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アスタルニアの愉快な仲間たち ー 穏やか貴族の休暇のすすめ。[登場人物⑤]

前稿に続いてアスタルニアの話。リゼルたちが出会ったキャラクターのまとめです。「その人も取り上げるんだ」もあれば「おい、いないぞ!」もあるかもしれない。アスタルニアはモブだらけ。

アスタルニアの愉快な仲間たち

アリムダード王弟殿下(アリム殿下)

リゼルたちがアスタルニア滞在中の多くの時間を過ごすことになった王宮の書庫の住人。ノベル7巻81話から登場。リゼルたちと対面するのは84話である。

アスタルニア王族12人きょうだいの次兄。年齢は30代前半。褐色の肌に金糸のような美しい金髪を持つ。途切れ途切れの棒読みに聞こえる独特な話し方をするが、その声は甘く低く艶があり、非常に蠱惑的。
身長はリゼルが「ジルと同じくらいの背だろうか」と見立てているので180cm台後半か。アスタルニア特産の魔力布を用いた民芸布で文字どおり全身を覆っているため容姿は窺えず、しばしば「布の塊」と呼ばれている。尤も、魔力布にはマジックミラーのような効果があるためアリムは普通に布の外を目視している。

リゼルに引けを取らぬ本の虫であり、王宮の半地下にある書庫に〝棲んで〟いる。表舞台には滅多に姿を現さず、何年もアリムの姿を見ていないという家族もいるほど。本人の希望により王位継承権は無いに等しいが、「国一番の学者」と称される圧倒的な頭脳を以て国を下支えしている。
そのアリムをして解読不可能だったのが、迷宮〝人魚セイレーンの祠〟のボスの手前に聳える扉の紋様である。アリムはそれが楽譜であることは突き止めていたが、古代言語とまでは解明できていなかった。長らく〝踏破不可能〟とされてきたこの海中迷宮をリゼルたちが破ったことから彼らに興味を持ち、接触方法を検討。結果として冒険者ギルドとリゼルの思惑に乗る形で、リゼルに教えを請うことになる。
当初は欲を表に出さないリゼルの姿勢について「面白みがない、期待はずれか」と見ていたものの、親しく接するうち、彼が並の存在ではないことを悟る。のみならず、扱いにくさを全面に出しているイレヴンに敢えて「なぜ君たちは彼といるのか」と問いかけてみるなど、血気盛んなアスタルニアの民、また〝知ることに貪欲な学者〟というリゼルと近い属性の者として意外性のある言動を見せることしばしば。さらには年上らしさ、(大家族の上から2番目ということで)兄貴らしさも度々覗かせ、ジルと喧嘩したショックでリゼルが書庫に籠った時には黙って話を聞いてやり、リゼルが寝込んだ際には書庫隣の自室を開放するなど援助を惜しまなかった。
リゼル一行がアスタルニアを離れる際には、自らの証である〝II〟のモチーフのついた金のブレスレットを贈って親愛とともに「何かあればアスタルニア王族の威光を使ってくれて構わない」という意思をも示した。

アスタルニア編で人気?があるのはナハスさんと宿主さんなのだと思うのですが、筆者はアリム殿下推しです。王族の筆頭格という非常に高貴な身分でありながら、リゼルの知識と教養に一目も二目も置いて「先生」と呼んで敬意を表したこと、りぜるたんの扱い方、喧嘩回の振る舞いなどリゼルの扱いが見事でした。さらには「先生が読みたがっていた本が入手できたから」と宿まで届けに来てしまうあたり、お茶目です。成熟した王族男性として素敵だなあ…と思いますし、こういう従兄がいたらブラコン気味になりそう(笑)。


ナハスタルス(ナハス)

魔鳥騎兵団の副隊長。30代前半。ノベル5巻68話から登場。オレンジ色の短髪、軍服の上着ごしに見事な腹筋を披露している。

鳥マニアの母親の影響か、魔鳥バカの多い騎兵団でも指折りの魔鳥偏愛者である。父親は林業従事者(樵)。妹2人はナハス同様に〝趣味への偏愛〟が重度で、上の妹は毛皮マニアで鞣し職人を目指し、下の妹は角マニアという謎属性。推定15歳以上も離れたのんびり気質の弟が1人いるが、最近「冒険者になりたい」と言い出して頭を悩ませている。

