理想の記事は砂鉄の一粒から生まれる
先日ふと、小学校のときに学校の理科の授業でもらったU字磁石で、砂鉄を集めて遊んでいたことを思い出した。
磁石に紐をくくりつけ、地面の上を滑らせる。磁石には砂鉄はもちろん、さまざまなモノがくっついてくる。それが面白くて、家の近くの公園やアスファルトの道を、磁石を連れて歩いた。ペットのように。おそらく小学2年か3年くらいのことだと思う。
小学校の頃、わたしは宇宙飛行士になるのが夢だった。プラネタリウムに通い、親に買ってもらった宇宙と星の図鑑を頭を突っ込むようにして読みふけり、星を眺めてはあれがあの星だ、これがこの星だと興奮した。面白さや魅力を知ってもらいたくて、友達の前でプレゼンしたりもしていた(そういう学びのある遊びが好きな子どもだった)。
そんなこともあり、宇宙のなかの星のひとつである地球のことにももちろん興味を持っていた。地面の下には何がつまっているのか知りたかった。自分の目に見えている、地面にある石ころやアスファルトや岩が何でできているのかも知りたかったし、砂鉄集めはその一環でもあった。
砂鉄を集めることで、地球の一部を集めている気持ちになった。地面には細かな鉄が散らばっている。じゃあ鉄ではない、磁石にくっつかない地面はなんだろう。石ってなんだろう。土ってなんだろう。そんな疑問についてばかり考えていた。
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大人になり、もう磁石を引きずって歩くことはなくなったけれど、文章を書く仕事をしていくなかで、これと同じことをしているような気がするときがある。
ライターはしばしば、さまざまなモノ・こと・人に興味を持ち、掘り下げる作業が必要になる。たとえば、取材に於いてそうである。この人はどんな人生の選択をしてきたんだろう、どうしてその選択肢を選んだのだろう、これから何を目指すのだろう…。
また、原稿を書くためのリサーチに於いてもそうである。この食べ物はどうして大昔から食べられ続けたのだろう、どんな魅力があるのだろう、今でも愛される理由は…?
専門が限定的なライターでない限り、多くのライターは多岐に渡る分野に興味を広げ、取材もリサーチもこなしているのではないかなと思う。ひとつひとつのことに興味を持って掘り下げる。興味を持った分だけ疑問がわき、取材の質問事項もより深く濃いものになる。興味を持つ、という入り口がなにより大切な職業であると思う。
また一方で、書きたいと思う分野をより広げる作業も必要になる。
これはいわゆるネタ集めだが、たとえば「観光」「文化」などの大きな括りのなかで、自分の知識や興味と合致するテーマをひたすらに連想して広げていく作業にあたる。
この作業がまさに磁石で砂鉄を集めるようで、世の中に無限にあるさまざまな疑問や課題や面白いことの中から、自分の磁石に反応するテーマを集めることと重なるのだ。
興味があればあるほど磁石に強力に砂鉄がくっつき、砂鉄に磁力が伝わってさらに砂鉄が集まるように、さらに派生するテーマも出てくる。砂鉄がたくさん採れた場所をもっと掘れば、もっと面白いと感じられるテーマや切り口が見つかるかもしれない。
興味を広げて連想する時間は新たなテーマを発掘する時間でもあり、新たな疑問や興味が湧き出す時間でもある。この疑問こそが記事を面白くするし、どう掘り下げるか個性が出る部分だと思う。
自分が心から興味を持ち、面白がり、丁寧に磨き上げた記事がメディアに並ぶことが理想だ。物事ひとつ、人物ひとり、どこを切り出してどう見せるかはライター次第。素材そのものを決して損なわず、魅力を引き出して伝えるのが仕事。読んだ人がどう受け取るかは別として、その魅力や面白さが少しでも伝わってくれたら。あわよくば、読んだ人の一部になってくれたら。
砂鉄の一粒を見つけて磨き上げたような記事を、今年はずらりと並べてにんまりしたい。