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高貴なるファタール ー 穏やか貴族の休暇のすすめ。[リゼルの出自と王都編前半あらすじ]

リゼルのプロフィールと、なぜリゼルはわかりにくいのか?について延々と考えながら書いていたら王都編前半の総浚いになってしまいました。
たぶんジルの回は大侵攻から王都編終わりまでの総浚いになるでしょう。

▼リゼルのプロフィールも書いてます

王都編前半からリゼルの足跡を辿る

生い立ちから宰相就任まで(主にノベル番外編)

リゼルは有力な公爵家の嫡男として生まれた。実家の領地は都から遠い国境付近にある大きな街で、侵略者に容赦ない「逆鱗都市」の通称で知られる。この領地と公爵一族に忠誠を誓う"白い軍服"の面々(私兵集団)を抱えており、このことから、もとは辺境伯の側面を持つ家柄だったことが窺える。過去には王家の姫が降嫁したこともあるほど血筋が良く、休暇世界でリゼルが「下手な小国の王族などよりよほど王族らしい」とされるのは、こうした血脈の歴史と、公爵教育の成せる技であろう。
なお現在の白い軍服の一人はリゼルの乳兄弟で、兄のような存在。もとの世界の話をジルたちにする際、最も多く登場するらしい。

母国の王族は強い魔力を持ち、特に転移(ドラクエのルーラに近い)は王族独自の特殊能力とされ、王権正統性の重要な要素である。リゼルも魔法(もとの世界では"魔術")の素養があったため、同年輩の第一王子とともに当時の国王から直々に指導を受けていた。そんな折、第二王子が幼児ながらに膨大な魔力を顕現させて王城内を転移する姿に衝撃を受け、「彼こそ真の王になる人だ」と心奪われる。
数年後、リゼル自身もまだ10代前半の少年だったが、いわゆる聞かん坊で大人の手に負えなくなっていた第二王子の教育係を任される。以降、少年期から青春期を共に過ごした。リゼルが攻撃魔法や防御魔法の技術を磨いたのは、如何なる場所にも出向いてしまう第二王子に付き添うのに「殿下に守っていただくわけにはいかない」と考えたかららしい。

やがて第二王子が現実に王位を継ぐこととなった。宰相の職位は長らく空位だったが、第二王子の即位と同時にリゼルが就任して復活。本人曰く「教育係をしていた王の覚えがめでたく、流れで」だが、第二王子が政治家リゼルの能力を疑わなかったことに加え、宰相の職位がなければリゼルを近くに置けなかったためである。

突然の転移で"休暇"へ突入(ノベル本編1巻序盤/コミックス1話)

ある日、リゼルは王城の執務室で書記官と雑談中に"別の世界"であるパルテダの市街地へ転移してしまう。
使用されている言語、文字、貨幣、その価値といったものを観察し、微妙かつ絶対的な違いを感じつつも、言語と文字が同じで意思疎通が可能であること、傭兵のように武装した男女*が歩いてはいるが不穏な空気がないこと、転移に人為的なものを感じなかったことから、帰還方法がわかるまで当地に留まる選択をする。
*リゼルの世界にも迷宮はあり魔物もいるが"冒険者"は存在しない。

まずは資金を得るため、身につけていた装飾剣を道具屋で換金し、代わりに空間魔法ポーチ(ドラえもんなら四次元ポケット)を購入。
次に必要なのは情報提供者で、【所属国がなく、自分なりの意見はあるが極端な思想は持たず、最低限の道徳観念と駆け引きができる地頭の良さを持ち、少し世話焼きな人物】に出会えないかと考えながら路地裏に入りかけたところを、冒険者らしき男ージルーに止められる。その言動から希望の人物像に通じるものを感じたリゼルは、やや強引な手法で情報提供のテーブルに付かせ、一通りの情報を収集。なんとかジルの興味を自分に向けることに成功すると、「どうせなら今しかできないことを」と、身分証獲得がてら冒険者となることを決める。そしてジルに1ヶ月の契約で王都の案内、護衛、そして冒険者指南を依頼した。
ジルの定宿「宿泊亭」に場所を移してから身の上を明かし、「休暇だと思ってこの世界を楽しむことにする」と宣言する。

