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86本目 探偵神宮寺三郎PRISM OF EYES

 だいたい年1作ペースで消化してる探偵神宮寺三郎シリーズ、今年はswitchのこれを。
・総当たりで先に進めるクラシックスタイルのコマンド選択ADV
・全4章で1話2時間程度の火サス風オムニバス
・舞台は新宿周辺
・神宮寺は刑事、鑑識、新宿の裏社会を仕切るヤクザ等と懇意
・複数ライターなので作品ごとに文章のデキの差がある
という基礎知識さえ抑えておけばいつでも誰でもどこからでも楽しめるのが神宮寺のいいところですね。

古臭いADVだが、だからこそ安心。

 個人的にはかなり好きなシリーズで、いつか復活してほしいと思ってます。最新作のエピソード・ゼロ『DAEDALUS:The Awakening of Golden Jazz』が金のかかった作りですごいコケ方したのが悲しい。いやータイトルが悪いよ。これで神宮寺三郎だって気づかねえわ。


虚飾ノ夜

 新作。神宮寺は新宿で大学の同級生:朝倉と偶然再会する。慌てた様子で逃げるように立ち去る朝倉とぶつかった拍子にお互いのスマホを取り違えてしまい、朝倉が落としたスマホにかかってきた女から、朝倉がクラブのVIPから荷物を盗んで逃走したことを知らされる。そういえば朝倉を追うように黒いツナギのライダーが走っていった。旧友を心配する神宮寺は調査を開始した――。

 2時間弱くらいの想定プレイ時間だろうにとにかく話のスケールが大きく、ミスリードも多く仕掛けられている。というか3章からジェットコースターみたいな展開で、いくらなんでも詰め込みすぎだろ……って。さっきクリアした自分のためにちょいとまとめておきます。

・朝倉はミサキというホステスの協力を得て、クラブのVIPルームに忍び込み、アラブ系の男から何かを盗んだ。
・クラブは朝倉と、それに協力したホステスのミサキを追っている。
・ミサキは隠れて朝倉のスマホに連絡したが、そのスマホは神宮寺が持っていた。
・神宮寺はミサキの依頼を受けクラブに潜入し、ミサキの私物を奪還。クラブが麻薬を扱っており、バックに世界的な麻薬カルテルの存在を知る。
・クラブを出たところで黒いツナギのライダーから発砲される。

正義感はあるがダーティなこともやる男。Law一辺倒ではない。

・銃撃を避けたものの、事務所や朝倉のアパートは不審な男に見張られていた。更に警察上層部に圧力がかかり、発砲事案を含めた捜査の一切が行われない。
・朝倉の縁者から、朝倉が麻薬の売人だったことを知る。
・朝倉はクラブの隣の廃ビルからクラブを様子を探っていた。そこで朝倉のスマホをもう一つ発見。
・見つけたスマホをいじっていると謎の暗号を発見。それを解いた先でノートPCを発見し、ミサキに連絡したところ代々木公園で落ち合うことに。
・代々木公園に向かうと女の悲鳴が。ミサキはカルテルの手の者に連れ去られてしまった。

・ミサキを返してほしければ一人でノートPCを指定の場所に持って来いと脅される神宮寺。警察に相談し、ノートPCのデータ吸い出しと解析を依頼。PGS発信機を身に着け、取引場所に向かう。
・取引場所のビルまで神宮寺を見張っていた黒いツナギのライダーが何故か取引現場に現れたうえ、神宮寺の敵=ツナギの女はカルテル側かと思いきや反対にカルテルに襲われ、そのままどこかへ連れ去られてしまう。ノートPCも奪われ、神宮寺は監禁される。

・監禁された隣の部屋に捕らわれていた朝倉と合流。実は朝倉は麻薬の売人ではなく麻薬取締官の協力者で、ミサキ=クラブで潜入捜査していた麻薬取締官=ツナギの女で、彼女が神宮寺に発砲したのは、神宮寺がクラブから出てきたところを見てカルテルの人間だと勘違いしたため。

