12のカゴに集められた「余ったパン切れ」、これは直訳では「裂かれたもの」です。つまり十字架で死なれたイエス様ご自身です。天から降って来た生けるパン、いのちのパンであるイエス様ご自身を、世界中の人に、教会が手渡していくんです。そのようにして教会は2000年間、歩んできました。
 
　ところで、もう一つ、触れておかなければならない大事なことがあります。
 
　今日は世界共通の聖書日課では、マタイ第14章の13節から読むことになっていましたから、それに従いましたが、本当は第14章の1節から読み始めた方がよかったのです。

というのは、マタイは明らかに意識をして
2つの晩さん会を並べて書いているのです。
どういうことかというと、一つは、先ほど読みました、主イエスと共に、わずか5つのパンと2匹の魚で、大勢が養われて　食べて満腹したと終わるできごとです。
 
　しかし、その傍らで、もう一つの晩さん会が開かれていました。
 
　それは、領主ヘロデ・アンティパスの宮殿での晩さん会です。これが1節から12節に記されているできごとです。
　どういう晩さん会か、それは誕生日の祝いでした。ヘロデは権力者です。あり余る富を自分のために持っていました。決して、その富を人々に分け与えることはなかった。その分け与えることのない富を使って、盛大な誕生日会を開いた。
　そこで何が起こったか　誕生日の余興として、ヘロデ・アンティパスの妻ヘロディアの娘がダンスをしてみせました。10代そこそこであったと言われていますけれども、それが大変上手だったのでしょう。
　ヘロデは大喜びで、願う者はなんでもやろう。国の半分でもやれるのだが、と言いました。
　そこで、その娘は母親にそそのかされて　その時に願い出たのです。
「バプテスマのヨハネの首を、今すぐ盆に載せていただきとうございます。」
　この少女の名は、歴史家によってサロメという名前であったことが明らかにされています。残虐なできごとというのは、ある種の魅力がありますから、人々の想像力をかきたてられて、小説になったりオペラになったりしています。でも少女サロメが、実はバプテスマのヨハネ(オペラではヨカナーンという発音になっていますが)に恋をしていたとか、踊りが妖艶な踊りであったとかいうのは、芸術家の想像に過ぎませんから、全然聖書の本筋とは異なります。
　とにかくヘロデは、持っているお金を盛大な誕生日会のために使います。
　そして、余興の一貫として、バプテスマのヨハネの首をはねさせるのです。
　なぜ、彼らはあり余るお金を自分のために使い、しかもその中で人を殺すということさえ余興にするということが起こるのか？それは退屈しているからです。いくらお金があっても退屈なのです。いや、退屈しているというより、何かやっていないと不安だからです。恐れているからです。
 
　礼拝の始めに招きのことばとしてお読みしましたのは、旧約聖書のイザヤ書第５５章1節ですが、2節を読みます。
 
２　なぜ、あなたがたは、
食糧にもならないもののために金を払い、
腹を満たさないもののために労するのか。
わたしによく聞き従い、良いものを食べよ。
そうすれば、あなたがたは脂肪で元気づく。
 
　お金を使えば使うほど、また自分用に用意した食べ物を食べれば食べるほど、飢えてしまうのです。乾いてしまうのです。退屈してしまうのです。だから、盛大な誕生日会を開きます。一人の人を殺しても、余興の一つにしかすぎない。
 
　モリー先生の火曜日、という本があります。映画にもなりました。これはミッチ・アルボムというスポーツジャーナリストの方が書きました。こんな話です。
 
　ある日、ミッチがテレビを見ていたら大学時代の恩師が出ている。この恩師は難病にかかっている。筋肉が衰えて行く病気です。
身体の下の方から始まって、だんだんだんだん上に向かって筋肉が動かなくなる。少しずつ少しずつ死んでいく病です。
　テレビでこの恩師がこの病気にかかっているのを見て驚いたミッチは飛行機で、かつてのふるさとへ帰りまして、モリー先生のベッドを訪ねます。毎週火曜日に訪ねます。そして毎週火曜日、そこで授業が始まるのです。闘病中のベッドでの授業です。生徒はミッチ一人。その授業は、生きることについて、死ぬことについての授業です。
　モリー先生は自分の死期がはっきり分かるのはかえってありがたいと言います。どういうことでしょうか？
　深呼吸をして息を止める。そして何秒止められるか。毎日毎日その秒数が減る、最初は23まで数えられたのに今数えられるのは19までだ、といった具合に。今、肺が死につつある。
　そこで、モリー先生のことばに、こういうことばがあります。
　今の時代の人たちは不幸だね。私の元に、たくさんの人が見まいに来て話をしてくれる。けれども、みんな私よりずっと不幸に思える。現代の文化は、お金でも物でも多い方がいい、多い方がいい、という一種の洗脳を行なっている。そういう現代の文化というものは、人々に満ち足りた気持ちを与えてはくれない。そして皆不幸になっていく。それならば、そんな文化はいらない。私は違う文化に生きる。そう言える心を持たないといけない。
 
