ストリーテラー Marioの物語I
2007年
この頃、なんとなく日常に飽きてきていた。
なんの不自由もなく暮らせていたが、籠の鳥同然の暮らしには嫌気が刺してきた。
もっと自由が欲しいな!とわがままにも思っていた。
本当の自分がいるのだけれども、今は猫かぶりだ。
普通の女のように、婦人雑誌を読み、おしゃれや美容に勤しんだり、お茶やお花や趣味に勤しんだり、友人とランチを楽しんだり。
そんなことをしてきたが、何かがいつも足りない。
そんな時期に、父親が他界した。
まだ20年は先のことと思っていたが、まさかこんなに早くに他界するとは。
悲しみよりも驚きの方が大きかった。
自由時間を削り、母親の面倒を見ることになった。
次第に弱る母親を見ては、ストレスを抱えるようになる。
世の中もまだ平和だ。
このあとに起きる、大災害の気配もなかった。
母親とデパートに行き、美味しい物を食べたり買い物をしたり、美術館や音楽会、歌舞伎にも連れ歩いた。
しかし、それも嫌がるようになる。
オペラの特等席を取り連れて行ったが、
「音が大きくて耳が痛い!」
とヒスを起こし、あえなく1幕で帰ることになった。
「何よ。もう!こんなにいい席とったのに!もう連れてこないわよ。」
「もう聞きたくないわよ!もう帰る!」
と強気で反論してくる。
この頃から、おきまりの認知症の症状が出始めた。
このとあとは、お決まりのコースである。
都内の有名な脳神経科の先生に見てもらうことになる。
これが良かったのか、功を制して緩やかに病状が進行した。
最初の2年ほど、精神不安定があったが、あとは緩やかに進んでくれたので誰からも好かれる患者となった。
デイに行っても、グループホームにいても、病院にいても誰からも、好かれていた。
いつも笑っている。
これだけは、ありがたかった。
母親は、戦前に東京で生まれた。
中流家庭の3番目に生まれた。
よく喋り、頭の良い女の子。祖父祖母に可愛がられ従姉妹からも、ライバル視されるくらいの器量好しだった。
しかし、戦争が全てを変えた。
戦時中、小学生だった母は、長野に疎開に出された。
家族と離され、長野の寺に同じ小学生の団体と疎開に出た。
帰った時には、東京の家は焼かれて家系図さえ燃えてしまった。
母は、やせ細り戻ってきたが家族は皆無事で、食べ物も何とか手に入り回復することができた。
中学生になる頃に、父親が肺の病気で亡くなる。
この頃から、大黒柱を亡くした家が傾き始めた。
上の2人は、勤めに出るようになり母親も中学卒で働き始める。
そうして、一家を支えていた。
持ち前の気の強さで、働きながら夜学に通い高校を出た。
そこで、初めての恋人ができる。
美術の教師をしていた先生とおつきあいをしていた。
この先生にも事情があった。
田舎に帰り病院を次ぐことになり、泣く泣く他の女と見合い結婚を余儀無くされた。
そして母は、置いていかれたのであった。
この時に結婚できていれば、マリオは、お医者様になれたのだ。
運命の神様は、いたずら好きなのだろう。
こんな母親は、高校を出たあと、タイピスト学校を出て神田のOLになる。
そこで、父と出会うことになる。
父親は、兵庫で育ったわがままな三男で、ハンサムで国体選手で、国立大学の法学部を出ている。
しかしながら、わがままである。
こんな父親も大学3年になる頃に、家が傾くのである。
働きながら、大学を卒業。
卒業とともに東京へ出るのである。
この二人が東京のど真ん中で出会うのである。
デートはいつも、井之頭公園。
プロポーズも、井之頭公園。
井之頭公園の、弁天様が見守っていたのかもしれない。
このわがままで、世間知らずの2人が作った家庭に生まれたマリオ。
他の兄弟と違い、手のかからない子供である。
どこに行っても、褒められ可愛がられる。
親さえも、マリオに怒ったことがない。
ないと言えば嘘になるが、人生で1度ずつである。
反抗期に、両親ともに一度だけ叩きながら怒った。
子供の頃は、全く皆無であった。
怒られることがなかったので、怒られる感覚がよくわからない。
両親ともに生まれがよかったので、躾は厳しく真っ直ぐな性格である。
そんな親も今は一人。
結婚の意味は、一体なんだろうと考える。
契約に縛られるだけなのかもしれない。
契約に縛られ、自由がなくなる。
だったら自由を選択したい。
億万長者の権利を捨て、自由を選択する。
これも大胆な行動であるが、もっと違うものを見てみたい。
そんなことも考えつかず、いつも不機嫌で不満でいた頃。
10年後に何が起きるかも、まだ知らない私がいた。
この頃、江原氏のオーラの泉が始まった頃ではなかったか。
父が、非業の死を遂げた時の悲しみを埋めるために、書店で偶然手に取った本が、江原氏の本であった。
この時から、スピリチュアルに興味が湧いてきた。
スピリチュアルという言葉さえ、まだ日本では新しかった。
この本のおかげで、死後の世界を詳しく知ることになる。
この頃から、たくさんの精神世界の本を集め読むようになる。
推理小説よりも、多くの本が集まった。
小さな図書館をやりたくて、今動いている。
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