シナリオ詰め込みすぎのせいでダイジェスト処理されるカルテルの構成員

・取り違えたスマホは新倉のものではなくVIPルームに来ていたアラブ系の男のもの。ノートPCもその男のもの。
・アラブ系の男は日本支部を視察に来ていたカルテルの幹部。
・神宮寺がスマホで話していたミサキは偽物でカルテルの人間。神宮寺を誘導してスマホとノートPCを取り戻すつもりだった。
・ノートPCには爆破プログラムが仕組まれており、高度1000mに上昇すると起爆されるようになっていた。
・爆破プログラムを仕掛けたのはカルテル日本支部の男で、アラブ人幹部を暗殺して自分が成り代わるのが目的。
・実は朝倉はアラブ人幹部から麻薬取締官側に送り込まれた二重スパイだった。彼は暗殺を阻止し、そのままヘリで逃亡。

道を違えた旧友を見送るラストなのに凄まじく安っぽいフォントでゲンナリする

 朝倉の立ち位置が麻薬の売人→麻薬取締官の協力者→麻薬の売人の二重スパイって二転三転するし、神宮寺を頼ったミサキが実はカルテルの人間、カルテルの人間に見えたツナギの女が実は麻薬取締官、警察に圧力をかけて捜査の邪魔をしていたのはカルテルではなく麻薬取締官という混線ぶり。しかもこれらの情報の多くは本人のいないところで第三者の口から「実は~」と語られるもんだから整理も大変。脚本はもう少し推敲した方が良かったのでは?という気がしますね。

死者に捧げる石

 新作。洋子くん主役。ジュエリーデザイナーになった友人から新作のモデルになってほしいと頼まれるうちになぜかファションショーまで出ることに。並行して旧友から依頼された浮気調査が歌舞伎町を騒がせる連続殺人と繋がり、更には20年前のギャング団による連続強盗殺人との関わりが見え隠れし――。

今までも洋子くん視点で操作することはあったのでさほど新鮮ってわけでもない。

 友人の彼氏の浮気調査をしていたら真面目な好青年っぽい彼が連続殺人事件の現場を熱心に調べてたり派手な格好でクラブに通ってたり、これは裏の顔があるなと思わせておいて今度は彼氏が背後から襲われて入院。プレイヤーとしては当然、自作自演を疑っちゃうわけだけどこれは見事に外されましたね。ミスリードが巧い。

神宮寺シリーズに求めるものじゃないんだろうけど華が無さすぎる

 神宮寺シリーズはケータイで単話売りしてた頃から1つの話を4分割してるんですが、だいたい導入にあたる1話って面白くないんですよね。それが2~3話あたりであれよあれよという間に話が大きくなって読み進めちゃう。
 話の拡げ方、畳み方はこの『死者に捧げる石』も見事なもんで、息子を溺愛する銭ゲバ女社長の元に届いた脅迫状が20年前の連続殺人で服役していた男のものだったり、実はその男と女社長が連続強盗殺人で鳴らしたギャング団の構成員だったり、何者かに背後から襲われて入院してた好青年の隣の家に住んでる女性が20年前の連続殺人で夫と腹の中の子供、そして貴重な宝石を喪っていて、その貴重な宝石と同じものをなぜか女社長が持っていて――と、既に何が何だって?って聞き返したくなるレベルだけど本編中は更に多くの人物出てきて相関図が壮観なものに。

辛気臭い女しか出さない縛りでもあるのか神宮寺は。

 難点というか、もう諦めなきゃいけないのは毎度毎度のご都合主義。
・会って話を聞きたい、でもそんな都合よく……→目の前に現れる
・聞きづらい話をどうやって切り出したら→相手が一方的に話し出す
・複雑な事件をどうやって調べたら……→警察とヤクザが情報提供してくる
・怪しい倉庫を調べたいけど権限が→倉庫を調べてほしいという依頼が来る
・怪しい倉庫に怪しい隠し金庫があったので開けたら証拠品がありました

 逆転裁判くらい「これはフィクションですから滅茶苦茶やりますよ」って宣言してくれるならまだしも、新宿歌舞伎町を拠点にした足で稼ぐ探偵がスーパー系ってのは、それと分かっててもビックリしますね。

犯罪では……?

