<陸自幹部の第1空挺団勤務記録> その4 |神様!ここまで追い詰めるの?? 最大の悲劇を乗り越えての前進!
こんにちは。
元・国防男子/初級・中級幹部サポーターのMr.Kです。
経歴については、
幹部自衛官として13年間勤務し、主な経歴は第1空挺団、米国陸軍留学、陸自最高学府の指揮幕僚課程、在日米陸軍司令部、国連南スーダンミッション軍事司令部等で勤務してきました。
自衛隊を退職後は、民間企業で約4年間勤務し、現在は独立して活動しています。
詳しくは、こちらをご覧ください。
前回の記事に引き続き、中隊にとても悲しい出来事が起こり、中隊の雰囲気がとても暗くなってしまっていました。
でも、実は中隊の雰囲気がしばらくの間、暗いままになっていたのは、リーダーとしての僕の責任だったことに気づきました。
そんな中、中隊長の代わりとしての役割を与えられた僕が取ったある行動とは・・・
波乱の連続から「きついときこそ、多くの学びがある」ことを体感しました。
前回までの記事をまだ読んでいない人は、ぜひ読んでみてくださいね。
⏩ 中隊長の死を乗り越えて
空挺団の3大イベントの一つである『初降下行事』。
毎年、防衛大臣や陸上幕僚長が参加します。
初降下行事は、防衛大臣がヘリで習志野演習場に降着した後、『指揮官降下』という、空挺団長以下空挺団各部隊の指揮官による降下で行事の幕を開けます。
その指揮官降下では、中隊長が入院中で不在だったので、僕の部隊からの指揮官降下はありませんでした。
そして、空挺団では、初降下行事に各部隊毎に『野宴』(演習場での宴会のこと)を行います。
中隊毎に集まって、家族や知り合いの人を呼んで隊員達が料理を振る舞い宴会を行うのです。
指揮官降下や隊員達による訓練展示が終了した後、宴が始まります。
野宴中には、防衛大臣が各部隊の野宴場を順番に『乾杯』をして回ります。
そして、写真撮影。
代表として、僕が乾杯の挨拶をさせていただいたが、中隊長がいないといまいち盛り上がらない。
この時、病気の中隊長に代わって、次の3月の人事異動で中隊長に上番(じょうばん)する予定であった次期中隊長が顔を出してくれました。
次期中隊長:「Kくんか?先任から話は聞いています。頑張っているようですね。」
「次の人事異動で中隊長に上番する予定だから、それまで何とか頑張ってください。」
年齢は45歳くらいで、かなり物腰が柔らかく、徳のありそうな人。
陸士時代から空挺団に所属していたベテラン。
(あぁ、次の中隊長はこんな人か。)
(優しそうな人で良かった(TOT) 3月末が楽しみだ!)
⏩ 現役中隊長の死
ある日曜日。
その日は久しぶりに、彼女と千葉県市川市にある『市川ぞうの国』に出かけていました。
ゾウが椅子に座ったり、サッカーをしたり、絵を描いたり・・
初めて目にするゾウたちの凄技のショーに驚かされました。
ゾウも訓練をすれば、こんなことまでできるようになるんだと感心しました。
ぞうのショーを見ていたとき、電話が鳴りました。
中隊の先任上級曹長からでした。
(どうしたんだろう??)
先任から僕に電話がかかってくることは、滅多にないのだが・・・
(もしかして、隊員の服務事故??)