「宿泊亭の貴族様」爆誕、そしてパーティ結成(ノベル1巻中盤/コミックス2-5話)

貴族は冒険者になれない。しかしこの世界の記録にリゼルという貴族は存在しない。
パルテダの冒険者ギルドでジルの推薦のもと登録を終えたリゼルは、生来の知識欲と本好きの趣味を生かして、凄まじいスピードで転移先の歴史、文化、地理、経済活動、冒険者として必要な情報を頭に入れていく。
また、ジルに「その話し方、今すぐやめろ。作ってるだろ」と凄まれてから一般市民らしい振る舞いを試すようになる。最初に取り組んだのは一人称を「私」から「俺」に変えること。ただ如何せん所作や表情が飛び抜けて高貴で、貴族階級でもトップクラスの出自であることが滲み出ているため、本人の努力(?)の甲斐なくどこへ行っても二度見され、屋台で何か買おうとすれば献上されそうになってしまう。ほどなくリゼルはパルテダ市民に「宿泊亭の貴族様」として知られる存在になっていく。

冒険者指南を引き受けてくれたジルはBランクながら「冒険者最強」の呼び声高く、冒険者界隈では"一刀"の異名で通るほどの有名人だった。これまで誰とも組まず、貴族の指名依頼も断っていたジルが貴族然とした駆け出しと行動を共にするようになり、パルテダの冒険者はざわつく。リゼル自身も好奇半分やっかみを持たれてしまうが、貴族・政治家としてさまざまな視線に晒されて生きてきただけに、特に気にもかけない。ジルの付き添いのもと冒険者として依頼をこなすうちに、ギルド職員のスタッド、道具屋で迷宮品鑑定士のジャッジ、憲兵の統括を担うレイ子爵といった面々と親しくなっていく。

そしてジルとの契約終了の日がやってきた。一見正反対ながらウマが合い、敬愛する国王以外に「共にありたい」と思える相手に出会えたリゼルは、しかしジルに気を遣った結果、一悶着を起こしてしまう。とはいえジルも、リゼルがもとの世界に帰還する日まで共にあろうと決めていた。ふたりは正式にパーティを組む。

貴族様+圧倒的強者+真の悪党(ノベル本編1巻終盤〜2巻/コミックス6話〜25話)

転移して2ヶ月弱が経った。リゼルは基本的に真面目で、好奇心も旺盛である。「もとの世界ではできないこと・知り得なかったことだから」と風変わりな内容も含めてさまざまな依頼を楽しげに引き受けるうち、当初はリゼルに思うところのあった周囲の冒険者からも「貴族さんなら一刀が組むのも仕方ない」と妙な認知を獲得しつつあった。

そんな折、ジャッジからマルケイド往復の護衛依頼を持ち込まれる。領主のシャドウ伯爵とは友人だというレイ子爵からの手紙を携え、リゼルは初めてパルテダを出た。到着早々に遭遇したトラブルが奏功してシャドウと会うことに成功したリゼルは、さらにマルケイド郊外の迷宮「水晶の遺跡」で所在地不明の地図を宝箱から入手し、ジャッジの祖父で名うての貿易商インサイの知遇も得るなど多くを収穫した。

マルケイドからの帰路、パルテダール国内を騒がせる最恐最悪の盗賊「フォーキ団」の襲撃を受ける。ほぼ時を同じくして「パーティに入れてほしい」と話しかけてきた蛇の獣人・イレヴンと盗賊団の関連性を見抜いたリゼルは、度々命を狙われながらも、彼の冒険者・剣士としての有能ぶりや、自分とジルにはない特性を買い、最終的にパーティの一員に迎える。さらに盗賊団の解体も成し遂げたことで、真実に近い部分を察したレイ子爵を内心脱帽させる。

帰還方法が判明!しかし…(ノベル本編3巻/コミックス26-29話)

