ファミレスを享受せよ、の感想
インディーゲームセール!
前々から目を付けていた作品は色々あるのだけれど、一個ずつ紹介動画を見ていった中で目立っていたのが『ファミレスを享受せよ』。
MS-DOS時代のADVを彷彿とさせるフリーハンドの人物、背景(正確には人物と背景を分けてないから一枚絵)。気だるげな雰囲気、何よりBGM(「過去を照らす月」)が抜群にいい。早速購入してプレイしようと思ったのだけど、なんか無料のブラウザ版があるみたいじゃないですか。ありがたい。
※ネタバレあり
面白かったところ
個人的にADVってギャルゲーか、ミステリかホラーのどれかだと思ってまして、印象が強くて、どっちも人死にが絡むんですよね。そしてショッキングな――印象的な画を作るべくジャンプスケアが使われがち。……苦手なんですよびっくりギミック。『ひぐらしのなく頃に』で暗闇に魅音の双眸が浮かぶシーン今でも目に焼き付いて離れない程度には。
なのでジャンルが絞れるまではびくびくしながらプレイ。
満月の夜、ふらふらと導かれるようにファミレスに入った主人公は注文をして、ふと気がつくと「ムーンパレス」という異世界のファミレスに飛ばされていた。店員はおらず出口もなく、そこにあるのはドリンクバーと何人かの「先客」。彼らは歳を取らず死ぬこともなくこのファミレスで永い永い刻を過ごしてきたとか。果たして主人公は現実に還ることができるのか、そしてこのファミレスは一体なんなのか。
というのがあらすじ。基本的に他の客と話をして新しい話題を解放しつつその話題を他の客に振って……を繰り返して進行していく、オーソドックスなADVって感じ。
迷い込んでしまった順番が関係あるのか?
エビが何かのキーワードで、本編開始時点で主人公はn週目?(冒頭、ファミレスの店員に向かってソフトクリームにエビは入ってますか?と確認するシーンが意味深)
お前女なの?
俺も女なの!?
お前は男なの?
とまあ特に緊張感もなく進むんですが、
一人だけドア越しにしか会話できずいかにも怪しいツェネズに「故障中のコーヒーメーカーのボタンを押してコーヒー持ってきて?」と言われ、ボタンを押そうとしたら「本当に押しますか?」のコーションが出たところで姿勢を正す。セーブしてから恐る恐るコーヒーのボタンを押して、最初ちょびっとだけ液体が出てきたときには、これ直後に真っ赤な血がドーッと溢れ出るんでしょそういうの分かっちゃうと身構えたんだけど空振り。
隠し部屋の冷蔵庫を少し開けたら黒い液体が流れてきたところも同様。ブラックアウトから死体が出てくるんでしょそういうの分かっちゃう、からの空振り。このあたりでジャンルはホラーじゃなくて純粋な謎解きでいいのか……?という気になってくる。
このあたりで男として歴史に記録されたけど実は女だったという王様からパスワード付きの箱を貰ったんだけど、蓋を開けるヒントとなる数列がまったく見当たらない。16桁とかいう正気を疑うパスワードだから、いくつかのヒントの組み合わせか、パスワードとか関係なく力技でこじ開けるかのどっちかだろうけどヒントも見つからず進行がストップ。仕方なく暇つぶしにと貰った間違い探しゲームをはじめると、
ゾッとした。ここで来るか……!いくつか問題を解いていくと生理的にアウトな魚……魚?をサラリと滑り込ませてくる。そして間違い探しをすべて終えると、
……頭おかしい系の意味深文章は『かまいたちの夜2』なんかで耐性ができたのでそれほどでもないんですが、この「いかにも」な文章の中にもパスワードのヒントは無し。もう一度すべての人物に全ての選択肢を試すも進展は無し。
……総当りすんの?16桁だぞ?
絶対に違うよなあ……と思いつつ数字を回転させていると「覚悟を決める」という選択肢が。そして果てしない総当たりに挑む主人公。「10の16乗」でggったら1京って出てきたんですけど、これ1つ試すのに1秒だとしても、316,887,646年って出てきました。ハノイの塔かよ。
ここは演出が秀逸で、猛烈な勢いで箱に描かれた数字のリールが回転しはじめる。途中、8桁目を総当りし終えたところで「ようやく半分か……(全く半分じゃない)」とか、他の客が様子を窺いに来たりする。放置するほかやることもないんだがリアル時間もそこそこ経過したところで、
箱が開く。このシーン、主人公は完全に発声を忘れてるのが過ぎた時間の永さを意識させるし、更に面白いのが、物語中盤で出てきた「この世界の寿命を示していると思われる目盛り」が、この総当りをする前とした後で全く変化してないんですよ。てっきり総当たりが終わったあとは世界が終わる寸前になってて物語はクライマックス(以降はコマンド選択が一定回数を越えるとゲームオーバー)みたいな仕掛けかと思ってたらそんなことは全然無く、何百万、何千万年を経てもこの世界はびくともしない。
物語としては終盤に入っていて、世界の種明かしだとか伏線回収が大急ぎで行われる。ここからは特に詰まることもなくED、そして公式ページでも示唆されているトゥルーエンドにも到達。ガラスパンが一緒に迷い込んできたというラテラの正体が判明するシーンなんかは、メッセージウィンドウが話者のそばに出る仕様を活かしたうまい演出だなと感心したし、EDのキャスト欄で本編内で語られないネタバラシをする姿勢もオシャレ。ノーマルエンドでは流刑の月に独りだけだったクラインが、トゥルーエンドでは連れ合いを得ている演出も本当にきれい。まあ王とクライン、主人公とガラスパンと2つも百合展開が待ってたのは少々胸焼けしたが。
不満点
世界観がユニークで、短時間でしっかり魅せる低価格(無料)ADVとしてかなり気の利いた作品。
問題は自分のプレイ環境……というか、晴れた夏の昼間に、広いリビングで、競馬中継を聞きつつ、時々スマホいじりながら、YouTubeを裏で流したままプレイしたのは本当に申し訳なかった。隠し包丁を入れたり厚さや切り方にも拘った青魚の刺身をフードプロセッサーに掛けて塩振って流し込むかのような愚行蛮行。
これは肌寒くなってきた10月下旬の21時頃からプレイをはじめて日付が変わるギリギリでクリアするのが一番きれいなやつだわ。作者に申し訳ない。