【湖底式古典】第3回 源氏物語 桐壺の更衣の死
↑初回はこちら↑「しばらく光る君へ関連テキストやるかね〜」と言ったのでやる。
メンバーシップ自習ん喫茶湖底の湖底式古典では、気ままにテキストを選んでだいたいいつもぼくが生徒さんに授業してるかんじに噛み砕き方を案内していきます。
今回も流れは以下のかんじ。
本文(舞台設定確認)
前回の最後の「御局は桐壺なり。」の後、帝の御座所まで最も遠い局から桐壺の更衣が行き来するとき廊下が汚されていたりさまざまな妨害トラップがしかけられていじめられているシーンや、光る君の3歳のお祝いの儀式を帝がヤベー盛大に行ったけど光る君の容姿が光りすぎてて世の人たちも「いままで非難してたけど、なんかもうこんな顔のいい御子っているんすね」とお口あんぐりなるシーンがはさまれました。そして、その夏。
登場人物
人物名は直接書かれていないが、後世の読者からの通称を用いて整理する。前回のつづきなので状況は同じ、+幼い光る君。
帝(桐壺帝)
この段の時点での今上帝。すでに後ろ盾のある女御や御子がいるが、後ろ盾にとぼしいひとりの女性を寵愛し、彼女とのあいだに生まれた御子をことのほか愛し大事に育てる。
御息所(桐壺の更衣)
更衣は帝の后妃のうち低位のもので、桐壺の更衣は「いとやむごとなき際にはあらぬ」特に栄華ある家門の生まれでもない女君である。帝にきわだって寵愛され、世にも珍しいほどの美しい御子を産むが……
御子(光る君)
帝と桐壺の更衣の息子。さんしゃい。赤さんのころからめちゃくちゃ顔が良く、父帝にことのほか愛される。
古文常識「御息所」「宿下がり」
『源氏物語』の中でおそらく光る君や紫の上の次に有名なキャラクター「六条御息所」などの敬称、「御息所」。「みやすみどころ」「みやすどころ」「みやすんどころ」など複数の読み方があるけどまあほぼ発音のレベルだわな。直接には「帝のお休みになるところ」という意味なので、帝や東宮(皇太子)の妃たちの呼び名として使われる。特によく寵愛され御子や皇女の御生母である方に使われることが多い。
また、本文中で「まかでなむ」「暇(いとま)」と書かれているのは「宿下がり」とも言う。「まかづ」は退出するの意味。「暇乞い(いとまごい)」「暇をもらう」「暇を出す」という言葉の中の「暇」は現代でも「長いお別れ」や「退職」をあらわしている。つまり、文中では桐壺の更衣が体調不良により内裏を退出したいと言っている(が、帝に止められている)。妃や女房が宮中から、あるいは仕えている家から実家に戻ってお休みすることを宿下がりといい、そうしたからといって離婚や退職を意味するわけではない。自分や親の体調不良とか、なんかの用事とかで一時的に離れるのはぜんぜんあることだ。
本文(トピック)
舞台設定が頭に描けたらつぎの部分ではこの話が何メインの話なのか、どこにヤマオチがありそうかを読みとろう。
帝は桐壺の更衣の宿下がり希望を引き止めて延び延びにさせる。急激に弱っていく桐壺の更衣。桐壺の更衣の母君が泣く泣くお願いでございますと帝に頼んでやっと実家に帰ることになるが、「あるまじき恥」が万が一にもあってはいけないと気を使って御子は宮中に残していく。
ちなみに「あるまじき恥」というのは死の穢れのことだ。宮中や皇族は重病や死の穢れにあってはいけないので、妃が病になると実家に戻るのは休養のためだけでなく穢れを遷すためでもある。帝は清浄であることが仕事なのに病身の桐壺の更衣にそれでもそばにいてほしがっており、ヤバい。
