«Le Petit Prince» をよむ 3

(まえのページ)


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前回からさらに3週間ちかくあいてしまったがやっていく。献辞のつづきです。


逐語をみていく
*イタリックをボールドで表記する

J'ai une autre excuse : cette grande personne peut tout comprendre, même les livres pour enfants.

autre は不定冠詞とともに “他の(1つの)” “(もう1つ)別の”。

また cette grande personne のくりかえし。peut は pouvoir の直説法現在3人称単数。

tout の訳しかたは個性がでるかもしれない。印象を左右する。


J'ai une troisième excuse : cette grande personne habite la France où elle a faim et froid.

troisième は “3番目”。数詞がでてくるといつもフランス語での建物の階の数えかたを想起する(日本と1つずれる)。

habite は habiter の活用形。où は関係詞で場所をしめす。elle は la France でよし。

faim et froid も意味はとれるけど……。この時代のフランスの状況、調べるかあ……。はじめて読んだときからずっとひっかかっている部分だし、さけてとおったらこの活動の意味が半減してしまう気がする。


これまたずいぶんまえに買った本、『星の王子さまの美しい物語』*1 にたよることにしよう。

この物語がアメリカで刊行されたのは1943年のこと。«Le Petit Prince» はサン=テグジュペリが1940年に動員を解除されたあと、1941年に渡米してから書かれた(彼は当時すでにアメリカでは相当な著名人だった)。その後戦線に復帰した作家自身がそこで没しているのだから、戦争との関係は切っても切れないというわけだ。ちなみにフランスで刊行されたのは1946年になってからのことである。


芸術評論家で随筆家のレオン・ヴェルト(1878-1995)は、植民地主義と軍国主義に強く反対する左派で、サン=テグジュペリの親友でした。サン=テグジュペリはこのユダヤ人の友を、ヴィシー政府とドイツ当局の反ユダヤ人政策の脅威にさらされたフランスに残してきました。[……]サン=テグジュペリは星の王子さまの物語を献辞とエピローグで挟み、献辞のなかで親友レオン・ヴェルトと、小さな男の子だった頃の彼と、彼がフランスで置かれている物質的な苦境について触れることにしました(慎重を期して、彼がユダヤ人として危機にさらされていることには触れてはいません)。物語を特別な光で照らし、そこに時代性をあたえることになったこの選択、つまりレオン・ヴェルトに宛てた献辞をのちに挿入したことによって、物語の位置づけは変わりました。
(前掲書,p.16-17)


第二次世界大戦か……。亡命中の作家から、母国で苦境にあるユダヤ人の親友へ。これは手に負えないな。愚直に訳すにとどめよう。知れてよかった。


Elle a bien besoin d'être consolée.

avoir besoin de … でひとまとまり。主語は Elle(=la France)だったんだ。Il(=une grande personne)だと思っていた。

【9/13追記】
なにを勘違いしたかこうのたまっていますが(おそらくレオン・ウェルト=男性=il と勝手につながっていた)、どうみても Elle(=une grande personne)です……。はずかし~。でも自分で気づけたのでオッケーです!

de は前回もでてきた、直後に不定詞をとって意味上の主語(“~すること”)でいいはず。

bien は《強意》でいいのかな。訳しづらいところだ。


Si toutes ces excuses ne suffisent pas, je veux bien dédier ce livre à l'enfant qu'a été autrefois cette grande personne.

でたな。仮定法? 接続法? 呼び名は忘れてしまったが、アレだ。動詞の時制に影響が出たりするんだったはず……。

suffisent は suffire の、veux は vouloir の活用形。bien はなんだろう。まあ強意かなあ。

後半の文、意味がとれるようでとれないな。「わたしはぜひささげたい、この本を、このおとながかつてそうであったところの子どもに」、か。


Toutes les grandes personnes ont d'abord été des enfants.

ont は avoir の活用形。こいつがいちばん avoir からとおい気がしている。

d'abord は成句らしい。


(Mais peu d'entre elles s'en souviennent.)

d'entre+人称代名詞 でひとまとまり。elles は les grandes personnes が直近の女性複数だからこれでいいはず。

souvenir は再帰動詞。en は用法がたくさんあって、なんとなく意味はとれるけど説明はつかないかもしれない……。


Je corrige donc ma dédicace :
À Léon Werth
quand il était petit garçon.

ここはとくに問題なし! まとめよう。



私訳をこころみる(献辞のはじめから)【9/13修正】

 レオン・ウェルトに

 この本をひとりのおとなにささげたことを、子どもたちにはゆるしてほしい。これにはちゃんとした理由がある。まず、そのおとなはぼくの世界でいちばんの親友だということ。もうひとつの理由は、そのおとなは子どものための本でもすっかりわかるということ。3つめの理由は、そのおとなは飢えと寒さのフランスに住んでいるということ。彼はなぐさめを必要としている。もしこれらすべてでもたりないなら、ぼくはこの本をかつて子どもだったころの彼にささげることにする。すべてのおとなはもとは子どもだった(それを覚えているおとなはほとんどいないのだけど)。だからぼくは献辞をこう書きかえよう――

 ちいさな少年だったころの
 レオン・ウェルトに



(une excuse について、“言いわけ” とするつもりだったが、池澤夏樹訳で “理由” とされていたのでそれにならうことにした。)


きょうはここまで。つぎがいつになるかわからないが、いよいよ本編に入る。



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*1 『星の王子さまの美しい物語 刊行70周年記念愛蔵版』アルバン・スリジエ デルフィーヌ・ラクロワ(編)、田久保麻理 加藤かおり(訳)、2015年

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