韓国発の人気作品「結婚商売」の設定考証に全力出した ①
原作は2017-2018年に連載されたロマンスフィクション小説
縦スクロール読みのフルカラーコミック(ウェブトゥーン)
「結婚商売」
「すごいストレートなタイトルだなあ」というのが電子コミック広告を見かけ始めた当時の印象ですが、2022年9月現在、めちゃコミの女性漫画ランキングで1位2位を争う大人気作品になっています。
この投稿を書いている私もマンガだけでは飽き足らず、原作小説を電子書籍で購入して、AI翻訳の力を借りながら自分のためだけにi文庫App形式で読めるように和訳版のテキストデータを作成している最中です。Twitterを見ていると、同様の状態になっている女性読者さんが多くて驚きます。
「めちゃコミ」の無料5話までを読んだ人の感想には「ヒロインの性格が悪い」「鞭打ちなんて…今の時代に読むと不快」といった声も散見されますが、それでも気になっている方はちょっと我慢して読んで、興味が湧いたら10話まで行ってみてほしいです!
まずはこの作品のポイントを。
なにこれ!と驚くほどクオリティの高い劇画
近年の電子コミック広告を見ていると、転生もの、悪女もの、王侯貴族ものが多いのですが、個人的にはどれもパッとせず。韓国の作者が書いた他の現代モノの恋愛マンガも読みましたが絵も設定もいい加減で、この作品も韓国発と聞いてはじめは手を出すのが躊躇われました。
そのうちどうやら「悪女ではない」「悪女が生まれ変わって復讐するわけでもない」(私は女の泥仕合は嫌いなのでこの手のものは全回避なのです)ことが広告からなんとなく伝わり、着手。
(テレビ東京のニュース番組「WBS」で「韓国の縦スクロールマンガ"ウェブトゥーン"のグローバル展開が凄い!」と報じられたのも見ました。凄いですねえ)
いざ読み始めて唖然呆然。圧倒的な絵の美しさに仰天してしまったのです。
単にキャラデザの顔が良いだけではなく、パース取り、筋肉や指の筋、服の影、外のシーンでの木漏れ日や陽の陰り、調度品、小物、衣装、農民の服、軍馬…そういったものまで細かく描き込まれていて、とにかく美麗です。
絵のクオリティと時代考証には経験から結構シビアなのですが、「結婚商売」の画力は大合格ですし、主人公のビアンカも自分の生きる道を懸命に探して成長していきます!話の発端は人生のやり直しですが、その過程で彼女はやがて聖人となることが示唆されています。
回帰前の人生の失敗は「子どもがいなかった」ことのはずが…
結婚9年目にしてお互いに初恋を認識する夫婦
電子コミックの作品ページ紹介にある通り、この作品は「悪妻」の誹りを受けながら亡くなった元貴族の妻・ビアンカが、記憶を保ったまま奇跡的に18歳当時の自分に戻るところから始まります。
次頁のネタバレに書きますが、ビアンカの回帰前の人生は「子どもを成せぬまま夫に先立たれた中世封建社会の貴婦人の末路」というべき悲惨なものでした。
ビアンカはまだやり直しがきく年に戻れたことに意味を見出し、なんとしても夫との間に嫡子を設け、夫の死後も領地で人生を全うできるように動き出します。
ところがその年の冬のはじめに戦地から戻った夫のザカリーは、「大人になったのだから子を産める」と真正面から要求するビアンカを「跡継ぎを産むのはまだ早い」と一蹴します。実はビアンカの健康状態(長年の引きこもり生活で痩せて体力がない、という認識)や、出征が続いている自分の状況を鑑みてのことなのですが、ビアンカに長年恐れられてきたと思っている彼(実際そうでした)は、自分の判断の背景まではビアンカに伝えません。
おりしも領内では「伯爵には情婦がおり、奥様との間に跡継ぎは望めないのでは」という噂が立っており、それを知っていたビアンカは「情婦がいるという噂は事実なのですね」と激昂してしまいます。
「せっかく人生をやり直せると思って夫に歩み寄ったのに、これでは子を持つことなど不可能だ…」と絶望するビアンカですが、彼女が編んでいた装飾レースを見た下女のイボンヌが発した「こんなに美しい布を見たのは初めてです」の一言から、自分の生きる道は子を産むことだけではないと気づきます。
ビアンカの回帰前の人生(18歳時点から12年以上先)では装飾レースが流行し、修道院で編み方を習得していました。
「アルノーでレース編みの産業をいち早く興したり、審美眼を生かして美しいものを扱う商売ができるかもしれない。家事(現代の家事とは異なり、城と領内の運営やマネジメント)を覚えながら、自分に必要な人材を探そう!」と人生やり直しの方針を変えます。
結果として引きこもり生活に終止符を打ち、側近や領地の人々と交流を持つようになったビアンカは、周囲から徐々に見直され、慕われていきます。
ビアンカとザカリーの間柄はそれでもしばし相変わらずの状態でしたが、ひょんなことが重なり、距離が少しずつ縮まっていきます。ビアンカは実際には才気ある賢い女性で笑顔がとても華やかであり、ザカリーは領民にも慕われる心優しい美丈夫でした。長年の「無口で恐ろしげな夫」「政略結婚でやってきた、俺を嫌っている妻」という認識が、冬が過ぎ、春が来ていくつかの出来事を経るうちにそうではないことに気づくと、夫婦は急速にお互いを意識していきます。
しかし、ビアンカはザカリーに対する気持ちに「生き抜くための打算」が混ざっていることを自覚しており、対するザカリーは形式的な夫婦でいることに悩み始めます。もはや貴族ならではの「家や立場を安定させるために子を成す」という大義名分は薄れ、「いまさら踏み出せない初恋」に落ちた若き妻と壮年の夫の姿が浮かび上がりつつありました。
そんな中、夫妻は国家行事が春から夏にかけて多く行われる首都ラホズへ旅立ちます。そこには2人の人生を変える多くの出来事が待っていました。
…ここまでが9月現在日本で公開されているマンガ版の流れです。
中世封建社会の貴婦人のあるべき姿とは?
「結婚商売」の口コミで非難が上がっているポイントが、序盤でビアンカが下女のアントを鞭打ちにする下りです。
しかし時代背景や身分制度、当時の結婚観からすると、下女の分際で領主とその正妻を蔑み、あまつさえ「領主と性的関係を持つなら自分のほうが正妻よりうまくやれるだろう」という発言は、領地から放擲されても文句が言えないほど軽率なものです。
執事長のヴァンサンや軍部長のロベルが言うとおり、「領主の城で下働きしている者の美徳は言葉を慎み、領主が良しとしていることに口を挟まないこと」であり、アントの発言は城の規律を乱すものです。領主の妻の仕事は家事ですから、聞きとがめた正妻が鞭を持って打ち据えるというのは、この時代としては「内助の功」に当たるのですね。
次稿では「ビアンカはそもそもなぜ死ぬことになり、回帰を願ったのか?」
本筋の前世譚をまとめます。
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