前回も帝の𝑩𝑰𝑮 𝑳𝑶𝑽𝑬は桐壺の更衣の立場や評判を悪くしており、権力勾配のつよいLoveが相手を慮れないといくら一途で美しくてもそれは加害的なんよねというテーマが見え隠れだったのだが、ここまで来ると見え隠れとかではない。桐壺タソのつらさを考えろ! 宮中は気を遣わなきゃいけないつらいことばっかりなんだぞ! 病気がちなやつがウロチョロすんなって目でも見られるし! 早期に休養できたらまた元気になれたかもなのに、帝が「もうちょっとそばにいてよ〜😭」と引き留めたせいで彼女は幼い子と離れて死んじゃうことになるかもしれないんだ。
そのあたりのかわいそうさと帝の桐壺タソへの寿命縮めるレベルの執着が読みどころとなる。『光る君へ』の花山天皇→よしこの想いがここの展開に重なるし、のちに光る君自身もこの愛の失敗を繰り返してしまう。
本文(展開)
以降の本文はこう。現代語で展開をざっくり説明できるようにしながら読む。ゆっくり音読するくらいの速度で大まかな意味をとれるようにトレーニングしていこう。
宮中のきまり(病気の妃は宮中を穢さないため宿下がりをする)もあるのでそれ以上は引き留められず直接見送りもできないので、どうしようもなく不安な帝。なんとも美しかった桐壺の更衣が病みやつれてあふれる気持ちもはっきり言葉にできないほどになっていて、帝は身も世もなく泣きながら「絶対戻ってくるんだよ!」とか「ずっとそばにいて!」とか「御子が大きくなったら……」とかそういうことをいろいろ約束しようとするんだけど、桐壺の更衣はお返事の声も小さくて聞こえないほど弱っている。ダバダバになった帝、更衣を送るための車を宮中に入れる手配もしてあるのに、すぐ更衣を尋ねて行っちゃってぜんぜん宿下がりできない。
「生きるのも死ぬのも一緒と約束したではないですか。まさか私を捨ててどこへも行かせはしませんからね」とおっしゃる帝を桐壺の更衣も「あ゛〜っ😭」て思って、
「死んでお別れの道に行くのはわたくしも悲しい、わたくしがいき(行き、生き)たいのは生きた命なのです。このように心から思っております」
と息も絶え絶えに、まだ言いたいことありげに言うので、帝はもうこのまま最後までそばにいたいよ〜!😭とお思いになるけれど、桐壺の更衣の母君が「今日! 病気平癒の祈祷頼んであるのです! 今夜祈祷開始なんです!!」と急かしてやーーーっと名残惜しみまくりで退出をお許しになる。
帝は胸が塞がれ、眠ることもできず、桐壺の更衣の実家の様子を知らせるためにやっている使いが戻るのも待てず苦しい胸のうちをウダウダおっしゃっている。桐壺の更衣の実家では、「お帰りになって夜半過ぎ(午前2時頃まで)に亡くなってしまわれた」と泣き騒いでいるので、使いの者は様子を知らせるってレベルではない、残念なおしらせを持って帰る。報告を受けた帝はなーーーんもわからなくなってしまい、引きこもる。
帝は御子(光る君)のことはなんとか手元で育てたいと願ったけれど、母が死んでしまった御子をそのまま宮中で育てた先例もないので桐壺の更衣の実家に預けることになる。御子はまだ小さくて何が起こったのかわかっていないけれど、周りの人も父帝もダバダバに泣き悲しんでいるので、えっ何?ってなっている。普通でも母との死別は悲しいことなのに、この幼い御子の哀れさはさらにこの上ない。
読解のヤマ
問題の足場となる読解ポイントは以下のような部分だと考えられる。
帝、引き留めすぎ
マジで桐壺の更衣が早死にしたのだいたい帝のせいやんけ。
帝が桐壺の更衣を引き止めたりそばにいようとしたりする(せいで桐壺の更衣が実家に帰れない)ポイントはこの本文中だけでも何ヶ所もあるので、それを確認するだけで内容整理になる。
つか「普段から儚げな様子なので見慣れちゃってて、つらいから休暇くださいって言ってもまともにとりあってくれない」とかリアルにつらすぎんか? クソ上司なの?
帝と更衣の願いの違い
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