如何にも生真面目な上級軍人といった言動が目立ち、仁義に篤い。リゼルたちを魔鳥車に乗せてアスタルニア往復の助力をしてくれたのは直接的にはナハスだが、かつてナハスが友人(とあんな魔鳥バカには言いたくない)ヒスイに作った借りを「いつか必ず返す」と約束をしていたのを、その後リゼルに借りを作ったヒスイが執行したもの。

リゼルの出自が高位の貴族階級であると気付いているらしきアリム曰く、ナハスは「いい意味で」鈍感・一般人気質なところがある。深く考えるのを控えるのも政治家ではなく軍人だからか。リゼルたちを帯同してアスタルニアへ戻る際、リゼルがレイではなくヒスイを頼った本当の理由を知らされて衝撃を受け、それをジルが〝職業病〟と揶揄したのを耳にしてリゼルの地位を疑ったが、メンタル保持のため聞かなかったことにした(その分しこたま酒を飲んだ)。その後もリゼルの高位に気付けるタイミングは再三あったにもかかわらず、あくまでも「自国に逗留する、ヒスイの大切な知人」として扱った。
むしろ、リゼルが余りにいろいろやらかし、その度に呼ばれて対応したり、自ら首を突っ込んで手助けしていったため、最終的にはアスタルニアにおけるリゼルたちパーティのお目付役的存在となり、特にリゼルのことは「親」かと思うほど面倒を見たのは読者としてもなんとも言えない。騎兵団の副隊長であり、階級もそれなりに上のはずなのだが…。

リゼルのことは長らく「御客人」と呼んでいたが、最終的には「リゼル殿」になった。リゼルたちがパルテダールに帰還するにあたってはアリム同様に別れを惜しんだものの、幸いにもその後すぐ王都で再会している。

ちなみに土産物や餞別を選ぶセンスは壊滅的である。

ナハスさん…もともと面倒見が良い長男気質で、また軍人たるもの身の回りのことは一通り自力でこなせなくてはならず、料理をはじめ家事全般をこなせるんですよね。そこに目をつけたリゼルの「料理がしたい」に振り回されたり、酷い風邪を引いたリゼルに「看病してもらうならナハスさん」と思われてしまうあたり、本当に人がいいと言うかなんと言うか。


宿主

アスタルニアでリゼルたちが定宿とした宿の主人。30代前半。麦わら帽子がトレードマーク。ミディアムロングの髪をハーフアップにしている。服装はカットソーに七分丈のエスニックパンツ、腰に唐辛子の房を結びつけている。外見はごく普通。ノベル6巻72話から登場。
息を継いでいるのか疑うほど一言が長く、地味にテンション高く、情報量が多い。

ナハスの竹馬の友。親同士が仲が良かったため子供の頃は自然とつるんでいたらしい。ナハスが入隊し、自らも宿の仕事に追われるうちに顔を合わせる機会は減ってしまったというが、それでもたまに飲んでいる。ナハスに惚れている妹がいるが、味音痴のくせに「兄貴と二人で宿とか無理だわ(笑)」と食堂を開く両親についたため、宿主はワンオペで跡を継いで宿を経営している。
料理の腕前はとんでもなく高い。家庭料理というよりは料理店レベルのそれは味のみならず、野菜の飾り切りや花の使い方も見事。そして王都の女将と同じくリゼルたちに弁当をもたせてくれる。また釣りの腕前もなかなかのもので、自ら吊り上げた魚を宿の料理に出すこともしばしば。

モテないことを気に病みがち。リゼルたちの顔面偏差値がそれを助長しているが、アスタルニアでも目立つ冒険者となった彼らの定宿であることが自慢だったりもする。ジルの迫力に気押され、「会話してもらえるかも賭け」なイレヴンに戦々恐々としつつも面倒はきっちりみる。リゼルの5歳児化に際しては嬉々として世話していたので多分子供好き。


魔鳥騎兵団の隊長

魔鳥騎兵団の現トップ。妙齢を過ぎてなお凛々しい眼差しを持つ男装の麗人であり、矜持の高さと気風の良さも印象的。騎兵団の中で老若問わず女性に一番モテるらしい。
ノベル6巻「魔鳥騎兵団の下っ端は語る」で人となりが紹介され、本人もチラッと登場するものの、描かれた回数は少ない。
その活躍が拝めるのはノベル10巻、リゼルが巻き込まれたとある事件の処理関連の話。国の防衛の要である騎兵団の長として誰よりも熱いのに冷静で、状況把握も的確な様子が窺え、「なるほど格好いいわ」と読者に思わせるに足るものがあった。