 ただ、何かしら悩むたびに次の場面でスピード解決してるから彼岸島じみたテンポ感でサクサク話が進むのは没入感にも一役買ってて、コマンド選択式のADVではあるもののテキストの終わりに「次は~に行ってみようかしら」って独白が入るおかげで進行がストレスフリーなのも優しい。

シーザー暗号で自社倉庫を管理する企業がどこにあるというんだ

 神宮寺は大掛かりなトリックではなくて人物間の繋がりやお話を楽しむものなんですよと言われたら強引な展開もまあ納得できる。この話も2組の母子の心の繋がりを感じさせる悪くない読後感だった。
 ポッと出で人を殺しまくったうえに台詞さえなかった実行犯の男がすげえ浮いてて何だったんだコイツ感があるのは否めないけれど。

 あとはやる気ないアニメーションと、はじめてパワーポイントを触った中学生が使うようなフォントさえ止めてくれればなあ……。

ガックガクの紙芝居な上、台詞は前のシーンで再生されてて口パクのみ。シンプルに酷い。


魔鏡の真実

 新作。神宮寺における名バイプレイヤー熊さんが主役の話。神宮寺探偵事務所に舞い込んだ、消えた考古学者の行方探しの案件に同席していた熊野警部だったが、行方不明者は発掘中の遺跡から死体で見つかった。不自然な点が多いことから自殺・事故・他殺の可能性から捜査を進めようとしたものの、上からの圧力で捜査は打ち切り、マスコミは死亡自体が「魔鏡の呪い」だと騒ぎはじめて――

USBメディアが出てきただけで白旗を上げる熊野警部。今更そんな人いる?

 この話、とにかく特徴的なのが、依頼人である被害者の妻を除く全員が何かしら悪事を働いてるってこと。
 遺跡発掘現場の更に奥に「もう一つの遺跡」が埋まっている可能性に気づいた被害者が商業施設の工事を早く再開したい建設会社の人間に殺された、と言うなら話が簡単なんだけど……。

 建設会社:工事を再開させるため発掘担当の大学に賄賂
 警視庁:便宜を図ってやるからと建設会社に賄賂を要求
 大学:賄賂を受け取り、被害者に「もう一つの遺跡」隠蔽を要求
 被害者:隠蔽を承諾する代わりに賄賂の一部を要求
 助手:賄賂を受け取った被害者を許せず殺害
 大学生:発掘品の銅鏡に加工して「呪い」の存在を偽装
 記者:「呪い」を面白おかしく喧伝

あーもうめちゃくちゃだよ。

警視庁の偉いさん。無理の通し方が怪しすぎる。
発掘担当者と警察に賄賂を送って事件のもみ消しを図る建設会社の係長。
出土品のデータに細工してSTAP細胞する大学生。
賄賂に屈した師匠に裏切られたと感じ突き落とした犯人。

 そもそも被害者が賄賂を受け取った原因は、仕事をやめたことでローンの返済が怪しくなった奥さんが本人を怒って追い詰めたことが一因という推測もあって、なんという陰湿なアウトレイジ……。

この奥さんを責めるのも筋違いではあるがスッキリはしない

 なお、タイトルこそ「魔鏡の真実」だけれど、魔鏡そのものはほとんど話に絡まないから名前負けしてる印象が強い。一応、被害者が「もう一つの遺跡」の可能性に気づいたのは発掘された銅鏡のデータが疑わしい(大学生が手を加えてるんだから当然)ことから詳細に調べた結果であり、大学生が銅鏡に手を加えて呪いのメッセージを仕込んだのは貴重な遺跡を保存するために建設工事が中止されることを意図してのものだったり。
 賄賂で右往左往してた人たちはともかく、発掘担当者たちはみんな考古学的な情熱と個々の事情の間でちょっとずつ悪手を選び続けたという話ではありましたね。

 ここまでプレイしてもまだ移植版が10作+おまけが1作あるのは大したボリューム。だけど一旦、このへんで終わりましょう。新作が3つとも脚本はともかく演出がチープで心底悲しい気分になったので。8bitだから、ケータイアプリだからと許されていた神宮寺のクオリティをそのままHDに持ってきたらこうなったというか……いやそういうレベルでもないな、ガックガクの紙芝居とかズレてるセリフと口パクとか、シンプルに出来が悪い。

 以上、プレイしたのも感想書いたのも7月のことなんですが、アップするタイミングを完全に逸してしまってました。もう年末なのでこれ以上温める前に。

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