　マタイの福音書が第14章で1節から21節を通しで書いているのはそういうことです、
　お金がいくらあっても足りないのです。あってもあっても、いやもしかしたらあればあるほど、もっと欲しくなるんです。
　そしてある人びとは、お金を集めるためには、人を殺してもなんとも思わなくなるんです。
　お金を集めるためには、戦争したってかまわないと思っている。人間のいのちが、まるで戦争という公共事業でお金を集めるために消費される消費財のように扱われる。
　広島と長崎で原爆が落ちて、あれほど凄惨なことになったのに、まだ核兵器を持たないといけないと言っている。核共有などと言い始めている。
　12年前に原発があんなひどいことになったのに、まだ原発を続けなければならない、まだ作り続けなければならないと言っている。
　もっとにぎやかでなければ、もっと大騒ぎしなければならない。
　そして、その陰で、悲しくいのちを失っている者たちがいてもなんとも思わなくなる。
　それが、私たちの時代の晩さん会ではないか。
 
　それに対して主イエスは、もう一つの晩さん会を開いてくださっているのです。
 
　難病のモリー先生は、そんなものいらない、そういうふうに言える強さを持たなければならないと言いました。
　しかし、強さを持つ必要はない。イエスさまのもとに集えばいいのです。私たちはたった5つのパンと2匹の魚しかないと思っています。
　そうです。私たちは数えます。ふところの中を数えます。預金通帳をみます。自分の人生の残りの年月を数えます。平均寿命まであと何年。あるいは学生ならば、自分の成績表の偏差値をみます。どこそこの学校までなら行ける。あるいはこれまで働いてきた成績をのぞきまして、定年までどこまで出世。あるいは若い人なら、SNSのフレンドやフォロワーの数を数えます。いいねの数や、視聴回数や、もしかしたら広告収入の額を見ます。教会ならば、教会員数や礼拝出席者数をみます。
　そして、結局ため息をつくのです「私にはこれしかない」
 
　けれど、私にも皆さんにも主イエスはおっしゃるのです。
「それをここへ持ってきなさい」
　私たちは不安です。持って行くときに一度手放さなければならないからです。ずうっと握りしめて来て、それこそやがて無くなって行く宝物を手にしながら、一回でも預けるのはとっても不安です。
　けれどもイエス様はきっぱりおっしゃる。それをここに持ってきなさい。
 
　私たちの誰よりも、すべてを投げ捨ててくださって、いのちさえも投げ捨ててくださった方が、おっしゃるのです。「それをここに持ってきなさい。」
 
　私自身も思いました。まだ43歳にしては、最近はとても体が弱くなって、片頭痛、頸椎椎間板ヘルニア、副鼻腔炎、その他に加えて、腰痛まで加わりました。20代のまるで無限の体力があったころのように、主のためにたくさんのことをしようとして飛び回ることはできません。もうすでに20代の時に献身した者ですけれども、こんなボロボロになったものを、主の前に持って行っても、使いものになるのだろうかと思っていた部分が最近ありました。
　
　しかし、主イエスはそれを目の前で分けてくださる。まさに、「あなたがたのからだを、生きた、聖なる供え物としてみ前にささげなさい」とパウロが言った通りです。
　私たち自身、そして、私たちが「こんなもの」と思っているわずかな五つのパンと二匹の魚を大きく増やして用いて下さるのです。
 
　弟子たちはあのパンの奇跡の日に、初め、1万人以上の群衆を目の前に、たじろいだことでしょう。私たちのたった12人で、こんなわずかなものを配っても、群衆を満たすことはとてもできないと、とまどっていたでしょう。
　けれども、主イエスのことばに従って、一歩を踏み出して、パンを分けて行く。そうすると、パンは減らないのです。そしてついに、大群衆が満腹するのです。
 
　弟子たちは驚きました。その皆が満腹したあとで、戻ってきたものを入れたカゴはずっしりと重い。きっと、その重みを、一生涯弟子たちは忘れ無かったでしょう。「あの時イエス様がね！」って、人々に語り伝えるごとに、その手に感じた重みを、思い出し、出会う人出会う人ひとりひとりの魂の重みをも感じたことでしょう。
 
　教会はいつでも、そんなふうにして歩んできたのです。いのちのパンである主イエスご自身を人々に手渡しながら、やがて訪れる天の御国の祝宴の前味を味わいながら、天国の祝宴に連なる人々を、喜びながら招待していったのです。
　ただ今より、天国の祝宴である聖餐にあずかります。そのパンを裂いてくださるその主イエスの手から今渡されるものを、喜びつつ共に受けたいと思います。
 
お祈りをいたします。
恵みとあわれみに富みたもう、私たちの主イエス・キリストの父なる御神
あなた様は、パンの奇跡を通して、天の御国の秘密を明らかにしてくださいました。永遠の昔から定められたあなたの救いのご計画、旧約の民に約束された救いは、今や新しいイスラエルであるキリストの教会に与えられ、託されています。十字架で裂かれてくださり、罪の赦しをもたらしてくださった、いのちのパンであられる主イエス・キリストご自身を、私たち教会は、受け、そして人々に手渡して行きます。そのために、私たち自身を、生きた聖なる備え物としてみ前にささげる時、そして、自分のものとして自分の中にかかえこみがちな、そしてわずかしかないと思い込みがちな五つのパンと二匹の魚をみ前に持って行くときに、私たちはこんなものが役に立つだろうか、と、いぶかります。しかし主よ、あなたのみ前に置く時に、それが豊かに用いられて、増えて増えて、多くの人が満腹になったという奇跡が、今、世界中の教会で、起こっております。今もまた、この教会でも起こっています。今からいただくいのちの食卓、天国の祝宴に、願わくは新しい人も、加わることができるようにしてください。主イエス・キリストの御名によって祈り願います。アーメン。