命の恩人
21歳の夏。
生きていることを否定したかった夏。
幸福が再び私に訪れた。
ペットショップの店員をしていた私に訪れた運命の出会い。
土曜日の朝に出勤すると新しいわんちゃん達の入荷作業から始まった。
入り口に並んだたくさんのクレート。
中が見えないケースに入った子もいた。
今週はどんな子がショーケースに並ぶのか。
一つ一つ蓋を開けては確認する。
______目が合った
そこにいた子は真っ白で
くりくりっと大きな目にピンクの鼻。
”この子が私の子だ”
不思議な感覚だった。
たくさんの子を見てきてるのに私にはその子だけだった。
この子は本当に生後56日経っているんだろうかという小ささ
ずっと憧れていたビションフリーゼの男の子だった。
翌日も頭から離れず
次の週末には私の部屋にいた。
そこから私の彼のための生活が始まった。
生きることを楽しいと思えなくなっていた私の世界に光が指した。
楽しい世界へと連れ出してくれた。
何をするのも一緒
どこへ行くのも一緒。
笑うのも一緒。
悲しむのも一緒。
怒るのだって一緒。
私は彼のために働くし、外へ出るし、笑う。
彼は私のためにただ生きる。
この先この小さな心臓が音を奏で続ける限り、私達の関係は続く。
もし、この小さな音が聞こえなくなっても私達は一生パートナーなのかもしれない。
すべてを諦めてた私に幸せを運んできてくれた彼。
パートナーであり
息子でもあり
命の恩人でもある彼。
そんな彼の名前は”muguet”
フランス語で鈴蘭。
鈴蘭の花言葉は『再び訪れる幸せ』
私のもとに幸せを運んできてくれてありがとう。