世界の軸がずれた先で ー 穏やか貴族の休暇のすすめ。[概要]
『穏やか貴族の休暇のすすめ。』は、小説投稿サイト「小説家になろう」連載小説と、それを元にしたコミック作品です。小説書籍は短編集やファンブックがあり、さらにドラマCDや演劇へのメディアミックスも行われています。
作品情報(私が知る範囲で)
チートな青年集団のまったり冒険ファンタジー
ある日突然パラレルワールドと言える別の世界に転移した青年公爵リゼルが、いずれ元の世界から迎えが来ることを信じつつも「帰るまでは休暇だと思って」好奇心と持ち前の才覚で冒険者として日々を送るうちに、関わる人々に影響を与えていく…というファンタジー冒険譚ですが、少年マンガの冒険モノとは毛色がだいぶ違います。
主要キャラが全員青年(10代の成長物語ではない)
チートな連中ばかり(成長するにつれてチートになるのではない)
宿命のラスボスがいない(国家機密レベルの事件には度々巻き込まれる)
ヒロインもいない(女っ気がない)
まず主人公コンビが20代後半の独身男です。これが少年漫画の大作ならば、10代の少年が仲間やヒロインと支え合い、時に本気でぶつかりながら技術的にも精神的にも成長し、スポーツものならデカい大会での優勝を目指し、格闘系やファンタジーものなら宿命のラスボスに立ち向かってなんだったら世界を守っちゃったりしますが、「休暇。」は「やたら頭が良かったりやたら強い兄ちゃんたちが好き勝手に冒険してる」(ただし、いつ元の世界に帰れるか/帰ってしまうかは誰にもわからない)という内容です。
主人公コンビを取り巻く人物も一芸に秀でた男ばかり。一番若くてハタチちょい過ぎくらい(推定)、上は孫のいる年配者です。はじけるような若さはない。
綺麗どころも出てきますが、恋愛対象にはちょっと…な変わった女性ばかり。たまに素敵な女性依頼人が出てきたりしますが、彼女たちは基本的に通り過ぎていくだけです。もったいない…。
世界観は近世+ドラクエ?
作品の舞台は魔法や魔物が出てくる世界です。
我々が認知しているような神はなく、信仰の対象は大地や月や太陽、あるいは竜といった自然界の脅威。
文明レベルの雰囲気は産業革命の起きていない19世紀前半といった感じでしょうか。機械仕掛けのものは高価かつ希少ながら若干存在しています。時計とか。でも電気はないし、モータリゼーションも起きていません。いわゆる大量生産工場もありません。
王政を敷く国家が多く、王侯貴族が存在し、高等教育機関は上流階級(騎士学校)や知識階級(魔法学校)に限られます。街の子ども達は「学び舎」と呼ばれる近所の施設で生活に不自由しない程度の知識を身につけます。江戸時代の寺子屋ですね。
郵便ギルドや商業ギルドといった産業・職業の組合もちゃんとあります。
街の治安維持は憲兵(身分不問)が担い、戦争や凶悪犯対応は騎士団(貴族の非後継者が騎士学校を経て就く軍隊)がします。
そして冒険者。彼らは冒険者ギルドに持ち込まれた依頼をもとに、森や迷宮に蠢く魔物を倒したり素材を採取したり、都市間を移動する貴族や商人の護衛を行うのが生業です。憲兵や騎士の範疇外の脅威から国や民を守りつつ、報酬や、討伐で得た素材や迷宮品を換金して生活しています。冒険者ギルドには出自の定かではない者でも推薦人がいれば登録可能ですが、国家の意向や影響を排除するため、貴族階級出身者は冒険者になれないという規定があります。
「こちらの世界」最初の国パルテダール
王都パルテダ
商業国マルケイド
魔鉱国カヴァーナ
主人公のリゼルが転移したのがパルテダール王国の北に位置する王都・パルテダの市街地です。ヨーロッパ風のインカステラメント構造、すなわち中心に王城、その周辺に貴族の邸宅、中心街に高級店があり、橋を渡った外周に庶民たちの暮らしがあります。
