見出し画像

馬事公苑の白鳥🦢

東京都世田谷区にある馬事公苑は東京オリンピック開催のための改修工事で2017年から2022年までの予定で休苑されています。

自宅から徒歩で20分ほど、自転車で10分ほどの場所にある馬事公苑が好きです。
息子が小さい頃は近所の公園に飽きた時によく行きました。
馬に会い、薔薇園や竹林を歩いたり遊具に乗ったりした後に、売店で飲み物と少しのお菓子を買って、馬術競技の観覧席に二人で座り、日が暮れるまで馬も選手もいない競技場や空の雲を眺めました。小さな息子は座っているのにすぐに飽きてしまい、下に降りては木が植えてある場所の土の上でミニカーを遊ばせ、また観覧席に座り、を繰り返していました。

子育てが一段落して、もう息子と一緒に公園通いをしなくなった頃には午前中自転車でふらりと馬事公苑のすぐそばにある蔦谷書店を覗いた後、ひとりで公苑に立ち寄り、以前と同じようなルートを辿って歩いていました。

馬事公苑には息子と通っていた頃には気づかなかったとっておきの場所がありました。
馬術競技場を左手に真っ直ぐ歩いたつきあたりに、白鳥🦢が泳ぐ小さな池があったのです。

ちょこまかと何処へ行くのかわからない息子を連れていないひとり歩きなので以前とは違う場所に自然と足が向いていったのでしょう。
あれ、こんなのところに池がある‥と生け垣の先を覗いてみると、そこには美しい白鳥が静かに泳いでいました。



一羽だけではありませんでした。二羽あるいは三羽いたかもしれません。美しい白鳥の優雅な泳ぎを時が経つのも忘れて見ていました。
水面を音も立てずにスーと前に渡る、羽をゆったりと、また時には瞬く間に動かす‥こんなにも白鳥🦢の動きをよく見たことはありませんでした。
動物園や奥日光に出かけた時などに白鳥🦢を見たことはありましたが、自分の住んでいる所の目と鼻の先にある場所で見るのとは感覚が違っていたからです。
日が暮れて、夕闇に溶けはじめるように青く揺れる池に浮かぶ白鳥の輝きは、なんの変哲もない住宅街にぽつんとひとり佇む私を一瞬にして幽玄の世界に誘いました。


サン=サーンスの「白鳥」をはじめて弾いた時、このような感覚を知らなかった。そして、バレエの瀕死の白鳥を観る時の感動が変わってくるだろうと思いました。

馬事公苑の一般公開が中止され改修工事がはじまった、と聞いた時には
「ライ麦畑でつかまえて」のホールデン少年が、冬になり凍ってしまったセントラル・パークのあひるの心配をしてタクシー運転手に、あひるは何処に行ったんだろうね、と尋ねるように、馬事公苑の白鳥は何処に行ったんだろうね、と家族や友人に尋ねたりしていました。(渡り鳥なのでどこか別の場所へ飛んでいったに違いないのですが‥何となくそんな風に言ってみたかったのです笑)

東京オリンピックが延期になり、馬事公苑の休苑も2023年まで延ばされるのだろうか、新しい馬事公苑には小さな池があるのだろうか、そしてまたその小さな池で泳ぐ白鳥に会えるのだろうかと、ふとした時に考え、あの美しい白鳥の姿を思い出します。
#白鳥
#馬事公苑

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?