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褥瘡予防の基本知識

介護の現場で、利用者様の体に赤みを見つけたとき、「これは褥瘡(床ずれ)の始まりかもしれない」という気づきが大切です。特に寝たきりの方や、長時間同じ姿勢でいる方の場合、このような発見は珍しくありません。

今回は、介護職員が日々気を付けるべき褥瘡予防について、現場での実践的な知識をお伝えしていきます。

褥瘡はどのように発生するのか

ある特別養護老人ホームで働く山田さん(65歳)は、利用者様の清拭中に仙骨部の薄い発赤を発見しました。この利用者様は脳梗塞の後遺症で右半身に麻痺があり、ベッドで過ごす時間が長い方でした。幸い早期発見できたため、適切な対応で重症化を防ぐことができました。

このように褥瘡は、体重で圧迫された部分の血流が悪くなることで始まります。骨が出っ張っている部分は特に注意が必要です。仰向けに寝ている場合は後頭部、肩甲骨、仙骨部、かかとが危険です。横向きの場合は、耳、肩、腰、膝の外側が圧迫されやすくなります。

褥瘡予防の具体的な方法

体位変換は褥瘡予防の基本となります。通常2時間ごとの実施が推奨されていますが、利用者様の状態によって間隔を調整することも必要です。体位変換は二人で行うことが望ましく、声かけをしながら、体を引きずらないよう注意深く行います。

皮膚の観察も重要な予防策です。毎日の清拭やケアの時間を活用して、特に圧迫を受けやすい部分を重点的にチェックします。発赤や熱感、腫れなどの早期発見が、褥瘡予防の鍵となります。

効果的なスキンケアと環境づくり

褥瘡予防には、清潔で適度な湿潤状態を保つことが欠かせません。特に失禁のある方の場合、速やかな対応が重要です。オムツ交換の際には必ずぬるま湯での清拭を行い、十分に乾燥させてから保湿クリームを使用することで、皮膚を保護します。

ベッド周りの環境整備も見逃せないポイントです。シーツのしわは小さな段差となって皮膚を圧迫するため、こまめに伸ばす必要があります。室温は24~26度、湿度は50~60%を目安に管理し、快適な環境を保ちましょう。

褥瘡予防のための栄養管理

褥瘡予防には適切な栄養管理が不可欠です。体重1kgあたり25~30kcalのエネルギー摂取と、1.5~2.0gのタンパク質摂取が推奨されています。例えば、体重50kgの方であれば、1日に1,250~1,500kcalのエネルギーと75~100gのタンパク質が目安となります。

特に重要な栄養素には以下のものがあります:
 ビタミンC:コラーゲン合成を促進(1日150~500mg)

  • 柑橘類(オレンジ70mg、グレープフルーツ96mg)

  • 赤ピーマン(191mg/カップ)

  • ブロッコリー(オレンジと同程度)

  • キウイ(56mg/1個)

  • グアバ(125mg/1個)

 亜鉛:細胞機能の維持(1日15mg)

  • 牡蠣(91mg/100g)

  • 牛肉(8.5mg/100g)

  • 七面鳥(4.5mg/100g)

  • カニ(4.3mg/100g)

  • ナッツ類(アーモンド5.0mg/100g)

 鉄分:血行促進(1日15mg)

  • レバー

  • 牛肉

  • 牡蠣

  • ムール貝

  • 緑葉野菜(ほうれん草、ケール)

 ビタミンA:皮膚の健康維持(1日2000IU)

  • サツマイモ(1,922mcg/1個)

  • ケール(885mcg/カップ)

  • ニンジン(835mcg/カップ)

  • バターナッツスカッシュ(1,144mcg/カップ)

  • マンゴー(89mcg/カップ)

これらの栄養素は、肉類、魚類、卵、乳製品、大豆製品、緑黄色野菜などやサプリメントからも摂取できます。また、水分摂取も重要で、体重1kgあたり25mLを目安に補給することが推奨されます。

褥瘡の早期発見のためのチェックポイント

褥瘡の早期発見には、以下の点に注意して観察することが大切です:

  1. 皮膚の色調変化:発赤や紫色、黒色などの変化を見逃さない

  2. 熱感の有無:周囲の皮膚との温度差を確認

  3. 腫れや硬結:触診による変化の確認

  4. 痛みの訴え:利用者様からの訴えに耳を傾ける

これらの症状が見られた場合は、速やかに看護職員に報告し、適切な対応を取ることが重要です。

60歳から介護職を選ばれた方々へ

長年の人生経験は、細やかな観察力として活かすことができます。利用者様の表情の微妙な変化や、普段と違う様子にいち早く気づく力は、豊富な経験から培われるものです。

体力面では若い職員に及ばないかもしれませんが、利用者様の小さな変化に気づき、早期に対応できる観察力は何物にも代えがたい価値があります。同僚と協力しながら、それぞれの強みを活かした介護を実践していきましょう。

まとめ

褥瘡予防は、日々の丁寧なケアの積み重ねです。体位変換、皮膚観察、スキンケア、環境整備、そして適切な栄養管理など、基本的なケアを確実に実施することが大切です。

また、褥瘡予防は一人で行うものではありません。職員同士で情報を共有し、チームで取り組むことで、より効果的な予防が可能となります。利用者様の快適な生活のために、介護職員一人一人が褥瘡予防の重要性を理解し、日々のケアに活かしていきましょう。

これからも利用者様の笑顔のために、確実な予防ケアを心がけていきましょう。


介護士が高齢者の背部を丁寧に観察しスキンケアを実施

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