『木の実と葉』#シロクマ文芸部
木の実と葉の図鑑を見ていると、およそ100年前に絶滅したと書いてある木を見つけた。わたしはその木のことを知っている。葉はお茶のように煎じて飲んだ。実は栗のような触感でピスタチオのような味と松茸に似た香りまで、鮮明に思い出せることに、じぶんでも驚く。どこで誰とその実を葉を味わったのだろう。
いくら考えてもわからない。本当に自分が感じたことなのかも曖昧で、だが昨日も感じたような妙な感覚だ。奥付を見ると初版は約80年前だ。わたしが?この木の実と葉を知ってる?
考えると同時に頭がクリアになり、しあわせ成分まで感じられた。人々が笑いあい、ふれあい、手をとって生きていた。自然とともに。日の光を浴び風を感じ雨を喜び、恵みを存分に味わった。そんな感覚を思い出すと、今ここにいるのが不思議に思える。今ここでその味と香りを味わいたい。
持っている図鑑の奥付をもう一度見る。
著者にわたしの名前が書いてある。
わたしは誰だ。何歳なのか。どこにいるのか。
わからない。
わかるのは絶滅したと書いてある木の実と葉だけ。
わからなくていい。
わかったところでなんになる。
わたしは木の実と葉を、今、味わった。
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