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「誰かに話したくなる"◯◯"の話」日本IBMが始めたポッドキャスト、その狙いと成果

日本IBMがポッドキャストを始め、好評を得ていると聞き、その背景を探るため取材を行った。取材相手は、NHKから日本IBMに転職し現在ポッドキャストプロジェクトを担当する日本IBM Future Design Lab.のプロデューサー須藤祐理氏である。

日本IBM Future Design Lab. プロデューサー須藤祐理氏

須藤氏はNHKで数多くの企業を取材し、密着取材やドキュメンタリーを通じて、企業の組織風土や企業文化を深く理解してきた人物だ。その彼が、IBMに所属してみて「高い知性と専門知識を持ちながら、社会や地球を良くしたいという公共精神に基づいている点がIBMer(IBM社員)の魅力」と語る。テクノロジーのソフトウェア、ハードウェアそしてコンサルティングを生業とする営利企業でありつつ、社会の「公器」としての役割を自覚し、正しくテクノロジーを社会や企業に提供しようとする姿勢には、公共放送のNHKに通じるものも感じるという。


🗣️ 声で伝える魅力:IBMがポッドキャストを選んだ理由

ではなぜポッドキャストというフォーマットを採用したのか?ポッドキャストを始めた理由について、須藤氏は「IBMの社員一人ひとりの魅力を発信したい」という意図があったと語る。外から見るとIBMは巨大なIT企業で、社員の個性が見えづらい。しかし、内部で接する人々は非常に面白く、個々の研究者やコンサルタント、経営者がどのような想いで仕事に取り組んでいるか、その人間的な魅力を伝えたいと考えたという。「ポッドキャストは、声や話し方、言葉遣いなどからその人の人間性が感じられるメディアであり、IBMの社員の魅力を引き出すには最適だと考えた」と語る。

イェール大学経営大学院(Yale School of Management)の教授であり社会心理学を専門分野とするMichael W. Kraus氏の論文「Voice-Only Communication Enhances Empathic Accuracy」では音声のみのコミュニケーションが共感的正確性を高める効果があることを示している。顔が見えない音声だけの会話の方が、相手の感情や気持ちを正確に理解しやすいという研究結果である。映像がある場合よりも、音声だけに集中することで、言葉のニュアンスや声のトーンに敏感になり、相手の内面をより深く読み取ることが可能になると結論付けている。

また、ポッドキャストがターゲットとするリスナー層が訴求したいターゲットに近いというのも理由である。ポッドキャストのリスナーは他メディアと比較して相対的に社会的地位が高く、企業の決裁権者が多い。短い可処分時間の中で「ながら聴き」が可能なポッドキャストは、リスナーにとって効率的で親しみやすい情報源となる。

「日本IBM 成長を賭けた7つの決断」

📣 親しみやすさで築く信頼:ポッドキャストが示す新しいブランディングの形

2024年1月から3月まで配信した最初のシリーズ「日本IBM 成長を賭けた7つの決断のポッドキャスト番組」では、Apple Podcastのビジネスカテゴリーで4位、総合ランキングで79位にランクインし、高い評価を得た。このポッドキャストが好感を持たれた理由として、IBMの持つ「信頼性」や「信憑性」に加え、IBMの話者が「ここだけでしか聞けない」内容を熱意をもって語る親しみやすさが挙げられる。また、単に事実を伝えるだけでなく、話者が一人称で自分の感想や感情を率直に表現することで、リスナーとの共感を深め、特別な内容を提供していることが評価されている。IBMポッドキャストのリスナー層には、硬い技術的な話を想像していたものの、実際には「居酒屋での会話のような親しみやすさ」があると驚かれることも多かった、と須藤氏は語る。量子研究者が情熱や想いを熱く語る姿に、技術的な話題以上の人間的な魅力が感じられるとの声もある。また、ポッドキャストのホストを務める日本IBM 執行役員 藤森慶太氏は、テレビやウェビナーなど映像メディアにも多く出演しているが、ポッドキャストをやることにより「ポッドキャスト聴いてます」と他社経営層から話しかけられる機会が増えたという。顔が見えない分、リスナーが「この人が言うことをもっと知りたい」と感じてもらう効果があるとし、ポッドキャストは長期的なファンベースの構築にも効果的であると言えるだろう。

ポッドキャストと既存の広報活動との違いについて須藤氏は、ポッドキャストが「点」ではなく「面」でIBMを見せるメディアであると説明する。プレスリリースなどを活用して特定の情報を届ける広報活動が「点」とすれば、ポッドキャストはIBMの理念や方向性を長期的に伝え、リスナーとの継続的なインタラクションを通じて「面」を形成することを目的としている。製品やサービスの提供以上に、IBMの「パーパス」や「社会への価値観」を伝える手段として、ポッドキャストは効果的なブランディングメディアと捉えている。

🤫 誰かに話したくなる”◯◯”の話

以上のような効果や狙いをもとに、2024年冬には、日本IBMのポッドキャストの新シリーズを展開している。「日本IBM 誰かに話したくなる”◯◯”の話」と題して、最新のテクノロジー知見をもとに “世の中の見方が変わる” IBMならではの未来予想図をリスナーと共有する番組だ。”◯◯”には、テーマごとにIBMが手掛ける様々なテクノロジーやビジネス知見が入るが、まずは「誰かに話したくなる”生成AI”の話」として、生成AIが発展する中で人間の役割や存在意義をどのように考えるべきか、人間とAIの共存について掘り下げる。続く「誰かに話したくなる”ミライ”の話」編では、IBMが描く未来像について研究者視点から解説し、聞き手に「ミライってこういうことだったのか」と感じさせるシリーズとなる予定だ。

須藤氏は最後に、「IBMのポッドキャストは、テクノロジーやビジネスを語るだけでなく、研究者、経営者、第一線で活躍するIBMerたちの想いや情熱、そしてIBMが目指す社会的価値を伝えるメディアとして注目してほしい。短期的な売上や就職率などの数値で表せるものとは違い、長期的にファンを増やし、IBMのパーパスを共感で繋げていくことを大事にポッドキャストをお届けしていく」と情熱を込めて語った。テクノロジーや未来に対する熱い想いを届けるこのポッドキャストには、須藤氏自身の「IBMerの人材の魅力を引き出したい」という強い思いも込められている。

実は私もポッドキャストの収録に何回か立ち会わせていただいたのだが、日本IBMの山口明夫社長や、AIビジネス責任者の村田将輝氏、サステナビリティーに取り組む槇あずさ氏らが語る「未来」や「生成AIへのビジョン」は、第一線で活躍する彼ら彼女らだからこその視点が多く、楽しみながら学べる要素が満載だ。テクノロジーが身近な世の中である現在、ビジネスパーソンやテクノロジー関連の方だけではなく多くの方にテクノロジーと共に生きる未来への扉を開く絶好のきっかけとなるだろう。IBMのポッドキャストは、未来に向けた熱意が詰まった「声」で、人々の心を動かしていく。気になる方はぜひ耳を傾けて、あなたが「共感」する「声」に出会ってほしい。

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