小説家

アスタルニアの女流作家。ノベル7巻87話から登場。劇団ファンタズムの団長の知己。

歴とした成人女性で団長やリゼルたちと同年代だが、椅子に座ったリゼルたちがさらに下を向かねばならないほど小さく、さらには幼女体型のため成人女性に見えない。肩で切り揃えた〝おかっぱ〟に大きな布のカチューシャが特徴的…すなわちヘアスタイルまで幼い。
「〜〜かなって」という特徴的な語尾をつけて話す癖がある。少しでも断定できない要素があるとき、提案の際に出る模様。

研究書や専門書の類がウケず、物語(小説)が娯楽のひとつであるアスタルニアにおいて、若い女性読者が多い作家である。いわゆる〝逆ハーレムもの〟の第一人者だが、特に有名な作品としては、アスタルニアの迷宮「黒き影の館」にしか出現しないヴァンパイア(ジル曰く黒いマントでその実態は蝙蝠の集合体)をシャドウ伯爵ばりの妖艶な男性の魔物に仕立て上げた恋愛物語がある。これは女性読者のみならず国内で抜群の知名度があるようで、冒険者以外の国民は魔物の実態を知らないため、ギルドが実施した魔物人気投票でヴァンパイアが1位を獲得してしまったほど。

癖の強さはかなりのものだが、非常に仕事熱心。男性キャラのネタが尽きてきたという理由でリゼルたちに取材を行ったり、果てはジルに単独取材したりもしている。

恋愛小説を書くだけでなく自身の恋愛にも積極的だが、如何せん外見が外見のためロリコンのターゲットになることもしばしば。作中ではアスタルニアの大祭「船上祭」に男性と出かけたいと願うものの酷い目に遭い、当日は脚本執筆と引き換えに男装した団長とデートしていた。なんだかんだとウマの合う友人らしい。


アスタルニアのギルド職員(ラリアットのおっさん)

アスタルニアの冒険者ギルドのNo.2。ノベル6巻75話、団長との再会シーンから登場。

荒事担当らしい体躯、スキンヘッドにザリザリとした短い顎髭、アスタルニアの男らしい荒目の口調(江戸っ子っぽい?)。王都のスタッド、マルケイドのレイラと一見〝らしくない〟荒事担当キャラが多い中、如何にもな風体である。外でやらかした冒険者の通報があれば即座に向かうのだが、巨漢の割にスピードも持ち合わせるため、「地響きとともに向かってくる姿がかなり怖い」と言われている。
その様子が明らかになったのはノベル7巻。冒険者同士の諍いが街で発生するや、彼は土煙と地響きを立てながら制裁に飛んできて冒険者たちを跳ね飛した。その一部始終をたまたま目撃したリゼルは「あれが噂の〝オヤジのラリアット〟か」と頷いている。

アスタルニアの冒険者にはまずいないタイプのリゼルに初期はやや苦手意識を持っていたが、ポジション的にも何かと普通じゃないことが発生するリゼルたちの対応をすることが多かった。
(アスタルニア編で最も精神的に疲弊していたのはラリアットのおっさんなのではないかと思う筆者である)


バーのマスター

パルテダでリゼルたちが度々食事をしていた酒場のマスターではなく、ジルと同郷・同世代の幼馴染みのほうのマスター。外見に関する描写はない。ノベル10巻限定でたびたび登場し、ジルの少年時代を詳らかにする狂言回し的な役を果たした。

アスタルニアで正真正銘のオーセンティック・バーを営む。酒に魅せられ、美味い酒が手に入りやすい土地を求めて放浪した結果、アスタルニアに落ち着いたらしい。

幼少期の話によると、ジルの母方の祖父でもある村長と揉めている冒険者の前に〝薪割り斧を担いだ〟ジル(※まだ10歳以下)を押し出してビビらせるなど、どちらかと言えば悪童である。たびたびそんなふうにネタにされた少年時代のジルは「コイツいつか前歯折れろ」と常々思っていたらしい。だがマスターのほうはジルを「幼少期から飛び抜けた雰囲気を持っていた」と評しており、ジルが侯爵家から帰省して「冒険者になる」と告げた時には正直安心した、冒険者最強が一刀だというのならばジルベルト以外にあり得ないと思っていたと話している。

