精神保健指定医の話
越智祥太
精神保健指定医とは
精神保健福祉法による国家資格で、患者の意思に反した強制医療の権限を持ちます。
5年以上の医師経験と、三年以上の精神科臨床歴があり、八病態を診た症例報告か認められ;取得できます。実は精神科医の九十六%以上です。
自傷他害(自分や他人を傷つける)のおそれを認める措置入院(指定医二人の診断必要、緊急措置入院は前段階で当座一人の指定医で可)や、入院が必要だが入院意思を認めない医療保護入院や、とりあえず緊急性があり七十二時間入院を命じる応急入院の、強制入院ができます。
隔離(独房のような隔離室に閉じ込める)拘束(ベッドや車椅子に縛り付ける)、移送(拒否する人を強制的に病院に運ぶ)、退院請求を退けるなどの、行動制限ができます。
その他措置入院の鑑定などが依頼され勤務病院に問題があれば改善させる義務を持つと、本来されています。
指定医は一人前の精神科医の公的な条件のように思われ、私も病院を移って全病態を診て症例報告を書きましたが、考え込みました。
精神科入院患者の虐げられた状況を知り、人が人を隔離拘束する権力性を簡単にまとって良いのか。軍を放棄する国家の如く、ガンジーの如く、暴力性を放棄し、患者の意思と患者との語らいを大事にしようと、非指定医で生きることにしました。
若い医師に指定医診察され、初診料、給料も安いなどの恥辱は、人権を蹂躙される患者の屈辱に比べればなんでしょう。
以前は鑑定医と言い、権力性の問いから全共闘時代に鑑定医拒否運動があり、指定医移行時は指定医拒否運動がありました。しかし、みなその後指定医を取り、知人に非指定医は三人だけです。
学生時代に敬服し著書を読んだ開放医療唱道医は、その後開放医療をやめ日精協会長として医療観察法を推進しました。最近は指定医を取らない説明が大変です。
任意入院だけでできるの?
非指定医として行動制限の早期解除や、長期入院患者の地域退院に取り組んでいた時、昔働いた病院で管理者に求められ、強制医療のない病院を作ろうと思いました。
小病院で常勤医が私だけなので強制入院はできませんと開き直り、職員は当初困りながら次第に工夫を重ねます。
指定医なら簡単に机上で強制入院や隔離や拘束をチェックするところを、じっくり話し理由を聞き説得し、他の方法を試み、面倒な中で患者理解も信頼関係も深まります。
職員の懸命な対応を見る他の患者が、聞に入って支えてくれるのです。
家族や地域支援者や退院患者が大勢来て外に開いてくれます。
十年近くが過ぎました。
一年間に何人かは残念ながら入院途中で具合が悪くなり、興奮して入院を拒否します。家族や福祉担当者などに間に入って話し合い、最後はにこにこ手を振り転院します。自分ではここでは入院を認めたくない気持ち、ありますよね。
措置入院は受けられず、著しい興奮がある場合は他院に回されたようです。任意入院の限界は確かにあります。
でも、他院なら医療保護入院で隔離拘束される症状で、任意入院で一般病室だけでほとんど対応できるとわかりました。強制入院も行動制限も、限りなくゼロにできるのです
(注)「かもサポ通信」2019年4月17日発行 No.25 より許可を得て引用させていただきました。