とても嫌な予感がしました。
K2尉:「もしもし。先任、何かありましたか?」
先任:「小隊長、中隊長の体調が良くないと奥様から先程電話がありました。今から駐屯地に来れますか?」
K2尉:「えっ、そうなんですか!?わかりました。すぐに向かいます。今、市川にいるので到着まで1時間くらいかかりますけど。」
恐る恐る電話に出ると、中隊長の様態が良くないとのこと。
一緒に病院へ御見舞に行くため、すぐに部隊にきてくれということを言われました。
様態が悪いということは聞いていましたが、まさかここまで急だとは思いませんでした。
彼女に理由を説明して、急遽、部隊に行かなければならないことを伝え、最寄りの駅まで送り、急いで部隊へ直行した。
ーー部隊に到着した時、
既に先任上級曹長と団の幹部が僕を待っていました。
先任:「お休み中のところすみません。」
「小隊長、これから自衛隊病院まで車で行けますか?」
K2尉:「もちろんです!」
中隊長の希望もあり、中隊長が入院してからこれまで一度も見舞いに行くことができなかったんです。
中隊長よりも先輩の先任上級曹長が、中隊を代表していつも中隊長のお見舞いに行っていたからだ。
(入院してから約2ヶ月経過したが、初のお見舞い。中隊長は、今、どんな状態なのだろうか・・・)
ーー自衛隊中央病院に到着後、
恐る恐る中隊長のいる病室へ。
今は、新しい病棟が建っているものの、当時の自衛隊中央病院の病棟はかなり古く、そのせいかとても重苦しい雰囲気。中に入るだけで、体が重くなってしまいました。
(これから、苦しんでいる中隊長の姿を見ることになるのか・・)
(あぁ、気分が悪くなってきた・・・ )
>>>そして、中隊長の病室へ。
ドキドキしながら、病室のドアをノックしました
K2尉:「こんにちは。K2尉です。H3佐と先任も一緒です。」
奥様:「はーい。ちょっと待っててくださいね。」
程なくして、付き添っている中隊長の奥様が顔を出し、軽く挨拶を交わしたあと、病室に入りました。
奥様が中隊長に僕たちの訪問を告げると、
中隊長が目を覚ましました。
ベッドの上の中隊長のやせ細って、
憔悴しきった姿を目にして、言葉を失いました。
(えっ??これが、あの中隊長?)
衝撃的でした・・・
体が大きく、筋肉質だった中隊長が・・・
こんな姿に??
数ヶ月前の中隊長と比較をして、その姿が大きく変わっていたことに非常に驚きました。
(人間って、たった数ヶ月でこんなにも激変するものなの?)
中隊長は、僕たちの前では強気にも何とかベッドから起き上がろうとしました。
病人らしからぬ非常に強い気迫を感じました。
まるでこれから敵陣へ突撃するかのように。
中隊長のあまりにも変わった姿を見て、
頭の中が真っ白になり、
中隊長にどういう言葉をかければいいのかわかりませんでした。
僕は、とりあえず中隊の現況と初降下行事が無事に終了したことと、中隊の仲間が元気で勤務していることを伝えました。
中隊長は力を振り絞ってかすれるような声で、
「すまないな。K2尉には負担を掛けてしまって。検閲のときの姿を見ていて、お前なら大丈夫だと確信した。」
「俺は、もう中隊長として戻れないかもしれないが、次の中隊長が来るまで中隊をしっかり頼むぞ。」
これが中隊長が僕にかけてくれた最後の言葉となりました。
>>>それから数日後、
中隊長は逝去しました。
現役の部隊長が亡くなることは滅多にありません。
朝礼で中隊長が亡くなったことを隊員たちに伝えました。
隊員の顔を見て動揺しているのがよくわかりました。
それから、一気に中隊の雰囲気が重苦しくなってしまいました。
仕方ないんですが・・・
⏩ 中隊長の通夜と葬儀
数年前には、降下訓練事故で優秀な隊員が亡くなっていました。
そして、今度は中隊長・・・
自衛隊という仕事をしていて一番辛い、仲間の死。
葬儀には、空挺団長以下、空挺団の主要メンバーと中隊の隊員全員が参加し、中隊を代表してお別れの挨拶をする機会をいただきました。
中隊長と僕とのお付き合いはとても短い間でしたが、色々な思い出が溢れてきました。
🌈 着隊の時、優しく迎え入れてくれました。
🌈 いつも一緒に昼食を食べに食堂に行き、色々な話をしてくれました。
🌈 訓練検閲の時には、病魔に侵された体で最後まで指揮を執ってくれました。
🌈 隊員たちにもK2尉は大丈夫だからしっかり付いていきなさいと伝えてくれていたことを、ある仲の良かった隊員から聞きました。
葬儀中、僕がお別れの挨拶をしているときに、
隊員達が後ろですすり泣いているのが聞こえてきました。
どんなにきつい訓練でも、弱音を吐いたり、泣いたりはしないのに・・・
そんな隊員達の泣き声を聞いていると、
なんだか更に悲しみが増してきて、
まともに挨拶の言葉が喋れなくなりました。
挨拶の最後に、中隊長にしっかりと中隊を統率していくことを誓いました。
⏩ 『部隊を背負う』ということ
中隊長が亡くなって以来、中隊の雰囲気は相変わらず暗いままでした。
はぁ、また苦難か・・・
何でこんなに不運ばかりが続くんだろう・・・
この状況をなんとかしなければ・・・
どうすればいいんだろう・・・
途方に暮れました。
幹部候補生学校での区隊長の言葉を思い出しました。
年間の予定を確認すると、2月には空挺団の『銃剣道競技会』が計画されていた。
これだ!!
