『レモンから』#シロクマ文芸部
レモンからケタケタと笑い声がした。
「僕らの季節だ」
ケタケタと笑いながらレモンは言う。夏のイメージがあるレモンの旬は冬なのだと。
わたしはすっぱい顔をして、レモンをにらみつける。
わたしはレモンが苦手だ。梅干しも酢の物も、すべての酸っぱいものを好んで食べない。さすがにオトナになって、から揚げにレモンをかけられても文句を言わずに食べられるようになったけど。
なんでもレモンを絞って食べる男がレモンと一緒にニマニマと笑った。
紅茶にレモン、冷奴にレモン、レモンチューハイに、おやつに必ずはちみつレモン。
僕らって、君たちのこと?
男はフライドポテトやらサラダに果汁をぎゅうっと絞ると、種を器用に取り除く。味がレモンになってしまうじゃないか。わたしはレモンのすっぱさしか感じられないのは料理じゃないと言った。
アボカドの変色止めにはレモンのお世話になってる。
しかしその主役はレモンじゃなくあくまでアボカドだ。
そう主張すると反撃にあう。
「君は知らないからそんなことが言えるんだ。
さわやかな香りと奥深い味にビタミンCがたっぷり含まれてて、添え物だけじゃないあの味は、よく洗って皮まで食べるんだよ。
夏は元気になる。冬はほっとする。
主役はレモンだ」
じぶんの言い分だけを押し付ける男の背中に、たくさんのレモン果汁を浴びせたくなった。ひりひりしそう。
甘いところのない男に愛想が尽きたわたしはひとりその場を去る。
レモンからケタケタと笑い声がした。
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