10年以上ぶりに故郷から遠く離れた土地で再会したにもかかわらず、店に入ってきたジルを一目見るなり本名で声をかけ、さらには一般人でありながら「噂は聞いてるよ、〝一刀〟」とその綽名でも呼んでみせた。

マスターとジルの関係は若干一方通行です。「趣味ワリィ」煙草を吸うくらい煙草に関してはなんでもいい派で、その煙の匂いがついた状態でリゼルのいる宿には帰りたくないジルは堂々と文句をつけていましたし、リゼルを紹介したくないと思うほどにはメンドクサイ旧友なのでしょう。
ただ、ジルはなんだかんだとアスタルニア逗留中はマスターに助けられたのでしょう。煙草の入手先をこっそり教えてもらったりしましたし(結果スカだったけど)、やかましい大衆酒場で安くて度の強い酒を煽る男衆が多いアスタルニアにあって、ラフロイグなど(現実世界ではスコットランドのアイラ島のウイスキー)を黙って呑むのを好むジルにとって、言えばその銘柄が出てくる静かな店というのは貴重だったのではないでしょうか。


イレヴンの両親

アスタルニア領内の森に住むイレヴンの両親(いずれも蛇の獣人)。
ノベル6巻71話以降、散発的に登場するが、マトモに登場するのは母親のみ。

父親は狩人。性格はイレヴンと似ておらず、朴訥として控えめなイメージ。戦闘力は皆無で狩りは全て罠だが、巨大な魔物を平然と捕らえるほどその規模と仕掛けはエグい。これを英才教育されていたからこそのイレヴンである。
極度の方向音痴で、イレヴンが里帰りした日も不在だった。イレヴンの回想によれば1年の半分は家におらず、ひとたび父の狩りに同行すると何日も家に帰らなかったそうである。「普通だと思っていたけど凄ぇ迷ってたっぽい」が、それも少年時代のイレヴンにとっては娯楽だった模様。

母親は魔物除けの調香師。栗色の髪、額に鱗を持つ。リゼルとジルが「姉だと言われたほうが納得できる」と思うほど若い。イレヴンが十年ぶり以上の里帰りで開口一番「母さんってずっと見た目変わんねぇの何で?」と言ったことからも、外見年齢が昔と変わっていないのが明確。ちなみにあまりに若く美人なので、とある道具屋で居合わせた冒険者がナンパしようとした。

イレヴンのことを母として真っ当に愛しているが、獣人の特性からか過干渉ではなく「元気にやっているのだろう」と遠くから応援している。息子の癖のある性格や刺激ばかりを求める向こう見ずな面を正確に理解しており、だからこそ対等で信頼のおける仲間を得たこと、スリルより優先すべき存在(リゼル)ができて命を大事にするようになったであろうことに内心安堵している。
僅か11歳で森を出た息子が冒険者稼業に就いたことに関しては予想通りだったらしい。偽名になった理由をイレヴンが語った際に裏カジノの話なども聞かされて怒りはしたものの、決して止めないあたりがイレヴンの親らしい(そしてリゼルもこのタイプ)。

ガリの大食漢である息子の食事事情を常に気にかけており、里帰りの別れ際には作った惣菜をイレヴンの空間魔法ポーチにぎゅうぎゅうに押し込め、市街地で再会した際には宿に出向いて夕飯を作っていった。こうした母親の言動にイレヴンは照れ隠し半分で対応するが、格上・格下構わず気に入らない人間には噛み付くイレヴンも母親にだけは敵わない、上も下もないのだろうとリゼルは見ている。

年齢が若いので騙されがちですが、良くも悪くもあけっぴろげな肝っ玉かあさんって感じです。また、ジル本人の前で「こんなガラの悪い人と付き合いがあるなんて」と口走ってしまうあたり、思ったことをすぐ口に出すイレヴンの性分はお母さん譲りなのかな?と疑っています。

(おまけ?) 団長に惚れた冒険者

アスタルニアのとある5人組パーティの一人。
リゼルたちがアスタルニアに入った直後、劇団「ファンタズム」の団長が劇場設営の依頼でギルドを訪れた際にヤジを飛ばしたが、その後、団長扮する魔王に魅了されてしまう。
悪い意味で典型的なアスタルニアの冒険者(直情的で喧嘩っ早い感じ)なうえ、婉曲な言い回しから何を言われているか汲み取るような勘がない。パーティメンバーからの人徳もないようだが、最終的にはちょっとしたヒットを飛ばした。

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