(出典:https://exfit.jp/archives/5853)
ちなみに、銃剣道は陸上自衛隊の『戦技』の一つとなっていて、陸上自衛官であれば、ほぼ全員が経験することになります。
銃剣道の競技人口は、もちろん自衛隊が一番多いです。
剣道とは違う、こんなスポーツです。
🔥 第62回全日本銃剣道優勝大会 一本特集 銃剣道 Jukendo
中隊対抗の競技会で、中隊から代表者7名が選出されて対戦します。
基本的に、最後の大将は中隊を背負っている中隊長。
チームの中に幹部は絶対に含めないといけないルールとなっていて、中隊に僕だけしかいないため、必然的に出場することになります。
しかし、この時期は、各部隊は『隊務運営計画』といって、次年度の部隊の計画を作成しなければならない、一年の中でも多忙な時期です。
計画の内容は、人事・総務、情報・保全、訓練、兵站など、多岐にわたります。
この計画の作成も幹部の仕事なので、全部一人で作成せざるを得ませんでした。
だから、銃剣道競技会の練成をするための時間は殆どありませんでした。
でも、大将として出場することが決まっていました。
>>>中隊長が亡くなった後、
隊員たちは目標を失い、明らかに路頭に迷っているような感じでした。
中隊として次の目標が無かったからでした。
こうなったのは、僕の責任。
中隊長が不在の中、それを率先してやっていかなければならなかったけど、目の前の業務をやることが精一杯で、それができていませんでした。
そこで、上級陸曹や中隊の銃剣道の主要メンバー隊員達を集めて、僕が感じていた中隊の現状を話し、陸曹達に競技会で「優勝」するためにはどうすべきか考えさせました。
隊員:「小隊長、銃剣道の合宿をして集中的に錬成をしたいです。」
隊員:「そして、他部隊と交流試合をさせてください。」
競技会の前ということもあり、各部隊が銃剣道の練成をできるだけ平等にできるように体育館の使用統制がされていたので、習志野駐屯地体育館はあまり使用できなかったためだ。
「わかった。じゃあ、銃剣道の練成計画を作成して見せてくれ。」
と銃剣道錬成のリーダーとなっている隊員に錬成計画を作成させました。
その錬成計画をもとに、空挺団以外の部隊と合宿して、この銃剣道競技会に集中できるように調整したり、体育館・宿泊場所の調整し、集中して錬成できる環境を作りました。
期間は5日間。
僕は中隊で唯一の幹部なので、駐屯地を離れることができませんでした。
中隊長の代わりに隊員達の『人事評価』をしたり、隊務運営計画も完成させなければなりません。
こればかりは、仕方ない・・・
>>>隊員たちが銃剣道合宿に出発して5日後、
銃剣道錬成合宿を終えた隊員達が、笑顔で生き生きとして帰ってきました。
(よほど成果があったのかな?)
隊員:「小隊長、帰隊しました。異状ありません。」
「合宿の調整ありがとうございました。お蔭で、充実した訓練ができました。」
隊員達の生き生きとした顔を見て、とても安心しました。
(なんか吹っ切れたかな・・・)
そう感じました。
後は、銃剣道競技会で目標の優勝を目指すのみ!
⏩ 起死回生のチャンス!
そして、銃剣道競技会当日。
予定通り、中隊の大将として出場することになりました。
銃剣道の練習は殆どできませんでしたが・・・
🔥でも、そんなことは関係ない。
🔥絶対に勝たなければならない。
毎日、トレーニングジムでウェイトをやっていたので、筋力も増加し、体重は空挺団に着隊当初から10kg近く増えていました。
錬成はしっかりできなかったのですが、肉体的にパワーアップした自分には、なぜか変な自信がありました。
>>>第1試合が始まりました。
相手は、強豪の普通科中隊。
うちには空挺団の『銃剣道錬成隊』に所属している隊員が2名いました。
だから、僕の前の副将までで勝負は決まっているだろう・・・
と高をくくっていました。
しかし!
試合が進んで行くについれて、雲行きが怪しくなってきました。
5人目まで終了したところで、3勝2負。
(んん!? これは、もしかしたらやばいパターンに??)