超一流ながらクセの強いジルとイレヴンのリーダーとなりながら、相変わらず鷹揚に冒険者活動を満喫していたリゼルだったが、とある依頼の帰り道、膨大な魔力が体内に流れ込む感覚に晒され気絶した。ふたりに庇われつつ入った路地裏で、リゼルは敬愛する国王と父の姿をひび割れた虚空に見る。もとの世界の面々は必死でリゼルの帰還方法を探し、数ヶ月かけてようやく時空を繋げることに成功したのだった。そして、リゼルが今いるのはもとの世界ではないこと、人間の実体を移動させるにはまだしばらくかかること、ピアスさえ身につけていればどこにいても捕捉可能なことが伝えられる。
なにがあっても絶対に帰還させると言う国王に、リゼルは万感を込めて礼をとる。そしてイレヴンに初めて自身の境遇を話したのだった。

考察:リゼルのわかりにくさとエゲツなさ

休暇。を最初に読んだ時のことは悪い意味で覚えています。
「とにかくザカリーがムカつく、なんでもいいから他に面白い作品が読みたい!」という謎の一念でジャケ読み(大抵は0円範囲)しまくっていたある日の夜中、電子コミックアプリで見かけた1巻の表紙のリゼルがなんとなく気になって開いたんですよ。

ただ、どうもピンと来ない。このリゼルという青年、掴みどころが無さすぎる。
どうやら貴族らしい。王様に仕える地位にあったらしい。それがいきなり世界ごとワープしたらしい。言葉と文字は自国と同じだが違和感のある世界。そんな状況にたった一人きりで放り出されたというのに気持ち悪いほど冷静。ひとまずジュストコールを脱ぎ、登城用の剣を売って現地通貨を手に入れ、街の様子を観察し、「情報を得なくては」と手頃な人物をあっさり捕まえてしまう。そんなことある?!

夜中で眠かったこともあるんでしょう。ファンタジー冒険モノにしては人物が綺麗すぎて現実感がないのも、王都・商業国・魔鉱国という狭い範囲しか出てこないスケールの小ささにもピンと来ず、この時は確か2話相当を読んだところで力尽きました。というか、「なんなのこの人」と思いながら寝落ちしました
まあ、エリアが狭いのはドラクエの序盤では地図に載る範囲が狭いのと同じだと後々気づくわけですが…。

実際、リゼルのキャラクターは変幻自在と言っていいです。普段はのほほんとしていますが、本人曰く"仕事モード"に入るとゾッとするような雰囲気を漂わせます。私からすると『応天の門』の藤原基経なみです。
イレヴン配下の狂気の精鋭達を平気で使えるし、彼らがどれほど残忍な事件を起こしても自分とジルに影響がなければ放置です。もとの世界では12歳のときに敵国の傭兵集団に金貨を積んでヘーカの政敵を抹殺させています。本人も「自分たちが正義だなんて思ってない」わけですし、貴族は清濁併せ吞まないとやってられないでしょう。

これでもし、ジルの前でさえ猫を被るようであれば本当に面白みがないですが、そこはさすがに相方。
「水晶の遺跡」で魔力を使い果たした時、そばにいるのがジルだからと震えを抑えられなかったり、対等であろうという約束を頑なに守ってジルへ命令することを避けたり(その代わり"おねだり"の破壊力が凄い)、許してもらえる境界線を探ってみたり、一芝居打ってジルを置いて泊まりがけの依頼に出てみたり。
喧嘩したら傷ついて不貞腐れて落ち込んで。
何より、迷宮で変身した時が最もわかりやすい。兎になれば狼になったジルの懐に入り込み、"リゼルたん"(5歳児化)になればジルは自分のもの、あるいはお父さんがわりです。好奇心が勝るけど、姿が見えなくなると落ち着かない。団長と小説家さんが一緒にいて、帰ってくるまで待とうと諭されても「でも、ジルがいいです。ジルじゃないと、いやです」と言って悶絶させ、帰ってきたジルに抱っこされれば首元に擦り寄ってご満悦です。純粋無垢にジルだけを信じている。

自分は陛下のもので、一番大切な人も陛下だけれど、素にはなれない。陛下相手に我儘なんて言えない。守ってもらうわけにもいかない。
けれど、ジルだけは。

もとの世界も含めて、本当にこの世でたった一人の対等な存在。
「高位の貴族って大変なんだなあ」って、改めて思わせてくれるのがリゼルです。

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