エフェクチュエーション:誰もが「起業家」たりうる時代の、道の切り開きかたについて
「小中学生の女の子のための「将来」講座―これからの仕事や働き方を考えよう!」というイベントを企画したら、思った以上に反響がありました。多様な働き方をする3人の女性の仕事についての話を聴きながら、一緒に将来を考えようというイベントです。
今の時代の女の子が将来どんな働き方を志していけば良いのか、気にしている親御さんが多いということなのでしょう。
その反響を見た友人が「今ほどロールモデルが必要な時代もないかもしれないね」と言ったとき、ふと考えました。
働き方改革、価値の多様化、経済成長の鈍化。そんな時代に「わたしはどう生きるのか」と考えている人はとても多いと思います。画一的でない生き方が許容される時代にどう生きるかを悩む人にとって「ロールモデル」が存在すれば確かに安心して歩むことができそうです。そして今はそれが圧倒的に不足しているようにも見える。
でも、本当にそうなんだろうか、と思いました。
ロールモデルがあれば、生きやすくなるんだろうか。今、社会はすごく流動的で、10年前の常識が通用しないくらいに変化しています。そんな時代に「ロールモデル」はどう役に立つんだろう、と思ったのです。
そこで考えたのは、不確実な中で意思決定をし、新しいものを作り上げていく、という生き方の最たるものは「起業家」なのではないかということです。正解が存在しない中で新しい市場を生み出していく起業家の意思決定のあり方は、未来を生きる若い世代のスタンスの参考になるのではないかな、と。
そこで、優れた起業家は、そうでない起業家と何が違うのか、について論じた最新の理論が役に立ちそうだな、と思いました。「エフェクチュエーション」という考え方に基づいたものですが、できるだけ難しい言葉を使わずに、説明してみたいと思っています。
その理論によれば、優れた起業家は、次のような考え方に基づいて意思決定を行なっているそうです。
①どこを目指すかではなく、あなたは誰なのか
優れた起業家は、どこに成功の機会があるかと考えて目的地を設定するよりも「自分は誰なのか」「自分は何を知っているのか」「自分は誰を知っているのか」からスタートして、今できることを実行します。
これは「ロールモデルを立てる」という考え方とは逆にある考え方です。「どうあるべきか」「どこを目指すべきか」のイメージから始めるのではなく、「自分には何ができるか」からスタートし、そこから得た学びによって新たな世界が切り開かれ、可能性が広がっていきます。
これは起業家の「原体験」という考え方にも通じるものです。「自分は誰なのか」「なぜそれをやるのか」ということを大切にする起業家は、失敗しても苦労しても続けていく理由を持っている。結果として、成功するまでやり続けられる可能性が高いということだと思います。
もちろん、これから話すことも含めて、全ての考え方は二者択一ではありません。目的地から逆算する思考も必要ないわけではありません。失敗する起業家よりは成功する起業家の方が、「自分ができることから始める」という傾向が強かった、ということです。
②何を得たいかではなく、どれだけ失敗できるか
優れた起業家は、「どうすれば最大の利益を得られるか」ではなく「どの程度の失敗なら許容できるか」を決めることからはじめます。
利益を予測して、そこから逆算して必要な資源を考えるやり方をすると、どうしても最短でそこにたどり着くための経路を探し、失敗を避けようとすることにつながります。優れた起業家は、失敗はあって当たり前のものとして、「これくらいなら失敗できる」と考えて小さな失敗を繰り返していきます。失敗を避けるためにリソースを使うのではなく、許容可能な失敗の範囲で自由にチャレンジをしていくことで、新しい学びや発見を生まれ、結果として事業の可能性が広がっていきます。
そうすることで、最初に予測したものとは違っていたとしても、新たな学びに基づいた新たな目的地に近づいていくようです。
③競争するのではなく、共創する=ともに創っていく
一般的なマーケティング理論に基づけば、勝負に勝つために競合他社を分析して、「どうすれば勝てるか?」と考えていきます。
優れた起業家は、最初から目的地を決めているわけではないので、誰かに勝とうと作戦を立てる必要がありません。自分がやっていることに関わってくれた人を、企業の形づくりにどんどんパートナーとして巻き込んでいきます。関わってくれた人との相互作用によって事業の影響力が増し、それによって事業の方向性が決まっていくのです。
最初から行き先を決めていたら関わる必要がなかったかもしれない人たち、戦う必要があった人たちをも、自分たちに関わってくれるパートナーとして共創の仲間に変えていきます。
④失敗作ができたら、それを活かす方法を考える
どこかを目指しているときに予想もしなかったことが起こる。一般的にはそれを失敗・避けるべきこととして捉えることが多いかもしれません。
優れた起業家は、例えば、形の悪いレモンを手に入れたときにレモネードを作ろうと考えられるように、予測しなかった出来事を、新しいものを生み出すための機会として捉えます。
失敗したら、これでゴールが遠ざかったと考えるのではなく、これを使って新しい価値を生むことはできないかと考える。予測にとらわれず、偶然を支配する態度が、長期的な成功につながっていきます。
前提となっているのは「不確実な未来」
上記の考え方に共通しているのは「未来は予測不可能である」という前提に立って、その中で自分は何ができるのかを考える、というスタンスです。
価値観が画一的で、未来を予測できる時代には、「目的地を設定して、予測をして、必要なリソースを逆算する」というやり方で効率的に目的地にたどり着くことができたかもしれません。
でも、起業家が置かれる状況と同じように、現代は将来の不確実性がとても高い時代でもあります。一人一人が多様な未来に開かれている。そうした時代の「生き方」選びにあたっては、このような「優れた起業家」のスタンスが参考になるのではないかな、と思うのです。
優れた「起業家」は、育てることができる
従来の起業家にまつわる理論では、「良い起業家は発掘されるもので、育てられるものではない」という常識がありました。でも、この理論によれば、「成功する起業家の特性は育てられる」という結論に至っています。
限られた市場の中で限られた「才能がある」人だけが活躍する時代ではありません。誰もが持っているそれぞれの個性を活かしながら、不確実性の中で自分らしい道を切り開いていくことができる。
実際に起業するかどうかに関わらず、今の時代の新しい世代の子どもたちには、こうした不確実性を切り開き、それぞれの物語を紡ぎ出していくための力が必要とされているのではないかと思います。
そこにおいて必要なのは必ずしも「目指すべき姿」や「ロールモデル」ではなく、自分自身や不確実性と向き合う姿勢そのものなのではないか。「正しい答え」を探すのではなく、自分は誰なのか、今何ができるのかを真摯に問い続ける。そうすることで、未来は与えられるものではなく自ら紡ぎ出すものになっていくのではないかと思います。
そういうことを、これからの時代を生きる子どもたちにも伝えていけるとよいなと思ったし、おとなたちにとっても大切な考え方なのではないかなと思ったのでご紹介してみました😌参考になるとうれしいです。
参考文献: エフェクチュエーション (【碩学舎/碩学叢書】)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?