6人目の副将は、体もゴツくて能力も高く、僕が尊敬する陸曹。
彼の試合が始まる前に
「小隊長、心配しないでください。俺で試合を決めますから!」
と心強い言葉をかけてくれた。
おそらく合宿中も、
大将戦までに勝負を決めないとまずいということを意識しながら錬成をしていたのでしょう。
なんせ、僕は全然練習ができていませんでしたから。
しかし、
副将の試合が始まりましたが、なかなか勝負がつきませんでした。
相手の隊員も中隊の副将を務めているくらいなので、腕前は一流。
そして・・・
「あぁーーーー!!」.°(ಗдಗ。)°.
うちのチームの副将は、残念ながら一本を取られてしまいました・・・・
( ゚∀゚)・∵. グハッ!!
一番恐れていたことが起こりました!
(これは、まずい・・・)
(非常にまずい・・・ )
大将戦で試合の勝敗が決まることになってしまったのです!
観戦者にとっては、試合としてとても緊迫した面白い試合。
でも、実際にその場面に立たされると・・・
試合会場の熱気は最高潮。
「うぉぉぉーー!!」
漢たちのむさ苦しい雄叫びが体育館中に響き渡る。
空挺団長も、中隊長の亡くなった後の中隊の様子を気にしていたのか、この試合を見ていた。
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
相手チームの中隊長は、部内幹部で身長も高い。ということは、リーチも長い。
当然、僕よりも銃剣道の経験は豊富。
僕はといえば、自衛隊に入隊して4年程度。
そして、銃剣道の経験もそれほどない。
(でも、そんなことは関係ない。)
(勝つしかない。絶対に勝たなければならない。)
( ゚д゚ )クワッ!!
🔥 隊員の期待、思い、中隊のために・・・
🔥 隊員達が元気になり、元気な中隊を取り戻せるように・・・
🔥 相手を殺すつもりでやるしかない・・・
それくらいの気持ちで臨まなければ、場の雰囲気に飲まれてしまいそうでした。
アドレナリンはマックス🔥
⏩ 絶対に負けられない戦い
そして、とうとう大将戦が始まりました。
相手を面の中から、睨みつける。
( ー`дー´)キリッ
審判:「はじめ!」
審判の号令が出ると同時に、気合を込めた全力の直突(ちょくとつ)。
>>>勝負は一瞬でした。
一撃で勝負が決まりました。
なんと、運良く?相手の胸部に木銃の先端がバシッと入っていたのです。
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
そして、相手の木銃(もくじゅう)は、僕の面辺りに・・・
ちなみに、木銃はこれ。 ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
はじめは、何が起こったのかわかりませんでした。
審判を見ると、白旗が上がっていました。
つまり、勝ったんです!!!
゚(゚゚゚゚∀゚)キタコレ
試合を観戦していた隊員たちは飛び上がって喜び、Mr.Kコールが流れた。
隊員達:「うぉぉぉぉぉーーーーー!!!」
「Mr.K!!、Mr.K!!!」
あぁ、勝てて本当に良かった・・・
ε-(´∀`*)ホッ
>>>しかし、
その後の中隊の試合結果は芳しく無く、結局、決勝戦までは駒を進めることはできませんでした。
僕個人の対戦成績はといえば、4戦中、3勝1引き分け。
あまり錬成をしていない割には、好成績。
以前いた部隊で、陸曹隊員に相当鍛えられたから・・・
まだ、銃剣道の動きを体が覚えていました。
これで、隊員達から信頼ポイントは溜まったかな??
目標の優勝を達成できなかったため、隊員たちも残念がっていましたが、競技会やそれまでの錬成を通じて中隊はかなり盛り上がりました。
⏩ 最後に
軍隊なので『結果』がすべてですが、目標へ向かっている過程で隊員達の団結力やお互いの信頼が深まっていくものです。
目標達成までの過程の中で、『中隊の明るい雰囲気・元気を取り戻す』という目的は達成できたと思っています。
中隊長が亡くなってから宴会は自粛していましたが、やっぱり、団結のためには『宴会』は必要でしょ!
「銃剣道競技会、お疲れでしたー!!」
今までの暗い気持ちや雰囲気が一気に吹き飛んだように感じました。
不運続きで大変な時期でしたが、銃剣道競技会と宴会で、何とか中隊の雰囲気も明るさが戻り、次に着任する中隊長に無事に引き継ぐことができました。
次回につづく。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今日も皆様にとって良い一日となりますように!
元国防男子 Mr.K
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