冒険者たちの活躍の場である「迷宮」は城壁の外の草原や森に点在しており、門を出たところには冒険者ギルドが循環運行する馬車の停車場があります。
マルケイドはパルテダの南に位置する大都市です。パルテダールはもとより周辺国にも大きな影響を与える商業都市であり、通称「商業国」。
一般的に、商人は商業ギルドに登録して起業しますが、マルケイドは商業自治を行っており、領主がその一切を取り仕切っています。
カヴァーナ、通称「魔鉱国」は南西の鉱脈地帯にある工業都市、男たちの街です。開けた土地が少ない代わりに潤沢な資源があり、掘削した資源や工業製品・魔道具といった加工品をマルケイドを通じて流通させています。
「冒険者ギルドが洞窟ん中で石造り」というくらい街自体も山に食い込むように発展していますし、ドワーフやモグラの獣人など、この土地ならではの種族も多く暮らしている模様。温泉や、強い魔力が漂う魔力溜まりなど、他の都市とは一線を画す土地でもあります。
パルテダールの遥か南国アスタルニア
陽気で明るい海に面した南の王国。遠方ですがパルテダールの友好国です。売りは海産物や海の魔物、カラフルな織物、果物など。海の中にも迷宮があり、中には絶対攻略不可能とされる海底迷宮も。
パルテダールの王侯貴族は尊敬を集める一方で近寄りがたいイメージを庶民に持たれていますが、アスタルニア王族は祭りにも酒場にも賭場にも平気で繰り出し、彼らと遭遇する民のほうもあまり気にしません。決して軽んじられているわけではなく、「愛すべき我らの王様、王子様」といった感じでしょうか。
なんといっても国軍の「魔鳥騎士団」が有名。絶海の孤島で訓練した魔鳥とコンビを組む空の騎士は、自らの相棒である魔鳥にまたがってランスを振るい、王国の陸海空を守護します。海の果てには未開の群島があり、群島との貿易船の護衛も彼らの務めです。またパルテダまで軍事演習のために遠征することも。現在の隊長(騎士団だが階級名は隊長)は女性将校で、女だてらに「ああなりたい!」と隊員たちの憧れを一心に受けています。カッコええ。
魔法の総本山サルス
パルテダールの隣国。水の都であり、『ハリー・ポッター』のホグワーツばりの魔法の総本山で、ハイレベルな魔法学院を抱えます。「異形の支配者」他さまざまな異名を持つ魔物使い(テイマー)を擁しており、主人公パーティとは度々因縁が。
BL論争
この作品、マンガアプリ等の読者コメントを見たところ「BLか、BLでないか」論争があるようでして。作者様の作品紹介においても「男ばかりの友愛。濃い友情。恋愛感情はないからBLじゃないと言い張る必要がある程度にはそれっぽい描写があるので苦手な人はお控え下さい。」とあります。
主要キャラ全員ノーマルであることが作中で明示されているのですが、主人公が総構われ体質なうえ、積んできたキャリア(年下の王族の教育係)の影響か年下に甘く誤解を招くやり取りが多いこと、「スキンシップが激しく、強者に従順」といわれる獣人が仲間にいること等が拍車をかけていると思われます。
この点をおいしく読めるか、もしくはある程度我慢できるかしないと、原作とマンガの序盤*は読むのがキツイと思います。
*マンガ1巻相当(5話+コミックス書き下ろし)はかなりその雰囲気が出ているのですが、3巻以降は絵も含めてその辺がだいぶ薄まる印象なので、「話はいいんだけどな〜」と思ったらがんばって2巻ラスト(10話)まで行ってみてほしいところです。
# 2023/05/25追記
ひとまずは登場人物ピックアップから。
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